第49掘:訓練相談

訓練相談



side:ユキ  本名:カズヤ・トリノ



「みなさん、よく聞いてください。これから案内する4人部屋についてですが……」


現在、エリスが妖精族のみなさん。57人に説明を行っている。


「はぁ~、ここは凄いのですね。ユキさんはどうして、このような道具や知識を?」


長老、ナールジアさんは感心したように、説明用のパンフレット(手作り)を読んでいる。


「それは、ここでは答えかねます。里のみなさんを案内し終えてからということでよろしいですか?」

「あ、すいません。色々、珍しかったものでつい。でも、色々と大変なようですね。私に使っている言葉遣い、わざと2種類で分けていますか?」

「おや、お気づきで?」

「ええ、一人称が俺だった時は、ユキさんがマスターとして振る舞ったとき。今はダンジョン運営者の一人で一人称が私。違いますか?」

「その通りです」


長老は、かなりできるような人だと思う。

わざわざ使い分けてた言葉使いに気が付くとは。普通は、まだ慣れていない運営者として認識されると思うのだが。


「ふふふ…。心配しなくても大丈夫ですよ。マスターとしての側面を知らない人は、無礼か、あるいは慣れていないと思われるでしょう」

「顔に出ていましたか?」

「いえ、なんとなくそう思っただけです」


そんな風に、一番後ろで会話をしていると、エリスの説明が終わったようだ。


「では、みなさん。部屋の説明は以上です。不便かとは思いますが、4人一組を作ってください。尚、ご家族で4人以上の場合は言ってくれれば、こっちで布団を追加いたします」


うん、作ったマニュアルに沿って上手くいっているようだ。

大事だよねマニュアル。

まあ、色々問題はあるだろうから、調整は必要だろうけどな。


「長老、部屋はどうされますか? ご希望とあらば、個室を案内いたしますが?」

「本来は、里の皆と同じ場所を要求するべきでしょうが、ユキさん達のお話など、色々あるでしょうから、個室をお願いいたします。しかし、直ぐに他の皆の部屋に行ける場所が良いのですが…」

「はい、それは勿論です。4人部屋の管理として、個室が2つ用意してあります。そちらへ案内しましょう」


と、現在の場所は居住区の3階層。

集団訓練施設の一棟、右端の居住区スペースだ、左側は訓練スペースとなっている。

実際は、3階建てとかにしたかったんだが…。


「ちょ!? お兄さん、このコンクリートとかでも、許容値限界なんです!! これの3階建てとか易々つくらないでくださいな!! 説明が大変になります!!」


とラッツやエリスの猛反対を受けた。

この大陸では、余程の金持ちか、貴族でない限り。2階建て、あるいは3階建てなんてないそうだ。

わざわざ、移民者のために作るものでもないし、変な所で技術力を見せられても説明に困るそうで、泣く泣く1階建てのコンクリ施設になったのだ。


で、居住区の4人部屋は2段ベットが、両サイドに2つ。

あとは、軽いリビングとキッチン付き。無論小冷蔵庫もあり。

トイレ、お風呂は別。

ん~、なんて説明したものか、学校の校舎を作り変えたようなイメージかな?

一棟に約300人収容可能。つまり、4人部屋が75部屋はある計算だ。

あと、訓練官の個室があったりして、まあ色々だ。


そんな事を考えていると、エリスの案内が止まる。


「はい、こちらの右手の区画をお使いください。特に部屋で変わりはないですが、好きな部屋を使ってください。早い物勝ちではありますが、あまり酷い喧嘩になりますと、その部屋は使用禁止にいたします。では、お選びになってください。ああ、人族ベースになっていますので、サイズが合わないのはご容赦してください」


