第92掘:ガルツの反応

ガルツの反応



side:セラリア



夫は難しい顔をしているわね。

無理もないわ。

何処から説明すれば、理解が得られて、こっちに引き入れられるか。

下手な説明なんてすれば、一気にご破算になりかねないものね。


ガルツ王は、私の言葉を聞いてあっさり人を払いをしてくれたけど…そうね、こうしましょうか。


「そうですね。とりあえず、こちらから話そうにも、其方がどれだけ知っているかわからないのです。よろしければ、其方が知っている情報を教えていただければ」

「……失礼ながら、セラリア殿。それはこちらの情報を開示せよと? 流石にそれは承諾できかねる。こちらの手札を晒すようなものだ。シェーラの事は疑っていないが、セラリア殿、ルルア殿はロシュール、リテアの重鎮。まずは其方が話すべきでは?」


シェーラに怒られて本気で泣いてた割には冷静ね。

ま、伊達にローエルの手綱を握ってはいないか……。


「いいえ、そう言う意味ではないのです。そうですね。順にこちらから聞いていきましょう。私が今どちらに赴任…いえ領主をやっているかはご存じで?」

「…それは、エルジュ殿が治めたという、ダンジョンの事ですか?」

「ええ。ここまではシェーラも知っていたように、ご存じの様ですね。では、私がなぜ夫に嫁いだかはご存じで?」

「いえ、それに関してはまったく。寧ろ、今日この日、セラリア殿のご結婚をしったばかりでして」


ふむ、知っていた様子は無しか…。

まあ和解がなった、同盟国の姫のご成婚。

祝辞の言葉を真っ先に送って同盟強化につなげるべきだから、知っているのを隠している理由もないか。

ま、なにか隠していても、こちらとしてはバレて困るような内容ではないし、さっさと話すべきか。


「なるほど、そこからですね。シェーラから聞きましたが、今回の賠償金の出所を探っているとか?」

「……っ!? シェーラが喋ったと?」

「ええ、夫が寝台でしっかりとお聞きなりました」

「セラリア様!?」


シェーラが顔を真っ赤にしている。

可愛らしいけど、向こうからすれば貴女、完全な裏切り行為よ?


「シェーラ、一体どういう事だ。これでは、ロシュールとの関係にヒビが入りかねない。それが分からないわけではないだろう?」

「ち、違うんです。り、理由がありまして……」

「ええ、理由があります。ですので、夫の大事な側室をいじめないでくださいな。話を戻しますが、つまり、私の結婚と賠償金の出所、これで少しは察しがつくのでは?」

「……セラリア殿が、賠償金をなんとかしたと? あの額を? あり得ない。しかもそれを教えようとしている。貴女の意図がさっぱりわからない。それではロシュールに益がない」

「無論、私が求めるのは夫の益のみ」


私がそれをきっぱり言い切ると、周りが静かになる。

それもそのはず、この宣言は……


「……セラリア殿。祖国に剣を向けるつもりか?」


ガルツ王が真剣にこちらを見つめて言う。

そう、これはロシュールに属さぬと宣言してるようなもの。

それが目的だけどね。


「まあ、それだけではないんですが。これ以上下手にロシュールを探られると、とんでもない大蛇が出てきますので、もう直接ガルツ王に話して、探りの手を止めてもらおうというわけです。これは、公式ではありませんが我が父からの頼みでもあります」

「……なるほどな。下手に知られるとまずいから、もう欲する人に情報を渡し下手な真実の拡散を防ごうというわけか」

「その通りです」

「あい、わかった。話を続けてくれ」

「では、時に私の妹…エルジュの事は……」


私がそう言い切る前に、ローエルが立ち上がった。


「言わなくていい!! セラリア、お前がどれだけ辛かったか!! 私とセラリアが手を結んだ今、立ち塞がる魔王なぞ刈り取り。……お前の…妹に…」


ローエルもエルジュにはよくしてくれた。

彼女も今回件は色々思うところがあったのだろう。

自分で言わなくていいと言いながら、涙目になっている。


「ありがとう、ローエル。でもここが今回の中心でもあるのよ」

「…ぐすっ。どういうことだ?」


私は一呼吸置いて、皆の視線が集まるのを待って……


「魔王の策謀に両国の削りあい、エルジュ謀殺の件。……真実はリテアが仕組んだことよ」

「「「なっ!?」」」


ガルツの面々は目を白黒させている。

まあ、魔王の仕業と思っていたら、第三国が裏で色々していましたーって言われるとね。


「ご存じでしたか? エルジュが聖女と呼ばれると同時に、リテアの内政が不安定になっていたのを?」

「……多少はな、しかし…むう。エルジュ殿はリテア聖国にとっては邪魔であったか…」

「ば、馬鹿を言うな!! ふざけるな!! 自国の不安を抑えられないからってエルジュに手を出したのか!!」

「……ねぇさん落ち着いて。気持ちは分かる。だけど、少し下策ではあるけど効果的な解決方法だよ」

「ヒギル!! お前!! セラリアの前で!! しかもだ、その話を聞けば、戦争になったのはリテアのせいだぞ!! 我が国の民がどれだけ血を流し、友を、恋人を、家族を失ったと思ってる!!」

「わかってる!! でも、ここでそんな事を言ってどうするんだよ!! これからどうするつもりなんだよ!!」

「そんな事は分かり切ってる!! すぐさまロシュールと組んで、リテアを叩き潰す!! そうしなければ、エルジュが、死んでいった人たちが…!!」


ローエルとヒギルが言い合いを始める。

王族だけでこれなのだ、下手に情報が拡散すればとんでもないことになる。


「静まれいっ!!」

「「っつ!?」」


ガルツ王が一喝でローエルとヒギルの言い合いを止める。

へぇ、クソ親父に負けず劣らずって感じね。


「……セラリア殿。お父上は断腸の思いで、落としどころを作ったのだな」

「はい」


エルジュ生きてますけどね。


「落としどころ?」

「…ローエル。流石にもう少し勉強せい。もう、これ以上争いを広げる理由はいらんと、ロシュール王は判断したのだ」

「どうしてですか!! 娘が殺されて!! なぜ!!」

「……だからかもしれぬ。これ以上戦えば、確実にロシュールもガルツもリテアも疲弊する。そして、それで一番被害を被るのは民だ」

「……」

「ローエル。お前の気持ちも分かる。お前もエルジュ殿を自分の妹の様に可愛がっておったのをしっておる。だが、ここで三国が争い、疲弊したところに本当に魔王の軍が迫ればどうなる?」

「それは……」

「苦戦は必至。三国とも疲弊しきっておる。だから、ロシュール王はこの落としどころを用意した。これ以上争わなくてよいように。これ以上、民が、自分の娘が傷つかなくて済むように……。英断、見事だ」

