第98掘:ダンジョンの記憶

ダンジョンの記憶



side:???



いつだったか、あれから一体どれだけ時が経ったのだろうか……。

僕はあの日から、人生が変わった。

今まであったものが全部なくなった。

いや、辛うじて残った物や友人もいた。

だが、多分、全部失くしたという人が大半だと思う。


あの日、僕の祖国は滅びた。

文字通り、滅びた。

天災などであればまだよかった。

人が起こす戦争。

他国からの侵略。

慈悲の無い殺戮。

守るべき民も守れず、父である王も、母である王妃も、姉であった王女も皆死んだ。

だが、僕だけは一人の侍女……いや、姉の友人にも等しい彼女と共に、自分達だけ生き残ってしまった。


……僕はその日、ダンジョンマスターとなって生きながらえた。

彼女が手を引いて何とか僕を逃がそうとしていてくれたが、それは不可能に近く、逃げ込んだ倉庫にも敵の手が伸びようとしていた。

その時、僕は神を名乗る女性からダンジョンマスターの能力を得た。


「生きたい? ならその力を使いなさい。代償はそうね…とりあえずまずはそのダンジョンマスターの能力をつかいこなしてからよ」


何が何だかわからなかった。

だけど、ダンジョンマスターのスキルの使い方はなんとなくわかった。

だから、即座に倉庫に小さなダンジョンへの通路を作り、必死に逃げ込んだ。

追ってきた兵士は罠で殺し、魔物で殺した。


そして、彼女と一緒に、ダンジョンの中で息をひそめて、幾日か過ぎ、外の様子を伺えば……。

城は崩れ、街は焼け、生き残りは一人としていなかった。


そして僕は彼女と一緒に元領地を見て回った。

でも、そこも全て焼き払われていた。

生き残りもいなかった。

いや、生き残りがいるのならもう逃げているだろう。


「坊ちゃま……どうされますか?」

「……ここまでとは思わなかった…。ねえ、アンナ。近くの他国までどの位だい?」

「……そう、ですね。私達の足で……二か月はかかるかと……」

「…そうか。今のままの僕達じゃ危険だね……」


僕は何とか自分の状況を判断する。

今のまま他国に行ってもただの難民扱いだろう。

むしろ、自分が王子と言っても証明できないし、安全だとも限らない……。


「アンナ。聞いてくれ、僕はしばらく王都の下のダンジョンで力を蓄えようと思うんだ。父も母も…民も弔ってやりたいし……どうかな?」

「ご立派なご判断かと思います。このアンナ最後まで坊ちゃまと一緒にいきます」

「……ありがとう」


そうやって、僕とアンナは再び王都のダンジョンへ戻り、魔物を使役して、瓦礫を片付け、皆の遺体を弔ってやった。

墓荒しが出ても守るものなどいないので、申し訳ないが、皆の墓はダンジョン内の一室へと安置させてもらった。



しばらく時が経った。

滅びた王都は風化し、そこに宝を求める冒険者達が押し寄せてきていた。


「坊ちゃま。また侵入者です」

「またか、そっとしておいてくれないんだな。いつもの通り迎撃をする。奴隷などで酷い扱いを受けているようなら保護するように」


僕がそう指示をすると、デュラハンが敬礼で返事をし、その場を離れる。


「彼とも、長い付き合いになりましたね」

「ああ、王都が落ちてからずっと僕達を守ってくれている」


デュラハンは、あの王都が落ちた時、僕がDPの消費も考えずに、一番強そうな魔物を呼び出した結果なのだ。

レベルは何と130で、伝説の勇者や魔王、それらと肩を並べる程の魔物だ。

今までのダンジョンでの防衛で150まで上がっている。


そうやって、デュラハンを見送っていると、別の方向、居住場所から小さい女の子がこちらに駆け寄ってくる。


「ライエ様。デュラハンさんは?」


キョロキョロとあたりを見回して、デュラハンを探してる女の子。

彼女は、ここのダンジョン攻略へ来た冒険者が只のおとりとして、引き連れてきた女の子だった。

アンナと何度か話し合って、なんとか外の人間と連絡を取りたいと思っていたが、冒険者は信用できない。

何度か、話し合いを設けようとしたが、魔物として、斬りかかってきたり、アンナを人質に取ろうとしたりで、上手くいかなかった。

そんな中で唯一、僕達の味方になってくれている大事な家族だ。


「リーリ。彼はお仕事にいきましたよ」

