第48掘:冒険を中断します
冒険を中断します
side:ユキ 本名カズヤ・トリノ
「はい、ナールジアさんですね。こちらのカードが仮の身分証になります。このケースに入れておきますので、首から見えるように下げておいてください」
ミリーが、一番最後のテーブルについていて、身分証の発行を行っている。
「どうだラビリス? 俺の鑑定にも偽物や、嘘を言っている人は見当たらないが」
「ええ、私の目にもその手の類はいないわ」
俺とラビリスで、身分証発行場所で手伝いをしながら、本物かどうかの確認をしている。
なにせ、ドッペルゲンガーや魔術なんてあるんだ、変化されて入り込まれたらたまらない。
「でも、身分証? だったっけ? 面白いことを考えるわね。確かに、その人がどこの誰だかわかるのは保証につながるわ。いままでは、診断の水晶で軽く名前とレベルを知るぐらいだったのに」
「あとで、写真もつけて完璧な身分証にするけどな。このカード、魔力が本人のじゃないと名前が浮かび上がらない。つまり偽造しても…」
「名前がでないわけね。写真もあるし、二重の意味で防犯になるわね」
「さらに、発行日。つまり身分証を作った日はこちらで記録する。身分証を精巧に、ゼロからマネしたとしても、記述でばれるわけだ」
「…えげつないわね」
そんな会話をしながらも、俺達二人はお互いの顔を合わせることはせず、周りの確認をしていった。
「あの、少しお話ししてもよろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょう?」
殆どの確認が終わった時に、長老が話しかけてきた。
仮の身分証も受け取っていて、ステータスと違いなく、ナールジアと書かれている。
しかし、妖精族は凄いな。平均のMPが1000以上だ。ナールジア長老に至っては7000もある。
これだと、ほとんどの魔術は打ち放題だろう。
…しかし、一時間のDP吸収率は約100分の1。つまり、一時間、長老だけで70DPも入る計算になるのだ。
ぐっふっふっふ、MSやAC納入が近づいてまいりましたよ。
「そろそろ、荷物の運び込みは終わるのですが。向こうにいる、自称四天王の二人はどうしましょうか?」
「あれ? ナールジアさん、俺がユキだってわかったの?」
「ええ、ある程度、魔力が読めますから。ご心配なく、他言は致しません。他の皆にはばれていません」
流石、妖精族というところか。コヴィルには俺の事は誰にも喋るなよって言っておいたんだが。
心配だから、あとで指定保護して口に出せないようにしとこう。
「あの自称四天王ね~。どうするほうがいいと思います?」
「私に意見を求めるのですね。…では失礼をして、捕虜にするにしても、殺すにしてもどっちもどっちだと私は思います」
「理由を聞いても?」
「捕虜の場合のメリットは今後、魔王軍の情報や、魔王の国内の事情がうかがえるでしょう。デメリットは情報が嘘の場合や、このダンジョンで脱走されたら被害甚大ということですね。殺す場合は、メリットとしては、自称四天王に人手を割かなくてよくなる事。デメリットは、彼等が本物の四天王の場合、魔王軍に標的と認定されてしまうでしょう」
ふーむ、とりあえずダンジョンの各代表…ラッツ達と話す必要はあるな。
「殺すのはいつでもできます。なので、一旦彼等をここの地下牢に閉じ込めることにします。処遇は急ぐ必要はありません。再度しっかり協議いたしましょう」
「はい、わかりました。なるほど、「本当に運営を」行っているのですね。貴方御一人の判断でしてしまっては不味いのですね?」
「ええ、ここのみんなは俺を手伝ってくれているんですよ。俺一人でできることなんて、たかが知れてますからね」
「…今の悪意のない言葉だから見逃すけど、不用意な言葉は吐かないようにして。ユキを馬鹿にされたら、ユキが笑っていても私が殴るわ」
ひざ上に来たラビリスがそんな事をいいながら、長老を睨み付ける。
「失礼を致しました。決して、貴方の大事な人を、貶したり、貶めようとしたわけではありません。私も里の皆の命を預かる身。そこはご理解ください」
「…わかってるわ。だから、今後は気を付けて頂戴」
「ええ、わかりました」
ありゃ、ラビリス相手に丁寧な物腰だな。この長老、もしかしてかなりできる人なんじゃね?
