第57掘:お姫様はお嫁さん

お姫様はお嫁さん



side:ユキ



本日は、セラリアが到着する。

昨日の夜に連絡が来た、大体今日の10時頃らしい。

セラリアは本当に軍人としては一流らしい、行軍なんて一日二日遅れるなんて当たり前なんだが、移民を連れて予定通り15日で到着とは恐れ入る。


ああ、ルルアの方は、アルシュテールと合流して車がつかえなくなりました。

リテア聖国首都まで13日。馬車揺られ確定です。

俺の休暇は一日で終わってしまったというわけだ。

まあ、デリーユに押し付けてサボってもよかったのだが。


「もう、いやじゃ~。妾は布団から出んぞ!! このような扱い、認められん。ストライキじゃ!! あ、アスリン。バニラアイスとってくれぬか? ありがとう」


なんてプチニートになりかけたから、仕方なく戻ってきた。


「うむうむ。ユキがいると気持ちがよいのう。お互い不老じゃからかの?」


そんな事をいって、手伝いはしてくれる分。ほっとくよりはいい。

まあ、デリーユも自分だけが不老なのに、色々思うところがあるんだろう。

だから、俺になついているのは不老仲間がいたことであって、恋愛方面ではないと…思う。

しかし、デリーユは個室があるのに、毎日俺の部屋に寝に来るんだよな。

朝気が付くと、俺の布団に潜り込むんでいる。色々アスリン達と違って、しっかり女の子な体型なので勘弁してほしい。

俺の精神が持たない。デリーユに手をだしたら、必然的にラビリス、ラッツを抱かなくてはイケナイ。

気持ちは分かっていますよ?

だけど、今の状況で彼女達を妊娠させるわけにはいかんのです。

街作りの代表を、女で固めている時点で反発があるのに、妊娠して不安定になれば、やっぱり女に代表なんか無理だと反発が上がるだろう。


そう、彼女達の為にも、俺は賢者とならなくてはいけない。

最近は俺のこの決意の賜物か、朝の相棒は大人しくなっている。

…男として機能しなくなったわけじゃないよな?


「どうしたのじゃ? 下なんか向いて?」


デリーユが俺の変な行動をみて首を傾げている。


「……いや、俺はよく耐えてるよなって思ってさ。デリーユは知らないと思うが、健康な男はな、毎朝困ることがあるんだが、それを俺はこの揺るぎない精神で今日までやってきたんだ」

