落とし穴16掘:御盆 後編

御盆 後編



side:ラビリス



怖いわ……おトイレにいけないわ。

でも、これ以上はお漏らししちゃうわ……。


ああ、ユキにトイレについてきてなんて言ったら幻滅されちゃうかも。

でも、お漏らししても幻滅されちゃう。

だってだって、妻がお漏らししたなんて、どう考えても人様には言えない内容でしょう?

べつの意味のお漏らしなら喜んでするんだけど、今は違うの、只怖いわ。

そして、怖いせいでトイレにすらいけない只の女の子。


「ううっ、ユキがあんなもの見せるから……」


私の横で気持ちよさそうに寝ているユキをみて、今日起こったことを思い出していた。




「ねえ、そういえば他に映画だっけ、ないの?」


私は墓地から帰ってのんびりしているユキにそう言った。


「ん? どうした?」

「他にもあったらみたいわ」


そうやってユキに飛びつく。

ユキは嫌がらずそのまま私がバランスを崩さないように支えてくれる。

うん、とっても素敵よ。


「おや、面白そうですね。ラビリスの言った通り他にないのですか?」

「だねー、僕もあるなら見てみたいよ」


ラッツとリエルも話を聞いていたのか、そうやってユキに聞いてくる。


「んー、色々あるんだが。どれを見せたものか……」

「へぇ、そんなに色々ある物なの?」

「相変わらずすさまじいですね」


セラリアとミリーもこちらへ歩いてくる。

皆やっぱり映画に興味あるみたい。


「まあ、映像は映画だけじゃないんだが、ドラマなんて見てたら今日一日じゃ無理だしな」



そんな事をいいながら、ユキ厳選の映画を見ることになった。

因みに、その為に、ユキは宴会場に大型テレビを設置してくれたので、皆でゆったり見れた。

この前は小さいノートパソコン? を覗き見る形だったので、見にくいときもあったのだが、こちらは問題なし。


「いやー、面白かったですねぇ」

「だねー、凄い迫力だったよ!! あんな戦場で撮影してよく無事だったよねー」

「いや、戦争ものだが、あれ全員役者だからな……」

「あら、すごいのね。私も本物の戦場かとおもったわ」


先ほどまで見てた映画はユキの所の戦争を題材にした映画だった。

ちゃんと弓や盾を使い、大規模な戦闘をしつつ、主人公が国のために単身、敵本陣に斬りこみ敵国を退けるという話だった。


「でも、あの最後はいや」


私はそう言ってユキにしがみ付く。


「私も嫌ですお兄ちゃん」

「兄様はあんなことしませんよね?」


アスリンもフィーリアもそう言って心配そうにユキにしがみつく。


それは仕方のない事。

さっきの映画の主人公は敵本陣に斬りこんで、大将を倒したが、雨のような矢に撃たれてそのまま死んでしまった。

最後は彼の偉業をたたえ、綺麗な墓石が最後に映るという内容だった。


「いやいや、死ぬような事はしねーよ。あんな死亡必至なのはやりたくないし、やるなんて言えば……」

「やらせぬよ。絶対にのう」

「デリーユの言う通りね。貴方を何としても止めるわ」

「あっはっはっは。首輪を付けてでも止めてみせます」


全員がそんな物騒な事をいってユキを睨んだわ。

当然ね、妻を置いて死ぬなんて許さないわ。


「俺もみんなを残して死にたくないからな。と、そんな話じゃねえよ。という事で楽しめたか?」

「ええ、とても面白かったわ。でもマネしてはだめよ?」

「ですね。真似をしてはいけません」

「です」

「……いやしねーから」



ちゃんと言い聞かせておかないと、こっそり無理するからユキは。

と、そんな話をして、映画を撮るにはって話になったわ。


「これがそのビデオカメラですか」

「そうそう、そこを押して録画だ」

「これですか?」

「ああ」


そんな事を話しながらラッツが代表で、カメラをもって辺りを撮り、それをテレビにつないで見せる。


「あー私だ!!」

「兄様、兄様!! 私が映ってます!!」

「本当にすごいわね」


アスリンとフィーリアは大興奮。

私も少なからず驚いている。


「とまあ、簡単にこんな感じの映像を撮りながら、映画を作り上げていくわけだ」

「なんとなくわかったわ。ふーん……」

「まあビデオは分かっただろう。あ、そうだ。御盆だしあれ見るか」


「「「あれ?」」」



その時ユキを止めていればと思う。

そう、ユキがそれから見せたもの……。


『……おわかりいただけただろうか?』

「いたいたいたいたいあちあいたいちいあいたい……!?!?!」

「落ち着いてくださいデリーユ。そんなに怖い事じゃないでしょうに……」

「え、ええ!? エ、エリス怖くないのかの!? 幽霊じゃよ!? マジで映ってるのじゃよ!?」


夏の心霊特集だった。

ビデオの特性を知った私達はそのあり得ない物が映りこむ状況に恐怖した。

そして、その異常性。

ゴーストやゾンビとは違う心の底から恐怖を煽るようなその表情。


「あ、は、はははは」

「いや、シェーラ怖いならキルエと一緒に部屋にでも戻っていいんだぞ?」

「や、やめてください旦那様!? こ、この恐ろしいものを見せて二人でへ、部屋に戻れと!?」


二人はガタガタ震えながらお互い抱きしめあっている。

怖い、怖いのよ!!


「……やりすぎた。ラッツとかはどうだ?」

「んー、いや怖いですけど。そこまでですね。お兄さんが言っての通り偽物も多いんでしょう。でも、本物があっても何があって出てきてるのかと考えますとね…怖いなんて拒絶はできませんよ」

「……そうね。弟もビデオカメラで撮ってたら出てきてくれるかしら?」


ラッツの言いたいことはわかる。

ミリーも弟を亡くしてるから、こんな形でもいいから会いたいというのはわかるわ。


でも、怖いのよ!!

何あの瞬間移動!! あり得ない角度での侵入!! 首だけ!! 手だけ!!

いやーーー!!



そして、現在。


「も、もう限界…だわ」


決壊する。

女として、ダメになる。

意を決してトイレへ立ち上がろうとしたら体が止まる。


「えっ?」


始めは状況が理解できなかった。

自分の体が動かないなんて、でも徐々になぜ動かないのかわかってくる。

足だ、足がナニカに掴まれている。


「ひっ!?」


私が声を上げてもユキもアスリンもフィーリアも起きてくれない!?


「うおぉおぉおぉ」


そして足を掴む力が増して、布団の奥から何かが出てくる。

その暗い闇の中から…首が……。


「いやあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」



結果、私は漏らした。

そして、私の足を握っていたのは怖くてこっちに潜り込んできたデリーユだった。



「……私の事嫌いにならない?」

「ん? 大丈夫。ほら行くぞ」


次の日、彼の体に触れるのも恐ろしかった。

幻滅されるのか、お子様だと思われるのか。

でも、結局ユキは変わらなかった。

暖かいその腕で私を包み込んで、微笑んでくれた。


「…でも、昨日の事は内緒よ?」

「わかってる」


お漏らしの件はユキがお水をこぼしたということで話がまとまっている。

私の痴態を知っているのはユキだけ。

デリーユはそのまま寝ぼけていた。



あとで、復讐してやる。

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