第53掘:暴虐の魔王とスライム

暴虐の魔王とスライム



side:ユキ  本名:カズヤ・トリノ



さて、現在ルルア達はもう予定の村について、聖女様のご到着を待つばかりである。

車って便利よね。

で、俺の方は、ここのところ、妖精族のおかげで浮き彫りになった問題点を、日々みんなと協議して改善する日々。

ふふふ…。いい加減、現代日本で仕事をやってる感覚になってきやがった。


さて、今日の予定は第4段階、ダンジョン施設の案内と、仕事場の見学。

しかし、人数が少なかった為か、仕事場の見学は昨日のうちに済み。

多少の実践、仕事をしてもらった。

流石というべきか、慣れていない筈の鍛冶場を、俺の口頭説明と教科書である程度把握していたのか、ナールジアさんは、20本近くの鉄の剣を俺に収めてくれた。

材料等も無限ボックスを設置して、取り出せるようにしてるからな。

玉鋼や、合金などは、流石に扱いに困ったのか手を出していなかったが、俺が合流したのち、刀などの刀剣を見せたり、現代ナイフを見せると、目つきが完全に変わった。

製法は、ネットで見たままを伝えたため、確実ではないとつけたが、これも口頭説明だけで、ある程度納得がいったのだろう。本日実践してみると言っていた。


と、問題としては別に一件。

昨日会議中に、フィーリアは寝てしまった。

それは何も問題はない。だって、その小柄な体で、あのクソ重い槌を振って、剣を一本仕上げて見せたのだ。

重心、バランス、それは無茶苦茶だったが、初めてやってあれ程できるなら十分だろう。

だから、疲れて寝てしまうのは当然。

しかし、朝起きたフィーリアは大泣きしたのだ。

もうそれは、珍しいぐらいに泣いてた。


「兄様ごべんなざいぃぃぃい!! 兄様をきぼじよぐじであげだっかたのにぃぃい!!」


ああ、優しい子供3人組はいつも夜に肩叩きをしてくれるのだ。

俺としてはとても嬉しい事だが、フィーリアは疲れていた。だから仕方ない。

そうやって慰めたのだが…。


「ペロペロしてあげあれなかったでずぅぅぅうう!!」


ペロペロ? アイスでも食べたかったのか?

そう考えていると、ラビリスとアスリンがフィーリアを宥めるのを手伝ってくれて助かった。

今日はちゃんと起こしてアイスをあげよう。俺はそう心に誓った。



今日も一日頑張りましょうかね。

訓練所の日々の日程は…基本朝八時起床、それから朝食、九時から各種説明、仕事を開始。

現在は朝八時半。訓練室Aに全員集まってるだろうから、移動しないとな。


そうやって、移動をしていると問題が起こる。


侵入者警報。


ち、めんどいな。

すぐさま、皆を集めて協議を始めることになった。



「えーと、ラッツさんに教えてもらったのですが。侵入者警報ですか? このダンジョンに?」


ナールジアさんはまだ自覚がないのか、首を傾げ気味だ。

なお、ミリーとトーリは訓練室Aで普段通りに、授業をしている。


「ええ、詳しくは索敵範囲に敵、まあ敵かわからないですが、接近している、生物…。人型の生き物が確認されました。まだダンジョンに入ってるわけではありません。でだ、みんなが支配下に指定している動物からの報告は?」


そうやって、皆の意見を求める。

ここ数日やっていたのは、ダンジョン街作りだけではない、俺が使役していた、魔物を皆に分けて支配権を譲って、戦闘訓練や、偵察の方法を練習して貰っていた。

まあ、それに集中できたわけではないので、まだ慣れてはいないようだが。


「私の方では、鳥が上空から、真っ直ぐこのダンジョンへ向かっているのを確認しています」

「僕の方も、リスから真っ直ぐダンジョンに向かってるって情報が入ったよ」

「…私の方も、間違いなくこちらに向かってる」

「…ひっく、ひっく」


あれ、アスリンが泣いてる? なんでだ?