「は? なにを言っておるんじゃ? ユキのは毎日妾もまざ……がふっ!?」


明後日の方向を見ながら話していると、デリーユから不思議な声が聞こえる。

デリーユを見ると、なぜか知らんが蹲っていた。


「大丈夫か? お腹痛いのか?」

「…ユキ心配いらないわ。私がちょっと刀を間違ってぶつけてしまったの。ごめんなさい、デリーユ」


ラビリスはそう言って、デリーユを助ける。


「……黙ってなさい。……と……ぶらせないわよ」

「……じゃ!? ……は絶対……んじゃ!!」

「なら……いうことを……なさい」


会話は聞き取れないが、魔王としての矜持だろう。

人体急所に当たって痛くても、ラビリスには見栄を張っているようだ。



「ユキさん、そろそろ見えてくるはずです」


そんな事をしているとエリスが声をかけてくる。


「さあ、みんな忙しくなるぞ」


目の前にはセラリアが率いる直属部隊。

その、後方に今回の移民達がいる。


さて、その前にダンジョンの外がどうなっているか、教えていなかったな。

土地の権利を買い上げたあとは、外の制御ももちろんできる様になる。

しかし、四方をダンジョンという制御下においていない場合、DP吸収効率は更に落ちる。

防衛に関しても難点が多いので、ここに街を作るのはやめておいたのだ。

ま、セラリアのパフォーマンスの為にとって置いたというべきか。



「セラリア様、お待ちしておりました。一同、セラリア様のご到着をお喜び申し上げます」


ラビリスが表立った代表なんで、そう宣言して、皆頭を下げる。

あ、ちなみに、全員ダンジョンの外なんで「偽物」ですよ。

ここに来ているのは各代表のドッペルゲンガー、安全策はとらないとね。


「ラビリス、エルジュの意思をついで、このダンジョンを維持してくれたこと感謝するわ。そして、ユキ。貴方は今回のロワールの謀反を阻止した功績により、貴族となったわ」

「勿体なきお言葉です」

「はっ、ありがたき幸せ。これからより一層、頑張らせていただきます」


まあ、それぐらいはしてくるだろうと思っていたよ。

俺が無名でいるのは非常に厄介だろうからな。首輪をつけたいロシュール国としては、ユキを警戒してくれーっていっても、ユキ、誰? そんな無名を警戒する必要ねーじゃんって認識が多い。

しかも、表には全然出てこない、警戒しようにも、相手もいないんじゃ、王の過剰反応になる。

そこで、俺を適当に爵位でも与えて、貴族にすればいいのだ。

だが、それも無理がある。

だって、何もしてないから。いや、してるけど、ロシュール国の重鎮が知る所ではない。

だから、俺をいきなり貴族にするのは無理と思ったが、それを抑えつけて来たか。


「ユキの爵位は侯爵。そして公爵の私との婚姻が認められ、この場で私は貴方の妻となりましょう。これからよろしくね、あなた?」

「ぶっ!?」


い、一番厄介な事してきやがった。

適当に、貴族に据えて、適当な見張り役の嫁さんでも押し付けてくると踏んでいたが、まさか、セラリアがその役でくるか。

まて、その前にラビリス達が怒りますよ!?

そう思っていたのに、後ろのラビリス達は……。


「セラリア様の御婚姻、ご結婚、おめでとうございます」


みんななぜか、笑顔で喜んでくれている。…なんでだ?

不思議な事に、セラリア直属部隊も諸手で祝ってくれている。

おいおい、ここは相応しくないといって反対するのが当然じゃね?

俺が辞退する流れが生まれないぞ!?


「ええ、皆ありがとう。これから、彼とは仲良くやれそうよ。しかし、問題もあるわ。私はそうそう死ぬ気はないけど、彼の子供を孕むのは「私一人では心許ないわ」私の子供は公爵として育てなければいけないし、ダンジョンの運営に永遠につかせるわけにはいかないの。だから、ユキにはそれなりに、多くの側室を迎えて貰わないと困るわ」


そういって、笑顔を作るセラリア。

……まさか。


「ここは私に自治権が与えられているわ。夫の理想を叶えるためには、次代への教育が絶対に必要。そして、それは夫を支えてくれるよき、仲間。いえ、愛して、子を孕むぐらいの覚悟をもった人が欲しいわね。ラビリス心当たりはあるかしら?」

「はい、私を含め、ここにいる者のほとんどはユキの子を孕んでもよいと思っております。こんな我々を受け入れてくれますのでしょうか?」

「否などないわ。貴女達がここで行ってきた事は耳に入っています。むしろ幸運。共に、夫を支えていきましょう」

「はい、セラリア様」


……嵌められた!?

こいつらグルだ!?

だって、こっちをチラ見して笑ってやがるもん!!


「…セラリア様、ご歓談の所申し訳ないですが、移住者も数多います。そろそろ…」

「あら、あなた。セラリアでいいのよ? ま、そこはいいわ。あなたのいう通り、民を困らせるわけにもいかないものね」


そして、ようやくセラリアは、打ち合わせ通りの行動にでる。


「皆の者、今ここに私、セラリアがエルジュより、ダンジョンの制御を預かったことを証明しよう!!」


そういって、俺がこっそり設定しておいた、ダンジョン外の家屋を一気に配置させる。

まあ、外はそこまで立派でない。

外はあくまでも、お飾りだから、木造の家屋が30軒ほどと、セラリアが外で仕事をするときの領主館が置かれる。


「「「おおー!!」」」


これで、セラリアがちゃんとダンジョンを制御できると証明したわけだ。


「ここは部隊の半数で防衛にあてます。クアル、ここは任せるわ」

「はっ!! しかし、どうするのですか? ほかに住める様な場所は御座いませんが?」

「なにを言っているのクアル? ダンジョンの制御は私にあるのよ? つまり、一番安全なのはダンジョンの中よ。ダンジョンの中はもうここより整備が進んでいるわ。でも外が、なにもないのでは、誰も寄り付かないでしょう? だから、とりあえず、この場所はつくったのよ。ダンジョンの中に街なんて誰もしんじないでしょうから、ここで、説明と、不審な人物を中に入れないように」

「はっ!!」


セラリアの説明に納得がいったのか、クアルはその場で、部下に指示を始める。


「では、ラビリス案内を頼むわ」

「はい、ではこちらに」


そういって、移民者を連れて、ダンジョン内に入っていく。

なお、防衛の1・2階層は転移トラップ…を移動用に使うことで飛ばせる。

代表者以外は使えませんが。



そして居住区でセラリアを含め、ここに初めて来た人たちは驚きを露わにする。


「これは…予想以上ね」


セラリアがそう口にする。

そりゃ、木造りが主だからな。

コンクリートなんて理解できないだろう。


「よくぞお越しくださいました。セラリア様ですね? わたくし、この度、ラビリス様達に受け入れてもらった妖精族の代表、ナールジアと申します」


そして極めつけの妖精族という先住民。


「コール画面ではお会いしていましたが、この場で改めて挨拶させていただきます。ロシュール国第二王女セラリアと申します。この度の災難、心よりお悔やみ申し上げます。そして、このダンジョンへの移住を心より歓迎いたします」

「はい、これからよろしくお願いいたします」

「我が部隊の者、そして移住者よ、これからは妖精族と共に生活をしていく。しかし、必要以上にかしこまる必要はない。私達はここで共に生きるのだから」

「はい、皆さんもこれからよろしくお願いいたします」


そうやって、妖精族一同と顔合わせを終わった後、訓練所に移動する。


「はい、皆さん。こちらへ!! 席は十分にあります。お好きに座ってください。これから、このダンジョンの説明及び代表のあいさつがございます!!」


ミリーが声を張り上げて、移住者の誘導をしている。


「ミリー? ミリーなのか?」


そんな中、ミリーに声をかける人物がいた。


「え、お、お父さん? お母さん? シェリーも?」


ミリーは目を丸くして、茫然としている。


「ほら、行ってこい。ここは他の皆で大丈夫だ」

「あ、え、でも」


そう言ってミリーが周りを見ると…。


「さあ、ミリーここは任せて」

「さっさといってくださいな。そんな事に水を差しませんとも」


近場にいた、エリスとラッツはさっさと行けと促し。

他の皆もミリーへ顔を向けて頷いてる。


「あ」


ミリーは無意識に足を前へ踏み出す。

俺もそれを後押しするように背中を押す。


「お、お姉ちゃん。お姉ちゃん!!」

「ミリーよかったわ。あなただけはぐれてしまったから」

「よかった。よかった。ダブリクのようになったかと!!」


この中の誰もミリー達の再開に水を差すものはいなかった。

静かにその姿を見守っている。


「と、すまない。ミリーがここで案内をしているということは、セラリア様の部下ということか。仕事の邪魔をしてすまなかった」

「ミリーの無事な姿が見られてよかったわ。ミリーも安心して、お勤めしなさい」

「お姉ちゃん、また会えるよね?」

「うん、わかったわ。お父さん、お母さん。シェリーも大丈夫、いつでも簡単に会えるわ」


ミリーの親父さんは辺りの様子に気が付いたのか、戻るように促す。

これはさっさと説明終わらせて、のんびりさせないとな。


「ここを作った意味はこの光景だけでも意味があったのう」


デリーユは何処か寂しそうに、嬉しそうに、目の前の光景を見つめている。

彼女にはもう二度と戻らないものだからから…。


「さて、あなた。私がそろそろ行くべきね?」

「…そうだが、セラリアいつまでその呼び方だ?」

「ユキって言われる方が好みだったかしら?」

「はあ、好きにしろ」

「じゃ、いってくるわ。あ・な・た」


それから、妖精族を迎え入れた時と同様の演説と説明を行い。

人数の都合で、住む訓練所を分けることになる。

身分証の発行も、今日は後回しで明日からとなっている。

今は、少しでも早く休んでもらうのが大事というわけだ。



