第55掘:現状説明会

現状説明会



side:エルジュ



本日のお勤めは終わりました。

昨日は、デリーユさんが襲撃したりしましたが、本日は穏やかに過ぎていきました。

ユキさんの方も、ルルア様の所は未だ動きがなく、のんびりしておられたようです。


今は、晩御飯を食べ終わり、食後の一息です。

今日のダンジョンの予定は、昨日多少遅れはしましたが、デリーユさんが入ったことにより、多少楽になりました。

私とオリエルが表立って出られない分、デリーユさんの参加はとてもありがたいことです。


「今日は、妖精族の皆には申し訳ないけど、色々な施設の稼働方法を教える為に、分かれてもらったけど。長老、そこら辺はどうですか?」

「そうですね。思ったよりも好評ですよ。普段は、物作り一辺倒ですから、色々な経験をするのは楽しいみたいです」

「さて、しばらくは今の人員配置で、ロシュール国300人を受け入れる為にお願いしたいのですが」

「はい、私もそれでいいと思います。余程な事がない限りは今の配置でよいかと。その300人も後々はそれぞれの仕事場に行くのですから、まずは施設を動かす事を念頭に置くべきかと」

「そう言われると助かります。で、各方面の状態はどうだ? 面倒だし、このまま茶でものんびり飲みながら会議にでもしよーや」


そうやって、ユキさんがエリスさんに目を配ると、頷いて口を開きます。


「訓練所はもう、個人個人の仕事場が主になっていますので、ほとんど問題はありません。戸籍管理につきましては、57名ですので、作り終えています。問題があるとすれば、誕生日を各々好き勝手に決めてる事ですね。田舎に日付なんてあって無いようですから。私の担当で稼働中の娯楽施設は、ナールジアさんがお風呂区画を引き受けてくれましたので、ほぼ、お任せ状態です。まあ、ナールジアさんもここに来て日が浅いので、手伝ってはいますが。他の娯楽施設は、まだ人手が足りませんので未稼働です」

「はい。娯楽施設、お風呂担当のナールジアです。一回の使用料を銅貨5枚、人員は7名で稼働していますが、集客、稼働状態共に問題ありませんね。ああ、問題といえば、男トイレは掃除するとき色々ありますので、今後300名から男の人員が欲しいですね」


ふむふむ、あの贅沢なお風呂は問題なくですか、変装の魔術もかけてありますし、明日にでも行ってみましょう。


「じゃ、次は私ですね。訓練所はもうエリスに言われてしまっているので省略いたしまして、庁舎会計につきましては、商店を動かして、この2日での金銭収入は12235フォル。白金貨12枚、金貨2枚、銀貨3枚、銅貨5枚ですね。収入源は商店が7割、購買が1割、お風呂の娯楽施設が2割って所ですね。大概、妖精族の財産なくなりそうですがね。ま、運がいいことに、これらの収入はすべて、国営店によるものですから、私達で好きに使えるという所ですかね。正直、どこかで給与という形でお金を返さないと、干からびますよ、彼女達」

「……お恥ずかしい限りです。注意はしてはいるのですが、馬鹿者共はあの森の奥にいまして、金銭の感覚が薄いのです」

「ま、訓練所にいる限りは、食うに困りはしませんが、嗜好品を指を咥えて見てるだけって状態は、どっちにしても、あまりよろしくありません。ですが、流石にこの2日で懲りてはいるでしょうから、様子を見てもいいと思います。普通に、嗜好品買うなら、散財はあり得ませんしね。主な原因は、珍しさから来る、大人買いですね。あ、合わせて商店報告ですが、金銭につきましては明日書類で渡すとして、人員を10名いただけましたので、稼働は楽になりましたね。レジについては、簡単ですので、数日もあれば慣れるでしょう。お金の受け渡しに関しては、算術ができる方を回していただきましたので、今の所問題はありません。というか、品出しなど、大変かと思えば、魔力による運搬が可能ですので、私達がやるよりも、正確で早いですね。ある意味適した人材です」