ラビリスの容姿に表情一つ動かさず、しっかり対応したよ。
「と、長老。荷物の運び込みが終わっているなら、そっちで向こうにまだ人が残ってないか、確認と点呼を頼む。あのゲートとダンジョンは荷物の運び込みが終わったらすぐに潰す」
「なるほど、私達がダンジョンに逃げ込んだと、分からないようにするためですね?」
「ああ、あそこには少なからず、誰かが寄るはずだ。そこに色々痕跡を残すのはよろしくない」
そういって、長老が里のみんなの確認に行ってる時に、コヴィルがこちらにやってきた。
「ねえ、ユキ? 私ってこっちに残ってていいの? ルルアとの約束があるんだけど?」
「いや、コヴィルはルルアたちについて行ってもらう。真面目にルルアの件は、色々大変なんだ」
「そっか、うん!! 私がんばるよ、任せなさい!!」
「まあ、一旦長老と話を通そう。コヴィル悪いが、ルルアをこっちに呼んできてくれ。モーブ達は引き続き、ゲートとダンジョン入口の警戒だ。これをモーブ達に渡してくれ、日本酒とつまみだ。無理させてるからな」
コヴィルはルルアを呼びにゲートをくぐっていく。
それと入れ替わりに、長老がこちらに戻ってくる。
「申し訳ありません。一人、貴方方と一緒にいたコヴィルがまだ向こうにいるようなのです」
「ああ、すみません。彼女には先ほど私から、仲間の一人をこちらに呼ぶように頼んだんですよ」
「そうですか。それはよかった。では、全員ちゃんと身分証をもって、こちら側にコヴィルを除いて無事きております」
「そうですか。なら、エリス。みんなを一旦、訓練室Aへ連れていって、部屋の使い方の説明してくれ」
「はい、わかりました。では、みなさん。一旦荷物はそこにおいて、私についてきてください。これから使う部屋について説明がありますので。長老様よろしいでしょうか?」
「はい、よろしくお願いします。皆さん、彼女の言うことに従ってください。ここの道具は、私達も見たことのない物ばかりです。しっかり説明を聞いて、迷惑をかけないようにしましょう」
長老のOKがでて、妖精族の人達はエリスについていった。
「おーい、ルルア連れてきたよー」
みんなが出て行ったあと、コヴィルがルルアを連れて戻ってきた。
「コヴィル。ユキさんからの勅命とはいえ、私に一言、言ってください。心配します」
「う、ごめんなさい長老」
コヴィルは長老に怒られてる。
そして、ルルアは不思議な表情でこちらを見ている。
「ユキさん、なぜ私はこちらに呼ばれたのでしょうか?」
「いや、コヴィル以上の偉い人がいるわけだから、そっちと話すべきだろう? ルルアの問題は、コヴィルより長老に頼ったほうがいいからな」
「なるほど」
ルルアも納得したのか、長老とコヴィルに向き直る。
「問題ですか。そういえば、ユキさん達は目的があり、旅をしていたとか。理由を教えていただけますか? お力になれることでしたら、協力は惜しみません」
「うん。みんなを結局、助けてもらったしね!! 私は約束は守るんだよ!!」
「嬉しい言葉だが、今回の件はちょっと複雑でな。俺の指定保護を受けるなら、理由を説明できる」
「指定保護とは?」
長老の問いに、みんなに話したように指定保護は、奴隷と違うことや、制約、特権、ダンジョンにおける実力行使の不可などを伝える。
「なるほど。ユキさんにとっても、私にとっても、問題はありませんね。私は指定保護を受けたいと思います」
「私も私もー!! その、コールっての使ってみたい!!」
思ったよりもすんなり、指定保護を受け入れてくれて、ルルアの説明をする。
ま、ルルアの説明をするということは、このダンジョンの目的も話す事になるんだがな。
とりあえず、簡単に伝える。
「それは、確かに。簡単に言える内容でも、協力を求められる事でもないですね。寧ろ、今回の件がなければ断っていたでしょう」
「それでは?」