「ユキ、アスリンが支配下に置いていた、タヌキが殺されたわ。私の支配下から報告が入ったの」


あちゃー、アスリンはあのタヌキ可愛がってたからな。

ご飯にでもされたのか?


「あ、兄様!! こ、これ!?」


そう考えていると、フィーリアが自分のコール画面を向けてくる。

そこには、女の子というにはしっかりしており、大人というにはまだ幼い、そんな女性が映っていた。


『あー、あー。聞こえるかの? ダンジョンマスター。先ほどから、妙に獣がワラワを遠巻きから見てるかと思ったが、なるほど、この魔力。其方の下僕というところかの? 見えておるんじゃろう? しかし、新しいダンジョンができたという噂を聞いてみれば、まだまだ、このような獣を使役しているようではたかが知れとるのう。まあ、どうせ暇つぶしじゃ、精々足掻いておくれよ? では其方のダンジョンで相見えよう』


画面が唐突に途切れる。

多分、殺されたんだろう。


「…フィーリアの支配下が殺されたわ」


フィーリアもつらそうな顔をしているが、泣いてはいない。

あとでしっかり慰めよう。


「さて、彼女の事を知っている人はいるか? 支配下の動物を見極めるなんて、そこらにいるとは思えないが…」


俺が全員に疑問を投げかけると、ポツリとエルジュが青ざめた顔でつぶやく。


「…鮮血姫」

「エルジュ様、そ、そんな馬鹿なことが!?」


エルジュの言葉にオリエルが過剰反応している。

なんだ、その鮮血姫って?

みんな、エルジュの言葉を聞いて、コール画面を食い入るように見ている。

どういうことだ。


「…信じたくはないですが。お兄さん、私はエルジュ様の意見に賛成です。過小評価をするべきではない、と思います」

「ぼ、僕も、彼女は鮮血姫だと、お、思うよ!? だ、だって黒いドレス着てるもん!!」


黒いドレス? その鮮血姫のトレードマークみたいなもんか?


「…支配下の動物をあんなにあっさり捕まえるなんて、私も鮮血姫だと思うわ」


ラッツ、リエル、カヤまでもエルジュの言葉に同意する。


「なあ、その鮮血姫ってなんだ? なんかの通り名か?」

「ああ、お兄さんは知らなくて当然ですね。しかし、ここでのんびり説明している暇はありません。まずは訓練室に集まっている妖精族のみなさんを、避難の訓練とでも言って、逃亡箇所に移動させましょう」

「それほどの相手なんだな?」

「はい、お兄さんの実力は信用していますが、正直、鮮血姫の名前の方が、実感が無い分恐ろしいです」


そんな事を移動しながら、話す。

避難は協議するまでもなく、全会一致。

訓練室につくなり、ミリーとトーリに事情を話すと、二人とも、顔を青ざめて避難訓練を開始する。


「エリス、君が一番こういった事に知識が深いはずだ。知ってる事を教えてくれないか?」


そういって、エルフ族の知識をあてにする。


「わずかばかりですが、そうですね。ユキさん、この大陸には魔王と呼ばれる者が二名おられます。その内の一人があの鮮血姫です」


おおう、ちょいまて、大規模イベントはモーブ達、ロシュール兵、リテアの騎士、の3つぐらいですよ?

いきなり魔王ってイベントすっ飛ばし過ぎじゃございませんかね?

ああ、自称四天王ってのがいたな、あいつらが原因か?