はぁ~、あのお店では妖精族の方々は、その能力を発揮しているようです。

色々な職を与えるというのは、色々な可能性が分かるモノなのですね。


「う~ん。その散財の件はラッツの言う通り様子を見よう。商店を動かして、まだ2日。7日ほど様子を見よう。それで一週間丁度だし、長老、頼めますか?」

「はい、そこはお任せください。なんとしても、一か月の給与方針を守って見せますとも…」

「まあ、妖精族の方々が干からびてはあれですし。私が、給与計算で大変になるだけですから、そこら辺は、ある程度余裕を見ていいですよ?」

「……絶対、守らせます」


長としては辛いところですね。

身内の恥と言いましょうか……。


「じゃ、次は私ですね。と言っても冒険者区は未だ未稼働ですし、ダンジョン自体の制作も終わっていません。宿屋、商店、酒場の店舗はありますが、備品の展開も終えていません。人員も今回は来ていませんし、とりあえず何も無しですね。苦情受付に関しては、購買にスーパーラッツの嗜好品を置いてくれと、多数意見がありますね。と言っても購買はあの通り小店舗ですし、ある程度商品を絞って置いている状態です。どうするべきですかね?」

「まあ、そこは苦情受付と同じように、アンケート箱でも置いて、上位何位かを店舗に置くみたいでいいんじゃないか? 場所については、逆にいらない商品をアンケートで選ぶってやつだな」

「なるほど、それなら置き場所も確保できますね。ラッツ、そんな感じでアンケート箱置いていい?」

「構いませんよ。リエルがその件で、スーパーラッツまで買いに走ってて、可哀想でしたから」

「うわー、私は、スーパーラッツに行ってくださいの一点張りにしたんだけど」

「そりゃ、ミリーはギルド職員としての経験、私は商人としての経験がありますからね。リエルは冒険者一筋ですから、その類の対応は苦手でしょうよ」

「それでいいなら僕に早く言ってよ!! 今日なんて、何度往復したことか……」


リエルさん可哀想に。

真面目なのは?好感は持てるのですが、なんというか空回りですね。


「では、次は私ですね。警備関連は、人員を5名程いただきまして、各場所の警備を問題なく行っています。トラブルの際は、いただきましたトランシーバーがよく機能して便利です。と言っても、自由時間に、迷子になった妖精族がいるぐらいですが。訓練所警備は、主にリエルなので、そちらはリエルに」

「はーい、僕からは、訓練所内は特に報告するような事はないかなー。あ、でも電気のお蔭で、夜遅くまで起きてる住人が結構いるから、朝は眠そうな子が多いかも。あと、こっちに回してもらった子3名は夜勤は初めてで、色々大変みたい」

「警備仕事は、色々と無理を強いるところだからな。給与が多い分納得してほしくはあるが、倒れても問題だ。体調が悪そうなら、無理させないようにな」

「「はい」」


こう、報告を聞くと、お城にいた夜警の兵士さんも大変だったのでしょうね……。


「…私ね。私も警備の一員だけど、今は仕事区の農地にかかりきり。二人ともごめんね。現在人員を10名程もらって、ゴブリン、ダンゴムシ改と一緒に、作物の世話。新しい農地開拓を進めているわ。特に、ダンゴムシ改のおかげで、畑を耕すのがとても楽になったわ。ゴブリンに関しては、農地を作った当初から、任せているからとても安心。妖精族達は土いじりをしないのか、始めはオドオドしてたけど、作物を取って食べたりして、自分で育てるのが楽しみになってるみたい」

「そうですね。妖精族は魔力があれば、基本飲食はしません。でも食事はできますので、食べないわけではないのです。魔力だって消費しますからね。食べ物や飲み物で回復するわけです。ここに来てようやく、果物や水以外の食生活に触れて、楽しいのでしょう。その子達が他の子を勧誘すれば、農地も色々広がるんじゃないでしょうか?」

「そこら辺は、強要することでもないしな、本人達に任せましょう」


あの、大きいダンゴムシの魔物も役に立つのですね……。


「わ、わたひゅ、から、ほ、ほうきょくを…」


ああ、可愛いわフィーリア。

写真でその姿を激写して、部屋に沢山飾りたいわ。


「フィーリア落ち着け。誰も、怒ったりはしないから。大丈夫。ほら深呼吸」

「は、はい。兄様。すぅー、はぁー。すぅー、はぁー……」


天使です。

誰が何と言おうと、アスリンとフィーリアは私の妹であり、天使なのです!!