エリスが言い終わると、妖精のみんなは我先に、あるいは4人一組で部屋を選んでいった。


「部屋を選ばれましたら。先程、ゲートを潜った場所に、荷物が置いたままですので、運び込んでください」


さてこっちも案内しますかね。


「長老のお部屋はこちらです」

「ご丁寧にどうも」


個室は数が少ないので、必然的に、妖精族がいる近くになり、選ぶことはできない。


「ここですね。まあ、さっき聞いての通り、人族用にしてありますので多少不便でしょうが…」

「いえ、大丈夫ですよ。ほら」


長老が、魔力を使って浮かび上がり、キッチンにあっさり手を伸ばしたり、コップを浮かせて取ったりする。

はぁ~、便利なもんだ。


「このクローゼットに服や、多少の荷物は置けるでしょう。使ってください」

「本当に便利ですね~。こんなのを各部屋に用意を?」

「ええ、移住者をここに一旦入れて、ダンジョンの生活に慣れてもらう為なんです」

「なるほど。一旦ということは、別に住む場所も?」

「はい、用意してあります。仕事場も、娯楽施設も、色々ですね」

「はぁー、凄いですね。と、すいません。私物を出すので…」

「と、失礼いたしました。外でお待ちしています」


俺はそう言って、部屋をでる。

廊下では、ゲート部屋から、色々荷物を運びこんでいる妖精族であふれている。

その中で様子を見ているエリスが目に止まる。


「おーい、エリス。そっちはどうだ何か困ったことは?」

「いえ、特には。ユキさんが行っていたマニュアル通りです。逆にこれがなければ、色々前後したり、抜けたりして大変だったと思います」


エリスの持っているマニュアルにはチェック項目があって、やることを間違って前後しても分かるようにしている。


「強いていうなら、トイレが妖精族にはサイズが合わないことですかね」

「あー、しかし、わざわざ作り直すのはな…」

「ええ、これから永住するというなら、合わせて作り変える必要はありそうですが…」

「まだ、訓練所だしな。他に移動するかもしれないから保留だな」

「はい。ですから今日のところは、マニュアルの予定通りです」

「ま、無理に詰め込んでも仕方ないからな。明日はダンジョンの運営目的、訓練施設の案内、お風呂の使い方。仕事に関しての説明かな?」

「ですね。仕事の説明に関しては触るほどでしょうね。ダンジョンの運営目的、お風呂の使い方を覚えてもらうのが大事かと」


マニュアル予定では、基本的に7段階に分かれている。


1段階・人数管理、身分証の発行、居住場所への案内、居住内道具の説明。

2段階・運営目的の説明、訓練施設の案内、お風呂の使い方、仕事の軽い説明。

3段階・娯楽施設の案内、使い方、仕事の本格的説明。

4段階・ダンジョン施設の案内、仕事場の見学。

5段階・本人の希望での仕事の割り振り、訓練所の本格的指導が開始。


ここまでが、大体1日1日でこなしてく予定。


6段階・訓練期間

7段階・訓練期間終了、居住区へ引っ越し、本格的な住人として行動を開始。


6・7段階は時期は未定。

奴隷達は自分を買い戻す期間もあるから、長期化する可能性もある。


「あ、そうか。今回は奴隷じゃないのか…」

「そうですね。そこは色々と予定がずれそうですね」


そうやって、話し合っていると、長老が部屋からでてきた。


「お待たせして申し訳ありません」

「いえ、大丈夫ですよ。こちらこそ、申し訳ないのですが、これからの事でご相談があるのですが、よろしいでしょうか?」

「ええ、構いません。ナナ、ちょっといいかしら?」

「はい。何でしょうか?」


長老が、俺がコヴィルと一緒に助けたナナを偶然呼び止める。


「私はこれから、ユキさん達と今後の事を話し合います。皆には大人しくしているようにと、伝えてください」

「はい、わかりました!! ……えーっと、貴方はユキさんでしょうか?」

「…あれ? よくわかったね? 君を担いでる時は気絶してると思ったけど?」

「あ、あの私、魔力で人の判別ができるんです!! そ、その助けていただいてありがとうございます!! 貴方の回復魔術とても暖かったです!!」


顔を真っ赤にしてお礼を言ってくる。


