第91掘:まずはご挨拶

まずはご挨拶



side:シェーラ



「まったく!! お兄様なんて事をしてくれたんですか!! いくらお兄様とはいえ、許せるものではありませんよ!!」


私は今までにないぐらい怒っていた。

だって、ユキ様に魔術や矢を撃てと命じて、本当に撃ってきたのですから。

まあ、迎撃自体は私とカヤさんがあっさりしたので事なきを得ました。

これがドッペルでなく、本物のユキ様だとしたらと思うと背筋が凍ります。


「あ、あの、シェーラ。そ、そこら辺で許してくれないか? ヒギルもお前を心配して……」

「お姉様もです!! セラリア様が止めに入ったというのに、そのまま競い合いを始めるなんて!! まずは頭を垂れて謝罪をするべきでしょう!!」

「う、うぐっ……」


因みにユキ様に暴行を働こうとした、この馬鹿姉、馬鹿兄は、現在、応接室で正座をさせています。

無論、私の指示で。


「シェーラ、落ちつきなさい。私も楽しめたし、夫も無事。ただの余興で済ませられるわ」

「セラリア様、しかしっ…!!」

「ほ、ほらセラリアもこういってるし、な?」

「お姉様は黙っててください!! 今お姉様に発言権はありません!!」

「ひぃ!?」

「お父様、大兄様はどうなさるおつもりですか!!」


そうやって私は、何とも言えない表情をしている、我が国の王であり父、そして、次代のガルツを率いていく兄に問いかける。

傍ではセラリア様がローエルお姉様と何やら話している。


「ローエル、貴女の妹しっかりしてるのね」

「ううう、セラリア、助けてー。幼馴染だろ~」

「そうなんだけど、今回は普通に考えて貴女が悪いしね。私からだと、精々処罰が軽くなるよう言伝するだけよ」

「しょ、処罰…。いったいどんな……」

「まあ、首が飛ぶことはないでしょうけど、一応、妹婿に暴行を加えようとしたんだから、何も無しじゃ無理でしょう。多分、三月ぐらい訓練無しの王女様活動ってところじゃないかしら?」

「な、私から盾と剣を奪ったら何が残るというんだ!!」

「それが問題なのよ。いい機会だから、頭の方も鍛えなさいな」

「む、無理だ。セラリアだってそうだろう? 剣振ってた方が気楽だろ?」

「そりゃね。でも私も一応軍部を預かっているし、そっちみたいに参謀…はいないからね。全部私が処理よ?」

「……うあぁあぁぁぁ」


いい気味です。

しばらく打ちひしがれててください。


「で、何かお言葉ないのですか?」

「お、落ち着け。話せばわかる」


お父様は私が本気で怒っているのがわかるのか、後ずさります。


「話せばわかる? そこのお姉様とお兄様は会話も無しに襲い掛かってきましたが?」

「そ、それは、シェーラの頭を鷲頭掴みにして暴行を…!!」

「頭を撫でてもらっていただけですよ、お兄様。夫婦として仲睦まじい時間をよくもぶち壊しにしてくれやがりましたね?」


酷い言い訳ばかりする、ヒギル兄様がとても醜い生き物に見えてきました。


「この、屑兄」


私がその言葉を発するとしばし沈黙が続き……


「うわぁっぁぁぁ……!! 僕はもう生きていけない!!」


いつの間にかヒギル兄様はナイフを取り出し、自分の首へ……。


「ええい、落ち着きなさい!! シェーラの冗談だから。ね? ねっ!!」


シャールお姉様がナイフを握る手を必死で止めつつ私に言ってきます。

あれ、結構まずい事を言ってしまいましたか?


「え、ええ。冗談です。ですが、それほど反省していただきたいのです」

「ごめんなさい!! 反省しています!! どうか嫌いにならないでくれ!!」


ヒギル兄様は引くぐらい必死に頭を何度も下げていました。


「……今回の件はこちらの落ち度だ。シェーラすまない。そして、シェーラの婿殿、そしてセラリア殿、ルルア殿、お付きの方々、この場で深く謝罪いたします」


大兄様はそう言って深々と頭を下げます。


「父上も頭を下げたいのだが、なにぶん王という身分。どうか私が頭を下げることで、王の謝罪も含めると容赦していただきたい。処罰に関しては、しっかり検討の後、其方にも確認をいただき実行をいたします」


……大兄様、少しやつれましたか?

これは少し言い過ぎたでしょうか? 

