第51掘:冒険者の新人?

冒険者の新人?



side:ライヤ



今、俺達はキリスの街で、情報収集、必要な物資、今後必要であろう、準備を行っている。


「ユキ、聞こえるか?」

『おう、聞こえるぞ』

「定期報告だ。予定通り、俺達はキリスの街に到着した。現在は宿を決めて、情報収集を各自で行っている」

『了解。そういえば、キユの事はばれなかったか?』

「ばれてたら、予定通りとは言ってない」

『そりゃそうだ。と、冒険者登録は俺がやるわ。キユは良くも悪くも加減なんて、上手くできないからな』

「頼む。建前上、俺達が保護して、面倒見てやってるから、それなりに注目は浴びるだろう。下手にキユの力を見せてしまえば色々問題が起きる。ところで、そっちはどうなんだ?」

『ああ、それは…長くなるな。そっち行ってから話すわ』


そうやって、コールを切る。

しかし、本当に便利なスキルだな。


「どうでしたか?」

「ええ、ユキが直接情報収集にあたるそうです」

「そうですか、結局彼の力を借りっぱなしですね」


ルルア様は力なく肩を落とす。

まあ、自分の無力さは分からないでもないが、それを悔み続けるのもよくない。


「ルルア様、落ち込む理由などないんです。私は冒険者ですが、一人でなんでもできるわけではない。無論、ユキだってそうです。ですから、彼は色々な人に頭を下げ協力を取り付けているのです。ルルア様はもっとご自身に自信をもっていいと思います」

「そう、でしょうか…」

「大事なのは、これからどう動くかです。冒険者なんて輩は、生き残るためには、泥水を啜って、腐った肉でさえ食べます。しかし、それをできないのならば死ぬしかない状況があり得るのです」

「今がその時だと?」

「さあ、私には他人の命の賭け処などわかりません。しかし、ルルア様は誰の力も借りずに、聖女までに上り詰めたのですか?」

「いえ、そんなわけありません。数多大勢の人達によって今の私があります」

「それと、同じですよ。俺達もユキもその数多大勢の一人です。寧ろユキは良心的でしょう。下手な期待をよせず、自分の取り分をとって、成功すれば、その分要求する。分かりやすいでしょう?」

「確かに…そうですね。なぜ、私はユキさんに、ここまで劣等感を覚えるのでしょう……」


そりゃぁ、まんま能力が違いすぎるからな。

俺達みたいに一度完璧にやられてなけりゃ、その感情は普通だよ。

まだ、どこかで、ユキに勝る所があると思っているんだ。

いや、俺だってあるが、それは対抗心や劣等感からじゃないからな。


「ういーす。まーた、変な事でウジウジしてんな。言っただろう、お前は俺じゃない。ルルアのやりたいようにヤレ。死にそうになったフォローはする。死んだらそれまでだ」


そうやって、中身がユキのキユがのんびり入ってきた。

分かりやすくて、こっちにとってはありがたい。


「ほれ」


ユキは入ってきたとたん、コインを投げて寄越す。

俺とルルア様はそれを受け取る。


「普通の銅貨ですね?」

「ああ」

「おう、それは使わずに持っておけ。どんな時にどう使うかは任せるけどな」

「どういうことですか?」


ルルア様が不思議そうにユキの言葉の意味を聞いてくる。


「そうだな、コヴィル起きろ」


ユキはそうやって、布団で寝ていたコヴィルを起こす。

コヴィルは一緒に行動すると果てしなく目立つので、荷物と一緒に紛れてもらった。

不便だとは思う、でもコヴィルもそれは理解ているらしくて、大人しくしてくれた。

最初の印象とは違って、しっかり考えることができるタイプのようだ。


「ん…? あキユ、ご飯?」

「残念ながら、中身はユキだ。ほれ、名物のドールの串焼きだ」

「わーい、ありがとう!!」

「それと、ほれ。これもっとけお守りみたいなもんだ」

「むぐむぐ、なにこれ? ただの銅貨じゃん。どうするのよ?」

「お前の好きに使え。戦闘の奥の手でも、何かの買い食いでも、浮浪者に恵んでやってもいい」

「ふーん、でもユキからの贈り物よね? 使わないで大事にするわ」

「おう、好きにしろ。と、こういうことだ。ルルア分かったか?」


そうやって、質問していたルルア様に向き直るが…。


「えーと、つまり自分で考えろと?」

「そういうことだな。ここ一番の時に投擲して、目くらましに使ってもいいし、音をだして注意を引くのもいい。コヴィルみたいに大事にするのも一興だ。いざという時の為のお手頃アイテム。お金だってお金として使う必要なんかないからな。特にルルアは、一番危険な場所にたつことになる。そうやって、非武装物を武器として持っておくことをおすすめするぞ」

