第44掘:ドッペルゲンガー

ドッペルゲンガー



side:アスリン



今日もお兄ちゃんと一緒に、色々頑張ってきました。

ご褒美にお兄ちゃんは、大好きなイチゴアイスを晩御飯のデザートにくれました。


「美味しいね~。ね、ラビリスちゃん」

「そうね」

「美味しいです。兄様!!」


昨日はラビリスちゃんが、エリスお姉ちゃんの頬をぶったりして驚いたけど、きっと何か理由があると思う。

だって今、イチゴアイスを食べてるラビリスちゃんは、こんなに優しいんだもん。

エリスお姉ちゃんも、よくわからないけど、私達に謝っていた。

なにも悪いことは、してないと思うんだけど。


だけど、今みんな仲良しだからいいかな。

美味しそうに晩御飯を食べてるもん。


うん、晩御飯を頑張って作ったかいがありました!!

ここ数日、お兄ちゃんに色々キッチン? の使い方を教わって、美味しい料理を作るためにべんきょーしてたんだから!!

でも、これから色々、算数? とかお勉強しないといけないんだって、難しいけど頑張る。

お兄ちゃんもみんなも喜んでくれるよね?

ラビリスちゃんが言ってたもん。「いい女は色々できるもんだ」って。だから私はいい女に成る為に頑張ります。

いい女になって、お兄ちゃんのお嫁さんにしてもらって「ピー」して「ズギューン」して「バキューン」もらって、赤ちゃん作るんだ。

まだ、体が大人っぽくないから、お兄ちゃんは私にせいよくは感じないみたいだけど、すぐにラビリスちゃんみたいにバインバインになるんだから!!


そんな事を考えていると、ルルア様がみんなに聞こえる大きな声で話し始めた。


「みなさん、聞いてもらえますでしょうか」


その声でみんなの目がルルア様に集まる。


「私は…リテア聖国に戻りたいと思います。保護してくれと、勝手な事をいい、それを受け入れてくれたみなさんに対して大変失礼かと思います。ですが、気がついたんです。私は、まだリテアの民。そして聖女だったのです。たとえ、死んででもリテア聖国の間違いを正す必要があるんです。どうか、ここを出ていくことを許してください」


難しい事はよくわからないけど、ルルア様はリテアに戻りたいんだよね? なら戻ってもいいと思う。

私達と違って戻る場所があるんだから、そっちの方がいいに決まってる。


でも、みんな黙ったままです。

ミリーさんはとても怖い顔をしています。なんでだろう?


「ねぇ、お兄ちゃん。ルルア様には帰れる場所があるんだよね? 帰れるなら、帰ったほうがいいよね? みんなきっと心配してると思うんだ」


私はそういって、お兄ちゃんの袖を引っ張ります。


「そうだな。アスリンの言う通りだ。みんなはどうだ?」


お兄ちゃんは、私の頭を撫でながら、みんなに聞きます。


「いえ~、本人が行きたいのなら、止める理由はありませんね」

「それが、自分自身の納得のいく答えなのであれば」

「……これでお荷物がなくなって精々するわ」

「ルルア様のお顔は、覚悟を決められています。止めるだけ無粋かと」

「僕は止めないよ。要るのは自分の意思って決まってるんだ」

「…特にないわ」


みんな、ルルア様が帰ることに賛成してくれました。

でも、仲良しだったエルジュお姉ちゃんは少し寂しそうです。


「ルルア様。でも、それでは…」

「エルジュ様、それはダメです。ルルア様はルルア様の生きる道があるのです」

「エルジュ様。私が死ぬ確率は高いでしょう。しかし、やらねばならないのです。誰に任せてもいいわけではない。私が聖女になった意味は今ココにあると思うのです。大丈夫です。無策に行くわけではありません」


「え!? ルルア様死んじゃうの!? ダメだよ!! せっかく仲良くなれたのに!! お兄ちゃん助けてあげられない!?」


ルルア様から「死ぬ」という言葉が聞こえて、私の目から涙があふれてくる。


「そうだな。せっかく助けたのに、あっさり死なれても困るな。どうだろう? 俺の提案を呑むなら、手助けしてやらないこともないけど?」

「お兄ちゃん!! ルルア様にいじわるしちゃだめ!!」


普通に助けてあげればいいのに、お兄ちゃんは意地悪をいいます。


「アスリン、大丈夫。ユキはルルア様を守れるように、お話をしているのよ」

「そうなの?」


私はラビリスちゃんにそう言われて、お兄ちゃんの顔をみます。


「……はぁ、アスリンがこんなんだから直球でいうぞ。復権に成功したら、このダンジョンへの侵攻はやめてもらう。そして、外交で援助をしっかりしてもらうぞ。というか、死なれたらこっちの計画がパーだから、護衛と奥の手持っていけ」