主に大兄様に対して、他は関係ありません。


「…ごめんなさい。ちょっと、これから自己紹介もアレですから、お部屋を用意します。後でお食事でもしながらゆっくりお話しを、ということでよろしいでしょうか?」


シャールお姉様がなんとか場を収束しようと額に汗を流している。


「私は構わないわ」

「私も構いませんよ? シェーラ様はどうですか?」

「……ここで文句を言っても、もう仕方がありませんね。シャールお姉様の言う通りにしましょう」

「ありがとうシェーラ。客室はわかるわね? ちょっと今、これだから、部屋の割り振りとか侍女を好きに使って頂戴」

「…はい、わかりました」




「本当に、申し訳ありませんでした」


シェーラがまず一つの部屋に案内して頭を思いっきり下げる。

まあ、あんな事があれば俺でも青ざめるわな。


「気にするなって言っても気にするんだろうけど、俺は大丈夫だから。そうだな、これで交渉がしやすくなったりするだろ?」

「……そんなことでよろしいのですか?」

「そりゃ、俺にとっても大事な家族だからな。こんな事で不和を招いてもシェーラが悲しいだろ?」

「あ、ありがとうごじゃいます!!」

「よしよし」

「これで、ユキ様に…嫌われたら……と、思うと…ひっく、えぐ」


あーあー、泣きだしちゃった。


「みんなもそれでいいか?」

「お兄さんが被害受けたんですし、お兄さんがいいならいいですよ」

「…問題ない」

「私はもう、ローエルと話はついているしね」

「私も問題はありませんよ」

「私は一応警護という点から文句はありますが、まあいいでしょう」

「俺はギルドマスターだからな。どうこう言う権利はねーよ」


そう言うと、キルエも感謝の言葉を言う。


「皆様の寛大なお心に感謝いたします。少々お待ちください、もうすぐ飲み物がきますので……」


それから、飲み物が届いて、しばらくシェーラにガルツの特産や思い出話をきいて時間をつぶした。



「……と、そんな事がありまして」

「へえ、そんなことがねえ」

「いい話じゃない」

「ええ、とてもいい話ですね」


部屋割りも決まって、俺、シェーラ、セラリア、ルルアが同室(キルエ付き)。

ラッツ、カヤ、クアルが同室でロックさんが一人。まあ仕方ないよな。

荷物も大方出して、まあアイテムボックスがあるからそこまで不便じゃないからな。

のんびりシェーラやセラリア、ルルアを抱き枕代わりにして話していると……。


「お待たせいたしました。国王様、並びに王子様、王女様がお待ちです。こちらにどうぞ」


その言葉に従って、皆で会食に赴く。

そこで出された料理はさすがと言うべきで、しっかり美味しかった。

みんな料理を堪能して落ち着いていると、一緒に食事をしていた王様が口を開く。


「どうだったかな、ガルツの味は?」

「ええ、とても美味しくいただかせていただきました」

「久々にこの味を食べれてよかったわ。まさか戦争状態になるとは思わなかったし」

「そうだな、私も思わなかったよ」


お互いに軽い雑談に花を咲かせる。


「食事も済んだ。さて、改めて紹介させていただこう。私がこのガルツの王。ガルツ9世である」


そういって王様は威厳たっぷりに自己紹介をする。

種族は人族。

体はがっしりとしていて、超重量級って感じだ。


「私はガルツ第一王子のティークといいます」


次にイケメンの金髪。

だが、なぜか俺と同じ苦労をしている感じがする。

なんでだ?


「先ほどはご迷惑をおかけした。私がガルツ第二王女のローエルだ。もう知ってると思うがセラリア姫とは旧知の仲でな。今回の出会いは嬉しく思う」


この金髪の狼人族が、先ほど俺を襲ってきた一人でセラリアにいなされたお姫様。

なんというか、セラリアよりも脳筋なきがする。

スタイルはセラリアよりもいいのにな。


「お姉様、弟がご迷惑をおかけしたしました。私がガルツ第三王女のシャールと申します」


同じく金髪ではあるが、また種族が違うな、エルフ族か?

けどエリスみたいに胸がバインバインの女性だ。


「……第四王子のヒギルです。まことに申し訳ございませんでした」


眼鏡をかけた知性溢れる金髪イケメンはそう言って頭を下げる。

この王子が俺に魔術、矢を射掛けよと命じた本人。

まあ、随分絞られたようで、可哀想に……。


「すまんが、第5、第6の王子たちは今魔物の討伐に赴いていての、間に合うかわからぬ」

「いえ、こちらこそ突然の訪問で申し訳ない。と、こちらも紹介させて頂きます」


そう言って、俺は立ち上がり礼をする。


「私がシェーラの夫となったユキと言います。侯爵の位をいただいております」

「そして私の夫でもあるわ。シェーラは側室ということになるわ」

「ちょっ!? セラリア結婚したのか!?」

「ええ、そうよ」

「裏切りものー!!」


そうやってローエルとセラリアが仲良くじゃれていると王様が話しかけてくる。


「なるほどな。セラリア殿を妻として迎え入れる程の人物であったか、シェーラも安心して預けられるな」

「はい、お父様」

「して、なぜリテアのルルア殿がいらっしゃるのか?」

「ああ、申し訳ありません。私もこの度ユキさんの側室となりまして…」


それで空気が固まる。


「な、なんと。聖女のルルア殿が嫁いだと?」

「いえ、もう聖女はアルシュテール様にお任せしていて、今では旦那様を支える妻の一人です」

「ちょ、ちょっとまってください。セラリア様、ルルア様、つまりロシュール、リテアのお二人の夫がシェーラの嫁いだ夫だと?」

「はい、その通りです」


シャールさんはルルアの返答に口をあんぐり開けて驚いてる。

仕方ないよな、俺をどこから見ても、そんな大人物には見えないもんな。


「……はっ、すいません。少々驚いてしまって、よろしければセラリア殿やルルア殿がどういった経緯で、そのユキ侯爵に嫁ぐことになったのか聞いてもよろしいですか?」


長男のティークさんが、なんとか再起動して一番俺達が話したいことを聞いてくる。

この人、すごいわ。こんな大混乱な状況でもしっかり次へ進めようとする。

次期王様ってのは納得だわ。


「いいですよ。しかし、少々人払いをお願いいたします」


セラリアがにこやかに、そう言う。


「あいわかった」


王様のそのセラリアの態度を察したのかあっさり、人を遠ざける。



さて、どこから話したモノか……。

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