第125掘:大体俺のせい
大体俺のせい
side:ユキ
落ち着け、落ち着くんだ。
冷静にならなくては。
「驚きなのも無理はありません。ですが私は魔王だったのです。その証明のしようはありませんが」
いえ、俺鑑定できますから、魔王ってわかりますよ。
でも、なんで?
いや、それより、真面目に間違いじゃないか、確認させよう。
「デリーユ。レーイアとザーギスを呼んでくれ。大至急」
「そうじゃのう、わかった」
デリーユも驚いていたのだろう。
しかし、俺の指示をすんなり聞いてくれるあたり俺達より冷静だろう。
「レーイア!? ザーギス!? 二人がここにいるのですか!?」
流石に生きているとは思わなかったのか、驚いて声を上げている。
「ええ、リリアーナ・レストン殿。二人はこちらで……束縛?」
「どうでしょう、農業指導と技術開発でしょうか?」
「え? 拷問とかは?」
「特にはしてないですね。魔族と事を構えたくありませんでしたし、ウィードの事も知られたくありませんでしたから」
「どういう事でしょうか?」
うん、なんと言っていいのかわからん。
とりあえず、なぜここに連れて来たのか経緯を話す事にする。
・妖精族の里をザーギスが潰した
・要請できた俺達が捕縛した
・レーイアが来て、ザーギスごと殺そうとした
・まとめて捕縛した
・逃がすのも殺すのもあれなので、無駄飯食わせるより働かせた
以上。
すばらしい、簡潔な説明だな。
というより、随分前の話で俺自身も思い出すのに多少時間がかかった。
なんでまた、今頃、魔王本人が来てるんだ?
……あ、もしかして強硬派に追い落とされたか?
でも、なんでこんなタイミングなんだ?
聞いてみるか、と思ったその時。
「リリアーナ様!!」
「魔王様が来られたと聞きましたが」
二人が丁度入ってきた。
「レーイア、ザーギス!! 無事だったのですね!!」
リリアーナは感極まった顔で二人に怪我がないか確認している。
二人も、リリアーナに心配かけていたの事に自覚があるのか、申し訳なさそうな感じだ。
「どうやら、間違いなく。魔王のようですね」
「ああ、間違いない。リリアーナ様だ。今代の魔王様だ!!」
「ええ、これは間違いありません」
「二人には申し訳ありませんが、私はすでに先代になりますが」
「どういうことですか!?」
レーイアが驚いて、食ってかかる。
「落ち着け、レーイア。簡単だ、強硬派が台頭してきたのですね?」
「ええ、ザーギスの言う通りです。今まで何とか、押えてましたが、貴方達二人が行方不明になって、更に、人の国で魔王にロシュールの姫が暗殺されたと私が突き上げを喰らいました」
あ、ちょっと待て。
嫌な予感がするぞ。
「なぜだ、リリアーナ様がそんな事をするわけない!! 誰よりも和平を望んでいるのに!!」
「なるほど、魔王様。私達が戻らない事を利用されたのですね?」
「はい、私が、姫の暗殺を指示し、後始末に二人を暗殺したと言われてしまいました」
「そういう事か。和平を推す魔王様が私達四天王を利用して、強硬に和平を押し進めたと言われ、強硬派が適当に因縁をつけて来たんですね」
「ええ、ですが、彼等が嵌めたはずなんですが、全く証拠が挙がらず、貴方達二人の四天王も行方不明。完全に流れは強行派が持っていきました」
拙い。
これ、大体俺のせいじゃねーか?
