第127掘:大宣言

大宣言



side:セラリア



「私達は、今、時代の節目にいる。長らく続いた魔王と決着をつける時が来た」


私は今、各国の王が横に控える中、ウィードの闘技場で緊急会議を行っている。

いえ、出陣式を行っている。


目の前の闘技場には建前上の3国の精鋭が並び、そこの前に我らがウィードの精鋭が並んでいる。

そして、客席には、3国の重鎮、及びウィードの国民が固唾をのんで聞いている。


「魔王は卑劣にも、ルーメルを孤立させ、各国を撃破しようと企んでいる。今ルーメルは魔族の、いや、魔王の猛攻にさらされている!!」


私の宣言で周りが騒ぎだす。

そういえば連絡がつかないとか、そういう事だったのか、という声だ。


「しかし、神は、いや、我々は我々を見捨てなかった!! 確かに神はいるだろう。しかし、自らを助けるのは又自分達なのだ!!」


この発言の意味が解らないのか、首を傾げいているものが多数いる。

仕方ないことだ、これからその疑問を解き明かそう。


「ある者が、ある人を助けてウィードへ来た。そして、こう言った「自分の首はどうなっても構いません。ですから、何とか魔族を助けてください」と。私は訝しんだ、魔族は魔王の手下。なぜそれを助けねばならないのかと!! しかし、真実は違った。魔族は魔王に虐げられた奴隷であった!! 彼等は機会を狙っており、いつか魔王の手から逃れるつもりであった。だが、此度のルーメルの襲撃、優しい彼等は無視すれば自分達が脱出できただろう機会を、我々にルーメルが危機だと、魔王の追っ手をかけられて尚、伝えてくれた!!」


それでもほとんどが、それが真実なのかを判断しかねている。

だから、これが私達の手札である。


「なぜ私が魔族の言を信じたのか!! そう不思議に思う方々も大勢いると思う。だから、私は私が信じた、証拠を見せよう!! 来なさい」


私がそう言うと、リリアーナを横に付け、一人のローブを被った人が進み出てくる。


「彼女が今回私達にこの危機を伝えてくれた魔族の女性。リリアーナ殿。まったく人や獣人族と変わらない。魔族とは、おぞましい姿と伝えられていたが、それは魔王の陰謀であった。魔族を外に逃がさないための。しかし見よ、彼女は何処からどう見ても普通の人だ。寧ろ美人だと言っていいだろう。そして見よ、この痛ましい包帯からにじみ出る血を!! 彼女はここまでになって、危機を伝えてくれた!! そして、私の大切なモノを助けてくれた」


勿論リリアーナの包帯や血は演技である。

夫が全て治したから。

だが、リリアーナの効果は絶大、痛ましい姿でどれほど痛ましい時を過ごしてきたか想像を掻き立てられる。


そして、ローブを被った人物が、ローブを降ろす。


「皆も良く知っていると思う。私の大切な妹、エルジュだ」


そして、決め手のエルジュ。

ウィード、及び、各国にも足を運んでいたエルジュは王族や貴族、そして、民に知られ信頼されていた。

だから、皆その姿を見て誰もがエルジュだと分かった。

髪は切られて短くなっているが、そうそうそこいらに転がっている顔ではない。


「皆さん聞いてください!! 私はリリアーナさんによって魔王の生贄になる所を救われました!! そんな彼女を私は疑う術を持ちません!! そして、自分が危険なのにも関わらず、ルーメルに迫る危機を教えてくれ、私をここまで連れてきてくれました。 彼女は、いえ、魔族は私達と変わらない人々です、今なお、魔王の手によって苦しめられながらも、私達に被害が及ばぬよう必死に戦っています!!」