「……はい。わかりました」


ルルア様は神妙にもらった銅貨を見つめしまう。


「ライヤだって、色々手札はあるんだろう?」

「もちろんだ。槍が使えなくなったら、戦えないなんてのは、素人以下だぞ。大抵、副武装の修練ぐらいしている。まあユキ程じゃないがな」


そんな風に雑談をしていると、情報を集めに出ていた、モーブとカースが戻ってきた。


「おう、全員そろってるな。こっちは色々情報があったぞ」

「こっちも色々ありましたよ」


そろって情報有りか、これは、もうリテアが喧伝してるってことだな。

ユキもそう思ったらしく、ニヤニヤしている。


「へ~、もう情報が色々でてるね~。どんな情報か楽しみだね~」

「…お前ユキか?」

「でしょうね。キユはあんな喋り方はしませんし」

「大当たり~。ま、そこはいいとして、モーブから話を聞こうか」


そうやって、モーブに情報を話すように、ユキが促す。


「おう、とりあえず。俺の方はな、ルルアの嬢ちゃんは、帰国途中で魔物の襲撃に遭い、落命したことになっている。亡骸に関しては見るに堪えない状態だったので、その場で荼毘に付したらしい。証明としては、まあおかしなことに、護衛についていた一人が、生き残って嬢ちゃんの私物を届けただと。で、魔物の襲撃は魔王の仕業って事になっている。まあ、ユキが打った手に乗った感じだな」

「よくまあ、予想通りな事を……つまんねー。で、ルルアが落命したとされる場所は? どうせ、近くに村とかあるんだろう?」

「なんでわかるんだ? まあその通りだけどな。場所はキリスの街をリテア聖国領内にいって、少し外れた村の近くだ」

「簡単だ。ルルアを殺したことにするには、ある程度目撃者がいる。「この遺体はルルア様だー」ってな。まあ真実はどうだろうが、叫べば信じるさ。だって言ってるのが、リテアの兵士なんだからな。これを、リテアの兵士…つまり強硬派だけで、死んでしまったと報告しても…」

「なるほど、ルルア派、あるいは他の勢力を説得するには足りないのですね? それなら、ある程度、ルルア様と見分けがつかない程度の服装をした、偽装を用意して、村という人目が付く場所で亡くなったといって、それを信じさせたわけですか」

「そういうこと、幾ら反対派閥が信じないからと言って、民衆はルルアが死んでしまったと思う。つまり、本物のルルアが戻ってきたとしても…」

「逆に、偽物として処理されるわけですね」

「うわー、なにそれ。頭に来るんですけど!!! ルルアはここで生きてるんだよ!!」


コヴィルは話を聞いて、ルルアに抱き付く。

まあ女性同士だからな、このメンバーは珍しく男が多い。

ああいう風に、仲良くなるのだろう。


「ま、時間がさほど経ってなくて幸いした。これが一か月後なら、色々な意味で面倒だったぞ。まだ相手は完全にリテアを手中に収めてはいない」

「ですが、不利なのは変わりないですか?」

「そりゃな、完全に向こうは後詰状態。作戦は成功したと言っていい状態だ。あとは時間の問題だと思ってるだろうさ」

「大事なのは、どうやって、ルルア様の生存を広め、信じさせ、リテアの中枢に切り込むか…ですね」

「そこは、お前の情報を聞いてから、また詰めようや。と、モーブの情報は終わりか?」


そうやってユキがモーブに伝え漏れがないか確かめる。


「ああ、大まかなところはな。別に、リテア首都では、アルシュテール…だっけ? 嬢ちゃんの跡継ぎが、随分悲しんでいるとか、いまだ死んだのを認めていないって話だ」

「ふーん。ルルア、そのアルシュテールってのは?」

「そうですね。良くも悪くも、熱意のある心の真っ直ぐなお人です。まだ幾分経験が足りませんので、振り回されたりなどが心配ですね」

「まあ、振り回されたルルアが言うならそうだろうな」

「うっ」

「セラリアと話した時と情報は変わらず、アルシュテールの情報は間違ってないとみていいだろう。じゃカースの仕入れた情報は?」


カースはやたら面白そうな顔をしている。

これは、変な事を考え付いたな。


「大まかな話はモーブさんと一緒です。ですが、アルシュテールについては細かい情報を仕入れましたよ」

「へえ」

「彼女が、ルルア様が亡くなった村へ訪問するそうです。そこにルルア様が着けていた物品を確認するという名目で。片や強硬派にとっては、止めの一撃でしょうね。さぞ、分かりやすい。偽物を用意するでしょうね」