「えー!? 私も追いかける!! 剣を使って冒険者を倒す!! ライエ様やアンナさん、デュラハンさんを虐める奴は許さないんだから!!」

「あー、落ち着いて。大丈夫だから、ね?」

「ほんと?」

「ええ、彼はとても強いですからね」



そうやって日々が過ぎていく。

いつか、話し合える誰かがくると信じて。




「ライエ様、今日で225年です」

「良く数えてるな。僕はもう200年ぐらいしか感覚がないよ。アンナも若いままだし」

「私としては見慣れたけど、不思議だよね。もう私も182歳だよ。もうびっくり」


あれからアンナの数えで225年も経っていた。

僕が作ったダンジョンはそこを中心に町ができ、冒険者ギルドができ、大いににぎわっていた。

仲間はあれから増えたり減ったりの繰り返しだ。

ダンジョンマスターの権限で、不老にすることはできるが、なかなか不老を望むモノはいなかった。

外的要因で死ぬことはあっても、体の衰えや病気で死ぬことが無くなったので、自分が人間でない何かになりたくはないのが主な理由だった。


この町も、このダンジョンで助けた奴隷の一団がここで町を作ると頑張ってくれた結果だ。

誰も最後まで、僕達の事を話さず墓まで持って行ってくれた。


「しつこいかもしれないけど……」

「私は不老になった事を悔いてはおりません」

「私も不老になった事を気にしてないよ。むしろ、ライエ様やアンナさんを食べ放題だし……ふへへ」

「こほん。リーリ、あまりそういう事は……」

「はーい、ごめんなさい」


ま、姿は変わらないけど男としての、女としての生理現象や欲求はあるので、この3人で仲良くしている。

子供は自分たちの立場が立場だから、作れてはいないが、いつか欲しいとは思う。


「さーて、私はいつもの通り冒険者ギルドにいってくるよ」

「はい、リーリ気を付けて」

「買い物もよろしく」

「はーい」


今では冒険者ギルドに定期的リーリが出入りをして、素材を換金しては、外の町の品物を買ってくる循環ができている。

不老とばれるとまずいので30年周期ぐらいで10年、外にでない時期はあるのだが、今は活動時期だ。

リーリもあれから強くなったものでレベル150とかつてのデュラハンと同じぐらいになっている。

因みに現在デュラハンのレベルは310と、もう勇者でも魔王でも何でも来いと思う。

なるほど、これはダンジョンが天災と言われるのも分かった気がする。



そして、その日は僕達にとって運命の日となった……。



「っつ!?」

「なっ!?」


僕と、アンナがそろって声を上げる。


「ど、どういう事です!? あ、あり得ない!?」

「だ、ダンジョンの制御ができない!? う、奪われてる!?」


そう、その日も攻略をしている冒険者達を監視している所だった。

だが、急に1階の制御ができなくなった……。

そして、大体7分事に制御できなくなる階層が増えていく。


「アンナ、今侵入している冒険者の数は!!」

「はい、確認しているのは55名です!!」

「全員ステータスを調べ上げろ。何か変なのが混じってるぞ!!」

「わかりました。リーリにもドッペルをつかって連絡をやります!!」

「頼む!!」


だが、無情にもダンジョンの制御が徐々に奪われていく。

5時間。

たった5時間で全階層50階のダンジョンが47階層まで制御不能となった。


「……なんなんだいったい」

「坊ちゃま、大丈夫です。リーリとデュラハンが迎撃に行っているはずです」

「ああ、デュラハンが負けるとは思えないけど…リーリは大丈夫だろうか……」

「彼女は頑張って私達よりもレベルは上です。きっと大丈夫ですよ。それに、今まで鍛えてきた精鋭の魔物も放っております」

「くそっ、こんな事なら僕もレベルを上げていれば……!!」

「それはなりません。ダンジョンマスターである坊ちゃまがいてこそ、皆力がだせるのです。坊ちゃまは王者として、最後まで私達に指示をしてくれればよいのです」

「でもっ」

「何度も話はしたはずです。私もリーリもライエ様を生かすためなら命を捨てる覚悟です。ライエ様も約束したではありませんか、必ず生き延びると」

「……ああ」


頼む。

皆無事でいてくれ。

僕が悪かったのか?

ダンジョンマスターという力に胡坐をかいてた罰なのか?

ダンジョンの制御ができなくなるんて……、この力を与えたあの声の持ち主は何を考えて僕にこの力を渡したのか……。

今更ながら、この力の意味を考えていたのだった。



side:リーリ・ル・コッセル



今日も同じ日のはずだった。

ただ冒険者ギルドにいって素材を換金して、買い物をするそれだけのはずだった。


「やっほー」

「おう、まだ生きてたか」

「酷いなー、これでもランク7の冒険者だぞ」

「信じられねーよな。ソロでランク7とか、ダンジョンにずっともぐりっぱなしじゃ、死んでるとおもうって」

「まあね、ほい。換金お願い」

「へいへい」


いつもの買取カウンターでの会話。

私は長い事生きているので、この町の変わりようも見てきた。

でも、今の私はこの町に居ついて5・6年の冒険者。

こんな事をもう何度も繰り返している。

あの小さかった頃の体はなく、メリハリのついた立派な女性の体つきになってる。

ライエ様も気持ちよさそうだし、今の状況に不満はないかな。

そんな事を考えていると、ギルドマスターの部屋から数人の…貴族みたいな人たちが出てきた。


「ねぇ、あの人たちは?」

「ん? ああ、なんかどこぞのお偉いさんでダンジョンの見学にきたとさ。俺からすれば、間違って死んで町に難癖つけられないか不安なんだよな」

「へぇ~」


そうやって、その人たちを見る。

なんともまあ、私が見てもため息をつくほどの美人ばかり。

その中で一人だけ男。

なんというかパッとしないが、多分周りは彼の奴隷か、連れなのだろう。

ダンジョン内で、彼女達にひどい仕打ちでもしてみろ、すぐさま首を切り落としてやる。


「ほい、金貨4枚な」

「ありがと」

「また買い物して、しばらくダンジョンか?」

「そうだね」

「……お前みたいな器量よしなら男は選び放題だろうに、無理すんなよ」

「残念。私はもう心に決めた人がいるんだなー。でも忠告ありがと」



そうやってギルドをでて適当に買い物をしていると、連絡用のドッペルが駆け寄ってきた。


「どうしたの?」

「ダンジョンに異常事態。至急戻られたし」

「わかったわ」


私は即座に身をひるがえしてダンジョンへと戻る。

そこで聞いたのはダンジョンの制御が奪われているとの事。

状況からみて、侵入してきた冒険者の仕業と判断。

なので、現在侵入が確認できている冒険者の排除…殺害を開始すると。

総出で、現在確認できる冒険者共を屠っていった。

知り合いの冒険者もいた。

新人冒険者もいた。


全部コロシた。

当たり前だ、私達の大事な場所を汚されてたまるか。


だが、ダンジョンの制御はどんどん失われていく。


「……そうね。48階にみんな集まって。いま制御が残ってるのはそれより下の階層。もう、45、46階は時間的に間に合いそうにない。いいかな、デュラハンさん?」


長年の友でもあり、私にとっては父の様な存在であるデュラハンさんは、剣を振り同意を示した。


「よし、みんな階段入口で待ち構えて、来た冒険者を確実に仕留めるよ!!」

「「「オオー!!」」」



そして私の予想通り、原因と思われる冒険者たちが降りてきた。

彼等が降りてきた瞬間にダンジョンのMAPが見れなくなった……、こいつらか。


「おやおや、団体様ですね」

「そうね、ようやくいい運動になりそうね」

「…ユキは下がる」

「ですね。旦那様は下がってくださいな」

「え? え? ここは普通男が前に出るもんじゃね?」

「首輪をつけて下げるわよ?」

「…ちょっと待ってください。セラリア、首輪つけてするプレイとかどうです?」

「……変態」

「…でもいいかもしれませんね。旦那様が首輪をつけて…はぁ」

「やめれ!? 俺はそんな趣味ないぞ!?」


そんな雑談をしている彼等に魔物たちは歯がたたなかった。

和やかに会話をしながら、レベル100近い魔物たちがなすすべもなく、崩れ落ちる。


「う、うそ!?」


私が呆けている間に、デュラハンさんが飛び出る。


「おい、そのデュラハン別格だ!! レベル300超え!!」

「へぇ」

「ほう」

「…ふん」

「あらまあ」


彼等は反応できていない。

さっきの貴族の様な気もするが、ここで仕留めておかないと危険だ。

私もデュラハンさんを追って追撃を……


キンッ


「伊達にデリーユと訓練はしていないわよ。この程度のレベル差で私は止められないわ」


綺麗な銀髪をなびかせて、不思議な剣を鞘へと戻す音が響く。


「あ、ああっ!!」


デュラハンさんが…消えて……!?

こ、殺す!!

こいつらだけは絶対!!

ごめん、ライエ様、アンナさん。

引けないや、ごめん。


ライエ様、貴方にもらった家名。

姉と同じ家名を私に下さったこと感謝しています。

その家名、返す時が来たようです。

ですが、願わくば、貴方の傍でずっと笑っていたかった。


「我が主のダンジョンをこれ以上汚す事は許さん!! これ以上進むなら、このリーリ・ル・コッセルを倒してからいけ!!」


最後の咆哮。

デュラハンさんをあっさり倒した彼女に私は勝てるわけないだろう。

それでも…私は最後まで抗う。

そうやって剣を握りしめ、相手の隙を伺う。


「「「ル・コッセル!?」」」


なぜか相手は首を傾げ、驚いていた。



なんでだろう?

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