第54掘:魔王と子供達
魔王と子供達
side:ラビリス
今私達の前には、小さなお墓がある。
今回、魔王デリーユがここに来た際、二匹の動物が亡くなった。
仕方のない事、お互い命を取られると思ったから、したこと。
でも、アスリンとフィーリアにとっては、家族を亡くしたも同然だった。
「えぐっ、ひっく……」
「…う、うううっ……」
彼女達の足元には、仲間の死を悼むように、アスリンとフィーリアの配下の動物たちが集まっている。
ここには、私、ユキ、エリス、トーリ、リエル、エルジュ、オリエル、残りは訓練所でお仕事だ。
この場所は伝えているので、あとで個人個人でくるだろう。
「で、ここまで見てどうだ?」
「……」
そして、このお墓を作る原因となった、魔王デリーユ。
彼女は、気絶から起こされて、このダンジョンの街を見せて回った。
私達が、ユキが、ロシュール国を侵略しようという意思がないことを見せて回った。
「……ワラワの勘違いじゃった、ようじゃの」
みんな思ったより、デリーユを恐れてはいなかった。
ユキがいたということもあるし、すでに指定保護されて、私達や住人、ユキに、もう危害が加えられなくなっている。
何よりも、今アスリンとフィーリアを見つめるその表情は、魔王ではなく人だ。
「ワラワが目を覚ましたことが答えそのものじゃ。ワラワを生かしておく必要などないからの」
デリーユはなんとも言えない顔で、アスリンとフィーリアを見ている。
「ま、誤解が解けたのなら。何よりだ。で、どうする?」
「どうするとは? ワラワはむしろこの場では罪人ではないかの?」
「はっ、何をいまさら。にげるんじゃねえよ。謝る相手は目の前にいる」
ユキはそう言って、デリーユをアスリンとフィーリアの前に押し出す。
「な、ワラワだって気持ちの整理というものがあってだな…」
「デリーユ、お前は今まで自分のしたことが、正しいと思ってやってきたんだろ。数多あるうちの結果の一つだ。よく通ってきた道だろう? 勘違いで相手を殺めて、泣かせてしまうなんて?」
「……そんな、事は…」
「それとも、何も聞かずにただ、自分の意見をその力で押し通してきただけか? 自分が絶対、正しいと信じて?」
「……」
「はぁ~、なるほど。大きい力を持った弊害って奴か。押し通せてしまうがゆえに、自分がすることが正しいと思い込みやすい。でもな、そんな事はないからな。が、デリーユはまだマシか、まだ自分がしたことにちゃんと冷静に判断ができる。まあ、負けてしまったこともあるんだろうが、普通、今までそうやって、生きてきたのなら、思い通りにならない時点で、相手のせいにしてしまうってのがよくある」
ユキがデリーユを落ち着かせるように、話す。
「……お主らの様な、関係のない者も、ワラワは殺めて、しまったのだろうか」
「そりゃ、俺達が初めて間違いでしたって言うのは、簡単だが、デリーユは納得できないだろう?」
「……」
「なら、せめて、自分が間違っていると気が付いたのだから、謝る相手がいるのなら、やるべきことはわかるだろう」
「ぬぅ、今更恐れるモノなど何もないと思っていたが…」
「よかったじゃねえか。何も怖いものがいないなんて、そりゃ生き物じゃねーよ。人形だ。感情がないのと一緒。それじゃ、誰とも喜び合えないし、楽しい話を聞いても笑えない。親しい誰かが亡くなっても涙をながせない」
「ワラワ、妾をまだ人だと? 魔王とまでいわれ、只の力でねじ伏せて来た。妾が?」
ユキの言葉で、なにか変ったのか、デリーユは自分を呼ぶ声が柔らかくなってる気がする。
ユキの遠回しの言葉では、分かりにくいが、私はデリーユは人だと思う。
