落とし穴15掘:御盆 前篇

御盆



side:ユキ



「そーいや。御盆だなー。時期的に」


そう、こっちの世界の日付は地球と同じ12か月。

そして、現在8月中旬。

いや、8月とは言わないけどな「アルクエウ」暑い日という意味の月らしい。

数字でいいじゃん。12等分してるんだから。

そう嫁にいったら「そう言えばそうよね。そっちの方が書くのも楽なのに、なんで今までしなかったのかしら?」

と、セラリアとかエリス、ラッツ、ルルア、シェーラや文官方はあっさり受け入れた。

現在ダンジョンでは数字月の呼称を広めていて、なんかあっさり受け入れられている。

あれだよな、皆めんどくさかったんだろうな。


そんな風に考えていると、首に手が回り、ギュッと抱きしめてくる人物が一人。


「何? 御盆って?」


セラリアは最近スキンシップが激しいです。

嫌ではないけど、スイカを食べているので服が汚れないか心配だ。

現在旅館の縁側でのんびり皆でスイカを喰っている。

スイカはこの大陸になかったのか、皆赤い中身に引いていたが食べるとあっさりガツガツ食っている。

……天ぷらでも食べさせてみるか?


「んー、詳しくいうとメンドクサイな……。あれだ、死者へお参りする日って感じだな」

「お墓参りの事?」

「ああ」

「変な話ね。いつでも好きな時にお参りすればいいのに」

「俺の住んでた場所では、死者が戻ってくるって言われてる時期なんだ。だから、お墓に迎えにいって、自宅に連れて帰って、身内で酒とか話して楽しんで、終わりには又お墓に連れて行って送るって風習だな。ま、今じゃ墓参りなんてそんな時しか行かないし、身内で集まるのもそんな時ぐらいだしな、そういう意味合いも強いと思うけどな」

「へー、ゴーストやゾンビとは違うのかしら?」


おいおい、ある意味同じかもしれないが、物理的に戻ってこないから、日本の死者は。


「向こうじゃ、魔物はいないしな。ゴーストなんていない……事はないか、幽霊ネタもこの時期だしな」

「ゆうれい?」


あ、ゴーストと幽霊はこっちの認識は一緒じゃないのか。

いや、俺の認識のせいか、ゴーストは魔物、幽霊はまあ変なのだから、言葉を発して変換されなかったんだろう。


「あー、ゴーストと変わりないが、無敵?」

「無敵なの?」


そりゃ、触れられないし自由に動くし、瞬間移動もありだからな幽霊。

放送のVTRとか見る限り。


「ゴーストって倒せるだろ?」

「ええ、剣でバッサリ」


そう、この世界のゴーストは物理攻撃有効なのだ。

いや、精密には魔力をまとうことで触れられるのだ。

だから、セラリアみたいな魔法戦士、ヴァルキュリアなら簡単に討伐できる。

逆に魔法が使えない戦士は武器に魔力をまとうことが難しいので、嫌がられる存在と言うわけだ。

Wizと同じと思えばいい、幽○か-にしとけ武器は×だと通らないから。


「兄様、それならあの子達のお墓参りしましょう!!」

「そうです。お墓ちゃんと掃除してあげましょう」


俺の膝に座っていたフィーリアとアスリンは俺達の話を聞いてそう言う。


「あの子って、イタチとタヌキのかしら?」

「ぶふっ!! ごほっ、ごほっ!!」

「大丈夫デリーユ? ほらお水」

「す、すまん。ラビリス」


セラリアがそう言うと、その二匹を殺害した本人はスイカを食べてむせている。

まあ、耳に痛いだろうからな。


「そうだな。ちゃんと綺麗にして迎えてやろうか」

「はい」

「です」


食べ終わったスイカの皮を皿に置いて、周りを見回す。


「ということで、墓参りすることになったがどうする、皆は?」

「んー、私は仕事は一段落してますんで大丈夫ですよ?」

「私も大丈夫です」

「僕もオッケー」

「リエル、書類のこってるよ?」

「え、あと少しだしいいじゃん。あとでちゃんとやるから」



そんなこんなで、皆で墓参り来た。


「ここに、この子達のお母さんとお父さんが眠っているのですね」

「うん」

「そうです」


シェーラとアスリン、フィーリアは足元に多くの動物を従えてお墓を見つめている。

シェーラはデリーユの来た頃はいなかったので、事情は詳しくないが、アスリンやフィーリアと仲良しなので、ある程度事情は把握しているようだ。

掃除はすでに終えて、墓に参るだけだ。

ルルアやエルジュは亡くなった子供達の所へ、リエルやトーリはこの前の戦闘で亡くなった魔物たちの所へ。

皆思い思いに動いている。

このダンジョンの共同墓地は魔物や動物も関係ない。

家族であるなら、大事な人や動物、魔物であっても、同じ墓地で弔われる。

そもそも、ここが共同墓地になったのはアスリンとフィーリアの動物が始まりだ。

ダンジョンに住んでいる人たちも承知している。


「デリーユ、大丈夫か?」

「……ああ」


そしてこの場で一番この場所に足を運びたくはなかったであろう。

その動物を殺害したデリーユ。


「なんじゃろうな。妾が参ってもいいのだろうか、とな……」

「きゅー」

「きゅきゅ」


そんな迷いを見せるデリーユの足元に、今は墓地で眠る親を持つ子供達が寄る。


「なんじゃお主ら?」

「きゅー」

「きゅ」


デリーユの靴を咬んでお墓側に引っ張ろうとしている。


「デリーユお姉ちゃん。一緒にお参りするっていってます」

「ですです!!」

「いいのか?」

「「きゅー!!」」


子供達に背をおされ、墓前でそっと冥福を祈るデリーユ。


「デリーユ様ももう少しご自身を許してあげられるといいのですが」

「そうもいかないわよ。敵の兵士ならいざしらず。あんな可愛い生き物を殺めたんだから。ま、もっともそれだけじゃないでしょうね。今までの事をきっと思い出しているわ」


シェーラとセラリアは、なかなか墓前から立ち上がろうとしないデリーユを見てつぶやく。


「あなた、デリーユをお願い」

「そうですね。あんなデリーユ様は心配です。どうかよろしくお願いします」

「えーと、なんで俺?」

「あら、無粋ね」

「そうですよ。ここで行くのはユキさんしかおりません。一杯愛してあげてください」


そういって、二人はそさくさと墓地から離れていく。

他の皆もデリーユの様子をみて、俺に視線を送ってはそのまま帰っていく。

おいおい、理解ありすぎだろ嫁さんズ。


「お兄ちゃん」

「兄様」

「ユキ」


ちびっこ組も「さっさと行け」言わんばかりの目を向けてくる。

えー、こんな空気でどうデリーユに声かければいいんだよ。

「やあ、僕アンパンマ○」

なんてのは通じねえだろうからな。


「デリーユ」


なんとか声をかける。

俺としては気が済むまでほっとけばいいと思うんだが……。

他の皆が行け。って感じだしな。


「ぐずっ……なんじゃ」


振り返りもせずにデリーユは答える。


あーあー、こりゃ泣いてるな。


仕方ない、これは無理やりにいかないと、こっち向いてくれないな。


「うひゃっ!?」


肩を思いっきり引っ張って振り向かせて、しっかり顔を抱き込む。


「あんまり気にするなってのは無理な話だよな。でも、デリーユにはそんな顔をしてほしくないってのがあってだな」


うん、カッコイイことはすらすら出てきません。

体が痒くなってきます。


「……もうちょっとかっこよくできんのか」

「すまん」

「……はぁ」


デリーユはそのまま俺の胸に顔をこすりつけて、息をスーハーしている。

墓掃除したんだから汗かいてると思うぞ、夏場だし。


「うむ。ユキの香りで気分がよくなったわ」

「よし、それじゃ帰るか」


そう言ってデリーユをお姫様抱っこする。

そう言えばデリーユにはしてなかったんだよな。


「ちょっ、ユキ!?」

「よし、誰が一番早く帰れるか競走だ!!」

「「はーい!!」」

「うらやましいけど…しかたないか」



そうやって、家路を急ぐのであった。



『『きゅー』』


そんな鳴き声が墓地で響いていた。

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