レーイアとザーギスには今回のエルジュにまつわる話は全くしていない。
一々国際問題の機密を関係のない人に話す理由はないしな。
まあ、さっきの話を纏めてみよう。
リリアーナ魔王は国で魔王の座を追われた。
ウィードに逃げ込んだ理由と、なぜ逃げなければいけなかったのかは、多分、政治的に邪魔になったからだろう。
ここは、あとで詳しく聞けばいい。
問題は、強硬派が台頭してきた理由。
リリアーナ魔王が、和平に相応しくない行動を理由に追い落とされたという話だ。
主な理由は、ロシュールの姫の暗殺。
四天王二名の行方不明。
その結果、魔族に対する、同盟が組まれた事。
一つ一つ解き明かそう。
ロシュールの姫の暗殺について。
エルジュの事で間違いないだろう。が、原因はリテア。
魔王が強硬派が暗躍したと言っているが、証拠が出るわけがない。
ただ、結果を利用しただけなのだから。
四天王二名の行方不明について。
こちらは、俺達が捕縛したのが原因。
まあ、妖精族の里をダンゴムシ改が襲ったのが悪い。
これも強硬派にとっては都合がよかった。
魔王を追い落とすいい材料になったわけだ。
魔族に対する同盟について。
これは俺が、3国の国力削りを避ける為、ウィードが発展するために、提案したこと。
魔王が悪いと言えば、まとまりやすかったから。
これも、魔王を追い落とすのに十分というか、これが一番の原因だろうな。
これのせいで、表向きにエルジュ暗殺を魔王が暗躍した。
3国を陥れようとしたのも魔王と言ったわけだが。
それが、確実に和平を押す魔王には痛手だったわけだ。
結論。
ほぼ俺が原因。
元ならリテアが原因。
やっべー、色々な意味でやべーよ。
「私が邪魔になったのか魔王の座を降ろされたあと、暗殺されかけまして、命からがら、魔族と結んでいるという噂のあるウィードへ来た次第です」
なるほど、ある意味でランクスの馬鹿姫は役に立ったわけか、あの宣言がなければリリアーナ魔王はどこに逃げればいいのかもわからず殺されたのかもしれない。
そう考えていると、リリアーナ魔王は居住まいを正し……。
「ウィードはもとロシュールの姫、セラリア様が治めていると聞きます。謝って済む問題ではありませんが、国の宝、妹君のエルジュ様を奪ってしまった事をここに深くお詫びいたします。本当に申し訳ございませんでした」
そうやって、深々と頭を下げて謝罪するリリアーナ魔王。
……やっべー罪悪感で一杯になるんですが。
エリスとデリーユも顔をひきつらせつつ、俺と同じように、やっべーって顔してる。
「ですが、私の首を落とすのは、まだやめていただきたいのです。私はまだ伝えるべき事があるのです」
ひぃぃぃぃ、彼女殺される事前提に話してる。
「私がここに来た理由は、3国同盟がなされ、私を代表とした和平派を追い落とした強硬派が、少しでも敵勢力を減らそうと、つい一か月前にルーメル国へ進軍いたしました。なんとか、ルーメルへ援軍を、そして、各国へ通達をお願いしたいのです!!」
「「「なんだってー!?」」」
拙い、そうか、そういうことか!!