「くくくく……」

「ふふふふ……」


ユキとカースがお互い見つめ合って、笑っている。


「リテアの首都、奥深くに籠られたら、面倒だったんだが…」

「ええ、ありがたい事に、わざわざ出向いてくれますよ…」

「向こうは検問をはって、ルルアが生きて侵入するとは思ってないんだな?」

「もちろん、ここはまだ、ロシュール国です。ですから、強硬派は何も問題なく、村へアルシュテール聖女がついて、ルルア様の死を認めると思っているでしょう。近くと言ってももここから、その村は早馬で4日はかかる場所。アルシュテールがリテアを発ったのはおよそ10日前。どうやっても、彼女が先に村につくでしょう。だからこそ、向こうは完全に油断しています。」

「ああ、こっちには便利な乗り物があったな」

「ええ、けた違いの速度の乗り物が…」

「くくくく……」

「ふふふふ……」


だめだ、やばいぞこれは。

男組での頭脳派二人が、悪巧みをしている。

生半可な事では済まないぞ。

ルルアとコヴィルなんか、その雰囲気を怖がって抱き合ったまま震えているぞ。


「シナリオはどうする?」

「そうですね、その村は、ここら辺では新人冒険者が訓練と称するほど、周りの魔物のレベルが低いんですよ」

「へぇー、俺知ってるぞ。新人冒険者に心当たりがある」

「私もあります」

「じゃ、新人を鍛える為に、そこの村に行くのは不自然じゃないよな?」

「ええ、ちゃんとクエストを受けていきましょう。こういうのはちゃんとしておく方が、いいですからね」

「だよなー、手続きって大事だな」


そうやって、二人は椅子から立ち、扉へ歩いてく。


「そうそう、ライヤかモーブどっちかついてきてくれ、カースもついてきてくれるが、お前等のお墨付きってするには、ちょい足りないからな」

「あ、ああ、俺がいくわ」


そういってモーブが、席を立って、ユキとカースを追いかける。



それからしばらくして、ユキが冒険者になって戻ってきた。

カースの予定通り、その村のクエストも受けてきていた。


だが、モーブの顔はすぐれなかった。


「俺は、為政者なんて絶対やらねえ。あんな気持ちの悪いものを見たのは初めてだ…」


何を見たのかと聞けば、受付の際、ユキとカースのやり取りが問題だったらしい。

いや、聞いた話は何も問題がない。

しかし、それがユキとカースだというのが問題だった。

モーブの再現を聞けばこうだ…。


「すまない、この子を冒険者登録したいのだが」

「はい、あら。カースさんじゃないですか!? モーブさんも!? ライヤさんはどうしたんですか?」

「いや、ライヤさんは宿でのんびりしてる」

「そっかー、よかったです。カースさん達ってガルツ国でしょ? ロシュールと戦争になったって聞いたから…」

「まあ、なんとか無事だったよ。と、すまないが、彼の登録をお願いしても?」

「ごめんなさい、つい。こちらに記入をお願いします」

「はい」

「へぇ~、ちゃんとしっかり文字かけるのね。カースさんこの子は?」

「……その戦争での被害者だ。何とか助けたんだが、そのあと、懐かれてな。筋も悪くないようだし、ここに連れて来たわけだ」

「…それは、君大変だったのね」

「…いえ、僕はカースさん達に助けられましたから。だから、いつか強くなって、カースさん達みたいに、俺みたいな、困ってる人を、助けてあげられるようになればって思って」

「今時珍しいぐらい、真面目な子ね。でも、無理は禁物よ。ちゃんとカースさん達の言うことを聞いて、しっかり生きなさい。それがきっと、君の願いにつながると思うわ」

「はい、ありがとうございます!!」


ここら辺から、モーブは話を聞くのをやめたそうだ。

……うん、鳥肌ものだな。

特にユキ、お前は変わりすぎだ。

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