「いえ、自称四天王は関係ありません。鮮血姫は基本一人で気ままに大陸を歩き回り、気分のままに街や村、あるいは国を破壊して回るのです。魔王としての名は「暴虐の魔王」そして鮮血姫の由来は、血が時間がたつと黒くなりますよね。彼女のドレスは本来白だと言われていますが……」

「返り血を洗わず黒く染まったってこと?」

「はい」


おいおい、せめて絵的に赤ドレスにしろや。


「ユキさん、皆の避難おわりました!! 早くユキさんも避難を!!」


ミリーがこちらに駆け込んでくる。


「いや、魔王様は俺をご指名だ。下手に一緒に逃げると迷惑がかかる。皆は避難の人と一緒に待機。俺が死んだ場合は一旦このダンジョンを放棄。ダンジョンコアはみんな持ってるだろう? それを使って新しいダンジョンを作ってくれ」

「ちょっ!? お兄さん!? 戦う気ですか!?」


ラッツは俺の発言を聞いてトンデモナイと言わんばかりに迫ってくる。


「まあまあ、落ち着け。俺はダンジョンの最奥に籠ってやばくなったら逃げる。迎撃ができそうにないと判断したら、先にラッツ達に逃げてもらって、足止めに専念する。死ぬわけじゃないよ」

「…うん、嘘は言ってないわ」


ラビリスは俺の手を握って真意を確認する。


「……いいでしょう。ですが絶対に、危なくなったら逃げてくださいよ? 嫌ですからね、こんなに早く未亡人は」

「心配するな。ここは任せて先に行け」


そういうと、皆はしぶしぶ、避難場所へ歩いていく。


…あれ? 死亡フラグ立てた?

うわー、ちょいタンマ。普通にあのセリフ出ちゃうって、仕方がないから、フラグ無効でお願いします。


なんとか、死亡フラグを折らねば!!

そう思ってダンジョン最奥へと転移する。

すると、鮮血姫がダンジョン内に侵入したと警報が響く。

現在第一階層。距離を稼ぐ為のMAPである。

今のうちに、ゴブリンアーミー、スライムアーミーを第二階層、迎撃ラインへ配置を済ませる。


鮮血姫のステータスを見る


名前:デリーユ・ル・コッセル

種族:人族

身分:孤独の魔王

性別:女

職業:魔王 鮮血姫

年齢:235歳


Lv.412

HP:12020

MP:9200

STR(筋力):5740

DEF(防御力):4400+3000(鮮血のドレス)

INT(賢さ):2920

AGI(素早さ):6032

LUK(運):20+100(形見のイアリング)


スキル

ユニークスキル

魔王の威圧(自分のレベル以下の相手の能力を全体的に低下)

魔王の魔力(自身の老化停止、自動回復、魔力を防護壁に展開、身体能力の向上)

魔王の拳(武器を持たない場合、攻撃力が倍、素早さアップ)

魔王の直感(索敵、敵意の感知、判断能力の向上、思考の高速化)

成長の花(自身が倒さなくても、経験値を獲得する割合が多い)

通常スキル

王族の作法(まあ、一般的には、あーこの人いい所の育ちだなーって思う感じ?)

炎の魔術LV3

水の魔術LV3

風の魔術LV3

コッセル剣術LV4

コッセル盾術LV2

コッセル格闘術LV5

算術LV3



とりあえず、魔王って前につけりゃいいってもんじゃねーと思うよ?

あと、王族の作法の説明ルナの野郎適当すぎるわ。

日々、ステータスは見やすいように更新してると、メールはきてたが、詳細説明はどうにかならんか?

いや、説明は的確だとおもうけど、文章が俗っぽくすぎね?


しかし、流石魔王。

キユのレベルの凡そ倍か、おうチートだな。

あ、やっぱり、職業魔王ってあるんだ。エルジュの話では確認したことないような感じだったけど、これって史上初?