お兄ちゃんは降参したように、手をあげてルルア様に手助けをすると言ってくれました。


「…ええ、復権できれば、それは勿論です。ですが、誰を護衛に? そして、この状況はどのような手を使っても、簡単にはひっくり返りませんよ?」


ルルア様は、お兄ちゃんのお話が信じられないように目を真ん丸にしています。


「まあ、そう驚くな。なにもルルアの護衛だけが目的じゃない。色々だよ」


お兄ちゃんは、悪戯を考えているような顔つきになります。

私はこの顔とても好きです。

お兄ちゃんの悪戯は、みんなが笑顔になる悪戯なんです。

私達に、アイスクリームを初めて食べさせてくれた時のような、そんな顔。


「まず、護衛は情報集めもかねて。モーブ、ライヤ、カースに行ってもらう」

「おう、任せとけ」

「久々に長旅か」

「わかりました」


お兄ちゃんがそう声をかけると、モーブおじちゃん達が声を返します。

おじちゃん達はとても強いです。これならルルア様も大丈夫です!!


「そして、奥の手。というか、色々手札を持っている奴を紹介しよう」

「え?」


ルルア様が分からないって顔をしています。

私もわかりません。だって、人間はここにいる人達しかいないもん。

じゃ、あの強くて優しいゴブリンさん? それか、ぷにぷにのスライムさん?

あ、きっとアレだ!! とても強そうだった、ぶらっどみのたうろすのミノちゃんだ!!


「どうも、初めまして」


お部屋の扉が開いて、一人の男の人が入ってきます。

見た感じ、お兄ちゃんよりも年下。だって身長小さいもん。

髪の毛は金髪。でも、なんとなくお兄ちゃんににてるかな?


……あれ?


「お兄ちゃん…だよね? あの男の人」


みんな初めて見る人に警戒してたけど、私の言葉で驚いた顔をする。

だって、だって、あのお兄ちゃん。動きとか、雰囲気がお兄ちゃんそっくりなんだもん。


「ありゃ、ラビリスじゃなくて。アスリンが見破っちゃったか」


目の前のもう一人のお兄ちゃんは、そう言いながら私の頭を撫でてくれます。

ん、この撫で方は間違いなくお兄ちゃんです!!


「…どういうことでしょうか?」


ルルア様が、本物のお兄ちゃんを睨みます。

だけど、本物のお兄ちゃんは目をつぶったまま動きません。


「あ、もしかして、ドッペルゲンガーですか!?」


エルジュお姉ちゃんが、思い出したように声を上げます。


「正解」


お兄ちゃんは褒めるように、ぱちぱちと手を叩きます。

私も同じように叩きます。


「エルジュお姉ちゃんすごーい!!」

「うん。うん。お姉ちゃんはすごいのよ!!」


私は、エルジュお姉ちゃんに抱きしめられて、グルグル回ります。

最近はエルジュお姉ちゃんと一緒にねたり、お兄ちゃんと一緒に寝たりで色々です。


「さて、説明しようか。まずは、ドッペルゲンガーについてだ。モーブ達が一番魔物には詳しいかな? 知っている事を言ってくれるか?」

「あ、ああ。本当にお前ユキなんだな。わかった。ドッペルゲンガーってのは、特殊な地域や、特定の難易度以上のダンジョンに生息する厄介な魔物だ。大体、トラップなどで、仲間がバラバラになった時に入れ替わって、不意打ちをする嫌な敵だ。だが、このドッペルゲンガーは、姿を形をまねるだけで、記憶まではまねられない。普通、そこに潜る人なら、相棒の違和感ぐらい気が付くからな。それで対処が可能になる。戦闘力については、ある程度、変身した元の人物の動きは出来るようだが、それまでだ。冒険者ギルド的な討伐ランクは…4ぐらいだったかな?」

「うん、それで間違いないよ。僕もドッペルゲンガーとやりあったことあるし。そこまで強くない魔物だよねー」


うん、ドッペルゲンガーさんは真似るのが得意な魔物さんなんだね。

あれ、でもお兄ちゃんのドッペルゲンガーさんは全然にてないよ?


「ふむふむ、そっちの認識はそんなもんか。ではこっちが調べたドッペルゲンガーの特性を教えよう。結論から言えば、レベルさえ追いついていれば、完全な模倣、変身が可能だ。つまり、記憶も完全に複製できる。しかし、あえてそれをしない。個人としての記憶まで複製したら、大抵裏切る。というか、完全に複製するから、自身が魔物ということも忘れてしまう。だから、あえて記憶を複製させないようにしているんだと思う。そうだな、万が一、モーブよりもレベルが高い偽物ができて、それがしっかり働くとどうなると思う?」

「いや、便利なんじゃないか?」


モーブおじちゃんが便利だといいます。

私もそう思う。だって私よりも強いんだから、手伝ってもらえれば楽だし、きっと楽しいよ?


