第99掘:家族

家族



side:デリーユ・ル・コッセル



「うむ、本日も事も無し。平和じゃのう」


妾は今、のんびりとダンジョンの巡回をしている。

ここ二月で人口が倍どころか、30倍近く膨れ上がったからのう。

ふふ、まったく、末恐ろしい奴よ。

妾の国でも、ここまで急速に人口が増加した例などなかったぞ。


「あ、デリーユお姉ちゃんだ。やっほー」

「おう、気を付けて遊べよ。怪我をしたらちゃんと傷口を洗って、病院にいくんじゃぞ?」

「はーい!!」


今はダンジョンの住宅街、そこにある公園……、なんでも住人の憩いの場らしい。

また、変な物をユキは思いつくのう。

でも、ベンチが木の下に並び、自動販売機や水場があって、ちょっとそこから離れれば、広い広場がある。

何でも、あえてこういう場所を作ることによって、意図的に住人達の交流を深めさせるのが目的らしい。

よくよく見れば、子供達以外にも、ご老人や男性や女性も公園にきて談笑したり、運動したりしている。


「……平和じゃのう」


そのまま妾は近くのベンチに座る。

確か、書類仕事を手伝ってとか、エリスに言われていたが、こうまでいい天気でのんびりした声を聴いていれば、そんな気は無くなってくる。


平和か……。

本当に、妾がこんな生活を送れるとはな……。

国が亡び、感情のまま敵国を滅ぼし、罪もない民まで焼き尽くし、放浪し、自分が気に食わない相手をただ叩き潰す日々。

そして、不老の体と、規格外の強さ故の、他者との隔絶。


一人ぼっちの日々。

そんな生活を一生送ると思っていた。

誰とも深くかかわらない、そんな人生を歩むつもりだったのに……。


「あ、デリーユお姉ちゃん!!」

「です。こんな所にいたのです!!」

「……のんびりしてるわね」


小さい女の子が3人パタパタと駆け寄ってくる。

その3人はもう、妾の家族ともいうべき存在だ。


「おお、アスリン達か? どうしたんじゃ?」

「エリスお姉ちゃんが探してます!!」

「約束したっていってたです!!」

「……がんばりなさい」


アスリンとフィーリアは妾の手を握って立ち上がらせる。

抵抗など無理だ、この妹分に乱暴を働けるわけがない。

仕方なく立ち上がって、そのまま手を引かれて歩き出す。


「……どうしたの? 何か嬉しい事でもあったのかしら?」

「…? 妾は笑っておったのか?」

「……自覚がなかったの? なにか、懐かしいものを見る感じだったわよ?」

「……懐かしい…ああ、そうだな。懐かしい、この手を引かれる感覚」


アスリンとフィーリアに重なって、自分の昔を思い出す。

弟もこうやって妾の手を引いていたっけ?


『姉上、こっちに綺麗な花があったのです』


まったく、次期国王かというのに、貧弱な弟じゃった。

まあ、歳もそこまでいっていなかったから当然か。

……父上、母上、そしてライエ。

妾は元気でやっておる。

憎しみに溺れた時もあった、孤独を泳いだこともあった。

でも、こうして妾を大事にしてくれる家族にあえた。


ああ、でも家事とかさっぱりじゃのう。

これでは、アンナは苦笑いするかのう?


そろそろ、墓に花を添えるべきか……。

あ、もう城跡など残っておるまいな、というか、何処に祖国があったのかも覚えておらん。

確か……ガルツ近くだったと思うが……。

丁度ユキも行ってる事だし、あとで少し聞いてみるか。



そんな風に考え事をしながら、アスリン達に手を引かれていると不意にコールが届く。


「ん、ユキからか? すまん、アスリン、フィーリア手を離してもらえるか?」

「はい」

「でも、逃げちゃだめなのです!!」

「……ユキから?」

「ああ、何用じゃろうな? 妾に直接とは、また晩御飯のリクエストかのう?」


ちなみに、ユキ達は本体…体はこっちにおいてあるので、毎日食事時には合わせて戻ってくる。

本人達は向こうで会食などもしてるから、気分的には2食食べてる感覚なので、つらいと言っていた。

で、勿論、妾達のごはんはユキが作ってくれる。

うむ、見事な夫よ。

と、コールにでるか。


ボタンを押す。


「いったい、ど…」

『やっとでた!!』

「な、なんじゃ!?」

『緊急事態だ、至急聞きたい事がある!!』

『私はお前の慰み者などにはならない!! 私に触れていいのは只一人!! と、男性では!!』

『あー、ラッツ布咬ませろ!! 舌咬み切りそうだ!! 他は両手縛れ!!』


なにやら慌ただしいのう。

しかしまあ、相手の鬼気迫った感じとセリフから、なんかひどい誤解があるようじゃのう。


「とりあえず、その小娘が自害しない方法が妾にあるのか?」

『あれ、顔見たことないのか? この子リーリ・ル・コッセルって名乗ったんだ』

「なに? いや、分家でもしらんぞ? 生き残りがいても……まあ不思議ではないが、ル・コッセルは妾だけの、第一王女にのみ与えられる家名じゃしのう。滅びた国の家名を名乗って生き延びるのは、賢い選択とは思えんが……」


ふむ、コール画面に映る女性…というには少し若いか。

だが、気迫は十分。

レベルも100は超えているのではないか?

その若さで大したものだ。


『おかしいな。この子これでも180歳越えだから、デリーユの妹かと思ったんだが……』

「いや、まて妾は235歳じゃ。開きが50年もあるわい。ちょと妹は無理があるのう。……ふむ、娘。少し聞きたい、お主の家系にライエ・リ・コッセルはおるか?」

『なぜライエ様の家名を知っている!?』

「おお、なんじゃ、弟の子孫か。しかし、その割にはあまり面影がないのう」


なんと、あの小娘ライエの子孫か。

何で不老化しておるのかはわからんが、すこしこみ上げるモノがあるのう。

逃げておったか。

確かに、弟の遺体は見つけられぬままだったが……。


『お、おとうと? ま、まさか…!? いや、少し聞きたい事があります。貴女がライエ様の姉だというのなら、仲の良い侍女がいたはずです。名前をいえますか?』

「なんじゃ、アンナも逃げておったのか。ふ、ふははは。なんと良き日か、我が血族の末裔と会話できるとはな」

『ま、まってください!! 私は血族ではありません!! ライエ様の伴侶の一人であります!!』

「……は?」


ちょっとまて、伴侶?

えーと……。


「伴侶って嫁のことじゃったよな?」

「……そうよ」

『間違ってないぞ』


つまり、なんじゃ?

えーと、彼女がライエの伴侶?

頭の中がまとまらん。

ごっちゃごっちゃじゃ。


『生きておられます!! ライエ様は生きておられます!! アンナさんも!! このダンジョンで225年ずっと、ずっと!!』


リーリがそう言葉を発する。


「…………そう、か」


その言葉がやっと出てきた。

何とも、無粋な言葉しか出てこないな。


「お、お姉ちゃん!?」

「ど、どうしたのです!?」


ああ、アスリンとフィーリアが驚いてる。

でも返事をしている余裕はなかった。

自分でもわかる程に、頬を伝う涙がぽろぽろと溢れて地面に落ちていく。



「……生きてるか……よかった。本当によかった……」



すまん、しばらく涙が止まりそうにない。

もう少し、もう少しだけ、待ってくれ。

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