第56掘:酷い違和感

酷い違和感



side:ルルア



今私はちゃんと、笑顔を作れているでしょうか?

引き攣った顔をしていないでしょうか?

そこが一番問題です。


え、何の話かって?


「ありがとうございます!! まさか、聖女様に救われるとは!! お亡くなりになっていたわけではないのですね!! どうか、このご恩を返させていただきたい!! よろしければ、僕をリテアに戻るまで護衛としてお使いください!!」

「私達の不詳の弟子を救っていただき、感謝の念に堪えません。弟子一人では不安でしょう。なれば私達も護衛にお加えくださいますよう。お願いいたします。これでも、名の通った冒険者であります。聞けば、色々と込み入った様子。少しでも人手がほしいのであれば、私達をお使いください」


そう言って、ユキさんと、カースさんが予定通りに頭を下げる。

モーブさんとライヤさんは黙って膝をついて、頭を垂れるだけ。

違和感しかない。違和感しかありませんよ!?


でも、この違和感は当然、私達にしかわからないので…。


「ルルア様、この者達はある意味。今回の件とは絶対関わりがありません。なので、人手が足りない事実を使い、ルルア様の護衛はこの者たちに任せるのが、一番よいのでは?」


当代聖女アルシュテールは、名案とばかりに、ユキさん達を護衛に押してくる。

ええ、アルシュテール様。貴女の言うように、現在、誰が敵で味方かわからない今、関係ないとわかる、この冒険者を手駒に加えるのは妙手でしょう。

ありがたい事に、アルシュテール様は私から進言せず、この事実に気が付いて、ユキさん達を手駒として加えようと言ってくれた。


……予定通りなんですよ、アルシュテール様?

そこの、ユキさんとカースさんの描いた予想通り……。


「そう、ですね。アルシュテール様の言う通りです。よろしければ、道中などではなく、ある程度事が済むまで護衛として雇いたいのですがどうでしょう?」

「雇うなどと……」

「待つんだ、私達も貯えが多い訳ではない。ルルア様のご厚意にあずかろうではないか」

「しかし……」

「私達が空腹で、護衛ができないほうが問題だとは思わないか?」

「……」


……ああ、その芝居やめてください。

なにをどうやれば、ユキさんが、沈黙するような状況が出来上がるのですか!?

あの人は、傍若無人。空気なんぞ読みません。ただ、己が道を行くのです。


「当代のリテア聖女。このアルシュテールが、貴方方を護衛として雇いましょう。そこのカース殿の言う通り、いざという時、動けないのでは、護衛をつける意味などないのです。ユキと申しましたね? 貴方の志はとても心地のよい物、それは、今の状況ではとても心強い。なれば、恩を返すと思うのであれば、この話を受けていただきたい」

「はい、当代聖女様にそう言われては、否もありません!! 喜んで護衛の任を仕事として受けさせていただきます!!」


ユキさんは嬉しそうに、アルシュテール様にお礼を言う。

……ああ、気絶しそう。


「ルルア様、彼等を巻き込むのを、心苦しく思うのは分かりますが、この状況を打破するには、多くの手が必要です。どうか納得を…」

「…いえ、アルシュテール様の言う通りです。ここまできて、今更無血で済むとは思っておりません。彼等は、ある意味信用できます。いい手札になってくれるでしょう」

「はい、彼等が冒険者であるのが幸いです。どう考えても強硬派と繋がってる理由がない、ルルア様に襲い掛からなかった事実もありますし。彼等の使い方如何で、我らも有利に動けることでしょう。ルルア様の言う通り、良い手札です」


アルシュテール様、いい手札どころか、彼等……ユキさんは、止めの一撃になると思います。

彼女と今後の予定をつめながら、この状況が始まる前の事を思い出していた……。




「ういーす。帰ってきたぞ」

「ただいま戻りました」


私達が、現在借りている宿にモーブさんとキユさんが戻ってきます。


「ここに来て、一日だが、予定通りクエストは終わったな」

「どうだ、キユ。手加減云々は分かったか?」

「いやー、なんとかって感じですね。どうでしょうか、新人に見えますかね?」


キユさんはそう言って、不自然に剣を持つ。

今まで、堂々と持っていた時とは違う、まだ慣れていないような持ち方。


「う~ん、少し違和感があるが、キユの背格好なら新人ってみられるんじゃないか?」

「ですね。まあ、中身はこの中で一番凶悪ですが」

「しかし、新人訓練じゃなくて、新人に見せる為の訓練とか、まあ変なことしてるよな俺達も」


そう、キユを新人に見せる為の訓練をしてきたのです。

その過程で、クエストを消化するという。

討伐対象の魔物には迷惑な話でしょう。


「キユさん、ユキさん達とは?」

「ダンジョンの方で問題が起きたそうで、対処に時間がかかっているそうですよ」

「問題ですか…」

「あんまり心配しなくても大丈夫ですよ。問題と言っても、侵入者がきて捕らえて、訓練予定がずれたくらいです。明日はこちらにきて、詳細を詰めるようです。しかし、思ったよりも私達が早く着きすぎましたね」

「早馬で4日の所を半日だからな、おかげで、その場しのぎではなく、演出もたてやすい。キユのおかげで、相手の位置も分かってるからな」

「あの速度なら、早くて明後日の昼頃でしょうね。団体となると、移動速度はガクンと落ちますから、私達とは違って車もないですし」


車のおかげで私達は、思いのほか早くこの村に到着して、詳細を詰めて行動を起こせる余裕があります。

まったく、ユキさんは色々と違うところを歩いているような人ですね…。


「カースさん、その演出というのはどうするつもりですか?」

「そうですね。ユキと話は詰めないといけませんが、大まかな所は変わらないので、皆に説明しときましょう」


カースさんの言葉に、私達は集まります。


「まず、今回の目標を確認しましょう。全体ではなく、この村での目標ですね。そうですね、コヴィルわかるかい?」

「んー、ルルアをアルシュテールって人と合わせるんでしょ?」

「そうだ。だが、アルシュテールの周りには護衛がいる。そこには強硬派のメンバーも確実に加わっている。下手にルルア様が顔をだせば、アルシュテールに気が付かれるまでに、押し込まれてしまう。それを何とかしないといけない」

「でも、その為の私なんでしょう?」

「ああ。でも、一々戦闘になる必要もない。だからこちらで一芝居打つ。キユがクエスト途中で大けがを負ってしまうとして、それを俺達が担いで、村に戻ってくる。当然その時にはアルシュテールが村について検分をしているが、まあ、タイミングは村に入ってすぐか、ルルア様の墓の地点かだな。そこでこう叫ぶんだ「だれか、仲間を助けてください!!」ってな、アルシュテールがどう動こうが、それより先にルルア様がやってきて、回復魔術でキユを救うんだ。ある程度、回復魔術が使えるものなら、見ただけで、どの術を発動したかはわかるだろう、ルルア様?」

「はい、エクストラヒールなどは、とてもわかりやすい回復魔術ですね」

「じゃ、その回復魔術をつかえば、周りは一角の人物だと分かる。それを見たアルシュテールはルルア様に面会を求めるだろう。そこで、コヴィルが出てきて、こういうんだ「早くリテアに戻らないといけないのに、お人よしなんだから!!」と、そういえば、妖精族に強制ではなく、協力してもらっているとアピールもできる。それからはルルア様の交渉次第だが、それによっては、俺達はそのままルルア様の護衛として雇う流れになれば、なお上出来だ」

「なるほど、その過程で私は生きていたと周りに宣伝できる上に、アルシュテール様の御墨付ももらえる。こそこそ下手に面会を求めるより、表向かって生きていると宣言すれば、暗殺はしにくくなるのですね?」

「そういうことです。コヴィルもいますから、もう下手に暗殺などという手段は取れないでしょう」

「んー、よくわからないけど、そうすれば、みんな一緒にルルアを苛めた奴をぶっ飛ばせるのよね!!」


そんな事を話して、ユキさんと打ち合わせした結果が……。



「アルシュテール様、あのような若造にルルア様の護衛を任せてもよいのでしょうか?」


私達が決めたことに苦言を呈する、リテアの近衛兵。


「貴方も分かっているでしょう? いまリテア内部は、ルルア様を暗殺しようとした愚か者どもが潜んでいます。酷い言い方になりますが、あの若者は盾にさえなってくれればよいのです。少しでも時間を稼げれば、私達がどうとでもする。そうでしょう?」

「なるほど、敵か味方かわからない者を配置するより、確実に味方とわかり、扱いやすい若造であるのがいいのですね?」

「ええ、彼の師であるあの冒険者達もそれなりの腕前。合わせて使えば便利でしょう」

「なるほど、要らぬ進言申し訳ありませんでした」

「いえ、良いのです。これで、強硬派共を黙らせることができます。ルルア様、さあ早く聖国にもどり、かの者たちの横暴を止めましょう」

「ええ、その為に私は戻ってきたのです」



アルシュテール様、利用しようとするのはよいですが、正直利用されてます。

私はこれから起こるであろう事に頭を悩ませて、馬車に揺られていました。



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