第46掘:妖精族の事情

妖精族の事情



side:モーブ



なんというか…もう疲れちまった。

色々な意味で。


俺達は今、国境の街、キリスを目の前に歩いている。


「なあ、アイテムボックスに道具だけでもいれようぜ…」


そう、希少で便利なアイテムボックスがあるのに、なんでわざわざ荷物を個人個人で持たにゃならんのだ。

あの、マローダーはともかく、荷物までわざわざ持っていく必要はねーだろ。

トロール討伐の理不尽から、まだ2時間程。

時間的にはダンジョンでたのが、9時ぐらいだったから…えーと、コール画面を開いて時計を見る。

16時。おうおう、たった7時間で国境の街までついたのかよ、もうスゲーよ。


「バカいうなよ。アイテムボックス持ちは希少なんだろ? そんな人物がいたら目を付けられる。あと、俺がいなくなったらどうするつもりだ。アイテム全部パーだぞ、必要最低限の個人携帯品はもっとけ」


ぐ、ユキの奴が正論を言ってくる。

ち、ユキ相手には基本口で勝てる気がしねえ。


「しかし、距離は大体時速70kmで7時間として、約490kmか、タコメーター見とけばよかった」


おうおう、その距離の単位は知っているが、それまで算出できるのかよ。

お前、どこの坊ちゃんか学者だよ?


「ねぇ、ねーえ!! なんであのクルマ?に乗っていかないのよ!? ナナだってまだ完治してないのよ!!」


ユキの周りには、トロールの群れから助けた妖精族が飛び回っている。

羽もねーのに、なんで飛べるんだって聞いたら「私達は魔力でほぼ構成されてるからね。人族とは色々違うのよ」なんて小馬鹿にされて返された。

ま、じゃなんで飛んで逃げなかったんだよって言えば。「友達見捨てて逃げられるわけないでしょ!! このバカおっさん!! それで動きが鈍ったのよ!!」

それでまあ、色々とあのクソガキと言い合いになった。

娘もアスリンも、あんな風にはならないように、しっかりとみておく必要があるな。


「さっきも言っただろう。あの車に乗っていくと騒がれる。そして、コヴィルとナナなんて、珍しい種族連れてたらますます目立つ。ナナは俺が背負ってるし、お前はもう飛べる程、回復してる。俺達はお前等を助ける為にしたわけじゃない。ついでだ、ついで」

「むっきっーーーー!! 私達妖精族よ!! もうちょっと、優しくしても罰は当たらないわよ!! エンチャントされた武具欲しくないの!? エリクサーは!?」

「エリクサーはよくわからんが、さっきまで乗ってる車以上の移動できて、頑丈で、魔物をひき殺せる便利なモノでもあるのか?」

「ぬぐぐぐぐ…」


そう、こんなやかましい生物、妖精族じゃなけりゃ捨ててるわ。

ユキに噛みついている、14・5歳の女の子を60cmぐらいにそのまま縮めた感じ、赤髪サイドテールの…スタイルはいいんだろうな、一応出るとこは出てる。

が、なんつーか、基本サイズが違いすぎて食指もうごかん。

しかし、こんなところで妖精族と出会うとはな…。


「あれが、各国で手出し無用って言われてる種族かよ…」


俺が一人呟くと、聞いていたのかライヤが返してくる。


「まあ、彼女は彼女だ。全員があんな感じではないだろうよ。彼女達、妖精族は、基本その高い魔力で森の奥深くに住んでいて、独自の文化を築いている。もっとも有名なのが、エンチャントされた武具とエリクサーだな。あれは、彼女達が一番優れているともっぱらの噂だ」

「そうですね。過去何度か、妖精族の里を捜索や支配、拉致を試みた権力者はそのどれもが、妖精族に叩き潰されています。それでその地域や国は、エンチャント武具、エリクサーの輸出が止まって国が傾く大損害を受けたとか。そんなことがあって、妖精族は基本、手を出すな。とまで言われているのです。奴隷などにも絶対にいません。今回のように助ければ恩を感じて、多大な恩恵を受けることを、狙うのが正しいです」


カースも説明に加わってくる。

そんな話だっけ? 俺としてはあんまり興味ねーや。


「そういえば、エリクサーって万能薬みたいなもんだよな、コヴィル?」

「そうよ!! 余程でなければ、完全回復する優れものよ!!」

「お前、エリクサーもってなかったのか?」

「バカね。エリクサーがそんな簡単に量産できるなら、私達はこんなところに逃げてないし、里が魔物に押しつぶされることもなかったわよ!!」

「へー、コヴィルから聞けば、妖精族は、余程魔術が達者なんだろう? それが負けたのか?」

「知らないわよ、変な魔物がきて魔術が効かなかったんだから。ギリギリ自分が脱出できるぐらいの魔力まで撃ち尽くして、ダメだと思ってナナを連れて逃げたのよ。そのあとは、そっちの知っての通り。逃亡の途中で、トロールの群れに不意打ち食らって、右も左もわからない状況で逃げてたの」


コヴィルがユキに、ここまで来た理由を説明している。

なるほど…しかし、魔術が、しかも妖精族の高レベルの魔術が効かない魔物?


