第93掘:本題

本題



side:セラリア



「セラリア殿、ルルア殿、其方の情報とてもありがたく思う。これで、極秘の任務は成功じゃな。こちらからも、しかとロシュール王に伝えておこう」


ガルツ王が今回の件を聞いてそう締めくくる。


「あら、待ってください。言いましたよね、これは私達にとってはついでだと。本題があるのですがよろしいですか?」

「む? この話より重大だと?」

「ええ、そうです。今の話は平和を保つための話。そしてこれから話す事は、未来への話です」

「未来?」

「はい、私達がこれから話す事を聞けばお分かりになるはずです。と、どうしますか? いったん休憩を入れますか? 少し長い話になると思いますので」


私はそう言って、ガルツの面々に視線をやる。

多分、驚きの連続になるからね。

準備…にはならないだろうけど、休憩を挟めば少しはましになるのではと思う。


「ふむ、どうせ食後だ。わしはこのまま続けて構わんが、皆はどうだ?」

「いいのですかお父様? 正式に話を聞かなくて?」

「どのみち、非公式だ。ちゃんとしっかりした話であれば、ここで聞いたあと再度検討すればよかろう」

「そうですね。それなら私も否はありません」

「私も問題はありません」

「まあ、お茶をのんびり飲みながらだし、セラリアが相手だ、私はいいぞ?」

「ねぇさん。もうちょっと言い方を…一応同盟国の姫様です」


ふむ、まあのんびり話せる場であるのは確かね。

問題が起これば、一息入れればいいでしょう。


「皆よいようだ。セラリア殿、本題とやらを聞かせて貰えないだろうか?」

「はい、わかりました」


さて…いったん説明から入ろうかしら。

私がやらないといけないのが面倒ね。

ダンジョンの表向きの管理は私なのだから、夫が説明するのは不適切。

夫が説明するにしても、私が説明した後の補佐って感じで出るしかないわね。

本来であれば、夫をダンジョンマスターと明かしたいところなのだけれど、そんな事をすればロシュールが乱心したと思われるし、やはり夫の言った通り、私が表向きにでるしかないわね。


「では、私から本題というのは、我が領地であるダンジョンとの交易です」

「……普通だな。いや、当たり前ではあるが、なぜそのように勿体ぶったのだ?」

「そうですね。ダンジョンを治めたという意味を理解しておいでですか?」

「ダンジョンを攻略したという意味ではないのか?」

「いえ、ダンジョンを制御することに成功いたしました。つまり、ダンジョンを自由に製作することができるのです。たとえば魔物を召喚したりと」

「…それは、大成果ではないですか。しかし、危険はないのですか?」

「それはもう、皆さんが確認していらっしゃいますよ」

「どういうことだ?」


ふふ、私が言うまで気が付かないとわね。

流石、ドッペルゲンガーね。


「ここにいる私を含め、今回ガルツに来た全員はシェーラとキルエを含め、全員がドッペルゲンガーの魔物を制御している状態です。つまり全員偽物ですね。まあ中身は本物ですが」

「「「なっ!?」」」


驚いて目を白黒させているガルツの面々。


「…どこからどう見ても、本物にしか見えんが…」

「ドッペルゲンガーは姿形を真似るだけで、その人を知る者なら、直ぐに正体がわかると聞きましたが……」

「ええ、本来はその通りです。しかし、ダンジョンの魔物は制御ができます。そして、ダンジョンマスターは安全の為にダンジョンから出るような真似はしない」

「……なるほど、ドッペルゲンガーは本来、ダンジョンマスターが外に出る為の借りの体だったと?」

「さあ、私もドッペルの性質を知ったのはダンジョンを制御してからでして、私はこういう風に使っております」

「要人護衛に関して、これ以上の対策はないでしょう。そっくりな影武者。これはすばらしい」


ヒギルは素直にドッペルの事をほめる。


「これでお分かりいただけましたか? 私達が魔物でありながら、其方に危害を加えていないのです。まだお疑いであれば…そうですね、ブラッドミノタウロスでも呼びましょうか?」

「ま、まて!! そんな怪物を呼べば大混乱だ!! ダンジョンの制御は信じる!!」


ヒギルが慌てたように言って、他もうなずく。


「ありがとうございます。しかし、これはまだ、序の口です」

「こ、これで序の口か……」

「はい、最初から言っての通り交易が目的ですから。…そうねまずは交易品をお見せしましょうか。ラッツいいかしら?」


ラッツに目を配ると頷く。


「では、これから、このラッツ、ダンジョンの商業代表。鍛冶代表で、妖精族の長、ナールジアがご紹介いたします」

「よ、妖精族? 何処にその姿が?」

「ナールジアいいわよ」

「はいはい。忘れられてたかと思いましたよ?」

「「「っつ!!?」」」


ガルツの皆からすれば、いきなりナールジアが現れたかと思うだろうが、ずっと透明化の魔術をかけて、待機していたのだ。

部屋は私と一緒にいた。


「ば、馬鹿な!! ここは魔術を行使できない特殊な方法をつかってあるのに!!」

「うーん、確かに行使ができにくくしてはありますが……ほら」


ナールジアがそうやって手を振ると、空中に火球が複数現れる。


「私ぐらいになればさほど問題はありませんよ。ああ、安心してください。普通なら行使はできませんから」


そう言って、火球を消す。


「では、改めまして。ダンジョンで鍛冶代表を務めております。妖精族代表、ナールジアと申します」

「あ、ああ。どうやら、本物の様だな……」

「ええ、その為に今まで隠れていたんですから。私達に敵意が無いのは今のでもご確認できたと思います」


ふふ、予定通りに敵意がないと示せたわね。

妖精族と確信をもったし、これで私達に危害を加えると、妖精族に敵対することにもなる。


「……あの~。ナールジアにいきなり出番を奪われましたが……。ダンジョンで商業代表を務めております。ラッツと申します。ユキさんの側室でもあります」

「ほほう!! ユキ殿も兎人族の女性を妻としておったか!!」


……なに嬉しそうに夫に語り掛けているのかしら?

