第90掘:堅牢の国

堅牢の国



side:ローエル   ガルツ第二王女



今、城は大騒ぎだ。

なんと、ロシュールへ嫁へと出したシェーラがこちらに用があって戻ってくるとの事。

しかし、まだ一月も経っていないのにだ。


早馬で届けられた情報は……


「お久しぶりです。お兄様、お姉様、お母様、そしてお父様。私は今元気にやっております。時に、少しご相談したいことがあり、夫と共にそちらを訪ねる予定です。どうか、夫に失礼の無いようお願いいたします」


この手紙だけ。

幾分情報が不足している。

シェーラが嫁いだ相手がロシュールで暗躍する魔王の配下を暴いた者だというのは聞いている。

が、それだけだ、その者がどの様な経緯を持つか、身分は?

その他諸々不明の状況。


「どう思う?」


会議場で父、ガルツ王がそう息子や娘、重鎮達に尋ねる。


「……普通に考えるのでれば、送り返されてきたが妥当です」


そう答えるのは第4王子で参謀を務める、ヒギル。

実はシェーラを送る案を出したのがこのヒギルだ。

送る者の安全や向こうで無下に扱われないために、わざとシェーラを送り出したのだ。

頭でっかちで勘違いされがちだが、このヒギルはしっかりと家族を大事にすることで身内では有名。

特に一番下のシェーラには、毎月何かしらプレゼントを自分の給料からせっせと贈るくらいだ。

なのに、普段は冷たくしてるから、なんというか不器用な弟だ。


「普通な…。ヒギルは違うと思うのか?」

「はい。まずは、これがロシュール本国の意図ではない可能性が非常に高いです」

「なぜだ?」


私は不思議に思って聞き返す。

だって、シェーラ…他国のお姫様を送り返すという無礼を働くのだ、これは後ろめたい事があってのこと。

これをロシュール本国を介さずに戻せば、その英雄だかなんだか知らないが、今までの名誉を失うどころか、処刑される可能性すらある。


「……ねぇさん少しは考えようよ。いえ、ローエル様にわかりやすく説明いたしましょう。これをロシュール本国の意思で送り返したとすれば、何か隠したい事があると言っているようなものです。これはわかりますね?」

「ああ」

「だから変なんですよ。わざわざこちらに隠し事がありますよーって言っているものです。同盟に亀裂が入っても可笑しくない行為です」


なるほど、確かに私でもそう勘ぐった。


「ロシュール側の対応としてはお粗末すぎます。今まで真っ先に頭を下げ賠償金を支払ってきた経緯を考えると、まずありえないと言えるでしょう」

「ふむ。ヒギルの言う通りじゃな」

「そして、シェーラが嫁いでまだ一カ月とちょっと、この短期間で送り返すなど他国に対しても外聞が非常に悪いです。ですから、これはシェーラの夫かシェーラ自身が望んでこちらに来ている。しかも本国に話を通さずにです」


ふむ、そういわれるとそうかもな。


「あ、普通に夫に自分の国を見せたいのでは?」


私が思い付きでそう言うと、ヒギルや王は目が点になっていた。


「ま、まあ、その可能性もないことはないな……」

「……父上、こうビシッと言ってくださいよ」

「……なにを言うとるか、お前の姉だぞ、今説明してるのはお前だろうに」

「……こういう事でこっちに回さないでくださいよ。大体、ねぇさんの教育をしたのは……」


なにか二人がこそこそ話し合っている。

変な事でも言ったか?


「…こほん。ローエルの言う通りその可能性もある。それなら何も心配は要らない。だが、この会議は何か問題があればどうする? と言った話だ、まずは問題があると前提で考えるべきだろう」

「おお、なるほど。その通りですお兄様。流石ガルツを継ぐ器です」

「……ああ、ありがとう」


少しお疲れの様子だ。

やはり国を支えるのは大変だということか、私達兄弟がしっかり兄を支えねば。


「よし、よくやった」

「流石兄上」

「……父上、ヒギル、後で書類半分やれよ」

「「そんな!!」」


何を手伝うのを嫌がっているのか私にはわからん。

さっきの兄上のお疲れの様子を見ていなかったのか?


「そうね、実際どんな問題があるかは聞いてみないと分からないけど。区分はつけておいた方がよさそうね」

「区分?」


私に説明を始めたのは第三王女のシャール。

国では主に内政を担当している。


「そうよ、お姉様。即時対応できるようにしておこうって事。たとえば、さっき言ってきたようにシェーラを送り返すのであれば、抗議文を送りつけて、ロシュール王都に調査に向かう方向へ。あとは、シェーラが何かしら情報を掴んで早速戻ってきたか、この場合はシェーラがこの短期間で戻ることを希望したことを考えると、とても重要な情報よ。あの子は馬鹿じゃないわ、それは私達が一番よく知っているでしょう」

「ああ、シェーラはとても賢い子だ」

「最後に……シェーラの夫が馬鹿で、色々こっちに便宜を図ってもらおうとするパターンね。シェーラという王女を娶ったことで気が大きくなって、なんでもできると思い込んで、シェーラに頼みこんで連れてきてもらったか。この場合は即座にシェーラを保護するわ。シェーラが無理やり頷いたと考えると、暴行を受けている可能性もあるわ」

「それは許せないな」


シェーラに暴行するなぞ、もっての外だ。

その場で首を刎ねてやる。


そうやって、方針を考えていると、会議室の扉をこじ開け、慌てた様子で親衛隊が駆け込んでくる。


「何があった?」


兄上は、極めて落ち着いて話を聞こうとする。

素晴らしい、私だったら、声を上げて聞き返していたと思う。


「も、申し上げます。王都入口に、馬を付けていない馬車が二台停泊。その馬車は殆どが鉄でできており、不審極まりないので、調査しようとしたところ、中にはシェーラ様、キルエ様が乗っておられました!!」

「「「は!?」」」


流石に全員が大声を上げた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。このシェーラの手紙が届いたのはいつだ?」

「ねぇさん落ち着いて。確か昨日だよ」

「……早馬できたのよね?」

「ああ、それはこちらで確認した。別に遅い馬でもない。いたって普通の早馬だ」

「どいうことだ?」

「……考えたくはないけど、ロシュールには早馬に匹敵する馬車があるということかな」

「そんな馬鹿な!! この前の争乱では普通の馬車だったぞ!!」

「落ち着いて、お姉様。…シェーラとキルエというのは間違いないのね?」


私を宥めてくれたシャールが再度兵士に確認を取る。


「はい、見間違いといいたいですが、私だけではなく、隊長も他の仲間もシェーラ様だと言っていました」

「……それは疑いようがないわね。今その馬車とシェーラ達は?」

「はっ、現在通行の邪魔になるので、外の警備駐屯所へお越しいただいております」

「お兄様、どうしますか?」


シャールがそう兄上に指示を仰ぐと、兄上は少し考えて……


「そうだな、このままでは無礼だ。しかし、得体のしれない馬車の件もある。ローエル、ヒギルが兵を率いて出迎えに行ってくれ。万が一の時は自分の身を優先しろ。いいな?」

「「はい」」

「父上、よろしいですか?」

「うむ、もう立派に王の器じゃ。もうかわってよいぞ?」

「いえ、まだまだ私は若輩者です。二人とも気を付けてな」


私とヒギルはその言葉を受けて即座に会議室を飛び出す。


「ヒギル、編成はどうする?」

「そうだね。時間はかけられないから、いま城にいる親衛隊を40人程引き連れていけばいいんじゃないかな? 武装に関しては、魔術が5、弓が5、盾が10、近接が20で」

「近接の武装は指定しないのか?」

「今は少しでも急がないといけないからね。親衛隊なら、自分たちの武器で戦えばそうそう遅れはとらないでしょう」

「それもそうか……」


そう言って私達はシェーラを迎えに出るのであった。




side:ユキ



「はぁ~、なるほど。堅牢とはよく言ったものだ」


俺は目の前にそびえる分厚い城壁を見つめる。


「どうです。すごいでしょう? ドラゴンの攻撃だって耐えられる設計なんです」


シェーラは嬉しそうに説明をしてくれる。


あれから3日、予定通りの行程で無事ガルツ王都についた。

今回はダンジョンの説明や利便性をしっかり伝えなければいけないので、マローダーを途中下車しなくて済んだ分早かった。


「しかし、マローダーで王都に寄ったのは拙かったか?」

「うーん、それはどうでしょう? しっかりこちらの重要性を知ってほしいですし、これは仕方のない事かと」


ラッツはそういって、マローダーを見る。

マローダーを厳重に兵士が取り囲んでおり、俺達がマローダーに近寄れる雰囲気ではない。


「まあ、普通鉄の馬車が馬なしで来ればどこでも同じ反応するわ」

「そうですねー。実際、あの車は物騒ですから」


セラリアとルルアがそうコメントする。

ルルアに対して言いたいが、トロールを轢いたのは人命の為だ。

そう、トロールが悪い。


「も、申し訳ございません!! 今知り合いの兵士に事情を説明してまいりました。今しばらくお待ちください!!」


キルエが心底申し訳なさそうに頭を下げている。


「キルエ、謝らなくていいわよ。寧ろこの対応は兵士として合格よ。得体のしれない物を入れない。評価できるわ」

「そうですね。私達は別に気にしていませんので、大丈夫ですよ」


当然だよな、いくらお偉いさんだとはいえ、こんな得体のしれない物に乗ってりゃ警戒する。


「ユキ様、交渉が終わったら少し付き合ってくださいませんか?」

「ん、どこか行きたいところでも?」

「はい、王城の中で私とお姉様しか知らない綺麗な場所があるんです。是非、見ていただきたくて」

「そうか、それは楽しみだな」

「あっ」


そう言って俺はシェーラの頭を撫でる。

シェーラも嬉しいのか目を細めて、大人しく撫でられる。


すると、地響きが聞こえてきて……



「うおぉぉぉおぉおおお!! シェーラ大丈夫か!! そこの男覚悟しろーーーー!!」

「シェーラ!! お兄ちゃんがやって来たぞ!! 魔術兵、弓兵!! あの男を狙い撃て!! シェーラに手を上げる不届きものだ!!!」



おいおい……

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