だって、コール画面でユキの影と対話していた時、彼女はダンジョンマスターを倒しに来たといった。
ロシュール国を侵略するつもりだろう。と断定して、勘違いしていたが、彼女は暴虐ではなく、正しいことを成そうとしていただけ。
だから、私達はデリーユに罵声も処罰も求めてはいなかった。
別に、被害と言えば、アスリンとフィーリアには悪いと思うが、動物二匹。
これが、ユキの命であれば、許すつもりなど毛頭なかったとは思う。
「人つーか、そもそも会話ができるなら、意志の疎通ができるなら、俺は別に人でなくても構わんよ。その定義の狭さをまず考え直せ、アスリンやフィーリア達が涙を流しているのは動物たちだよ」
「あ…」
「動物たちと仲良くなれるのに、同じ言葉を話せて、同じ形をしている。人から、只魔王といわれて、力があっただけのロリ婆と、話ができて、仲良くなれないとは思えんよ。まあ、限度はあるがな、自分が正しい、絶対だ。なんて、頭が逝っちゃてる奴を一々説得する気はねえよ」
相変わらず、ユキは変というか、予想がつかないというか。
当然なのかしら? ダンジョンマスターって色々な魔物を使役するのだから、こんな考え方になるのかしら?
「それは、その通りだが…ちょっとまてい!! 妾をロリ婆といったな!? ロリの意味は分からんが、婆は分かるぞ!! 妾は若いぞ、訂正を求める!!」
「ほう、若いなら年齢を言ってくれ。ステータスを見せてくれてもいいぞ? 人族として若いのは幾つぐらいかな? まあ精々20後半か?」
「いえいえ、お兄さん20過ぎれば、もう適齢期過ぎですね」
「ぐっ…!?」
あらあら、ユキってばいじわるね。
私としては、ユキの子供が産めるのなら何も問題はないわ。
ふふふ…、デリーユは魔王と呼ばれるほどの力をもっている。
彼女を仲間に…いえ、ユキの妻の一人として迎えられればとても心強いわ。
今までの会話から、デリーユ自身はとても純粋。
指定保護も受け入れたし、なんとしても説得して、ユキを誘惑して、腰を振ってもらわないと。
ユキは強制は嫌うけど、私は貴方を守る為なら、どんな手でも使うわ。
ま、私自身嫌われたくないから、卑怯な手は使わないけどね。
あくまでも、デリーユ自ら、ユキのお嫁さんになりたいと思わせるだけよ? うふふ。
そんな風にデリーユとユキが話していると、アスリンとフィーリアがこちらにやってきた。
「あの…お兄ちゃん」
「兄様…その方ですよね?」
あ、うん。
デリーユが尻込みするのは、分かるわ。
あのつぶらな瞳は、私でも耐えられないと思うわ。
「あ、う…」
「おう、そうだ。彼女が、魔王、鮮血姫、デリーユだ。ほら」
そうやって、固まっているデリーユを彼女達の前へ押し出す。
でも、デリーユは彼女達のつぶらな瞳の前に、口を開けない。
「デリーユさん、この子達のお母さんは立派でしたか?」
「…この子のお父さんは…最後まで、頑張っていましたか?」
アスリンの腕の中には、子ダヌキが二匹。
フィーリアの手の中には、子イタチが一匹。
その言葉を聞いたデリーユは、今までの動揺が嘘のようになくなって…。
「ああ、妾の手の中でも…最後まで、暴れておった。見事じゃった。お主らの親は、最後まで、生きること諦めてはいなかった」
「「きゅー」」
「きー」
デリーユが答えると、それが分かっているように、その子供達は鳴き声をあげて、アスリン達の腕の中から抜け出し、森へ消えてゆく。
「…なぜ、妾に噛みついたりしなかったのじゃ?」
デリーユは、子供達が鳴き声をあげた瞬間、危害を加えられると思っていたようだ。
「バカね。動物は人とは違うわ。生きる為に殺すし、死んだりする。でも、今回は死んだのにもかかわらず、遺体があった。自然の中なら、骨ぐらいしか残らないわ。それは、次の命の糧になるの。あの子達は、確かめたかったのよ。自分の親が死んだ意味があったのかを」
私が、呆けるデリーユにあの子達の意思を伝える。
「意味か…立派じゃ。怒りにくるって、簡単な方法に流れた妾よりよっぽど……」
何を考えているのかはわからないけど、デリーユはずっと、子供達が去っていた森を見つめていた。
「しかし、あの子等は、妾の答えに何の意味を見い出したのだろうか…」
「さあ、それはいずれ本人に聞けばいいじゃないかしら?」
「本人に?」
「あら? 今日一日、このダンジョンに多大な迷惑をかけたのよ。頭下げて、済むことだと思っているのかしら?」
「手厳しいのう」
「せめて、迷惑をかけた分ここで働いていってほしいわ。ここは私達だけじゃなく、あの子達の家でもあるんだから」
「そんな手ぬるい。処罰があってよいのか?」
「手ぬるい? それは、ここを運営する私達への宣戦布告とみるわ」
私が一歩下がると、トーリとリエルがデリーユの両脇を掴む。
「な、なんじゃ!?」
「いえ、ここの運営を手ぬるいと舐めてる発言をしていますので、しっかり働いてもらおうと思っているだけですよ?」
エリスが珍しいぐらいの笑顔を浮かべている。青筋付きだけどね。
「とりあえず、私達を含めて70人分の晩御飯の準備と、それが終わりましたら、商店の品出し、お風呂の掃除……」
流石エリス、暗記しているのね。
聞きたくない、これからの仕事の数々をデリーユに告げていく。
「ちょ、ちょっとまつのじゃ!? そんなのは体が一つでは到底間に合わんぞ!?」
「あら、魔王様ですよね? 分裂とかできないんですか?」
「えーい、スライムみたいな魔物と一緒にするでないわ!?」
彼女はそうは言いつつも、暴れたりはしない。
本当に根は優しいようね。
「ぴきー!!」
「ひっ!? お、お主は先ほどのスライム!?」
「喜んでください。スラきちさんが、デリーユさんの監視をしてくださるそうですよ」
うん、スラきちさんがいれば安心ね。
「おい!? ユキとか言ったなダンジョンマスター!? お主の意思が無視されておるぞ!! いいのか、お主がここの王なのじゃろ!? 妾の様な、危険人物は牢に入れておくべきと思うぞ!!」
最後の悪あがきなのか、なんとユキに助けを求める。
「残念。ここは皆の意見で運営しているんだ。あきらめろ」
「料理なんぞ、したことないのじゃーーーー!!」
あら、それはユキの妻としてはふさわしくないわね。
しっかり教えないと。
で、その日が終わったよる。
デリーユの部屋は、旅館の空き部屋を宛がったのだが、そこまで動ける元気がないほど疲れ切っていた。
仕方ないので、私達の部屋にもう一つ布団を引いて寝かせてあげたわ。
無論、ユキの部屋よ。
「うわ~、ユキ。お主だけが、妾にやさしいのじゃ。あの娘たちは異常じゃ、あの仕事量、こなせるわけがないのじゃ。もう妾はユキのそばを離れんぞ!! そうしないと、また今日のように扱われるに違いない。魔王という名なぞ、あの娘達の足元にも及ばぬわ!! だから、妾が仕事がきつくても普通なのじゃーー!!」
お姫様抱っこして運ばれるデリーユはユキにあっさり、尻尾を振る。
チョロイわ。……でもなにか違う気がするのは気のせいかしら?
ま、どんなに叫ぼうが、明日もしっかり働いてもらいますけどね。
明日は商店の店員、娯楽施設、露天風呂の店員をやってもらいましょうか。
算術できるみたいだし、便利よね彼女。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます