第45掘:人身事故?
人身事故?
side:ユキ 本名:カズヤ・トリノ
「行ってきまーす」
そう言って、ダンジョンの出入り口にいる皆に手を振る。
「行ってらっしゃい、お兄さん。これを機会に、この大陸をよく見てきてください。きっと、色々役に立つはずです」
「ダンジョンの仕事は任せてください。ユキさんの手を、あまり借りないように頑張ります」
「なにか、美味しそうなお酒があれば、よろしくお願いします」
「お気をつけて、そのお体は偽物でも、私は心配です」
「僕の言った通りにすれば、冒険者は問題ないからねー!!」
「…行ってらっしゃい。気を付けて」
「お兄ちゃん、私は…ついていきたかっだでず~~!!」
「兄様、武器屋とか、防具屋とか、なにか鍛冶の見本になるものを!!」
「…体の事は任せて。ちゃんと下のお世話もできるから。…気持ちよくなっても問題ないわ」
まずい、ラビリスに俺の本体、喰われちゃう。
「ラビリス。帰ってきたら、ちゃんとするから、それまで我慢してくれ」
ラビリスの手を握って、結婚式場をイメージし、ウェディングドレスを着たラビリスを想像する。
そして、それからの初夜イメージもぼかして伝える。
「…!? 任せて、ちゃんとしておくわ」
よし、説得成功。
因みに、俺の本体は布団で寝てる。
新陳代謝は普通にしてるので、トイレの時やご飯の時は、こっちはオートモード…っていうのも変か、ドッペルゲンガーの元の性格で動く。
といっても、元の性格も俺に長い間憑依されているせいなのか、俺に近い性格になっている。
腹違いの弟がいたら、こんな感じなんだろうな。って思える性格だ。
「エルジュ様。治療施設の件は書類にまとめてあります。最後までお手伝いできないくて、申し訳ありません。ですが、私がリテアに戻れたのならきっと…」
「はい、ルルア様もお気をつけて。私は大丈夫です。きっとまた、お会いできると信じております」
「ルルア様の願いが果たされることを祈っております」
ルルアもエルジュ達と別れの言葉を交わしている。
「あ、モーブおじちゃん達も無理しちゃだめだよ!! 私やフィーリアちゃんと遊んでくれるって、約束したんだから、ちゃんと帰ってきてね。…行ってらっしゃい!!」
アスリンが忘れ去られているモーブ達に声をかける。
モーブ達は一緒驚いた顔をしていたが、直ぐに笑顔になり。
「おう、約束は守る!! 色々お土産も買って帰るからな!!」
「…帰る場所が、できた…か」
「これは是非、約束を果たさないといけませんね」
そうやって、アスリンに言葉を返す。
しかし、なんか長引いたな。これはもう一度締めに言うべきか。
「よし、もう一回言うか。せーの…」
「「「行ってきまーす!!」」」
「「「行ってらっしゃーい!!!」」」
そして、勇者は旅にでた。
いや、ダンジョンマスターですけど。
詳しくは、ドッペルゲンガーですけど。
初めての旅立ちって、勇者のイメージしかありません。
おら、わくわくすっぞ!!
テンションが高いのが分かる。
偽物とはいえ、初めてのお外!! 異世界のお外!!
ま、30分もしたときには、変わり映えのしない風景に飽きてしまったんだが。
しかし、この大陸。日本とは大分違うようだ。
だって、見渡す限り平原って、日本じゃ見ねーもん。
近くに森はあるけど、山はかなり遠目に、青みがかって見えるぐらい。
「とりあえずだ、近場の村か街にいって、馬を調達しねーと一か月はかかるぞ」
モーブは落ち着いた俺を見てそう言う。
「ああ、そこら辺は心配するな。俺のアイテムボックスから乗り物だす」
「あ、アイテムボックスは、生き物入れられないだろ?」
「いや、生き物じゃねーし」
歩き飽きたので丁度いいだろう。なんか、青い猫型世界征服兵器の真似をしたくなる。
まあ、あのイメージである物を取り出す。
「じゃじゃ~ん。ハマーを超える。C4でも壊れない史上最強の市販車。マローダー!!」
最近ネットで見たんだ。約4000万円だと。
勿論、防弾ガラス。装甲は厚い。予備のタイヤも二個完備。
さらに、対弾用の専用タイヤ。並の乗用車なら踏みつぶせます!!
オフロードもお手の物。まさにこの未開の大陸に便利な代物!!
でも、お高いんでしょう?
いえいえ、今ならなんと3万DPです。
あ、因みに、俺のドッペルのレベリングは5万DPほど使った。
あれー、持ってたDPって、50万DPちょいじゃなかったの? って言いたくなるでしょう。
世の中、虚偽報告ってのは必要なんだよ。
まあ、みんなが来る前に使ったからセーフ!!
「さあ、乗るべ、乗るべ」
なんとなく、田舎くさく言ってみる。
「……これは、乗り物…なのか?」
予想通りの反応だな。
「そうだぞ。つかモーブ、ガラスの部分を全力で、剣で斬ってみろ」
「は? 壊れるぞ?」
「いいから、そうすればこの乗り物の便利さが分かるから。ライヤもカースも槍と魔法で色々やってみてくれ」
「俺もか?」
「流石に魔法は不味いだろう」
「いやいや、お前らの攻撃で、壊れる程度なら乗っても意味ねーよ。だから全力でやってくれ。ルルアもやるか?」
「いえ、私は遠慮しておきます」
そうやって、ストリートファイ○ーⅡのボーナスステージが始まる。
まあ、壊せない車両だから、ボーナスポイントは入らないが。
…10分後…
「な、なんだ。このガラス!? こ、こわれねぇ…どころか傷一つ、つけられねぇ」
「この変な車輪はなんだ…突きが通らないぞ…何でできてる」
「……エクスブロージョンまで耐えるのか…。ありえん」
3人とも息が上がっております。
うむ、色々魔術で底上げしてるけど、塗装もはがせないとか、怖いわー魔術。そして、マローダー。
「よし、耐久性は大丈夫みたいだな。さあ、みんな乗り込めー」
そうやって運転席へ俺は乗り込む。
…あれ? よく考えりゃ、俺しか運転できなくね?
しまった助手席でのんびり出来ねーよ!?
「…おい、奥に行ってくれよ。そこが乗り場なんだろ?」
「…いや、三か所開くぞ」
車という概念がないと、色々通じない物が多いな。
説明を兼ねて、二方と後部を開く。
「荷物は、後ろに放り込んどけ。座るのに邪魔にならない所に置いとけよ」
「馬車みたいな感じか?」
モーブ達は後部座席に乗り込みながら、そうつぶやく。
まあ、馬車の進化型ってのは、多分間違いじゃない。
「あ、カースはこっちの助手席にきてくれ、道案内がいる」
「わかった」
カースが助手席に乗り込む。
「…なんだ、この椅子は。…乗り心地が良すぎる」
そりゃ、木造の馬車と比べるなよ。
「しっかし、ユキ。こんな鉄の塊が動くのか? いや、動いても早いのか?」
「そこはまあ、見てろ」
そうやってエンジンをかける。
因みに、エンジンは鍵ではなく、指紋と魔力認証です。
最先端と、魔術の合体セキュリティ!!
「と、ドアは閉めたか? 鍵かけるからな」
いきなりドアを開けられても困るからな。
こっちの操作で鍵をかける。
「…この変な凹みが鍵の役割をしているんですね」
ルルアがオートで動いた場所をみて、鍵の確認をしている。
「開けるなよ。今から動くからな」
注意を促して、アクセルを踏む。
車体がゆっくり動き出す。
うん、エンジンや、車体のダメージは本当になにもないようだ。
「うおっ。動いたが、この速度じゃ…」
モーブが不満を漏らす。
「じゃ、速度あげるぞ」
時速10kmからやく40kmぐらいまで上げる。
これ以上は、地面がしっかりしてないと横転しそうだからな。
「なっ、はやっ!?」
「凄いな」
「…これは、一週間もかからないかもな」
「凄いですね。景色をしっかり見ながら、安全に移動できるなんて」
運転してるだけでは暇なんで音楽をかける。かけるのはトップ○ンのテーマ「Danger Zon○」個人的に運転とかにぴったりではないでしょうか?
「なんだこの音!?」
「いや、音楽。暇だからかけた」
「なんだよ、かけたって? お前が弾いてるのか?」
「なわけねーよ。コールとかの応用だ。音を記録して流す機能がついてんだよ」
「はぁー、贅沢だな」
いや、これがないと、長距離運転死にますからね、退屈で。
しばらくのんびり運転をする。
現在の時速70km。えーと、大体他県には、小一時間で脱出できる速度じゃねーかな?