「…そんな魔物いたか?」

「…いや、効きにくい魔物はいるが、効かない、無効なんてのはいないはずだが」

「ユキのダンジョンの特別製ならあるでしょうが。まあ、それはあり得ないでしょう。そもそも妖精族すら知らなかったわけですし。とすると、これはユキの冗談が本当になったというべきですかね」

「どういうことだ?」

「ユキは今回の騒動を魔王の仕業として、争いの矛を収めました。しかし、今彼女達の話を聞けば、魔物が妖精の里を襲ったと、つまり、その特殊な魔物は、魔王の配下で意図的に里を狙ったとみるべきですね」

「ははあ~。魔王にとっちゃ、従わない妖精族は目の上のタンコブだからな。つぶす意味はあったわけか。しかし、偶然ってのもあるんじゃないか?」

「ええ、でも、最悪を考えるとって奴ですよ。偶然ならそれに越したことはありませんよ」


それもそうか、魔王が実際攻めてきたら、ボーっとするのは勘弁だしな。


「な、なんでよ!! 私達の里を救ってよ!! あのクルマでばーっと轢いちゃってよ!! 簡単でしょ!!」

「バカだろ。コヴィルお前の里は森の中だろ。どうやってあのバカでかいクルマを入れるんだよ」

「うぐっ」

「あと、こっちは急いでる。治療はしたし、コヴィルとナナを無事にキリスの街まで送っている。手助けが欲しいなら、冒険者ギルドでも頼れよ。妖精族の里救出だろ? 友好関係はどこでも結びたいようだし、余程じゃない限り、実質無料で手助けしてくれると思うぞ?」

「あんた以上に強いやつなんてそうそういないわよ!! わかってるんだからね!! あのクルマも驚いたけど、人族のくせに内包してる魔力が異常よ!! 私達よりも数倍は感じるわ!! なんでよ、そんなに急ぐ用事なの!? いいなさいよ!!」

「それは言えない」

「むっきーーー!!」

「バナナ食うか?」

「サルじゃないわよ!!」


いや、俺もサルだと思ったぞ。

つか、バナナまで持ってるのかあいつ…無駄なアイテムボックスの使い方してやがんな。

しかしよくもつな、俺ならあの金切り声は耐えられん。


「…はぁ、ルルアどうする?」

「え?」


いきなりユキが聞き手に徹してたルルアに声をかける。

どういうことだ?


「え? じゃねーよ。ここの現場指揮はあくまでも、ねーちゃんの弟の俺だけど。方針を決めるのはルルアねーちゃんだ」

「私ですか?」

「そう、だってこの旅は、ねーちゃんの為だからな。どうする?」

「え、そこの女の人がリーダーだったの!? ユキがリーダーとばっかり思ってたわ。ねぇ、お願い!! 里を、里を助けてよ!!」

「……正直にいいます。私は、貴方達の里を助ける余裕はありません。しかも、襲われて、ほぼ壊滅状態。これは救出ではなく…壊滅の確認作業になる可能性が非常に高いです。コヴィルさん、魔術が効かなくて押されているのは分かったんでしょう?」

「……うん」

「私達は旅を急いでいます。コヴィルさんが、納得する為の行動に付き合っている余裕はありません。キリスの街で冒険者を募ってください。ユキさんの言うように、多くの人出が集まるでしょう。私達が手助けする場合は、私達だけで手助けをすることになります。今、私達が注目を浴びることは、避けなくてはいけませんから」

「……理由は、いえないんだね?」

「はい、簡単に話していい内容ではありません」

「……ひっく、みんなぁ、ごめん、ごめん。わだじ、みんなをだずけられない…」


ルルアはハッキリと拒絶を示すと、コヴィルは地面に降りて泣き始める。


「ふむ、ねーちゃん。少し俺の話聞いてくれないか?」

「なんですか?」

「妖精族の協力を得られれば、旅の目的は達成しやすくならないか? 数多の国から手出し無用と、言われるほどの妖精族だ。それを連れて支持を得られているなら、攻撃、防衛、政治、色々な意味でねーちゃんに手出しが出来なくなると思う。ここまでの旅が、予定よりも早い行程で進んでいる。ある程度、寄り道をしても余裕はある。万が一、妖精族の里が壊滅してても、そこのアイテムや、最低コヴィルが味方に付いてもらえるなら、相応な成果になる。いい手札になると思うぞ?」

「しかし、早く着いた方が…!!」

「そうだな、早い方がいいとは思うが。結局、向こうですぐ行動を起こせるわけでもない。どっちもどっちって感じだ。ああ、釘を刺しとく、これはあくまでも、提案だ。「ルルア」が最後に判断しろ」

「…わかりました」


ルルアの嬢ちゃんの表情は複雑だ。そりゃ、一刻でも早くリテアに戻りたいだろうからな。

でも、ユキのいう通り。上手くいけば、いい手札が手に入ることになる。


「コヴィルさん、貴女に提案をしましょう。先ほどユキさん…弟が言った通り。私達が手を貸す場合、里が全滅していても、アイテムは私達のモノ。コヴィルさん本人は私達についてきて、目的を達成するために協力してください。あ、言いましたが、目立ちたくはありませんので、手伝うのは私達だけです。嫌なら、このままキリスの街で、コヴィルさんの思うように動いてください」

「ふぇ?」

「泣いていないで答えてください。私達は言っての通り時間が惜しいのです」


嬢ちゃんは睨み付けるように、コヴィルに返答を促す。


「わかったわ。私はルルア達の旅に付き合う!! だから、里をお願い!!」


コヴィルも涙をぬぐって、立ち上がり、ルルアに頭を下げる。


「さて、キリスの街はお預けだな。マローダー出すから、それに乗ってある程度楽するか」


ユキがマローダーを出して乗り込む。

おいおい、ここまで歩いてきたのは無駄足かい!?


急がば回れってやつかね?

いい方向に転ぶといいんだが…。

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