ガルツ王もそういえばシェーラが兎人族だったわね。


「え、ええ。良き妻ですよ」

「うむうむ、セラリア殿、ルルア殿、シェーラと3人も相手に大丈夫かと思っておったが、他にも側室がおったとはな。わしには及ばないが、見所がある。そちらに夜の秘薬を届けよう。わしに追いつけるかもしれんぞ、せめてあと4・5人はのう……」

「……お父様。少し下世話ですわ」

「……お父上。今は大事な話の途中です」


娘と息子から待ったをかけられる父親。

……でも、その薬はもらおうかしら。

もっと激しくしてもらうのも面白そうだから。


「えーと。とりあえず、今回の訪問で献上品として、今後交易品として使う物も多数いれておりますので、其方からご紹介いたします」


ラッツはそう言って、アイテムボックスから予定されていた品々をとりだし、説明をしていく。

ナールジアも妖精族で作った武具などを紹介していく。


「ほほう。このウィスキーとかいったな。強いが美味い!!」

「ですね。しかし、私はナールジア殿が持ってきてくれたこの剣。セラリア殿と同じ刀? でしたかな、素晴らしい切れ味とエンチャントです」

「セラリア、ずるいぞ!! この防具とか凄い!! こんなのを使い放題とか!!」

「あら、美味しい。シュークリームでしたっけ? 是非とも交易品のトップで入れて欲しいですわね」

「ちょ、なんだ、この白い紙は!? そして、これがペン!? インクが無いのに書ける!? いや、この中にインクが入っているのか? しかし、どうやって……」


どうやら、概ね受け入れられたようだ。


「ふむ、これほどの品とはな。……交易を断る理由はないのう」

「お父様、お待ちください。品物を仕入れるだけでは、こちらが枯渇してしまいます。セラリア様達は私達の国から何を仕入れてくれるので?」

「そうですね。そこの相談もあるんですよ。こっちが便利だからといって、其方に無理やり押し通せば、其方の市場は大混乱になると思いまして」

「…その通りじゃのう。様子を見て、徐々にと言った感じか。こちらからは…小麦がおすすめじゃな。他もあるが、今思いつくのは小麦じゃのう」

「ですね。小麦を第一の交易品として仕入れていただきたいのですが?」

「ええ、よろこんで。こちらだけが得をするなど、交易ではありませんからね。シャール殿が気に入ったシュークリームも小麦が材料ですから、レシピをお教えして、ガルツ独自のシュークリームを開発してはいかがでしょうか?」

「……それは名案ですね。羊皮紙が足りなくなりそう」

「それでしたら、この紙を使ってくださいな」


ラッツが大量にコピー用紙を渡す。


「姉上、ここでの書記は私にお任せを!! ボールペンの使い方は知らぬようですし」

「そうね、おねがいするわ」


それからしばらく、あーだ、こーだとにぎやかに会議をして……。

主に会議をしてたのは、私、ラッツ、ナールジア、ティーク、シャール、ヒギル。

他は持ってきた物を検分して遊んでたわ。

……まったく。



「しかし、ここまでの交易品。万が一盗賊や災害などで失くせば大きな損害になるな」

「そうですね。この品々の価値をしれば、確実に狙ってくる盗賊も増えるでしょう」

「……ロシュールとガルツの道の警備を強化するしか…」

「でも、それで完全に防げるわけではない……」

「……お兄様。もうそれは仕方のない事として、まず仕入れないと話になりません」

「だな、多少の損失は覚悟して、売値を上げて損失分を補うようにするしかないか……」

「ですね。値はあがりますが、どうしようもありません」


三人はそういって、難しい顔をしている。

私にとってはありがたい悩みなんだけどね。


「その悩み解決できますよ。大量に安全に物資を運搬でき、安価で民に物を売る方法が」

「本当ですか!!」

「ええ、ダンジョンの力を借りることになるのですが…よろしいですか?」

「……なるほど、しかし今までの事を見て疑う理由はないと思うのですが。父上どう思われます?」

「わしは問題ないと思うが、当分は様子見という形をとるべきだと思う」

「そうですね。様子見ということで、しばらく使って問題がなければそのまま使うということでよろしいですか?」

「構いません。国を預かる者として当然の判断だと思います。で方法ですが…」


私がそう言って息を止めると。ガルツの面々はどんな答えが出るのか期待してこちらを見る。



「ガルツの地下にダンジョンを作らせていただけませんか? それで直接我がダンジョンとつなぐゲートができます。すでにリテアとは開通。冒険者ギルドには安全と宣言をいただいております」


いい笑顔でそう言ってやった。

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