そのあと、予定通り、演説、説明、各代表のあいさつが終わり。

各部屋の案内がおわったあと、食堂で歓迎のささやかな宴が開かれた。

それでも、移住者は涙を流して喜んでいた。


「そりゃ、移住者なんて基本屋根なし、食べる物も自分の手でだしね。私の方からも、分かってはいたけど、ユキたちの事をいっても信じてくれないから。着いたら自給自足って説明してあったわ。しかし、この料理があなたから言えば普通なのよねー。お城の暮らしより、こっちがいいわよ。あ、そういえば外で警戒しているクアル達にもいいかしら?」

「それは当然。しかし、セラリアもついてきてくれよ?」

「ええ、もちろんよ。私の部隊なんだから。でも、あなたもちゃんと部下の名前は憶えないとだめよ?私の夫なら、基本第二指揮権が与えられるわ」


そのあとは、セラリアと一緒に外の警戒部隊にご飯を届けて、今日は休息の為に、自由になった。

一応、説明として、妖精族のみなさんにはお手伝いを願いでている。

その間に俺達は、拠点の旅館に戻って、会議をしている。

セラリアの護衛がついて行くと言ったが、セラリアがクアルのみということで、納得させた。

というか、キレていた。


「夫との蜜月を邪魔するんじゃないわよ。クアルもフザケタことはしないでね」

「もちろんです!!」


この一言とにらみでセラリアの部隊は黙った。

クアルも額に脂汗浮かべて、敬礼していた。



「……ということで、あれから子供が30名程加わったわ。それで合計355人ね。私達の部隊は抜いてだけど」


セラリアも和室にはなれているので、問題なくいまの環境になれている。

露天風呂など説明した時は、私がいた時より贅沢だとかなんとか言ってたが。


「ふむふむ、セラリア様から連絡受けたとおりですね。ありがとうございます」

「いいのよ。そういえばラッツ。この場では様はいらないわよ」

「ああ、すいません。実際顔を合わせるので緊張していましたよ。これからよろしく、セラリア」

「ええ、よろしく。皆もそう固くならないで、この旅館では、私が一番立場は下よ。まあ、夫の件については譲らないけど。腰振るときには言ってね。言わないと基本毎日私が独占するわ」

「はっはっは。それは御冗談を、私が毎日腰振りますよ」


あー、何というか、こう女性同士でハッキリ言ってると口出ししにくいよな。


「ねえ、お兄ちゃん。ミリーお姉ちゃんがいないよ?」


アスリンがセラリアの膝上から俺に疑問を投げかけてくる。

尚、現在、アスリンはセラリア、フィーリアはエルジュ、ラビリスは俺の膝上に座っている。

セラリアは問題なくアスリン、フィーリアを可愛がっている。


「ミリーは家族と会えたんだ。今日は訓練所でゆっくり話してるよ」

「そっか。ミリーお姉ちゃん、家族に会えたんだ。よかったね」

「ああ、よかった」


セラリアは大事そうにアスリンの頭を撫でる。


「ねえ、アスリンは家族と会えなくて寂しい?」

「私、家族の事覚えてないんです」

「…そう、ごめんなさい」

「でも、寂しくないです」

「?」

「お兄ちゃんも、エルジュお姉ちゃんも、皆も、そしてセラリアお姉ちゃんも、いますから!! みんなが私の家族です!! だめですか?」


そうやって、アスリンが、セラリアを見る。


「ダメなわけないじゃない!! 血のつながりがなくとも、私達は家族よ!! そうですとも、アスリンを苛めるやつは私が殺すわ!! 可愛い、かわいすぎるわ!! コール画面とは段違いよ!!」

「ふわぁぁああ!?」


セラリアはアスリンを抱きしめたまま、畳の上で転がる。

そうして、その日は賑やかに過ぎていくのったのだ。



「あのー、セラリア様。私の紹介をしてはくれないのですか?」


クアルの紹介は就寝直前に行われた。

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