そして、横にいるリリアーナの手を取る。


「私は、私を救ってくれた魔族の人々を救いたい!! エクストラヒール!!」


エルジュは予定通り、エルジュが本物であると認識させるため、この大陸で5人といないエクストラヒールを使い、リリアーナの傷が癒えたと包帯を取る。

それを見た騎士団、ウィードの民はエルジュが本物であると認識を深める。

いえ、元から本物ですけどね。


その姿と声を聴いて、立ち上がった王が一人。

私とエルジュのクソ親父、ロシュール王。


「我が精鋭たちよ、其方らの剣は何の為にある!!」

「「「我が剣は国と民を傷つける者を討ち倒す為!!」」」


更に、ガルツの王が立ち吠える。


「我が精鋭たちよ、己らが持つ盾は何の為にある!!」

「「「我が盾は国と民を傷つける者から守る為!!」」」


最後にリテアの聖女が立ち上がる。


「我が精鋭たちよ、己が捧げた祈りは何の為にある!!」

「「「我が祈りは神と国と民の安全の為!!」」」


さて、次は私の番ね。


「我が精鋭たちよ、ウィードは何の為にある!!」

「「「我がウィードは民の為!!」」」


その宣言のあと、私は一息入れて、最後のとどめをさす。


「各国の精鋭よ、我がウィードの民よ!! 今なお、戦い続けている魔族は我らの敵か!!」

「「「否!!」」」

「ならば魔族は私達の何だ!!」

「「「誇り高い民族、そして我らが救うべき友人!!」」」


よし、打ち合わせしていた各国の精鋭の隊長が宣言をしていく。

これで準備は整った。

後は、最後の言葉をつげるだけ。


「今ここに、魔王との因縁を終わらせる!! 魔王大征伐をここに宣言する!! 我らに従う者は声を上げよ!!」



オオォォォッォォォオオオオオ!!!!



闘技場を突き抜け、大歓声がウィードに広がる。


「我が精鋭たちよ、民にかわり、魔族を救い、魔王を討ち倒す勇気はあるか!!」



オオオォォォォォオオ!!!



先ほどではないが、確かに力強い雄叫びが返ってくる。



「ならば我らに敵はなし!! 全軍出立準備を!! 目標は魔王の首ただ一つ!!」



ここに、魔王を討ち、魔族を助ける思想が生まれた。

とりあえず、私が今できるのはここまで、細かい作戦等は、またあとで伝える必要はあるけれど、今は部下に予定通り、出陣の準備をしてもらう。



「お疲れ、セラリア」

「あら、ありがとう貴方。ルルアも大丈夫かしら?」

「はい。もう大丈夫です。あれから3日も優しくしていただきましたし、これ以上は他の奥様達に申しわけないです」

「ああ、心配しなくて結構よ。その分、ルルアは無しでローテーションだから」

「え、ひ、ひどい!?」


ルルアの調子が戻ったのか確かめて、雑談していると、エルジュとリリアーナがこちらに歩いてくる。


「エルジュお疲れ様」

「はい、ちぃ姉様も見事な演説でした」

「ありがとう。そして、リリアーナもう後戻りはできないわよ?」

「はい、元より覚悟の上です。これが私も最善の策だと思います。もう、綺麗な和平は望めません。それならば、より多くの命を救う為に私は尽力します」


この大茶番につきあったリリアーナに迷いはない。

流石魔王を勤めていたというべきか。


「さて、大号令を発したとはいえ、流石にこのままでは被害が甚大になるわ。それをどうにかできるのは私達、分かってるわね?」


そう言うと、ユキや頼もしい同じ妻達が頷く。


「当初の予定通り、リリアーナの案内で魔王の首をとる。だが、敵は多いし、魔族特有の種族の強さ。それを突破するのは私達の役目よ」


私は腰に下げている刀をチンと鳴らす。


「私達で魔王の首を取るわ」


そう、あの精鋭に魔王の首を取らせるつもりだが、それが本物の魔王だとは限らない。

先に回って、魔王を見た目だけの奴に挿げ替えて、私達で本物の首を落とす。


「まったく、何がどうなって、商業区代表が魔王退治とは。まあ、お兄さんの為ですし、労は惜しみませんが」

「私もびっくりよ。何がどうなって、ギルドの受付が魔王退治なんて、依頼料っていくらになるのかしら?」

「私も同じですよ、エルフ族にとっては名誉ですが自分が当事者になるとは」

「リエル、私達、凄い所まできたんだね」

「だね、トーリと一緒にここまでやってきたけど、魔王退治なんてね。ワクワクするよ」

「…全力で潰す。それが平和に繋がるなら」

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、悪い魔王さんを倒すんだね!! 私も頑張る!!」

「です!! アスリンと一緒に頑張ります!!」

「……任せなさいユキ」

「私も姫ですが、いえ、姫だからこそ、魔王を討たなければ!!」

「流石です。シェーラ様!! このキルエもお供します!!」



さあ、魔王、待っていなさい。


でも、ここまで準備をするのは骨が折れたわ。

3日しか経っていないけどね。

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