落とし穴21掘:兎姫の日常

兎姫の日常



side:シェーラ



色々ありましたが、季節は移ろうもの。

既に木は紅葉し、色を赤に染め上げております。

私もユキさんに嫁ぎ、はや2か月。

今も怒涛の問題が押し寄せてきておりますが、それでも日常を変えない、それを守り抜く為に奔走する、我が夫。その姿を見て、私も日々奮起する次第です。


ガルツにいた頃とは違い、私はここで存分に才覚を自由に使え、よき友に囲まれ、楽しい日々を過ごしております。

無論、先に言った問題もありますが、我が夫はどんな時でも和を望みます。

それを妻の皆はよく知っており、それを支えようとしております。

その日常を私達は大事に過ごしているのです。

そして、今日もそんな平凡な一日の一幕です。



「少し寒くなったねー」


アスリンが長袖のシャツを着て言います。

この子は私にとって、よき友人であり、よき妻仲間です。


「そうですね。もう秋ですから」

「あき?」

「季節の事ですよ」

「ああ、うん。お兄ちゃんから教えてもらったよ。へぇ~、これが秋なんだね~」


そうやって、赤く染まった木を眺めます。

アスリンの何気ない一言で、彼女がどれだけ、悲惨な毎日を送っていたかと考えるだけで悲しくなります。

彼女は、いえフィーリアも、ラビリスも、他の妻の方々もほとんどが奴隷だったと聞きます。

正直に言いましょう。私は奴隷という制度をこの目で見て、世の中から根絶すべきだと思っております。

私の横で笑顔を浮かべるアスリンに、首輪を付け、動物の様に扱い、虐げ、売り物として扱う。

アスリンから、何気に聞いた奴隷時代の話を聞いて、怒りでどうにかなりそうでした。

奴隷という言葉は知っていましたが、文字通り知っていただけでした。

アスリンやフィーリアがそんな扱いを受けていたと知ったいま、奴隷商人を見かけたらくびり殺してしまいそうです。


彼女たちの才能はユキさんによって開花しつつあります。

学は教えれば誰でも一定の基準に達すると、学校でほぼ証明されています。

ユキさんの言う通り、奴隷という制度で人は使い潰すべきではないし、国にとっても損であり、人として、やってはいけない事なのです!!

ですが現実は非情です。奴隷を使った鉱山などの死亡率の高い仕事への強制従事。それを使った財源。

現在の国のあり方は奴隷なしには成り立たない。

悔しい思いですが、ユキさんの案に従い緩やかに大陸を変えていくのです。

そして、ウィードが少しでも多くの奴隷を受け入れ、人の価値を世に知らしめていかなければならないのです!!


