第101掘:これからどうする?

これからどうする?



side:ユキ



「というわけだ、一旦皆座り直したが、どこから聞くべきだと思う?」


正直、あとでまた詳しく聞いて話を詰めていかないといけないだろうが、一応簡単に質疑応答を行うべきだろう。


「えーと、兄上。よろしいでしょうか?」

「なんだい?」

「兄上達もダンジョンマスターなのはわかりましたが、何をお聞きしたいのでしょうか?」

「何を……か、正直何もかも聞きたいんだがな」


俺はそう答える。

これから色々予定しているのだ、情報は何としても欲しい。

これからの厄介事や、トラブルはなるべく未然に防ぎたい。

そして、便利で器用なダンジョンの使い方があるなら是非聞きたい。


「えーと、兄上達はダンジョンで何をなさるつもりなんでしょうか?」

「……ああ、そう言えばそうだな」


俺達がダンジョンマスターなのは知っているが、どういう風にダンジョンを利用しているのか、いや、ダンジョンで何をしているのかは全く知らない状況なのだ。

これでは、何も返答は出来ないか。

しかし、どう説明したものか、簡単に説明してもバカバカしい説明しかできない。


「簡単じゃよ、ライエ。ユキはダンジョンを使って戦争を無くそうとしておる。よければ手伝ってやってくれい」

「は?」


おいおい、デリーユはあっさり喋った。

というか、ライエ君は唖然としている。

当然だよな、ダンジョンの認識を知れば何をどうすればそんな回答になるのやら。


「えーと、どうやればダンジョンを使い、戦争を収められるのでしょうか? まさか、ダンジョンの戦力をかき集めて、他国を落とすつもりですか!? そんなのは認められません、僕達はひっそりと暮らせればいいのです。それでは、伝承通りの天災ではないですか!!」


ライエ君はトンデモないと言わんばかりに否定する。


「あほ、しっかり考えい。ユキが本当に武力で世界を収めようとするのならば、もうライエは生きておらぬよ。見たであろう? このダンジョンをあっさり制圧する手際を」

「ええ」

「まあ、デリーユの評価は過大だとして、ライエ君はゲートや転移トラップは知っているかい?」

「はい、他の場所と場所をつなげる方法ですよね。僕もそれを利用して、リーリやアンナ、特定の人物しか使えないようにして、ダンジョンと町の行き来を楽にしています」

「ああ、それを俺達は利用して……」



そして、小一時間簡易に説明をする。

ゲートを通じて、各ダンジョンをつないで、各国に利用してもらい、お互いに監視をして戦争の抑制をしてもらうという事を。

まあ、それに必要な事も色々。


「というわけだ」

「はぁー、凄い話ですね。でも、実現不可能というわけでもない。素晴らしいですね」


ライエ君もアンナさんもリーリも驚きながらも感心している。


「そういうわけで、今現在ロシュールにあるダンジョンを中心に、このセラリアやルルアの手を借りて、各国にダンジョンを設置して、目的を進行中というわけだ」

「で、そこで問題になったのが、兄上達以外が所有するダンジョンになるわけですね」

「ああ、ライエ君みたいにダンジョンマスターが友好なら色々手伝ってもらえるんだが、逆に敵対的であれば……」

「なんとしても制御を奪い、拘束、あるいは殺害しなければいけませんね」


そういうこと、俺と同じダンジョンマスターは敵としては一番厄介だ。

邪魔ができるのは、同業者か、あと勇者か魔王か、最後に神様類だ。


「そう言うわけだ。一応ライエ君はデリーユの弟で俺と敵対する意思はないとみるが?」

「はい、兄上達と争う理由はありません」

「それだとありがたい。といっても、こっちは一応国の枠で動いているから、近いうちに書類を揃えて、一応署名してもらって、事実を残そうと思う」

「それも当然ですね。僕も異論はありません」


何も異論はないか。

しっかり王族ではあるんだろう。

適当な話で、ある程度重要性を理解し、しっかり考え答えを出している。

まあ、色々詰めないといけない話はあるが。


「これが、一応な目的だな。まあ戦争抑制が目的ではあるが、あっさり事が進むわけはない」

「それは、当然ですね。そんな簡単に戦争が無くなるのであればとうの昔に戦争は無くなっています」

「そこでだ、ライエ君達にも協力をして欲しいと思っている。ま、ここでひっそりと暮らしたいというなら、無理は言わないが。それでも知恵を貸すぐらいはしてほしいと思っている」

「……そう、ですね。兄上が言っている事はわかります。すこし、考える時間をいただいていいでしょうか?」


ライエ君もアンナさんやリーリを守っているという自覚はあるのだろう。

そして、暴君の様に周りの意見を聞かずに決めるような暗愚ではなく、ここでの明言は避ける。

しっかり、考えているな。


「なんじゃ、ライエ? なにか問題があるのか?」

「いえ、姉上。僕の一存では決めかねますし、兄上や姉上に協力すれば必ず厄介事に巻き込まれるということですよね?」

「それは、そうじゃが……」


そう、俺達に協力するということは、これからの問題に巻き込まれるということ。

でも、もう会っているから、被害は避け得ないだろうが。


「これは簡単に答えを出しても僕の器を疑われます。兄上、少しばかり時間をいただけないでしょうか? 見極める時間が欲しいのです」

「当然だな。じっくり考えてくれ。そうだな、俺達が作っているダンジョンにも案内しよう」

「はい、お願いします。幾ら話を聞いても、姉上がそう言っても、自分の目で見ない事には」

「ああ、そういうのは大事だな」


近々、ライエ君達を俺達のダンジョンへ案内する必要があるな。

しかしまー、色々成果が出すぎだな。

このダンジョンだって、DP稼ぎの一つだと思っていたのだが。

まさか大当たりだとは……。


「こちらのダンジョンへの案内は後日準備が終わり次第案内しよう。今すぐでも繋げる…いやもう繋いではいるが、今すぐ行くってわけにはいかないだろう?」

「ええ、流石に急すぎますね」

「ライエ、来ないのか?」

「姉上、色々と急なんです。そちらに行くにしても、このダンジョンの代役を頼まないといけませんし、色々初めてなもので」


ん?

なにか違和感があったぞ?


「なあ、ライエ君。先ほどの言葉で違和感があるんだが、色々初めてとは…このダンジョンの代役もか?」

「はい、このダンジョンを離れるのは初めての事ですし」

「本当か?」

「ええ、自分の身を第一にとアンナやリーリからきつく言われているので、兄上達の誰が本物のダンジョンマスターかは存じませんが、そこまでのリスクを負うのは僕達は出来ませんでした」


ちょっとまて、ドッペルの身代わりなのに気が付いていない?

ああ、ジャミングはかけていたな。

でも、ここから出たことがないということは……。


「すまないが、このガルツが4大強国でダンジョンが一番多いのは知っているか?」

「はい、僕以外のダンジョンマスターが来たんだなーと思います」

「来た?」

「はい、僕がダンジョンマスターになったのは200年前ほどです。当時はダンジョンの報告はありませんでした。いや一か所あったかな?」

「はい、私達の国があった時は一か所のみでした。しかし、150年程前から、急にダンジョンが増えてきましたね」


アンナさんがそう補足する。


「ということは、少なくともあともう一人はダンジョンマスターがいるってことか……」

「そうなりますね。僕達はこのダンジョンだけですし、兄上達はご存じないのでしょう?」

「ああ」


ふむ、これは残念と言うべきか、思いのほか情報があったというべきか……。

ライエ君がこの一帯のダンジョンを仕切ってればいいなーと思ったが上手くはいかないか。


「なにか、他のダンジョンの情報はあるかな?」

「うーん、リーリが何回か他のダンジョンに仕事で赴いた事はありますが」

「そうですね。私は特に変な所は見なかったです。普通のダンジョンでしたが?」


うん、普通のダンジョンがわからねえ。

そう言うのもルルアとかトーリやリエルとかから聞かないとな。

一応冒険者ギルドの支援もあるし、大体の情報は手に入れられるだろう。


「とりあえずだ。情報をやり取りしようにも、こっちもそっちもまとまってないみたいだ。一旦時間をおこう。こっちもガルツとの交渉中だしな。それが終わってから、しっかり話をしよう」

「はい、それがいいですね。と、ダンジョンの制御は返していただけるのでしょうか?」

「それなんだよな。万が一に備えて、一階層分俺達にくれ、そこを俺のダンジョンと繋いでおこう。デリーユを仲介人に立たせる。デリーユの許可なしに行き来できないようにする。いいか、デリーユ?」

「うむ、任された」

「そうですね。そうしていただけるとありがたいです」


そんな感じでダンジョン攻略は意外な益を得て終わることになる。

一日での情報量として十分だろう。

しかし、200年ダンジョンマスターでここの一か所だけか。技術的な部分はあまり期待できそうにないな。



さて、あとはガルツの返答を聞きにいきますかね。

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