道路交通法なんて、ないのがいいね。オフロードだから多少がたつくけど。
「で、カース。お前はこれに乗って、どこの村か街に寄るべきだと思う? ああ、近くに行ったら勿論降りるぞ。これから大事起こそうってんだ。わざわざ目を付けられる真似はしない」
「…そうだな。この速度なら、このまま直進して、小規模な街がある。キリス街だな。そこはロシュール国とリテア聖国の国境近くだ。そこで一旦徒歩で、関所を越えて、リテアに入る必要がある」
「関所を越える為に必要なのは?」
「基本的に金だ。他には厄介な事は特にない。…しかし、予定ならキリスまで早馬でも四日はかかる。なのに、こいつだと…今日中につきそうだな…」
カースが呆れ気味に、流れる景色を見ながらいう。
「なあ、ユキ。こいつ休ませないでいいのか?」
モーブが後部座席から声をかけてくる。
「いらねえよ。こいつの本気の速度はまだ上だ。あとこれ生き物じゃねーから、休憩なんていらね。むしろ、冷えるほうが問題だ」
「マジかよ。すげえ便利だな」
「そっちは適当に飲み食いしてろ。お昼は回ってるだろ」
「そうだな、こっちは適当に食わせてもらうわ」
モーブはそう言って、引っこんでペットボトルを引っ張りだす。
「おい、流石に酒はやめとけ」
「ばか、ライヤ。黙ってろって!!」
あの野郎。酒なんかペットボトルに仕込んでやがったか。
「流石に飲むな。一応魔物も出てくるんだろう?」
「ああ、ここらは主要街道だからな。強い魔物は排除されているが、盗賊や弱い魔物はでる。モーブさん、とりあえずやめてください。ユキも…素人ですから。一応」
「どこが、素人だよ」
「いや、俺ってお外初めてだし?」
「はっ、俺は酒飲んで寝る」
あら、見た目は15歳のいたいけな少年。
モーブ達の打ち合わせでは、俺はモーブ達に助けられ、その強さに憧れて、ついてきているってことになっている。
ルルアは俺の姉設定で同じくモーブ達についてきている。変装済み。
「ねーちゃん。お茶頂戴」
「…はっ!? 私の事ですよね!? 凄い違和感が…」
「茶頂戴」
「は、はい。どうぞ」
後ろからお茶が差し出される。
適当に、片手運転しながら蓋をあけて飲む。
「器用なものだな」
「慣れればカースにもできる」
あ、何台か馬車とかにすれ違って驚かれたが、まあ基本アイテムボックスに隠すから、気の毒だが周りからは信じてもらえないだろう。南無。
そんな風にのんべんだらりと、異世界運転サファリツアーを3時間程したことろで、カースが何かに気がついた。
「10時方向。森の際に…トロールが5・6体いるな」
カースの奴はゴブリンの訓練をみて、時計方向の意味を理解していた。スゲーな。
で、その方向をみると…。
「おお、確かにあれはトロールだな。3メートル級に…5メートル級までいやがる。大物だな」
モーブもその方向をみてトロールを確認する。
「どうする? このまま無視もできるけど?」
「こっちは急ぐ旅。とはいっても、このマローダーのおかげで尋常じゃない速度です。どっちでもいいのでは?」
「5メートル級か、モーブと俺とカースで討伐に小一時間はかかるぞ。まあ、聖女やダンジョンマスターがいるから、時間はそんなにかからないだろうが」
マローダーを止めて一旦会議をするが、どっちでもいいんじゃね? って判断だ。
「きゃぁぁああああ!! くるな!! くるんじゃないわよ!!」
トロールの群れから女の子の様な声が響く。
「…あれ、人見えたか?」
「いや」
「……いや、なんか小さい人が見える。子供…にしてはなんか変だな?」
「…!? ユキ、助けることを推す。あれは妖精族だ!!」
「えっ!? 妖精族ですか!? なんでこんな所に、姿を現してるんですか!?」
とりあえずエンジンをフカして、アクセルを踏み込む。
距離的に、速度は60kmまで乗ればいいか。
「みんなシートベルトしとけ!! 一気にトロールを潰す!!」
「は!?」
「降りて戦わないのか!?」
「…まさか」
モーブ達が青ざめた顔をする。
「そりゃ、あの程度の質量生物。速度が乗った車でペチャンコですよ?」
トロールさんは見た感じデブの棍棒もち。あれだドラク○のトロールに近い。
まあ、それでも5メートル。しかも、鉄塊でもなく四輪でもなく二足歩行。
足を狙って、マローダータックルを敢行。
時速60kmの鉄塊の威力を見よ!!
