第102掘:盾姫
盾姫
side:ユキ
結局ダンジョンの細かい話は後日となり、一旦城に引き返す事になった。
因みに、ダンジョンの制御返還はしていない。
ライエ君を指定保護し、あのダンジョンの制御権限を与えた。
なぜかというと、ダンジョンの制御を奪い返すのには、2倍のDPポイントが必要となる。
それは土地のDP代だけでなく、トラップや中にいる魔物、施設の設備などなど全てをひっくるめて2倍である。
だから結論を言えば、ライエ君は俺が制御を奪って2倍からさらに2倍の額のDPを持ってはいなかった。
返還したくても返せない状態になったので、代官としてラビリスみたいな役回りになって貰った。
まあ、俺のダンジョンにある小ダンジョンとそん色ないから、ラッツ達と同じなんだが…。
護衛にデリーユがいるし、俺達のダンジョンへも繋がっているので、心配はない。
勇者でもくればわからんが。
と、そういう事があって、ガルツの王城に戻ってきたのだ。
まだ、ダンジョンを何処に設置するのかは会議が紛糾しており、数日かかりそうだ。
その間どうやって暇を潰そうかというのが当面の課題だったのだが……。
「おおっ、セラリア戻ったか。暇をしているならまた手合わせしないか?」
そう声をかけてきたのはローエル王女だ。
「そうねぇ。一昨日はあれだったしね。いいでしょう」
「うむ。今度は不覚はとらないぞ」
そう言いながらバトル大好きお姫様2人は訓練場へと向かっていく。
「俺達はどうしようか?」
「いや、私やカヤはともかく、お兄さんはついて行かないと……」
ラッツはそう言って俺に行ってこいという。
えー、それじゃ俺退屈じゃん。
「あら、あなたも一緒よ? そうじゃないと今晩酷いから」
通路からひょこっと顔だけをこちらに覗かせそう言うセラリア。
「酷いって?」
「そうね…酒池肉林でもしてもらおうかしら? 私も含めて妻全員でどうかしら?」
「マジですかセラリア!!」
「本当ですかセラリア様!!」
ラッツとシェーラが大いに食いついている。
おいおい、俺の体は一つですからそんなことしても皆は欲求不満になるだけでしょうに。
「私はそれでもいいわよ? 仕事は一年ぐらいほっといても大丈夫でしょ。今までの成果を鑑みれば」
そりゃな、3・4か月で人口0から一万人突破だしな。
どこから見ても十分だろうよ。
「ですねー。最近忙しすぎますから、旅館に籠ってお兄さんを好きな時に好きなだけ食べられるのは素晴らしいと思います」
「そうですね。ユキ様はあまり其方は積極的ではないみたいですし、一度そういう事をして妻を日中襲うぐらいはしてほしいですね。その為の訓練です」
うおーい、嫁さん達は色々と間違ってるぞ。
俺がそんな事して堕落したらどうすんの?
「それであなたが私達の体に溺れてくれたら嬉しいんだけどね」
「大丈夫ですよ。ちゃんと私達がお兄さんを守ってあげます」
「すこし休憩ですね。堕落しても元に戻しますのでご安心を」
あー、セラリア達にとってもいいことではあるのか。
ルルアなんて喜んで一日中裸で一緒にいそうだよ……。
「おーい、やらないのか?」
ローエルはそう言ってセラリアを呼ぶ。
「セラリアについて行くからローエルをボッチにしてやるなよ」
「あら残念。ローエルのボッチぐらいで愛に爛れた日常が手に入ったのに」
さほど残念じゃなさそうに肩をすくめて、ローエルが待つ訓練場へ入っていく。
「で、皆はどうするんだ?」
「申し訳ないですがシャール様と輸出の品物の価格と選定をする予定なんですよ」
「私はユキ様と一緒にいますわ」
「……私はラッツの護衛ということで」
そんな感じで皆バラバラに別れ行く。
ナールジアさんは現在王都の有名鍛冶場で暴れているらしい。
俺の所の知識と昔からの妖精族の知識を合わせ、ガルツの性質を学び、それから思いついたものを作っているらしい。
オーパーツレベルの物ができない事を祈る。
『ふ、フフフふ…あーはっはっは!! おおっ湧きあがりますよ想像力がイメージが!! これは物凄いものが作れる予感が!!』
うん、何としてもできた物は封印しよう。
チートクラスの武器か防具確定の気がして仕方がない。
そんな事を考えていると、クアルが審判役でセラリアとローエルが試合を始めていた。
ガアァン!!