「いや、まて。治療をしたのはルルアだが?」

「はい、大半の怪我を治してくれたのはルルア様ですが、ユキさんは継続してリジェネをかけてくれましたよね?」

「おお、ばれてる」

「やっぱり、かけてくれてたんだ。どうもありがとうございます!!」

「ナナ、お礼が終わったのなら、さっきの事頼めるかしら?」

「あ、すいません!! すぐ行ってきます!!」


ナナはそう行ってすぐに妖精族のみんなに声をかけて回る。


「エリス、他の皆は?」

「今、先ほどの訓練室Aに集まって反省会をしています」

「なら、そこで会議もやってしまおう。長老、よろしいですか?」

「はい」


そして、長老を連れて訓練室Aに行くと…。


「だぁあぁっぁぁぁぁ!! 写真撮る時間なんてなかったんですよ!! 明日に押し込んでください!!」

「はいはい、ラッツ落ち着いて。明日はそういうことも含めてゆったり時間を取ってるでしょう? トーリ達はなにか問題あった?」

「いえ、妖精族の方達は協力的でしたので、誘導などに特に問題はありませんでした」

「すごいよねー。魔力で空を常時飛んでるよ。たまに街とかで見かけたけど、話す機会なんてなかったからねー」

「…私の、アイデンティティーが崩れるわ」


大人組はそうやって話し合っていて、子供組は…。


「おにぎり、美味しそうに食べてくれたねー」

「です。たまごふりかけが人気でした」

「美味しいものね」


微笑ましい会話をしている。

あ、エルジュとオリエルは待機な。


「うーす。みんなお疲れ様。ある意味いい予行演習になっただろう?」

「…お兄さん、もう夜添い寝してくれないと、私はダメです」

「とりあえず、問題なく進んでいます」


ラッツとミリーが代表して答えてくれる。

まあ、ラッツはなんか違うけどな。


「今後の事について、妖精族の長老を連れて来た。予定を話して、妖精族へ問題がないか確認してもらおうと思ってる。いいか?」

「とてもいいと思います」


ラッツが答えると、みんな同じように頷く。


「私が、妖精族の長老。ナールジアと申します。この度は、私達を受け入れていただき、感謝の念に堪えません。そして、これからの事で協力できることがあれば、仰ってください。できうる限り協力させていただきます。確認したいこともありますので」

「じゃ、みんな席についてくれ。長老に一旦説明をする」



そして、3時間程かけて、現状と、今後の方針をあらかた伝える。


「…なるほど、このマニュアル、それに訓練用の教科書、ですか? 素晴らしいですね。DPの使用権限まで与えるとは、本当にここは、ユキさんを中心とした王政を取るつもりは無いのですね」


長老は説明をあらかた理解していた。

やっぱり、生半可ではない。


「はい、ですので。お兄さんは基本運営の一人として参加します。長老はよろしければ、妖精族代表として、私達の運営に参加していただきたいのですが」

「むしろ私から参加を願いたいですね。下手に、今いる妖精族の皆から私をのけて選出しても、問題が起きるでしょう。今度のせんきょがいつになるかわかりませんが、それがあるまでは私が代表で行きたいと思います」

「それでよろしくお願いします。と、次の問題なんですが、今は金銭がダンジョンには僅かしかありません。ですので、労働してもらっても対価が支払えない状況なのですが…」

「それについては、私達は保護を受けている形です。しばらくは無料奉仕で問題ないでしょう。あと5日もすればロシュール国の援助が到着するのでしょう?」

「はい、予定ではそうです。ですが、まだ到着してないので確約するというわけには」

「なるほど、その場合は鍛冶施設を使わせてもらって、ある程度、品物を上納という形にしましょう。それをどこかで売り払っていただければ、ある程度金銭は稼げると思います」

「ふむふむ、では次の……」


そうやって色々細かいところを詰めていく。

現在の時刻22時。

ああ、こりゃ日付こえるかな?


「お兄さん、なにボケーっとしてやがりますか!? 押し倒しますよ!!」


ラッツに怒られた。

俺悪いかね?

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