「だれかぁぁぁああああ!!」
よく見ると、その妖精族の子はもう一人誰かを抱えていた。
まあ、クラクション鳴らして、トロールの注意をこっちに引いて彼女達への注意はそれた。
そして、リーダー格のトロールは、この世界初。
自動車事故で亡くなった生物になった。
「え?」
彼女の視点では、横から来た変な物に、ぶっ飛ばされるトロールって感じだろう。
くの字に、人体…いやトロール体って曲がるんだ。
衝撃はそこまで来なかった。魔術の衝撃緩和ってすげーな。
これ、迫撃砲とか戦車砲の衝撃もしっかり軽減できそうだな。あとで考えよう。
トロールさんは、そのまま血まみれになって、わざわざこっちが踏みつぶす必要もないぐらい弱っていた。
残りのトロールも全員撥ねていった。ごめんよ。人を撥ねるってこんな感じかね?
所要時間わずか5分。
思わず「ストライーーク!!」っていった俺は悪くない。だってボウリングみたいだったんだもん。
一匹ほど、タイミングよく棍棒らしきものをマローダーに当ててきたが、はじかれた。
まあ、装甲車並ですからね。生き物が出せる力で、壊すのは無理じゃね?
とどめに、横たわったトロールさんの頭を丁寧に踏みつぶして掃討完了。
「ひ、ひでえ理不尽を見た」
「…これで城攻めでもするのか?」
「こいつを止めるには何が必要なんだ?」
「……あの、リテア首都で乗らないでくださいね? ね?」
乗っていたメンバーのほとんどが、不満の声を上げているが無視する。
さっさと、妖精族の女の子の前に車を進める。
「ひっ…!? いやっ、こ、こないで!?」
彼女は気絶している?もう一人を庇うように抱え、後ずさる。
まあ、こっちは正体不明で、トロールを撥ねて始末した物体だからな。
とりあえず、車から降りて彼女達に声をかける。
「こちらに、敵対の意思はない。信用できないのであれば、直ぐに立ち去ろう。そちらが許してくれるのであれば、治療等をしたいのだが…どうする?」
事務的に言葉を並べる。
どこかのヒーローみたいに、一々、犬猫拾って世話焼いてる暇はないのだ。
まあ、モーブ達の会話から、珍しい種族らしいから、なんとか引き込めたらなーとは思う。
「あ、え? 人族?」
彼女は混乱しているが、落ち着くのを待つ必要もない。
寧ろチャンスだ。
混乱しているときに、相手の考えがまとまる前に、こっちが行動を起こせば…。
「すまない。一々質問に答える時間も惜しい。俺達についてくるなら治療を、嫌ならすまないが、置いていくことになる」
「え、え?」
「わかった。これから君達の道に、幸運があることを祈ろう。では…」
俺はそう言って背を向ける。
そう、こんな風にすれば、余程じゃない限り…。
「ま、まって!! ついていく!! ついていくから!! この子を助けて!!」
心理的にこうなる。
彼女の心理状態では、こっちの事はトロールを一瞬で倒して回った、得体のしれない化け物だ。
そして、降りてきてこっちが、彼女達の治療をしようと善意を見せる。
化け物から降りてきた人族が、いきなり治療といっても、彼女の判断能力はパンクしている。
そして、俺は時間がないと、考える時間制限をつける。
彼女に与えられている情報は「トロールを倒した」「結果的に助けられた」「得体がしれない」「治療をする」「嫌なら手出しはしない」「時間がない」だ。
この情報に彼女的な善悪の判断を付けるとすれば…。
・トロールを倒した これは「善」
・結果的に助けられた これも「善」
・得体がしれない これはあえて「悪」
・治療をする 当然「善」
・嫌なら手出しはしない これば微妙「善」「悪」どっちもあり。
・時間がない 彼女にとっては「悪」だが、判断不能で「無」だな。
評決結果「善」が4。「悪」が3か2。
ある程度良識な判断ができるのであれば、彼女は手を伸ばさざるを得ないわけだ。
逆に伸ばさない場合は、近くに彼女達の村や、それに準ずる何かがあると考えるべき。
反応が無く、ただ茫然や否定するなら、俺にとっても、これからの旅路の邪魔になるだけだから、いらない。
彼女達が希少種族であろうが、手を取り合わない者と仲良くする気は基本ない。
そんな事を考えながら、彼女達を抱えて、後部座席で茫然としているルルアに渡す。
「治療を頼む。さて、トロールの討伐証明部位ってどこだ? さっさと、取って移動しよう」
茫然としているモーブ達の尻を蹴って、戦利品の回収をして、再び俺達は目的地へ走り出す。
「いったい。何がどうなってるのよ!?」
後部座席で治療を受けていた、妖精族の女の子が叫び声を上げる。
さて、いい暇つぶしができたかね?
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