そんな事を考えていると5kmの一階層を僅か2分で踏破。

えーと、時速で考えると…150km。おうおう、化け物っすなー。

さて、俺の第二階層、迎撃ラインでどれぐらいできるか楽しみだねー。

とりあえず、現地の影武者に入ってお話できればいいかな。




side:デリーユ・ル・コッセル



ワラワはもう幾つの年月を生きたのかわからぬ。

己のステータスなぞ、あの日から見ておらぬ。


ワラワの国は、ある日あっさり、人の欲に、戦に巻き込まれて滅びた。

悲しいかな、ワラワのユニークスキル「成長の花」のおかげで、戦闘で死んでいった兵士、巻き込まれた民、近衛、赤子、女、男……そのすべての経験値がワラワに流れ込んだ。

皮肉な事に、敵国は我が国民を皆殺しすることで、ワラワを殺せなくなった。

気が付いたときには、攻めてきた敵兵はすべて、ワラワの拳で粉砕しておったわ。

お父様に頂いた純白のドレスを血で染めての。


洗っても血の色が落ちぬ。しまったと思ったわ。正しい洗い方など知らぬ。

ワラワを甲斐甲斐しく世話してくれたメイドももうおらぬ。

ああ、これはワラワが背負っていくべきモノか。

結局完全に洗い流せず、そのドレスをそのまま着ることにした。

血を吸っているのにもかかわらず、着心地は前と変わらなかったな。


自分の国の街、村は悉く皆殺しになっていて、腐敗した匂いが漂っておった。

このままでは、アンデッドや疫病の原因になりかねん。

だから、強くなった魔力で燃やし尽くした。

ワラワの国をこんなにした、敵国も血で染めて、燃やし尽くした。


帰る場所を失くしたワラワは、そのまま着の身着のままで、国を発った。

なぜか、食べ物や飲み物を、口にしなくてもなにも問題はなくなっていた。

それから、不等に虐げられる民を助けたり、盗賊を討伐したり、天災であるダンジョンマスターが出現したダンジョンを叩き潰したり。馬鹿な国をつぶしたりした。

そして、気が付いたら、魔王と呼ばれておった。

笑い種じゃの。魔族ではなく人族のワラワが魔王と呼ばれようとは…。

が、そんな事はどうでもよい。

あの時の悲劇を僅かでも減らせるのであれば、ワラワはこの拳を振るおう。


そして、噂に聞いたロシュール国とガルツ国の戦争。

愚かな事を、どうせ領土争いや、欲の皮の突っ張った者の仕業だろう。

そんな事を見逃してたこと自体、国の罪じゃ。

こういう問題は、国のトップ一同の首を挿げ替えるのが一番。

ワラワはそう思って、その国に足を延ばしたが、その時には争いは収まっておった。

ほう、自浄作用がまだあったのか、まだこの国は捨てたものじゃないのう。


そうやって、ロシュール国内をぶらぶらしていると、変な話を聞いた。

曰く、聖女エルジュ様が、ダンジョンを手中に収めたが、そのあとすぐに落命したと。

可笑しな話じゃ、ダンジョンはダンジョンマスターでしか扱えぬ。

制御を奪うなど、できることではない。

まあ、これを知っているのは、ダンジョンマスターを直々に殺したワラワぐらいじゃがな。

なるほど、まだこの国には、害虫がいるようじゃ。

よい、目的もなくなっていたところじゃ、いい暇つぶしになることを祈ろう。


支配の獣を通じで宣戦布告したのはよい。

しかし、なんじゃこのダンジョンは?

今は一階層のはずじゃが、見渡すがぎり壁面までの草原と、一本に続く道。

魔物も何にもありはしない。

とりあえず、奥に階段が見えるので、魔力で飛んで一気にその階層を抜ける。


「わざわざ、ダンジョン内に空を作る意味はなんじゃ?」


思わず口から疑問が漏れていた。

変じゃ、変すぎるダンジョンじゃ。


「ぐひゃっ!?」


そして二階層に降りた時ワラワは地べたに無様に落下した。

久々に変な声を上げてしまったわ。

どういうことじゃ、飛べぬ? いや、魔力が放出できぬのか?

数あるダンジョンを攻略した時に、このようなトラップがたしかあったのう。

この手のトラップは侵入者の魔術を放出系だけ封じられるのだ。

一見とてもよいトラップだが、魔物も魔力の放出ができなくなる。

諸刃の剣ということじゃな。

しかし、体内で身体能力をあげれば良いだけ…。

なに…スキルも使えぬだと!?

いや、違う、ワラワの拳や剣の使い方は忘れておらぬ。

これは、後天的に得たスキルを封じるトラップか?