「…私からの報告をします。鍛冶場につきましては、人員を18名も来てくれまして、昨日、今日で鉄の剣35本。そして、こちらが、試作しました妖精族の手による…刀です。詳しくはナールジアさんに」

「はい、ではお伝えいたします。鍛冶場の稼働状況は極めて良好です。慣れていない部分もありますが、設備が私達の所とは比べものにならないほど、洗練されていて、極めて使いやすいです。それに伴い、ユキさんにお聞きした、刀を私達独自で仕上げてみました。よろしければ、ユキさんお納めください」


ナールジアさんが、綺麗な鞘に納められた、刀をユキさんに渡します。

しかし、あの鞘といい、普通なら、1か月はかかりそうな手順の物をわずか1日で仕上げてしまうとは、妖精族の鍛冶能力はとんでもないですね。


ユキさんが、その刀を鞘から抜き放つと、とても綺麗な……緑の刀身が姿を現します。

え、緑?


「見ての通りですが、緑という特殊な色の刀身になっております。ユキさんから、もたらされた合金の理論を独自に解釈して、いただいた玉鋼とミスリル、魔鉱石を混ぜ合わせ、私達がエンチャントした結果、刀身が、エンチャントの属性に染まりました。主なエンチャントは風、植物。です」

「……すまない。君の気持は嬉しいが、ダンジョンマスターとして受け取るわけにはいかない。なにせ、俺は代表の一人だからな。総合代表のラビリスに渡そうと思うけど大丈夫でしょうか、長老?」


ナールジアさんは、目を丸くしたあと、納得した様子で頷く。


「これは失礼を致しました。確かに、ここの統括はラビリス様。これはラビリス様にお使いいただきたい」


そう言ってナールジアさんは、ラビリスちゃんに頭を下げ、ユキさんがその刀を渡す。


「…とても、軽いわ。私でも振れる?」

「はい、その刀は持ち主の能力に、気持ちに応じ重さが変わります。切れ味は本場の刀とエンチャントを合わせて更に鋭くなっておりますので、慣れないうちは、鞘に納めたまま練習するのがよろしいかと」

「ラビリスには大きいからな、ちゃんと練習して振れるようにならないとな」

「…もちろんよ」


ラビリスちゃんは嬉しそうに刀を抱いて、またユキさんの膝に座り込む。

刀は刀身が70cm、握りを含めて1mとちょっとなので、ラビリスちゃんの身長からすると、首辺りまで届く大刀。

本当に使える様になるのかしら?


「鍛冶場の方は問題なさそうだな。じゃ、あとはラビリスとアスリンだな」

「はい、訓練所のお食事当番、お掃除は、当番をきめて手伝ってくれるので、大丈夫です!!」

「…私の所は、庁舎の人員を、残りすべてを貰っているけど、やること、覚えることが多いから、本人達は大変ね。それでも、私達、ここのみんなは助かってるって自覚はあるんじゃないかしら?」


ラビリスちゃんがそう言うとみんなが頷きます。


「あ、忘れてた。エルジュの方はどうだ?」

「ふぇ!?」


ああ、そういえば、私も報告すべきことがありました。

最近表立って動けないので、なんか忘れていました。


「コホン、では、私の方の治療院は、いつでも診察可能、入院は可能です。ですが、まだ人員が回ってきておりませんので、できるのは、治療と診察ですね。それも、訓練所の治療室で私が勤めていますから、治療院を使うのはまだ先になるでしょう」

「そりゃ、そうだな。で、この数日怪我人とかは?」

「います。ですが、転んで擦り剥いたりとか軽傷です。料理で軽く指を切ったというのが一番の怪我ですね」

「そりゃいいことだな。でも、いつかは目を覆うような怪我人を扱うこともあるからな?」

「はい、覚悟の上です」


これで、一通りの報告が終わりました。

最後は……。


「じゃ、俺からの、本当のダンジョンマスターとしての報告な。昨日のデリーユの侵入以降、ダンジョンへの侵入者は無し。そして妖精族がきてこの5日でのDP報告は…約8万DP。これから、1日あたりの妖精族が使えるDP、500DP差し引いて、79500DPって所だな」

「それは又、凄い数字が集まりましたね。確かに一人あたり1000MPはあるのですから一時間で10DP。56人から吸収できますから、全体で560DP。24時間で13440DPですね。最低でも。これは今後、夢が広がりますね~」

「といっても、これはしばらくは貯蓄の方向で行こうと思う。ここのメンドクサイ詳しい計算は、丁度計算のできる、裏の内容も知っている、人員が昨日入ったからな。任せようと思う」


そういって、デリーユさんに視線が集まります。


「ちょっと待てい!! 妾は今日も変なフリフリの服をきて店員をして、お風呂場では、デッキブラシもって掃除しておったんじゃぞ!? これ以上妾を酷使したら、人としてどうかと思うぞ!?」

「いえ、流石にDP計算などを任せるのでしたら、デリーユさんに今後変な業務は回しませんよ? 数字を間違ってもらっては困る分野なので」

「お、おお!? 妾はその専属で他の仕事はしなくてよいのか!?」

「ええ、しかし、ミスがあっては困りますので。しっかりやって貰わないと、他の部署に回ってもらうことになりますね」

「ま、任せるがよい!! 高等な算術は、そうそう使える者はおらんからな!! 妾に適任ということじゃ!!」


なぜだろう。デリーユさんは激しく、踏み込んではいけない地点へ踏み込んだ気がします。


そして、みんな報告を終えて、お茶を飲んでいます。


「しかしのう。その娘が件の聖女エルジュとはな~。そして、皆が言うにはリテアの聖女までいたそうじゃの。妾は魔王。ここは、かの災厄のダンジョンマスターが治めると。まあ、珍妙な人物がよう集まったもんじゃ」


デリーユさんが、お茶を飲みながら、呟きます。


「そうですね~。絵本の物語より突飛な状態ですね。お兄さんがいると飽きませんね。まさか、魔王の知り合いができるとは思いませんでしたよ」

「妾も自分の正体を知って、普通に話せる人と会うようになるとは思わなんだ」

「これも、数奇な運命ですね」


私が、そう呟くと、みんな、しんみりお茶を飲…。


「いや、全然、数奇な運命じゃないからな。この状況なら当然だからな」


いきなり、ユキさんに台無しにされました。


「なにを言っておるかユキ。これはどう見ても数奇な運命じゃろう?」

「はぁ~、デリーユ。まさか、俺に説教されて、正道に戻ったと思ってやがるな?」

「うむ、妾はユキと話して、アスリンやフィーリア、あの子供達とあって色々思い直す事があった。これは運命じゃろう」

「それは、デリーユがそう勘違いしてるだけだからな」

「どういうことじゃ?」

「そもそも、俺が正しいなんて保証はどこからきてるんだよ?」

「それは、ユキ。お主が説明してくれたじゃろ?」

「その通り、俺は説明しただけだ。誰も俺の言うことは正しく、お前は間違っているなんて、一言もいっちゃいねえぞ?」

「確かに、ユキは否定はしなかったのう。妾がしたことを「己の正しさをもって」と言っていたか? でも、そのあとに盛大に説教された気がするのじゃが?」

「あれを、説教と感じるなら、自分が間違っていると思ってるからだ。俺は最初から最後まで、デリーユの疑問に対しての俺の考えしか言っていない」


確かに、私の時も、ユキさんは自分の意見を押し付けようとはせず、自分はこのやり方でヤルというだけでした。


「俺は最初から「お前は間違っている。俺についてくれば大丈夫だ」なんて安易な事は言っていない。デリーユも、エルジュも、ルルアも、ここの皆も選んでこの場にいる。強いていうなら、説得だな」


そういって、ユキさんは私達の顔を見渡します。


「俺は誰も説教なんかした覚えはねえよ。俺的には必死に頭下げて、仲間になってくださいっていっただけだ。お前等を間違ってるなんて、正しいことをしようとして失敗したとか、思う奴がいるなら、そりゃ視野が凄く狭いだろうな。俺がこれから失敗する可能性を無視してる。ま、なんとかそんな事に、ならないように努力してるがな」

「なんじゃ? 妾のこれまでは間違いではなかったというのか?」


デリーユさんは、驚いたようにユキさんを見つめています。

私も同じ気持ちです。私はこれからの人生を償う為に生きるとおもっているのですから。

その償うための罪を、間違っていないとはどういうことでしょうか?


「間違いなわけねーよ。それはデリーユの答えだ。お前がその拳を振るって、確かに何の罪もない人が死んだかもしれないが、逆に救われた人もいるんだよ。というか、こういう成否ってのは、俺達が出すもんじゃねーよ。のちの歴史家が、勝手に評価するもんだ。大事なのは、自分の出した答えを最後まで自信もっていけるってことだな。そこら辺に関しては、俺はお前らは間違ってるって言ってやる」


そうやって、ユキさんは、私とデリーユさんを睨んで声をだします。


「まあ、俺の言葉でフラフラと意見かえやがって、せめて、自分が出した答えの結果に誠実にいろ。謝るな、謝るぐらいなら、次に活かせ。ずっと頭垂れて生きていても、お前等の能力が発揮されないだけで迷惑だ。そうでなきゃ、デリーユが、エルジュが、出した答えの為に死んだ人が報われねえ。エルジュ特にお前は、まわりの人はそんな覚悟を持った人ばかりだったぞ」

「え?」

「まずはセラリア。あいつは、決して頭が悪いわけじゃない。それでも戦いでは、自分のあり方を崩そうとはしない。まあ、それで一々俺に噛みついてきたがな。その理由は、今までにきっと斬り捨てて来た人の為にだ。自分の目的の為に奪ってきた命に対して、最後までこのあり方で行くって決めてる。俺からいわせりゃ不器用だが、そう決めてるんなら口出しは出来ない」

「ちぃ姉さまが……」

「次に、アーリア。次期国王としての覚悟は相当なものだぞ。お前が死ぬ事を公に認めるなんて、そうそうできることじゃない。そして、最後にお前の親父さん。お前より、国民を取った。そうとると俺に宣言をして、憎むべきルルアと手を結んだ。それがきっと、多くの人を救うと信じてな。エルジュの家族は全員、清も濁も合わせて飲んでいる。そして、それを認めて、活かしてる」