ルーメルと連絡が取れなかったのは、伝令兵を暗殺されていたからか。
このウィードの価値を聞いて動かないのはなにか変だと思っていたが、これが理由か。
「彼等は、各国が同盟されるのを恐れ、各個撃破を狙っていましたが、今回の事で3国が一気に同盟を組んだことで、焦りを感じ、ルーメルを孤立させ、今回撃破することに決めました。私は何とか止めようとしたのですが、すでに権威は地に落ちており……。もう、ルーメルでの戦端は開かれているはずです。私が逃げたこともバレています。人と話なぞできるとは思っていないでしょうが、少なからず進軍を急ぐはずですだから……」
当然だな。少しでも可能性があるなら、放っておけない。
魔族としても、少しでも早く落とさないと、自分達が危ない。
「どうか、どうかお願いいたします。少しでも流れる血を減らしてください。私の命一つで、多くの命が救えるのなら、喜んで断頭台に足を運びましょう。だから、どうか!!」
ここでも、魔族を救ってくれとは言わないのか。
多くの命をね。
ある意味、エルジュの完成した姿なのかもな。
皮肉すぎるな。
聖女が目指した形が魔王だったなんてのは。
「お話は分かりました。丁度ウィードには現在交易の関連で王達が滞在しております。大至急に呼びかけ、対策を練り、行動に移しましょう。特にウィードに関してはご心配なく。私達は必ず動くと約束しましょう」
「あ、ありがとうございます!!」
「では、リリアーナ様はお休みください。お話を聞けばかなりの旅路だった様子。まだまだ、リリアーナ様から聞かなければならないことも多いのです。ですので、少しでも体力を回復してください」
「で、ですが」
「これからは、各国の王を交えての話になります。どうなるかもわかりません。リリアーナ様をいきなり出せば処刑してしまえと言われる可能性もあります。ですが、私達はリリアーナ様を今失うわけにはいきません。だからこそ、今休んでください」
「……はい。よろしくお願いします」
俺の説明で何とか自分がやらなければいけないという気持ちを抑えたようだ。
自分が行けば、成せることも成せなくなる。
そう思えば、今リリアーナにできることはしっかり、休んで、事が動き始めた時、ウィードや各国に協力すること。
彼女もそれが分かったのだろう。
いや、わかっていたが、体が休むことを拒んだって所か。
「デリーユ、リリアーナ様を庁舎の客室へ。レーイアは付き添いを頼む」
「わかったのじゃ」
「任せてくれ」
二人はリリアーナを支えて会議室を出ていく。
「エリスは大至急代表に招集かけてくれ。現在進行中の事は部下に任せて、とにかく来いと。それと、部下に今回の事の箝口令を発令」
「わかりました」
「一旦代表で情報の共有を図る」
まずは嫁さん達とナールジアさんに話を通しておかないと、大混乱するだろうな。
「ザーギスは代表の説明に付き合ってくれ、そのあと各国の王への説明もな」
「わかりました。面倒ですね」
ん、何か忘れてないか?
魔王の事は一旦落ち着いた。
……ん? 魔王と関係することがあったような?
「あ、リーア」
勇者様がいたよ。
拙い、目の前で魔王がでたんだ、理性が吹っ飛ぶかもしれん。
彼女的には魔王のせいで故郷が滅んだことになってるからな。
あわてて、隣の部屋に飛び込む。
「リーア、大丈夫か?」
そう言ってリーアを見ると、マジックミラー越しに向こうの部屋をボーっと見つめていた。
「リーアはどうしたんだ? なにか問題はなかったか?」
「いえ、取り乱す様な事はなにも。ただ、黙ってリリアーナ魔王様の事を聞いておられました」
一緒にいた部下に話を聞いても不思議な回答を受ける。
どういう事だ?
「彼女、は、本当に、魔王なのですか?」
そう言ってリーアはようやく振り返った。
「貴方と同じ暖かさを、感じ、ました」
へ?
「ああ、そうですね。あの優しさと、愚直さは参謀に似ている所がありますね」
いえ、俺生物学的に雄です。
「性別の問題ではありません」
「何も言ってないぞ」
「顔を見れば分かります」
なんでやねん。
と、そこはどうでもいいんだよ。
問題はこれからリーアを関わらせるか、それとも旅館に戻って大人しくさせるか。
正直、問題が大きくなりすぎている。
どっちをリーアが選ぶにしても、俺がリーアに割く時間は減る。
トータル的にリーアの心が安定しそうな旅館引きこもりをおすすめしたいんだが。
「どうする、リーア? 一緒に……」
「一緒に、います。私は、貴方の護衛で付き人、だから」
最後まで俺が言う前に、リーアにさえぎられる。
「あっはっはっは。参謀、彼女にここまで言わせたのです。最後まで一緒にいてください。これはいい付き人ですよ」
そう言って部下が笑う。
あーもう、問答は時間の無駄か。
「わかった。一緒に来てくれ。だけど絶対無理はするな」
「はい。いつまでも一緒にいます」
……この問題だけの事だよな?
そう思いつつも、皆にどう説明しようか悩んで、次の会議室へ足を運んだのだった。
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