いや、後天的ではなく、放出するタイプのスキルが無効になるのか。

落ち着いて、身体能力を強化するとできた。

先ほどは、体を覆うように強化したからだめになったのか。


「初めましてかな? 鮮血姫と呼べば良いのかな?」


そんな風に試行錯誤していると、一人の男が…いやこれは魔物か、それがスライムを連れてやってきた。


「ふん、鮮血姫は通り名じゃ。デリーユ・ル・コッセルというちゃんとした名前があるわ」

「それは失礼を。ではデリーユ殿と呼んでも?」

「はっ、いきなり失礼な奴じゃな。家名がある際はそちらを呼ぶのが礼儀だろうに」


そうやってワラワは威圧を飛ばそうとするが、飛ばない。

しまった、放出系は魔力であろうが、スキルであろうが、封じられているのであった。


「黙れよ小娘。いきなり人の家に侵入して、礼儀を守れとは馬鹿か?」

「っつ!?」


なんじゃ、嫌な感覚がしたぞ。

おそらく、この魔物、ドッペルゲンガーでダンジョンマスターの影であろう。

どうせ奥深くの玉座から、見物に来たのだろうと思ったが、なんだこの威圧感は。


「ま、私は貴女とちがって、ある程度わきまえています。名前にも殿をつけますし、ねぇ、デリーユ殿? よろしければ、このままお帰りいただきたいのですが? それとも、争いではなくご訪問で? それでしたら、まだ一般公開は避けていますので、ご遠慮願いたいのですが」

「なにが、一般公開じゃ。それはこの国を侵略するということじゃろう?」

「いいえ違いますよ。ロシュール国からの噂をご存じではありませんか? ここはロシュール国公認ダンジョンなのですよ?」

「馬鹿を言うでないわ。ダンジョンを制御したなどと戯言を抜かしおって、訓練用に適したダンジョンではなく、制御と宣言したのは間違いじゃったな。ダンジョンマスター以外はそのような事ができぬのは実際、ダンジョンマスターを殺したワラワが知っておる。舐めるでないわ!!」


そういって問答を切って殴りかかる。

幾ら、魔術、スキルを封じられているとはいえ、レベル差は埋められない。

こんな魔物さっさと殴り殺して、先へ進もうとおもったのだが。


「なっ!?」


スライムがワラワの拳を止めておった。

どういうことじゃ、たかがスライムごときが、ワラワの拳を止められるはずが…。


「やれやれ、手を出してきたのはそちらが先ですよ。こっちはこんな事したくはないんです。色々面倒なんで」

「ば、馬鹿な!? スライム如きが、幾ら特別変異であっても…こんな、あり得ぬ!?」


スライムが、ワラワの体に絡みついてくる。

なぜじゃ、動けぬ!? 馬鹿な、魔術、スキルは封じられているはず!!

何かをできるわけがない、ならこのスライムがワラワよりも強いとでも!?


「解らないって顔してるな、餓鬼。お前がどんな経験して来たかはしらんが、この程度の事で驚くなよ。世界はもっと広いぞ? ま、そこは置いておこう。とりあえず、呼吸はしなくても生きられるタイプか?」

「なにをっ!?」


そう聞いてきた途端、スライムが顔面を覆ってきた。

窒息を狙う気か!?

核を!! スライムの核さえ潰せれば!!

そうやって、直感だけで核らしき物をつかもうとするが、スライム特有の体液のせいでつかめない!?


「へえ、その状態で冷静に核を探すか。ま、頑張ってくれや」


そのダンジョンマスターの影は感心した素振りを見せるが、大した興味もなく、懐から本を取りだして読み始める。

ば、馬鹿にしおってからに!!

この程度のスライム、一気に魔力を放出して弾き飛ばしてくれるわ!!

そして意識を集中するが発動しない…なぜ…しまった、放出系は封じられているのだった!?


