第126掘:嫁さんを虐める奴は許しません

嫁さんを虐める奴は許しません



side:ユキ



まあ、色々急展開だけど、別段問題のある話ではない。

寧ろ、今後の展開を考えればこれ以上の結果は無いだろう。


無駄を無駄にしないように。


何事も、長所短所を見極めるように。


どちらでも、得を得られるように。


俺のポリシーだ。

多少驚いたりはしたが、そんなもんだろうって感じだ。


とりあえずは嫁さん達に説明して、口裏合わせないとな。

特にルルアは抱っこでもしないと、飛び出して自殺しかねん。

だって、元を正せばリテアが原因だし、当時そこのトップだったルルアの心境はあの性格から、もうたまったもんじゃないだろう。



「皆集まってるな」


そう言って会議室に入ると、すでに全員が揃っていた。

とりあえず、空いてる席へ足を進める。


「リーアは俺の隣な」

「はい」

「ルルア、こっちこい」

「え?」


ルルアにこいこいと手招きする。

こういう会議の時は、基本ローテーションで俺の隣の席の奪い合いになる。

だから、今日ルルアは結構離れて座っていた。

ちなみにリーアは特別に折り畳み椅子を俺の横で展開してあげて座らせる。

全員がリーアの扱いに視線をきつくするが、名目は俺の付き人、文句は言えない。

ましてや、自分達が押してリーアを連れて行けと言ったんだから。


「どうしたんですか?」


ルルアが俺の隣に来て首を傾げる。


「ここ座れ」


ポンポンと膝の上を叩く。


「え?」

「今日のルルアの座る場所は、俺の膝の上」

「いいんですか!!」

「おう」

「やったー、旦那様愛してます!!」


喜んで正面から飛び込んできた。

おっきいおっぱいが潰れる。

うん、いつもながら凄いボリュームだ。


「ねえ、貴方。何がしたいのかしら、この緊急事態に?」


あ、セラリアがぴくぴくしてる。

しゃーないじゃん。

これからの事考えると、ルルアを一人で座らせるとかおっそろしくてできない。


「異議を申し立てます!! お兄さんの膝上を私も所望します!!」

「僕も僕も!!」


ラッツとリエルを始めに他の全員も、事情を知っているエリスとデリーユを除いてブーイングをしている。


「とりあえずだ」


ルルアのおっぱいを鷲掴みにして、その場で反転させて、正面を向かせる。


「あんっ、もっと優しくお願いします」

「あんじゃねーよ。とりあえず、膝上がいいなら、後で幾らでもしてやるから。ルルア、よく聞け。これから話す事はとっても辛いことになる。だけど、俺という夫もいるし、他の嫁さん達もいる。だから落ち着いて聞いてくれ。いいな?」

「はい?」


分かってないよな。

分かるわけないが、皆も俺の発言と行動を不思議に思っていたのか、神妙な顔つきになる。

ルルアを抱えて不格好だが、リリアーナから聞いた情報を皆に話す。


・リリアーナが魔王の座を追われた事

・ウィードへ亡命? してきた事

・エルジュの暗殺が利用された事

・四天王二名の捕縛が後押しした事

・3国同盟が魔族のルーメルへの攻撃を早めた事

・主な原因は俺であるという事


ここまで話すと、皆顔を青ざめさせている。


「なるほどね。とても拙いわね。ルーメルが落ちれば……って貴方!! ルルアを抱きしめなさい!!」


セラリアの叫ぶような声で、すぐにルルアを強く抱きしめる。

間に合ったようで、俺から離れるつもりだったのだろう、浮きかけた腰が再び俺の上に戻り、ルルアの感触が戻る。


「離してください!! 旦那様は何も悪くありません。この度の咎は、私が、リテアを抑えられなかったことが原因です!!」

「落ち着け。頼むから落ち着け!!」

「ルルア落ち着きなさい!!」

「私のせいで、ルーメルが!! 多くの命が!! ああっ!!」


近場のセラリアやカヤが慌ててルルアを押しとどめる。

錯乱しかけてる。

仕方ないよな。

一国が落ちる原因を作ってしまったんだから。


「ルルア。いいか、さっきも言った通り、俺もいる、皆もいる。お腹に子供もいるかもしれない。だから、落ち着いてくれ」

「うあぁああぁ!!」

「ルルアを誰も責めやしない。起こるべくして起こったことだ。大丈夫だから。俺が何とかするから、そんな事で泣かないでくれ」

「そうよ、ルルア落ち着きなさい。今までも乗り越えてきたでしょう。夫の子供もお腹にいるかもしれない。そんな時にルルアがそんなんじゃ、子供が出てきにくくなるわよ」

「だ、んな様の子供?」

「ええ、生まれてくる子に何も罪はないわ。勿論ルルアにも何も咎はないわ。夫や私達が何とかするから、ルルアもしっかり自分を保って」

「わたし、は、生きて、いていいのでしょうか?」

「勿論だ。お母さんになるんだろう」

「は、い。旦那様の子供を産んで、いい、母親になるんです」

「そうよ。ルルアは私達と一緒にいい母親にならないといけないの。だから、こんな事で死んではだめよ」

「あ、りがとう」


そう言ってルルアは、かくんと頭を俺に預けて、気絶した。


「ふう、眠ったみたいね。今日の夜勤明けのこの騒動、さらに一国が無くなるかもしれない重圧。よくこれぐらいで済んだわね」

「お兄さんはこれを予見していたんですね」

「ルルア様は大丈夫でしょうか?」


シェーラがルルアを心配そうにのぞき込んでくる。

他の皆も同じように、ルルアを見つめている。


「とりあえず、今は大丈夫でしょう。貴方、ルルアと一緒にいるつもりよね?」

「ああ」

「ならよし。私達がなんとかするから、指示だけ頂戴。代わりに絶対ルルアを死なせないで」

「無論、嫁さんを大事にするのが、俺の主義なんで」


皆が、そろって頷く。

ルルアを抱きすくめたまま、俺は話を続ける。


「では、今の問題を上げていくぞ。そして、俺達が取るべき行動だ」


俺がそう言うと、ささっと席に着く。


「まず、ランクスの進軍に関してだ。これは当初の予定通り迎撃する。これはいいな?」


皆頷く。

これは論議しつくした。

殲滅と。


「次に、魔族が侵入してくる可能性。これは警備を増強してるよな?」

「はい、もう準備は整っています」

「僕達が全力で見張るよ」


トーリとリエルが言う。

これもこれ以上手の打ちようがない。


「各国の王への通達はどうなった?」

「はい、情報を通達して対応してもらっています」

「しかし、魔族の件に関してはこちらから情報開示をする必要があるのでは?」

「そうだな、これに関して2時間後、各国を集めて会議をしたい。なんとか王達を集めてくれ」

「「はい」」


シェーラとナールジアさんはきちんと答えてくれる。

ルルアが抜けて、その分忙しいだろうが、やる気は満ちている。


「ミリーにカヤ、住人への通達準備は?」

「完了しています」

「……明日には、住人に伝えられる」


こっちも問題なさそうだな。


「ラッツ、商店の件は」

「こちらも問題なく、各店舗の店長に任せています」

「よし」


最後に……。


「セラリア」

「もう準備は出来ているわ」

「よし、ならキユに指揮取らせて、明日には出発。さらに残った部隊で、ルーメル宛てともう一つ攻める部隊作る」

「二つも?」

「ああ、ルーメルへは支援だが、他の国、主にリテアかガルツの軍について行くことになるだろう。多分リテアになると思うが」

「それはそうね。今ガルツ国内はランクス軍が移動しているはずだから。戦後の盗賊関連もあるし、支援や援軍を出すならリテアしかいないでしょう。で、もう一つの軍はなにかしら?」


セラリアの質問へ俺は笑って答える。


「そもそも、リテアが原因というが、それを利用して攻め込んだ魔族が悪くないわけがない」

「当然ね。ルルアは何も悪くないわ。というか、その強硬派が一番の原因でしょう」

「ああ、だから、ルルアを泣かせたそいつを叩き潰す」

「どうやって? まさか私達だけで行くつもりからしら? できなくはないけど、それでは魔族がこれからも人の敵という立ち位置は変わらないわよ?」


そう、俺達がこっそり首をとれば、相手は動けなくなる。

が、それは根本的な解決にはならない。

歴史が繰り返されるだけだ、魔王を倒したのが勇者か、暗殺者かの違いだ。

いや、この場合は夫と妻達になるわけか。


だが、ここで妙手がある。

ある事柄で、魔族の大半を無実と、王族が声を上げて言えて、強硬派を駆逐する方法が。


「エルジュの復活の舞台が整った。と言えばわかるか?」

「……まさか。なるほど、それはいいわね」


セラリアと俺が悪い笑顔を浮かべる。

それを見て皆の反応はそれぞれだ。


シェーラ、エリス、ラッツ、ミリー、トーリ、キルエは予想が付いたのか顔が凍り付いている。


デリーユ、リエル、カヤ、ナールジアさんはイマイチわかっていないのか、首を傾げている。


ラビリスは俺の中をよく見ているので、俺やセラリアと同じように笑っている。



当事者のエルジュは不思議そうに首を傾げている。



さて、嫁さんを虐めてくれたんだ。

強硬派、覚悟はいいだろうな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る