第94掘:緊急会議

緊急会議



side:ユキ



セラリアが上手く話を纏めてくれているな。

あとは、ダンジョンを作ることに同意してくれればいいのだが……。


「ダンジョンを作る? このガルツに?」

「ええ、そのダンジョンの中にゲートという、転移トラップの一種を設置して、我がダンジョンと繋ぐわけです」

「…リテアもすでに繋がっていると言ったが」

「はい、すでに我がリテアとダンジョンは繋がっております。リテア大聖堂の下にダンジョンが作られております」

「大聖堂の下に!?」

「まあ、脅しもあったのでそちらに作らせていただきました。ご希望があれば其方に作りますが?」


ルルアと連携して畳み込んでるな。

リテアがそんな場所に作っているのを認めているとなると、安全性は確かな物。

ここで怖がって下手に離れて作ると、侮られる可能性もある。


「ぼ、冒険者ギルドから安全宣言が、で、でているとか?」

「はい、すでにダンジョン内に冒険者ギルドがあり、代表者の方々が誘致の政策として、本来の攻略するダンジョンをダンジョン内に複数作り、そこを攻略する冒険者を集めているところです。すでに、グランドマスターも視察を終えて、太鼓判を押しております」

「グ、グランドマスターもか」


更にロックギルドマスターからの援護、これでかなり有利になったと思うが……。


「結構大がかりな話ですし、今すぐというわけでもありません。しばらくはこちらに滞在しようと思いますので、その間に決めていただければいいですわ」


セラリアはそう言ってにっこり笑う。


「そう、ですか。ありがたい。検討する時間をいただけるのですね」

「当然です。いきなり、王都の下にダンジョンを作ることに同意されても頭を疑いますわ」


セラリアはそう言って立ち上がる。


「さて、私達からの本題の続きはダンジョンを作ってからになりますので、これで失礼いたしますわ」

「……まだ続きがあるのか?」

「ええ、交易、ダンジョンの開通は私達にとってはまだ通過点です。これから先を聞きたいのであれば、ダンジョンを作ってからですわ。皆部屋に戻りましょう。これから大事な会議なようですから」


やれやれ、戦闘以外はここまで頭が回るのにな。

皆もセラリアに言われて椅子から立ち上がる。


「ああ、このダンジョンの件はしっかり重鎮達と話し合って結構ですよ。黙っていて欲しいのは賠償金の出所と争乱の理由ですので」

「……うむ。承知している」


ガルツ王は重々しくうなずく。

会議しろって言ってもな、反発をなんとか押えこんで、納得させないとどう考えてもこれから不利になると分かり切ってるからな……。

選択肢なんて実質ないようなものだ。




side:ガルツ王



セラリア殿達が出て行ったあと、私達はまずは、話を聞いたこの皆で緊急会議をすることにした。

正直、セラリア殿の言う通り、こちらが本題であった。

賠償金の出所、争乱の真相。

過去のことなどより、未来。

なるほど、ロシュールの爺、いい跡継ぎを育ておったわ。


しかし、この話なぜ持ってきた?

イマイチ理由が分からぬ。

なんの得がある?

ロシュール一国で管理したほうが有利になるはず。


「さて、緊急会議を始める。まずはセラリア殿の提案だが……」

「それ自体は何も問題はないと思います。すぐに設置、撤去可能な様な言い方でしたから」

「問題は、セラリア様の意図が全く分からないところですわ」

「そうだな、私も自分なりに考えてみたが、わざわざ個人でこちらに交渉しにくる理由がわからない」


ティークとシャールも同じ考えであったか。


「彼女自身がお金と権力を欲しているなら、なおさら、賠償金を国に提出したり、個人でダンジョンの運用を進めて来たりしない」

「ええ、大金を求めるなら、国同士の交渉のほうが圧倒的に有利ですわ。わざわざ力関係が劣る個人でいっても足元を見られるだけです」

「……彼女が今緊急に私用の資金が必要…はないな」

「ありえませんわ。それならいっそ今持ってきたそこの規格外の物資を売りさばけばひと財産ですわ」

「彼女が何を目的としているかわからない。ここが拙い。下手を打てば多分国が傾く様な気がするんだ」

「お兄様のお考えに私も同意いたします。セラリア様のあの自信たっぷりなご様子、下手に動くことは危険だとおもいますわ」


その通りだ。

あのセラリア殿は、何か私達では予想もつかない事を考えているのではないのか……。

そこが一番問題だ。

わしの手におえる人物か……。


「……ダンジョンのゲート…任意につくれる? ……まさか…いや、でも……そんな馬鹿な」


そんな中、我が国内随一と言われるヒギルが一言も何もいわず、書き留めていた紙をみて一人何かを呟いている。


「ヒギル。どうかしたのか? 些細な事でいい。なにかお前も予想はつかないか?」

「そうね。ヒギルの頭脳、ここが使いどころよ?」


ティークとシャールもヒギルの様子に気が付いたのか、声をかける。


「い、いえ。す、少し気になった事はあるのですが……。これは、あまりにも……」


珍しい、ヒギルが言うのをためらうか。


「何言っている。さっさと言え。話さねば何もわからん。私は、学がちょっと足りない。だから、些細な事でも教えて欲しいんだ」

「ねぇさん……」


ローエルの言葉にヒギルが少し、落ち着いてきた。

ふむ、ローエルはやはり将としての才能は群を抜いておる。

こうもあっさり、ヒギルを落ち着かせるとは。


「そう、ですね。では、今から私の考えを言います。しかし、これはあくまでも考えですので、鵜呑みにしないでいただきたい」


ヒギルの言葉に全員が頷く。

それを確認したヒギルがゆっくりと口を開く。


「まずは先に、セラリア殿が何を考えているかの答えを言いましょう。彼女は、戦争の無い世界を……いえ、限りなく戦争が起こりにくい世界を作ろうとしています。このダンジョンの交渉はその布石です」


ヒギルの言葉に皆反応できないでいる。

わしもそうだ。

戦争が無い、いや限りなく戦争が起こりにくい世界か。

それは、この大陸に住まう者全てが望む理想の果て。

そして、幾度となく平和をめざし数多の血を流してきた世界の矛盾。


「……なぜそのような答えにたどり着いたのか、説明してもらえるな?」

「はい」


ヒギルはわしの視線をしっかり見返して頷く。

これは、只の勘でいっているのではないな。

あの会話で、ヒギルは確信する何かを得たのだ。


「私が疑問に思ったのは、この益のないダンジョンの情報開示、そしてゲートの開通でした」

「うむ、それはわしも同様だ」

「しかし、これが回答でもありました。益が無いからこそ、この回答しかありえないと」

「戦争無き世界だと?」

「はい。このダンジョンのゲート。セラリア殿は交易の為、安全でかつ最短で移動できるものだといいました」

「その通りだな」

「これは、各国で情報交換が簡単になるということです。つまり、お互いが簡単に監視できるのです」

「「「っつ!?」」」

「?」


ヒギルの言葉に全員が…いやローエル以外が反応する。


「また、各国が了承。そしてダンジョンを管理するセラリア殿が許可すれば、軍の移動も簡単にダンジョンをつないでいる国へ移動できます。たとえば、リテアの大聖堂の下にあるというダンジョンへ」

「「「!!?」」」

「これはつまり、ダンジョンを交易として使っている国はお互い手出しができない状態へと追い込まれます。いえ、むしろ交流が盛んになり、友好国が増え、万が一ダンジョンを受けいれていない国から侵攻される国があれば……」

「即時に連合軍を、かつてない速度で組んで迎撃ができるな」

「はい、さらに、攻めてきた国の利権を分け合う事ができます」

「連合を組まない理由がないな」

「色々細かい問題点はありますが、これがセラリア殿の最終目的でしょう。この世界の平和」

「……途方もない夢…ではないな」

「はい、これは現実的であり、実現可能で、さらに血を流さずに済む最上の策かと。そして、このガルツとの交渉目的も予想がつきました」

「どういうことだ? 争いのない世界が目的では?」

「それは最終目的です。ガルツとの交渉は最終目的の通過点です」

「ほっ、わしらが通過点か」

「ええ、どう見ても通過点です。セラリア殿のガルツでの目的。それは、ダンジョンの独立支援の確約です」


その言葉を聞いてわしはすっと納得できた。


「そうか、セラリア殿は祖国に剣を向けるのを否定していなかったな」

「ええ、セラリア殿はロシュール一国の安定より、世界の安定を取ったのです。リテアの大聖堂の下にダンジョンを作った話、脅しと言ってました。つまりその気になれば、私達に断らず簡単に地下にダンジョンを作り制圧が可能ということです」

「……セラリア殿を信ずるにあたいすると?」

「正直に言いましょう。セラリア殿に手を貸さなければ、私達の国は遠くない日に滅びます。自滅という形で。信じる信じないの話ではないのです。すでにこちらに選択権はありません。しかし、セラリア殿の手を握るなら……」

「争いの無い世界への立役者の一人となれるわけか」

「はい。選択権はありませんが、こちらに不利益もありません。セラリア殿が欲しているのは支援をしてくれる同志。それにすでにリテアは同意しているとみていいでしょう。ロシュールにしてみれば、ダンジョンの独立はなんとしても止めたいはず。しかし、独立を支援すると大国…リテアとガルツが大声で周辺諸国へ喧伝すれば……」

「ロシュールは体面の為、独立を認めざる得ないか」

「こちらとしても一々、ロシュールを通さなくてよくなる上、変に足元をみたりしないでしょう。下手に足元を見れば独立支援宣言をしないと言えばいいのですから。もっとも、そんな事セラリア殿がするわけないと思いますが」


……ふむ。

全員、こちらを見つめる。


「父上。これが私の考えです。ですが、自分で言葉を発し、間違いでないと確信が持てました。王よ、ご決断を」


ヒギルが頭を下げる。


「うむ。まだ確実ではないが、この話が真実ならば、平和を望む数多の民の為、セラリア殿を支援する。ダンジョンを作ることを許可することを前提に重鎮達を説得する。皆、手伝ってくれ」

「「「はっ」」」


さて、明日にでもセラリア殿と確認を取らないといけぬな。

そして、この策を考えたのは……ユキといったか、あの若者だろうな。

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