「はあ、そろそろ飽きてきたわ。この程度突破できないなら、これから先の防衛ラインは突破できねえし、近寄る前に粉々だ。もう終わりにしよう。こっちも忙しいんでな。じゃ、やれ」

「ぴきー!!」


スライムの鳴き声が聞こえる。

そすると、ワラワの腕が意志とは関係なく動いていく。

なにが起こっている!?


「一つ、教えておいてやろう。これってボスっぽいだろう? 放出系が封じられているのは身をもって知っているだろう。じゃ、今の君は何処にいるのかな~?」

「!!?」


スライムの体内!?

つまり、ここはスライムの制御下。ここでは、スライムのスキルは使える!?


「はい、じゃお休み」


そうやって、ワラワは自身の拳で意識を失った。



side:ラッツ



相変わらずと言いましょうか。

成り行きを見ていた、私達は茫然としていました。

お兄さんから提供されたステータスはもはや、対抗できるモノなどいるはずもない数字ばかり。

にげるしか方法がないと思っていたのですが。


『はい、じゃお休み』


その言葉とともに、鮮血姫は自分の拳で気絶したようでした。


「お、お兄さん。お見事です。ま、まさか撃退どころか、捕縛してしまうとは…」


画面では、自称四天王達を閉じ込めた特製の檻へ鮮血姫を放り込んでいます。


『いや、落とし穴は空飛んでたし、身体能力もステータスで並はずれてたから効かないと思ってたから、スライムに任せたんだよ。思ったよりも上手くいったね』

「上手くいったどころか、完璧ですよ。……ところで、そのスライムレベルはやっぱりトンデモないんですか?」

『いやーレベルでいうなら82。ステータスで比較するなら、10分の1もないぞ』

「はぁ? いやレベルは十分高いですが、それでは鮮血姫を止めるには至らないと思いますが…」

『ふふふ、そのスライムの名を聞いて驚くがいい!! その名を「スラきちさん」という!!』


……いやどこにもそんな名前は記憶にないですが。


「えーと、その「スラきち」という名前はお兄さんの故郷では凄いのですか?」

『…やっぱわからねーよな。まあ俺の故郷では、最強のスライムと言われる伝説のスライムだ!!』

「えと、レベルが82で伝説ですか?」

『ステータス、見せるよ』


何か悪いこと言いましたかね?



名前:スラきち

種族:スライム族

身分:伝説のスライム(名前による特殊身分・ルナの趣味)・ダンジョンマスターの配下

性別:不明

職業:伝説のスライム(名前による特殊職業・ルナの趣味)・スライムアーミーリーダー

年齢:0歳


Lv.82

HP:1304

MP:3200

STR(筋力):980

DEF(防御力):2230

INT(賢さ):3920

AGI(素早さ):632

LUK(運):45


スキル

ユニークスキル

伝説のスライム(灼熱の○・ドラク○ボディ化・自身の知ってる種類のスライムへの性質変化・スライムスキルの倍化・マダン○)

スライムボディLV5(物理攻撃・魔力攻撃・スキル攻撃を50分の1化・ユニークスキルの倍化で100分の1)

溶解ボディ(任意で発動可能)

体の自由化(ボディの意識的な変形可能触手など)

弱体化(体内に捕食した生物のステータス低下)

気合い(大体なんでもできるようになる回数制限はあり)

ダンジョン管理者支配下の恩恵(ステータスUP)

通常スキル

前からあったスキルを上げたような感じ。

雷の魔術(ライ○イン系)

全魔力解放(まあぶっちゃけ、マダン○)



「ぶっ!? なんですかコレ!? ええーと、100分の1って鮮血姫が倍化で11480ですから、114.8で、スラきちさんが防御力2230って防御抜けねーですよ!?」


気が付いたら、お兄さんと一緒に「さん」付けしていました。

だって、なにこれレベルですよ!?


まあ、このダンジョン下じゃないと、鮮血姫は空を飛んだり遠距離でやられるでしょうが、このダンジョンでは、あのスラきちさんは、あの魔王以上ということですか…。


これは、外の魔物より、スラきちさんに変に手をだすなと、宣言しないといけませんね。

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