「モーブ、逆にお前よりレベルの低い、使えない偽物がいたらどうする?」

「そりゃ、邪魔になるなら始末…そういうことか」

「そう、偽物が本物になり替わろうとするだろうな。ま、偽物といっても、本物より性能のいい本物だからな。わざわざ、いつまでも下についてる理由もなければ、手を取りあう理由もあまりなだろう。いままで、ドッペルゲンガーと仲良く暮らしているって話は聞いた事あるか?」

「いや、ねえな」

「だろうな。お前の偽物の場合。本物のお前に、ライヤやカースを取られてるわけだからな。偽物といっても完全な模倣だ。余程の精神力がないと耐えられんだろうよ。仲間だと思ってるやつに、偽物だと指をさされるのはいやすぎる」

「ああ」

「まあ、これが完全模倣をしない理由だ。わざと記憶面の模倣を排除して、単一の命令を与えるのが便利な使いかただな。モーブが言ったように、成り代わって侵入者を排除せよ。ってな。命令で、完全模倣後も指揮下に置けないこともないが、元の記憶がある分、色々不安定になるだろうな」


よくわかんないけど。私よりもつよい偽物の私がいたら「あなたはお兄ちゃんにふさわしくないわ!!」っていって私を押しのけようとするのかな?

ん~、私だったら仲良くできそうなんだけどな~。


「そして、もう一つの機能で、ドッペルゲンガーは意識の憑依…ってわからないか。直接操作ができるようになるんだ。しかし、操作してる間は、本物の俺はあの通り動けないけどな。エルジュの偽物もこうやって演技したわけだ」

「はあ、なるほど。しかし、その姿は? ユキさんとはかけ離れていますが?」

「それは考えれば簡単なんだが、ドッペルゲンガーは何でも模倣できる。つまり、好きに部位を変身させられるんだ。まあ、まったく同じ体のほうが、違和感なく動かせるけどな。この体、俺より小さ目だからな。レベル上げの時苦労したよ」


へー、お兄ちゃんはその違う体を動かせるんだ、すごーい!!

あれ? でもそれって、この違うお兄ちゃんが来たってことは…。


「も、もしかして。そのユキさんが、奥の手なんですか?」


ルルア様を驚いたように目を丸くしている。


「いやいや、この体はあくまでも手札の一つ。奥の手ってのは手札の一つ。いつ切るかで効果がちがってくるからな。この体なら、殺されても問題ないし。ダンジョン側が関わっているとばれない。モーブ達は基本情報集めのみだな。ルルアがリテアで動くときの主な護衛は俺がやる」

「ちょ!? しかし、聖なる場所で、魔物だとバレれば私の立場が危うくなります!!」

「まあ、それもわかるから、陰ながらって奴だな。ちょいと試しに、なんか聖なる魔術で魔物を暴く技とかないの?」

「ありますが…」

「やってみてくれ、それを浴びてばれるなら陰ながら。ばれないなら直接護衛になろう」

「しりませんよ? 聖なる光よ、魔の姿を暴きたまえ!! ライトシャワー!!」


ルルア様がそう魔術を唱えると、綺麗な光がこの部屋全体にあふれます。


「ん、なにも問題ないな」

「なっ!?」

「まあ、理由は色々あるけど、まず考えられられるのがレベル差かね?」

「レベルって、一体いくつなんですか!? 私だってアークビショップの44なんですよ!? これでもリテアの上から3番目なんですから!?」

「あー…、うん。色々すまんかった」


お兄ちゃんはそう言って、ドッペルゲンガーさんのステータスを見せてくれます。



名前:ユキ

種族:ドッペルゲンガー

身分:魔物 憑依中

性別:男

職業:興味を満たすもの

年齢:0歳


Lv.238

HP:6020

MP:23200

STR(筋力):2740

DEF(防御力):1400

INT(賢さ):6920

AGI(素早さ):3032

LUK(運):120


スキル

まあ適当に色々



「お、お、お兄ちゃん凄いです!! 伝説の勇者様みたい!!」

「おー、ぶっ飛んでるな。流石ダンジョンマスター。よくまあ、以前の人族は、ユキ以外のダンジョンマスターに勝てたな」

「な、な、どうやってそんな…伝説のレベルに…」

「いや、みんなと合流する前時間が空いてさ。自分のダンジョンを、ドッペルゲンガーで攻略してみたんだよ。もちろん、トラップ無しのガチバトルでな。育てたメンバーはもちろん使わないよ。レベルの上昇の仕方とか見たかったし、こう普通にゴブリンとかと戦闘したり、無抵抗のドラゴンを、高威力の武器で殺してみたりしてたら、こうなった。いやーおもったより、あっさりレベルってあがるんだなー。倒した魔物から何かを吸収する感じだな。だから、ラビリス達も経験は伴わないだろうが、レベルだけなら極端にあげられるぞ?」


へー、なら私も、直ぐにレベル100ぐらいにして、強くなれるのかな?


「……私の人生は一体何だったのでしょうか…」


なんか、ルルア様が落ち込んでる。どうしてだろう?

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