第129掘:ルート確認

ルート確認



side:セラリア



「さて、ウィードから精鋭が魔王の居城に行くにはどのルートが最適かしら?」

「それは、えーと。地図はありませんか?」


リリアーナを筆頭にレーイア、ザーギスに情報を求める。

現在、夫と身内だけで、ルートを選んでいる。


「ほい、地図」


リリアーナの希望で……夫お手製の地図が渡される。

ダンジョンで掌握している地形を、パソコンに落として精密に書き上げている。

この世界で異常な精密度を誇る地図だ。


「え?」


リリアーナは絶句している。

……私達の大陸の地図と言えば、位置関係と川、森などが適当に記載されていればいいものだ。

この地図が、支配者や商人にとってどれだけ価値のある物なのか、それはリリアーナの顔を見れば分かる。

これは、ルール違反だ。

流石異世界から来た夫。私の自慢である。


「とりあえず、皆。今まで集めたデータでできうる限り精密な地図を作った。地名が分からないので、教えながら、ルートを教えて欲しいんだが。いいかな?」


ほぼ3国の領土と魔族の住む中央の魔の山の地図が完成している。


……この夫、私達が知らないうちに、とりあえず土地の地上げをしていったらしい。

一万人がウィードに来て3か月とちょっと、と言ったところ。

いえ、一万人を超えてからの計測だから以前のDPもあるのだけれど、1時間で1万DP、24時間で24万DP。

それが3か月。つまり90日。

少なく見積もっても、2160万DP。

まあ色々貯蓄とかあるけど、それでも使えるDPは膨大だ。


1㎢につき100DP。尚年維持費1㎢につき10DP。


これが土地をダンジョンの支配下に置くためのDPだ。

維持費を考えると、アレなのだが、地図だけを作る為に一時的に、土地を掌握して回ったのだ。

全く発想が突飛だ。

でも結果を見ればこれ以上の使い方は無いだろう。


詳細な地図はこの大陸では機密とされている。

地形の把握、資源の位置、自国の村や街の位置。

これら全ては敵に把握され、襲われると被害が及ぶのだ。

だからそれが詳細に記された地図があると、非常に守りにくいのだ。

戦う上でも地形は重要で、迎え撃つ有利な場所や迂回するルートなど、地図の価値は計り知れない。


「リリアーナ落ち着きなさい。これがダンジョンの、ウィードの力の一端よ」

「こ、この詳細な地図が一端ですか……。ダンジョンマスターとはやはり天災とも言うべき存在なのですね」


そうね。リリアーナの言う通り、このダンジョンの力を上手く使えればね。

しかし、それはほとんどいない。

寧ろ暴れてしまえばルナが始末に来るのだ。

デリーユの弟の件で聞いたが、ルナは夫を呼ぶ以前は、才能がありそうな人々にダンジョンマスターの力を与えて大陸を救う術を探していたのだが、そのすべてが失敗。

デリーユの弟には悪いが、彼も失敗だった。

200年もの間、ずっと一つのダンジョンに籠っていたのだから。


それに比べて私の夫の素晴らしい事。

たった8か月程で3国をまとめ上げ、魔王へ止めの一撃を放つ一歩手前まで来ている。

夫の安全の為、夫がダンジョンマスターであると言えないが、それでも誇らしく思うわ。

今日はベットでうんと優しくしてあげよう。あ、布団か。


「と、とりあえず。こ、これがウィードであっていますか?」

「ああ、で、ここがロシュールの王都、こっちがリテア、こっちがガルツ」


夫がそう言って、指を差していく、分かっている場所にはすでに地名や街の名前が書きこまれている。

それとは別に、他の妻達はもう一つの地図に名前が載っていない、村や街の名前を記入している。

あとで一緒に修正して、より正確な地図になるだろう。

これは、諸国には絶対見せられないわね。


「と言う事は、この城が魔王城ですね。いえ、ラーイエト城と私達は呼んでいます」


魔の山のほぼ中央の窪地に城らしき大きな建造物がある。

周りには多分魔族が住んでいるであろう、民家が立ち並んでいる。


「やっぱりここが魔王城か、ならルートはここからか」


夫がウィードから一番近いルートを指差します。


「そ、そんなことまでわかるんですね」

「まあ、ルートの入口、ある程度の道のりは多少カモフラージュしているみたいだけど、道が続いてるからな」


なるほど、よく見れば、魔王城から各国に伸びるルートは途中で見えなくなっている。

逆側の私達からすれば、道が無いのと一緒か。

でも、見つけているなら問題はない。


「しかし、こうやって見てると厄介すぎるな」


夫は地図を見て顔をしかめている。

何が問題なのだろう?

地図からわかりやすく魔王城からは4国に伸びるルートが四つだけ。

細かいルートはあるがそれは多分農地などや村落だろう、建物群に繋がってそれ以降は道が伸びていない。


「ねえ、何が問題なの?」


リエルが首を傾げて夫に聞く。


「道が四つ。これは軍が通るルートを制限されてるってことだ。確実にウィードから、いや、ロシュールからの進軍路は防衛の軍がいるだろうな。いや、どの道も防衛がいるだろう。なにせ守る場所は四つだけなんだから」

「ああ、そういう事か。うん、僕でもわかるよ。これは守る為に道を少なくしてるんだね、リリアーナさん?」

「……はい、ユキさんの言う通りです。ロシュールへのルートは関を起点に1万の魔物が詰めています。これは関にいる軍に率いられてるだけの数です。道すがらの野生の魔物も数多います」

「うわー、厄介すぎるよ。というか拙くないかな。いくら精鋭でも保たないと思うんだけど」


リエルの言う通り、いくら精鋭でもキツイものがある。

時間があるなら数を集めるのだが、ルーメルが魔王軍を殲滅する前に抑えないと、魔族が皆殺しにされる。

私達だけで占領しても信用されないから、軍を必ず魔王城へ入れる必要があるのだ。


「各国の今回の征伐動員数は?」


私がルルアとシェーラを見る。


「リテアは魔族の進軍警戒をしていますので、今回来たのは5千程ですね。内乱もあり、いまだに結構ゴタゴタしているみたいです」

「ガルツは魔族の警戒に、ランクスの件もあり4千といったところです。しかし、ローエル姉さまが指揮を執るので、そうそう遅れは取らないと思いますが。あ、ヒギル兄さんもいます」


可哀想にとってつけられるヒギル。


「ロシュールはロワールのせいで精鋭がガクンと減っているわ。3千といった所ね」


まったくロワールの奴、死んで尚、私達の足を引っ張るか。

私がそうやって、眉間に皺をよせていると、トーリがウィードの報告を言う。


「ウィードからは……すいません。ランクスに魔物300名取られていまして、セラリアの直轄部隊がキユ君の補佐、指揮にあたります。ですのでウィードからは魔物が出せて200名程です。その、ウィードの治安維持や防衛も残さないといけないので」

「さらにその数の一割は輜重隊」

「ですね、食料や物資を運ぶ部隊が絶対要りますし。このウィードへ集まった総勢1万2千人という、ウィードの人口を超える人数の食糧供給に人手を取られています」

「そうなのよね。なるべく早く精鋭には出て行ってもらわないと、ウィードの国民の生活を圧迫するわ」


いえ、政府からのお達しで給与は出しているが、その分他の経済活動は止まっているのだ。

鍛冶の縮小、農作業の停滞、DPで出した商品の備蓄が減る。

まあ、これだけでも色々問題なのだ。


「かと言って、このまま進軍すれば待ち構えた敵と正面からぶつかるしかない……か」

「気休めかもしれませんが、私から魔王の座を奪った男……デキラですが、私が人から援軍を得られるとは思わないはずです。私を追ってきた敵も、ウィードに捕らえられましたし」


油断しているね。

でも警戒をしている防衛に気がつかれずあっさり倒す方法はない物か……。


「……なあ、少し話がずれるけど、このルートで行くと軍でどのぐらい日数がかかると思う?」

「そうですね。私が逃げて来た時は一人で、道の無い森を抜けて……15日と言ったところでしょうか」

「それから考えると約倍はかかると見ていいわね」


一か月か、時間的にぎりぎりだと思う。

ルーメル侵攻部隊が引き返しても一か月。

ルーメルが追撃をかけるにしても、魔王の首を取ろうとしても再編の遠征の物資を集める時間がいる。


「で、貴方どうしてそんな事聞いたのかしら?」

「いや、それだけ時間がかかるなら、いい手がある」



夫の目は笑っていた。



きっとまた、とんでもない作戦を思いついたわね。



私はかつてロシュールの精鋭を翻弄した落とし穴を思い出していた。

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