「くそっ、くそうっ!! こ、こんなふざけた理由で……エルジュが、ロシュールとガルツの民が……」


流石、私の友といったところかしら、まだ納得がいってないみたいね。

でも、そんな所がとても嬉しく思えるわ。


「……そして、私が捻出した賠償金ですが…」

「……リテアからか?」

「はい、流石に踊らされたままではこちらも矛の収めようがありません。ですので、私が直談判してまいりました」

「直談判のう。あちらはさぞや肝が冷えただろう」

「ええ、ですからあの額になったわけです」

「……聞きにくいが、セラリア殿はそれでよかったのか?」

「……エルジュは争いを好みません。あの争乱でさえ、常に治療を行い、各地を転々としておりました。それを…ただ、憎いだけで、争いを広げてはエルジュが悲しみます」

「…だそうだ。実の姉がこうも納得…はしておらんが耐えておる。姉の一人であるローエルはどうする?」

「……わかりました。エルジュがそれを望んでいるのなら…。すまん、セラリア」

「いいのよ。ローエルの気持ちはとても嬉しいから」


ローエルが涙をハンカチでぬぐって、顔を上げたのを確認して会話を続ける。


「ということです。この真実が下手に広まれば……」

「……リテアとの全面戦争に突入するな。国民を抑えきれぬ。この事は決して口外しないことを誓おう。皆よいな?」

「「「はい」」」


全員この話がどれだけまずいか理解し、ちゃんと頷く。


「シェーラのおかげで、要らぬ藪を突かなくてすんだ。感謝するぞ」

「いえ、これも王族の務めです」

「うむ」


シェーラをガルツ王がほめて少し和んでいるがそれも続かない。


「…で、その悪巧みをしたリテアの聖女殿がなぜ、セラリア殿と同じ夫に嫁ぐことに?」


ヒギルが嫌なものを見る目でルルアを見つめる。

仕方ない事か、彼女一人に責任がないとはいえ、彼女がリテアのトップであったのは間違いではないのだ。


「それは私自身から、説明させていただきたいのですが、よろしいですか?」

「私は構わないわよ」

「……ふむ。セラリア殿がそう言うならいいだろう」

「感謝いたします」


ルルアはそうお礼を述べて話し始める。


「まず最初に、これから話す事は事実だけです。私は自分の事を弁解したりはしません。どう考えても、今回の件は私に責任の一端があることは間違いありません。私を糾弾したい方もいるでしょうが、どうか最後まで話を聞いてからにしていただきたい」


こっちも流石リテアのトップだけあるか。

クソ親父やガルツ王までとはいかないが、しっかり空気に威圧が生まれている。


ここから先は、私達がルルアに聞いた通り。

エルジュの暗殺を知って止めに行ったが間に合わず、そのまま帰国。

その帰国途中で暗殺されそうになり、私がいるダンジョンに逃げ込んで一命を得た。

それから、ダンジョンを発ち。リテアを立て直すため舞い戻った。

結局、今回のリテアの暗躍は強硬派がリテアの政権を欲していたために起こった事件だということ。

今回のお詫びとして、リテア側から強硬派の資金を全てセラリアに譲渡。

ルルアは聖女の座を降り、実質人質として側室に入ったということ。


うん、モノの見事に、立役者であるユキが入ってないわね。

だけど説明ができる不思議。

自慢したいのに、できないジレンマ。


「……ルルア殿も大変だったな。国の長としてはアレだが、最後まで、いや、今も尽力しているその姿勢に私は敬意を表する」

「……先ほどの失礼な態度。まことに申し訳ありませんでした」


ガルツ王は褒め。ヒギルは先ほどの態度を謝罪する。


「ローエル、貴女はいいの?」

「……私だってルルア殿がエルジュ殿の師と知っているさ。手紙にいつも書いてあった名前だ。その手紙通りの人物だ。私がいう事はない」

「…そう」


そうやって、皆一息つく。

そりゃ結構な長い話だったから、一息つきたくなるわ。


「と、すいません。賠償金や今回の争乱の真実はわかりました。しかし、その…ユキ殿はなぜ、セラリア殿やルルア殿の夫に?」


ティークがそうやって聞いてくる。

相変わらず細かいところに気が付くわね。

でも、それを待っていたのよ!!


「それは簡単です。この争乱をこの範囲で止めたのは、まさに夫の手柄というわけです」

「ほう? まことか?」

「はい。今回の落としどころ、英断したのは父上ですが、それを提案したのは我が夫です。そして、リテアが手引きしていて、ロシュール国内は敵だらけでした。毒殺されそうになった私を救い、暗殺をされそうになった父上、姉上を救ったのもまた我が夫です」

「それは、まさに英雄と言って過言ではないな」

「そうでしょう。しかし、我が夫はそれだけにとどまりません。ねえルルア?」

「はい、旦那様は怪我をした私を癒し。失意のどん底にいた私に、再びリテアに舞い戻る決意をくださり、更にそのまま私を護衛してリテアの復権を手伝ってくださいました。強硬派が抑えられたのも、旦那様のおかげです」

「ふっ、ふははははっ!! なんという、なんという英傑か!! 見事、実に見事だ!! しかし、その手柄に対して、あまりに名が広まっていないのは……」

「ええ、公にいえる事件ではありません。そうですね、私と父上、姉上を魔王の魔手から救ったぐらいしか、名がでておりません」

「じゃろうな。だが、相応しい。これ以上にないぐらい相応しい夫だな。セラリア殿。ルルア殿」

「ええ」

「はい」


私達は何もためらいなく、返事をする。

ユキ以上に私達に相応しい夫はいないわ。

それを、これから更に教えてあげましょう。



これからが、本番なのだから。

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