そんな金属音が響く。
「ぐっ!? なぜだしっかり当たってしまった!?」
ローエルはセラリアの斬撃をしっかり盾で受け止めたのに、なぜか驚いた表情をしている。
「お生憎さま、この前の手合わせが本気じゃないのよ」
セラリアはさっとローエルの間合いから飛び引く。
「それはこっちだって一緒だ!!」
引いたセラリアにローエルが盾を構えながら突っ込む。
「まったく厄介ねその突進!!」
セラリアはそう言いつつもそのシールドタックルを回避する。
レベルに物を言わせた回避だな。
「ほう、これを躱すか。前なら、お互い一撃ずつもらうタイミングなのだがな」
ローエルは驚きつつもしっかりと、盾を構えて隙を窺う。
なるほど、さっきのタックルは盾の面積と重量をそのまま相手に当てる技か。
かといって確実に、ローエルの剣の範囲から脱出しなければ、追撃の剣にやられる。
つまり、回避するなら追従してくる盾のタックルを躱し、その隙にくる剣の範囲からも逃げないといけない。
これは同レベルならほぼ回避不能だ。
極端に相手より素早さが上でないと、攻撃範囲から逃れられない。
だから昔のセラリアは相打ち覚悟の攻撃にしてたわけか。
そしてまたセラリアが剣を振るうが……。
スッ
ほぼ無音。
ローエルの盾に阻まれたのに、音もなく捌かれる。
「っつ!?」
セラリアはすぐに飛び退く。
その場には剣が振り下ろされている。
「これもかわすか、昔以上に素早さが上がってるな」
「それはこっちのセリフよ。アレを簡単に見極めないでほしいわね」
「それを言わないでくれ。私にはコレしかないのだからな」
そう言って盾を揺らす。
おいおい、レベルがいくつあるかは知らないが、セラリアのほうが上のはずだ。
それを盾と直感だけで完全に防ぐってスゲーなおい。
「驚かれましたか?」
「ああ」
シェーラがそう声をかけてくる。
いや、まさかこんなにいい勝負、セラリアが苦戦するとは思わなかった。
レベル差での圧勝だと思っていたんだが。
「ふふっ、大丈夫ですよ。あんな事が出来るのはローエルお姉様だけです。しかし、あれが本来の盾の使い方なのです。相手の攻撃を受けるのでなく受け流す。それは相手の動きや癖を知って尚且つ卓越した才能が必要です」
「そうだな」
「私達ガルツは、仲間を守ることを第一に置いております。仲間を守れば死なずに済む。そして仲間が助けてくれる。その為の盾なのです。少しでも長く仲間を守る為に、受けるのではなく受け流す事に特化しているのです。まああそこまでできるのはお姉様だけなのですが」
そう言いながら試合を見ているが、圧倒的にレベル差があるのに、それを危なげなくさばいている。
これは凄いな。
「相変わらず一対一はめっぽう厄介ねその盾は……」
「そう簡単には抜かせんよ」
しかし、少しずつ差が出てくる。
体力だ。
レベルの差が出てきた。
格上相手にあれだけ捌いていれば体力的にも、精神的にも疲労は激しい。
「ふうっ……、これ以上はダメだな。セラリアすまん。だが、最後の一撃付き合ってくれ」
「……相変わらず勝ち負けにこだわらないわね。いいわ……」
ローエルは自分の負けを認め、最後の一撃をという。
セラリアも分かっていたのか、それを承諾して、腰の刀に手をかける。
「おい、セラリア!!」
流石にその刀は不味い。
盾ごとバッサリいくぞ。
「ユキだったな。構わんよ。私が望んだことだ。何、なんとかなるさ」
そうやってローエルは盾を構えてセラリアに集中していく。
セラリアも俺に答えることなく、そのまま居合の構えをする。
「こい!!」
「ええ!!」
なんだよ、このジャン○ノリの展開は……。
そして二人がぶつかりあう。
一瞬で勝負は決した。
ローエルの盾が真っ二つになった。
そう受け流す段階ではないのだ、あの刀とセラリアの技量であれば、盾は意味をなさない。
「……まったく、そんなのが奥の手とはな」
「あら? 奥の手はそう簡単に見せないわよ。ローエルだってあの盾持ってきてないでしょう?」
「それは、まああれは国宝の盾だからな。有事の際しか使わんさ。しかし、この盾もそれなりだったんだがなー」
「私のこの剣もそれなりなだけよ」
「それでそれなりか、随分差をつけられたな」
そんな話をしながら二人は笑顔を見せている。
うわー、俺より主人公気質じゃね?
そんな事を考えているとシェーラが口を挟んだ。
「お姉様たちお見事な試合でした。周りの兵士も驚きで声も出ないようです」
そういって前にでる。
確かに、見学していた兵士たちはシェーラの声で我に返ったのか、拍手が上がり始める。
「…ですが。お姉様、その盾。特注であったはずです。確かに試合はお見事でした。ですが、備品を壊すのはいただけません。自費で修理してくださいね。いえ、その状態だと買い直しですね」
「ええっ!?」
ああ、シェーラ。
結構というか、かなりしっかりしてるよな。
当分ローエルの給料はなさそうだな。
南無。
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