「はい。ユキさん、ルルア様には、私達は命を助けられたも同然。惜しまず協力をしたいところですが…何をすれば、リテア聖国にとって牽制になるか測り兼ねています。私が直接、リテアに赴くのは里の皆がここにいるのでさけたい」
「ですね。詳しく話を詰めない事には、上手く妖精族が付いてる事を利用できないです」
長老もルルアも難しい顔をしている。
「俺から提案をだそう。コール機能でいつでも連絡が取れる。それで詳しい話は詰めればいいし、長老。エリクサーを3つと、ある程度譲っても構わない武具を一つ、二つくれないか?」
「普通なら断るところですが、エリクサー一個で白金貨150枚はするんですよ? とりあえず武具はともかく、エリクサーの使用方法を言ってください。流石に簡単に渡せる代物ではないのです」
「運が良ければ一個も使わない。まあ、一個は本物であると証明するために、使う可能性が高いだろうな。その本物のエリクサーにコヴィルがルルアを支持するような事を言えば…」
「そういうことですか、私達妖精族が本当に、ルルア様を支持すると証明することになるのですね」
「そういうこと、まあ細かい事は煮詰める必要はあるけどな。よければ分けてくれないか?」
「……わかりました。ルルア様にお時間がないのは理解しました。しかし、エリクサーは貴重な物。こちらが、そちらに渡すのは二つとしていただきたい。代わりに、武具を4・5個ほど多めに渡します」
「だってよ、ルルアどうする?」
「長老、貴女の寛大な御心に感謝いたします!! ありがとうございます」
ルルアは涙を流してお礼を言っている。
まあ、当然だな。下手すれば協力を得られない可能性だってあったんだ。
「ルルア様、顔を御上げください。私達、妖精族をそのような時に救ってくれてた事、感謝しております。ですが、こちらの事情とはいえ、ルルア様の要望に完全に答えられなくて申し訳ない。コヴィル、貴女もアイテムボックスは持っていたわね?」
「うん、持ってるよ」
「貴女に、エリクサーと武具を預けます。ルルア様についていくのが、貴女なのは心配ですが、適任もいません。ルルア様の力になるように」
「まっかせてよ!! ばばーっとリテアで暴れて、ルルアを苛めてたやつ追い出してやるんだから!!」
そう言って、長老がアイテムボックスからエリクサーと武具を出して、コヴィルに渡す。
「じゃ、ルルアはコヴィルと一緒に向こうにもどれ。時間は里の住人が無事な分、結構時間食われたからな。こっちは俺達で何とかなる。キユには車でしっかり飛ばせって言ってある」
「はい、わかりました。でも時間を喰ったといっても一日ですが」
「それでも、一日遅れている。時間との勝負には変わりない。協力は得られたが、まだまだ事は終わっていない。安心するなよ」
そう言うと、ルルアは引き締まった顔でうなずいて、コヴィルと一緒にゲートを潜る。
「お優しく、お厳しいのですね。ユキさんが前面にでれば、すべて片がつくでしょうに。それでもルルア様が、ご自身で成す事に手助けしていらっしゃる」
「そこら辺も、事情があるんですよ」
「そのご事情も、後でお聞かせ願えますでしょうか?」
「ええ、もちろん。では、私達も他のみんなと合流しましょう」
そういって、その場を離れる。
『おーい、キユ。そっちにルルアとコヴィルは来たか?』
『はい、兄さん。お二人は間違いなくこちらに』
『よし、ならダンジョンとゲートの取り壊しにかかれ』
『あれ、自称四天王はどうしますか?』
『あ、それはこっちに放り込んどけ。あ、ダンゴムシ改もこっちに入れてといてくれ』
『了解。それが済み次第。取り壊しにかかります』
さて、これで旅は一旦お預けかな。
キユがいれば、向こうは何も問題ないだろうし、はぁ。結局、俺の冒険は二日で終了したってことか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます