第130掘:作戦説明

作戦説明



side:ユキ



皆の視線が集まったな。


「よし、じゃ俺の作戦を説明するぞ。問題点があったら言ってくれ」


地図を中心に集まっている皆を正面のホワイトボードに集めて、いつものモニターを出す。

どの会議室にも、この仕掛けがつけられている。

もっとも、俺達にしか使えないが。物理的にも、操作的にも。


「これは机の上に置いてある地図と変わりはない。まあ、拡大縮小はできるが」


そう言ってウィードを拡大して外側の村の一つ一つの家の並びが確認できるぐらいにする。

それを見たリリアーナさんは顔を青ざめさせている。

そりゃな、為政者や支配者にとってここまで簡単に内情を探られることは脅威であり恐怖だろう。

まあ、現代の地球では衛星で常にお互い監視状態だしな。

一方的に監視されるのは面白くないだろう。


「さて、俺の作戦はこうだ」


モニターの地図のウィードを授業用の棒で指して、そのまま先ほど言った、ロシュールからラスト、魔王の居城、ラストの城を指す。

教えてもらった最短ルートをなぞっていく。


「ここは、さっきの話の通り軍の進軍路だ。他のルートを開拓しようとなると、それだけで問題になるのは分かるな?」


皆そこで頷く。


「だが、それは特に問題にはならない、ダンジョンマスターの権限を行使すれば、ウィードからラスト一直線に道を作ることができる。その為のDPも問題はない」


おおっ、っと皆名案と言わんばかりに目を見開く。


「しかし、この作戦は使えない。軍の被害は少なくなるだろうが、戦なく城を落としても色々と評判が悪い。箝口令を敷いても、今回の作戦がどこからか必ず漏れる。そうすると、いきなり道を簡単に作ってしまったウィードがとても危ぶまれることになる」

「えーと、どういう事かな?」


リエルが首をかしげながら質問をしてくる。

いつもながら、分からないことは素直に聞く良い子だ。


「つまりだ、魔王を倒すまではいいが、その後、各国でこう囁かれるわけだ。「ウィードは敵対国にはそのダンジョンの力を存分に使って容赦なく叩きのめす」と」

「それの何が問題なの?」

「これは後々の反発につながるってことだよ。今はウィードと結ぶ利益が多いから、問題点を気にしないでいるが、あからさまに、一般人、いや兵士とはいえ、ダンジョンの力を見せると恐怖を呼ぶわけだ。ウィードは倒さないといけないと、いや違うな、敵に回る前に倒してしまおうと」


俺がそう言うと皆が一様に沈黙する。


「なるほどね。確かに力を誇示するのは大事だけど、こうも簡単に、他国の領土をどうにでもできると触れ回るようなことをすれば、確実に反発してくる相手が出てくるわね」


セラリアは理解が早い。

確かにチートは便利だ。

しかし、チートを持っていない相手にとっては脅威にしかならない。

何事もバランスが大事というわけだ。


「じゃあ、軍隊を直接魔王城に送り込むのは無理なんですね」


トーリがしゅんと犬耳を垂れる。


「そうだな、地下ルートでも同様だ。いや地下ルートの方が深刻だろうな、何時のまにか侵略されてましたってことだしな」

「ユキさんの言う通りだと思います。私もガルツのゲート敷設会議には参加しましたが、何処に地下を作ってもらうか、随分揉めましたから」


そう、俺達が交渉で設置したゲートですら、揉めに揉めて決めたのだ。

それが勝手にポンポン作れると言われれば、各国はいい顔をしないだろう。

3国は勝手に作れると王達のみ知っているが、それ以外には頼んでダンジョンを作ってもらったというスタンスをとっている。


「別の理由もある。今後魔族が他の種族と手を取り合う上で、今回は必ず連合軍と共闘する必要がある。俺達だけで魔王を倒して、手を結べば軍隊はいらないし、やる気を出した兵に不満が溜まる。さらに、魔族の人となりを知る機会が少なくなって和平への道が難航する」

「ああ、分かるよ。共闘すれば仲良くなれるよね。仲が悪くてもそんな時に一緒に頑張ると、あとでお酒飲んで騒げるんだよね」


リエルの言う通り。

共闘でやればすくなからず、連携が生まれて、お互い死線を潜り抜けた戦友という、他の形とはちがう関係が生まれる。

それに各国の精鋭が関われば、他へ及ぼす影響は計り知れない。


「そういう事ですか、それで精鋭を頼んだのですね」


ルルアが俺の意図に気が付いたのか、確認を取ってくる。


「ルルアの言う通りだ。精鋭が魔族はいい人達だと庇えば、下手な王の宣言より、確実に国民に伝わる」


そう言って確認を取るようにリリアーナさんを見る。


「私が、皆さんに手伝ってもらって魔王城を開放して、軍隊を迎え入れても……駄目なんですね」

「俺達だけで解放するのは、問題が多すぎます。ましてや、自分の配下に噛みつかれて魔王の座を追われた貴女の、その作戦を受け入れる余裕はないです」


そう、今回の問題、よくよく考えればリリアーナさんが部下を抑えていれば何もなかったのだ。

俺としてもこっそりラストと繋げて、四天王の二人を通じて交易をしようと思っていた。

つまり、リリアーナさんには既に和平を推す思いはあっても、既に信頼が崩れているのだ。

簡単にいえば、一度起業に失敗して、それでもまた起業するからお金貸してって言う話。

厚かましいにもほどがある話である。


「……わかりました。で、作戦は? 今までのは問題点の洗い出しですよね?」

「はい、その通りです。したがって、この問題点をクリアしつつ、魔王城を攻略しないといけない」

「ふむふむ、さっきのお話からすると……」


ラッツがホワイトボードに歩いていって書き出していく。


・陸路により、魔王城に向かう連合軍の損害を抑える事

・連合軍の障害は、道のりに出る野生の魔物と関の問題

・どうやって魔族と共闘を謀るのか

・魔王城の攻略方法

・時間制限があること、ルーメルが現在侵攻している魔王の軍を壊滅ないし敗走させる前に決着をつけないといけない


「ラッツが書いてくれたけど、これは……」

「無理難題ね」


エリスとミリーがホワイトボードに書かれている問題をみて呆れている。


「とりあえず、一つ一つ解決方法を言おう」


そう言って、皆の目をホワイトボードから俺に集める。


「まず前提にこの道のりは土地を掌握して、情報を集める。掌握してまえば何処に何がどれだけいるのかはっきりわかるからな」


何事も情報が一番である。

ルーメル国の件は、まだまだ手を出すのは先だったので放っておいた。

無駄に情報量が増えても混乱するだけだしな。

まだウィードも落ち着いてないし、ある意味、絶妙な動きだよな。

タナカの奴が裏で手を引いているなら納得だが、メリットもクソも、ルーメルの最前線で今戦ってるし、タナカ自身がそこで足止めくらってるから裏があることはありえんだろう。

向こうも落ち着くまで俺の事は知らないふりを決め込むだろうから、俺もそうさせてもらう。

お互い状況がわからんから、下手に顔を合わせるわけにもいかん。


「次に、道のりに出る野生の魔物だが、ここはスライムとゴブリンの2個小隊を使って数を減らす。殲滅してしまったら、流石に不思議がったり、罠と勘違いして進軍が遅くなる可能性がある。ここの指揮はスラきちさんに任せるから、魔物にやられる様なことはないだろう。こっちからの情報提供もあるしな」

「そりゃのう。妾がいまだにダンジョンでは勝てんからのう」


なんだ、まだ負けてたのか。


「関に関してはリリアーナさんを使って内応、反乱を起こさせる。これでその中から連合軍へ伝令を出して『援軍無用、力を温存してください。関は私達が何とかします。どうか魔族の皆を頼みます』と言えばどうなるかな?」

「えげつないわね。そんな事言えば、私の宣言で、魔族を助けることを決意している彼等には逆効果ね。絶対に関にいる魔族を助ける為に躍起になるわ」


そういう事。

セリフは同じでなくてもいいが、連合軍を奮起させる内容にすればいい。


「ちょっと待ってください。私はラストでは手配中の身。確かに私に協力してくれる人達はいるでしょうが、勝てるかもわからない、本当かどうかもわからないことに手を貸してくれるとは……」


リリアーナさんは自分の価値は今ではほとんどないと自分で言って悔しそうだ。

でも、手を貸してくれというのは実は間違いだったりする。


「ああ、大丈夫。リリアーナさんは魔王の首をもって内応してくれる人を集めるんだから、言う事は絶対に聞くと思うよ」

「へ?」

「つまり、関の攻略が俺達は一番最後になるわけだ。軍は一番最初だけど」

「どういうことですか?」


流石にまだわからないか。


「いいか皆、この関を魔族と共闘して落とせたなら、魔王城攻略は楽になるのはわかるな?」


全員が頷く。


「だから、関の共闘を得る為に、俺達だけは、地下ルートを作って魔王城を先に攻略して魔王の首を取る。それをリリアーナさんに渡して、内応を持ちかけてもらう」


そう言うと、皆目を丸くする。


「な、なるほど。ユキさんは関の攻略、魔王城の攻略は演技にするわけですね」


エリスが俺の作戦に気が付いて、口を引くつかせている。


「ま、演技と言ってもちゃんと死人は出てもらうけどな双方」

「そこまでする必要があるの、ですか?」


今まで黙っていたエルジュが口を開く。

前みたいに頭ごなしに否定するよりはマシか。


俺が答えようとすると、リリアーナさんが進み出て、エルジュに説明をする。


「私が魔王の首を持って行けば無血開城もできるでしょう。しかし、それでは私を裏切った、魔族以外を滅ぼすべしと詠った愚か者も見逃す事になるのです。内応はその為の選別ですね?」

「そういうこと」

「それと、魔族と多種族が手を取り合う切っ掛けになるのです。裏切り者の為にその機会をつぶす気はありません」


リリアーナさんにそう言われて、エルジュはまだ納得はいかないみたいだが引き下がる。


「と言う事は、後の問題は、私達が先んじていく魔王城攻略と、どうやってその後から来る連合軍を迎え入れるかですね」


ラッツが残る問題を言う。

だが、それはもっと簡単だ。


「それはまず魔王城をダンジョン化して掌握する。適当に魔物を召喚して、敵対勢力を排除。上手くいくのであれば、魔王本人も魔物に倒してもらおう」

「うげー、お兄さん本当にやり方があくどいですね……」

「リリアーナさんに協力している勢力はすでに地下牢にいるだろうし、使用人たちは逃げ惑うだけだろうし、抵抗してくる奴らを徹底的に倒せばいいだけだ。無理に俺達が出て危険な目に合う必要はないけど、万が一で近場で動けるようにしとかないといけない」

「確かにそうですね」


その説明で皆納得して頷く。

魔王さん、悪いけどどこかの物語みたいに勇者と華々しい一騎打ちをやれると思うなよ。



くっくっく……。



あれ?

俺、悪者に見える気がするんだが?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る