今、ちい姉さまや、お姉さま、お父様が、私が何かをすると、言ったとき苦笑いしたのかが、分かりました。

何事にも結果は出るもの、動けばお腹がすくように。

私が、人々を救ったということは、私に救われなかった人もいるということ。

選びました、被害の多い場所と、それはつまり被害の少ない場所を見捨てるということ。

簡単にいえば大きいか小さいかの差だけ、それでも、私はその出した答えに背を向けていました。

私は、人々を救っていくといいながら、ユキさんの説明に自分が正しいと…いえ、自分のやっていることに自信が持てませんでした。

ぐるぐると自分の答えに対する、自分の行動が頭を巡ります。

なんて不誠実、なんて我儘。

自分が出した答えが間違っていたと、頭を下げるだけ。

私は、私の答えの為に、亡くなった命に対して「貴方方の死は間違いでした」と無情に告げていただけです。

このままでは、私は間違ったまま、本当に、亡くなった命に対して冒涜を続けていくことになります。


「ま、今のデリーユもエルジュも、ここでそれなりの答えを見つけたんなら、いままでの事に意味はあっただろうよ。というか、何も答えなんて、変わるはずはないと思うがな」

「…はい、結局私は、癒す事をやめれませんでした。これが私の答えなのですね?」

「しらねーよ。自信をもっていうのはエルジュ自身だからな」


そうやって、私は、ユキさんに苦笑いされます。

ああ、まだ私は甘えているようです。

ただ、言えばいいのに。


「私は最後まで、人々の為にあると誓います!!」

「エルジュがそれでいいならそれいいんじゃねえか? まあ、とりあえず、現在までの結果はマイナスだけどな」

「…ひどいです」


それでも、今までとは違い笑い返せます。

これが、お姉さま達がいっていた自分を貫くというものなのでしょう。


「ふむ、そういうことか。なら妾も今までの拳が間違っていたとは思わぬ。お主らとも会えたのじゃからな」

「デリーユらしい答えでいいんじゃねえか?」


ユキさんとデリーユさんはお互いに顔をみて笑いあっています。


「さて、お二人の答えを何で今説明、説教したか、本題に入りましょうか」

「え?」

「意味もなく、説明なんぞしねーよ。ま、これで分かっただろう。答えを持つ意味が、覚悟が、そして、これからの面倒事は、お前等の答えや、覚悟程度じゃキツイのがいるぞ?」

「どういうことですか?」

「今回の、争乱。エルジュが聖女になったから起こったってのが、認識だが、なぜ、そんな事をしたのかって問題がある」

「それは、リテア聖国内を収める為では?」

「なっはっは、可愛い回答ありがとう。わざわざ、同盟国の王女様を的にして国内治めるのは妙手じゃないだろう? 戦争になりかねないんだ。 それなら、エルジュをリテア聖国に招いて、そこで適当な形だけの役職でもつくって、そこに収めればそれで事がすむ」


「ちょっと、待ってください!? そのいいかたじゃ、まるで……」


「そうですよ? この争乱はリテア聖国を手中に収める為のモノですよ。分かりやすいよねー、エルジュを敵対として、自分に従わない勢力を明確に浮き彫りにできるし、仲のいいルルアに情報をながして、わざと単独で、ロシュールにいかせて、適当な所で殺害。敵対勢力はそれで軒並み、沈黙。まあ、なんてわかりやすい乗っ取り計画でしょうか」

「な、なんの為に!? ロワールのように権力ですか!?」

「いやー、全然、労働力に対して割が合わん。賢く生きるなら、適当に権力使って個人のお金稼ぐの一番だろうな。ロワールだってリテア聖国の支援があって、ようやくロシュール国転覆をねらったんだから。どこの支援もなく、やる意味も、成功率も、あれだよな」

「ならなんで!! ……もしや、さっきの答え云々ですか?」


私が、そう聞くとユキさんは楽しそうに口を歪めます。


「ああ、いるぞ。そんなわかりやすい損得勘定なんかすっ飛ばして、今回の事で、起こった争乱で亡くなった人達、そしてこれから起こるであろう事で亡くなる人達、そのすべてを認めたうえで、自分の出した答えを、覚悟を貫いてくるやつが。その答えが、最後には正しいと、未来につながると信じた奴が」


ユキさんが言った事は、真っ赤に染まる赤い道。

そんな、そんな答えは、狂っている。


「俺と同じぶっ壊れた奴か、それともただの狂信者か、どっちにしても、これだけの事を起こしたんだ、遊び半分とか、分かりやすい利益で動く奴じゃねーよ」


ユキさんがそう言い終わると、辺りが静かになります。


「ということでエリス」

「はい!? な、なんですか!?」

「明日から、ルルアと向こう側で暴れるから、俺の分はデリーユに任せてくれ」


空気が固まります。

ああ、こういう人でしたね。


「は!? ちょっとまつのじゃ!? 今さっき妾の仕事は一つだけになったはずじゃろうぅぅぅ!?」



明日からのお仕事頑張ってください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る