「……ラちゃん? シェーラちゃん?」

「あ、どうかしましたか?」

「お兄ちゃんがそろそろ帰ってくる時間だから、帰ろ?」

「もうそんな時間ですか」


そうやって手をつないで、家への道を歩いていく。

ダンジョンの中だけですが、この中でならほぼ安全が保障されています。

キルエもそれに安心して、私を自由にしてくれ、こうやってアスリンと2人で散策をしていたのです。

フィーリアは鍛冶の練習に忙しいですし、ラビリスも統括で忙しいです。

私もエリスさんのお手伝いなのですが、今日はお休みでのんびりです。

いつか、これが大陸中でできるように頑張ろうと、決意を深め旅館に戻りました。



「お帰り2人とも」


そうやって家で迎えてくれるのは、神に使わされた勇者以上の存在であるダンジョンマスターのユキさん。

本来ユキ様とお呼びするべきなのでしょうが、本人が家族なのだからと、普通に接してくれるのを望んでいますので、ユキさんと呼んでいます。

ユキさんは、勇者の中でも特別と言われる異世界の出身であり、ダンジョンマスターとして神に乞われてこの大陸にやってきたのです。


でも、その神の使い、いえその神と同等の存在であるはずなのに……。


「今日はパスタだ。色々種類作るから楽しみにしてろよ」

「お兄ちゃん手伝います!!」

「私もお手伝いします!!」


とっても料理がお好きなのです。

いえ、異世界に比べるとこの大陸の食文化が劣っているのでしょう。

ユキさんに聞けば、本人はさして料理が上手いというわけでもなかったらしいです。

ですけど、私たちが美味しく食べてくれるので、色々レシピを調べては私たちに食べさせてくれるのです。

本来でしたら、ユキさんの様な高貴なお方は料理などに手を煩わせるのは好ましくありません。

でも、ユキさんはまずは自分の事は自分でできて、ようやく次の段階に行くことができると仰っています。

これは、色々な視点で物事を見るようにという意図を私は感じました。

こうやって、色々な事をすることで、多種多様な人々と交流がもてます。

私もウィードに来て色々な経験を積んでいます。

学校での友人との遊び、自分で料理、お買い物、もう初めての事ばかりです。

人は色々な事を学べるのです。それを通じて成長していくのです。

それを地で実践してくユキさんの姿勢に私は心うたれます。

これが、きっと新しい人の道であり、未来への光だと。


「これは、シェーラ様、アスリン様お帰りなさいませ」

「ただいまー、キルエおねーちゃん」

「ただいまもどりました、キルエ」


台所では、キルエがユキさんのお手伝いをしています。

キルエは私のメイドでもあるのですが、夫であるユキさんの妻でもあります。

キルエ本人は私と同じ妻の座は恐れ多い、ガルツの面目に関わるなど言って愛妾の位置にとどまっております。

結婚式の際もドレスを着ないで、裏方に徹しました。

そのあと、家に帰ってから無理やりドレスを着せて大変でした。

本人はその時うれし泣きしておりましたが、素直になれない人です。


「今日はどうでしたか?」

「はい、今日も学ぶべきことの多い一日でした」

「それはようございました」


私もキルエも笑顔で答えます。


「さて、お手伝いに来てくれた二人は、まず手を綺麗に洗ってくれ」

「「はい」」


ユキさんに言われた通り、石鹸で手を綺麗にしてお手伝いを始めます。


「ソース関連はユキ様がやっておられます。私たちのお仕事は、材料となる肉や野菜を切ることです。いいですね? 前に言った事は覚えていますね?」

「はい、手はにゃんこです!!」

「その通りです、アスリン様。そうすれば指を切る危険性を減らせます」

「丸いモノは一旦半分にしてから切ります」

「はい、それもあっています、シェーラ様。球体に近いモノは非常に不安定です。ですので、一旦真ん中からバッサリ切って、安定させてから切ります」

「「最後にけがをしたら隠さない」」

「そうです。怪我は料理につきもの……というわけでもございませんが、しないわけではありません。ですので、怪我した場合はすぐに言ってください。治療をいたします」


そうやって、キルエから注意を受け、台所に立ちます。

初めての頃は何もできませんでしたが、今では普通にジャガイモの皮を剥いたりもできます。

これは下々の者がやるべきと聞いてきましたが、自分でやるのはまた格別です。

これを使った料理を美味しく食べてくれる人がいるならなおさらです。

ユキさんの気持ちもよくわかります。



「皆おまたせー。今日はいろんな種類のパスタだ」


そう言ってユキさんやアスリン、キルエと一緒に料理を運びます。

机には色鮮やかなパスタ料理が並びます。


「うわー、こりゃまたすごいですね。てっきりパスタってトマトだけかと思っていましたよ」

「そうよね。混ぜても野菜ぐらいだし」

「あら、これ辛くて美味しいわ」

「……辛いのは敵よ。それは食べないわ」

「これ、見てスープに浸かってるよ。僕初めて見たよ」

「これはキノコですね。バターで炒めたのかしら、良い匂い」


ふふふ、どうですか皆の喜びようは。

私もほとんどのパスタ料理の手伝いをしたのです!!


「凄いですアスリン、シェーラ、美味しいです!!」

「……うん、美味しいわ。2人ともありがとう」


そうやって、フィーリアとラビリスの笑顔を見て、その近くに座ります。


「これね、シェーラちゃんが作ったんだよ」

「アスリンも手伝ったんですよ」


そうやって今日も一日が終わっていきます。

この日々がいつまでも続くよう、願うのではなく、成していかなくてはいけません。



ランクス問題、魔王問題、そして未来の問題、全て薙ぎ払ってあげましょう。

それがシェーラの目標なのです。

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