第38掘:狼娘も活躍する

狼娘も活躍する



side:トーリ



初めましてトーリです。今回は私の視点で、ダンジョン運営のお話を進めていこうと思います。

そうは言いましたが、現在ユキさんが議題にしている住人達のお部屋についてはラッツさん、エリスさん、ミリーさんが主体で、あまり私達獣人族や、子供達は参加できていません。


私としましてもユキさんに感謝していますので、なんとかお手伝いしたいのですが…あまり頭がよくありませんので、こういった事は不得手です。

こう、体を動かす事は得意なのですが。


「ねえ、トーリ。僕達も何か言ったほうがよくないかな? ユキさんに使えないって思われるのはいやだよぅ」


猫人族のリエルが猫耳をぺたんとさせて、私に相談してきます。

彼女も彼女なりにユキさんの手伝いをしたいのでしょう。


「うーん…でも、エリスさん達がしっかり話しているし…私達、なにかいい案いえるかな?」

「…でも、でも…僕は腕っぷしでなくても、お手伝いしたいよ。ユキさんだけじゃなくて、エリス達だけに任せるのは違うと思うんだ」


リエルの言っていることはよくわかる。ユキさんは適材適所って言って私達には私達に相応しい活躍の場があるから、ここで活躍できなくてもなにも問題ないと。

そういいつつも、会議に参加させてくれて、私達に意見を言える場をくれているのだ。

だからこそ、こういう時にお手伝いできないのは、悔しい思いです。


「ねえ、カヤは何かいい案ない?」


そう言ってリエルは今までのんびりココアを飲んでいるカヤに声をかけます。

カヤは狐人族で私達とは違い魔術を主体とした戦いを得意とするタイプです。

なにか別の視点から、いい案がでるのではと私も期待を持ちます。


「…ない。もう、個室を用意するつもりで話がまとまってる。ここは下手に口出すと、話が振り出しに戻る」


カヤは余り喋るのは得意ではないみたいだけど、話はしっかり聞いてるみたいで、部屋にかんしてはこれ以上口を出すべきではないという考えのようだ。


「カヤもダメかー。でも、僕は個室もいいと思うけど、ここのみんなとなら、別に何か恥ずかしい事とかあまりないんだよな~。特にトーリとカヤって獣人族だしねー。変な事しても、習性って納得してくれるでしょう?」

「…私もそう思う。だけど、個室のほうが便利がいいのは確か。この写真は自分の部屋に飾っておきたい。…宝物」


リエルの言うこともわかる。実際今まで一緒に過ごしてきたのだ。別に文句はない。

だけど、カヤの言う通り。先ほどユキさんにもらった写真は個人の部屋に飾りたい。

私とユキさん、私とリエルとカヤ、私とみんな、私とアスリン…。

色々だ、これをみんなと一緒の部屋に飾るのは迷惑だろう。

なにせ私の写真だけで、10枚はある。これを、間違っても捨てられたり、クシャっとされたら怒りそうだ。


「う~ん、でもさ、僕達はこうやって、自分の個室だけで保管したいものがあるから、個室のほうがいいんでしょ? ここに初めて来る人はそうじゃないんだし…」

「…それは、ユキが言った。これから個人で色々買い物とかしてもらって、個室の便利さを味わってもらうって」


リエルはみんなでいる部屋も捨てがたいようだ。

あれ? そういえばアスリン達も個室に一人でこれから暮らすのだろうか?


「あの、ユキさん。聞きたいことがあるんですが」

「ん、トーリなんかいい案があるのか?」

「いえ、個室を私達にもくれるって言ってたじゃないですか。それってアスリン達もですか?」

「ああ、当然だ。アスリン達も一室ずつあるぞ」

「それって、もう、アスリン達と一緒に寝ないってことですか?」

「そりゃ、個室があるんだしな。一緒に寝る理由がないだろう?」


そうユキさんがそう返すと、アスリン達が固まった。


「い、いやでずぅぅ!! お兄ちゃんといっじょにねまずぅぅ!!」

「兄様、個室なんでいりばぜん!! いっじょがいいでずうぅぅ!!」

「…あーあー、ユキもうちょっと言い方を考えたほうがいいわよ」


アスリンとフィーリアが号泣しだした。ユキさんにしがみ付きながら…。


「ごめん、ごめん。ほら泣き止めって。別に一緒に寝るのはいいから。別に自分の部屋があるだけで、俺の部屋に来るなってわけじゃないからな」


ユキさんがそう言って、アスリンとフィーリアの頭を撫でて落ち着かせる。


「ええっと、私が原因ですけど、ちょっと聞いてほしいんですが。アスリン達みたいに、無理に個室を与える必要はないと思うんですよ。いままで過ごしてきた相手と一緒のほうがいい場合もありますし」


私がそう言うとエリスさんが何かを察したように、ユキさんに話しかける。


「…なるほど、トーリさんの言うことももっともですね。私達も個室の利点を聞いて賛同しましたが、今の共同部屋が嫌かと言えばノーです。個室は希望する人に与えてはどうですか?」

「そうだな、アスリン達みたいな子供もくる予定なんだ。そういうまとめて生活する空間も必要だろうな」

「それなら、お兄さん。個室は家賃を取る形式で与えては? ある意味、ちゃんと働いてる特権になりますし、好いた人同士で住むのにも必要でしょう。まあ完全に個人用と家族用に分かれることになりますが」

「そうですね。ラッツの言った方法に賛成です。個室は今後の目標みたいなものに据えて、最初は私達みたいな共同部屋を与えて、ここの暮らしやルールを教えるのに使えば便利だと思います。個室に移動したがらない人はそのまま、その共同部屋にいてもらって新しく来る、住人の指導役になって貰えばいいかと」


エリスさんとラッツさんが私の話をきちんと整理して伝えてくれます。

こういう会議は本当にありがたいです。私みたいな学がない者でもしっかり意見を聞いてくれます。


「お兄さん。それと、わざわざ300人に合わせた家屋建設よりも、今後を考えて1000人は収容できる個人部屋や、共同部屋を作るべきでは?」

「それもそうだな、あまり大きく作りすぎると管理が行き届かないけど、そのぐらいなら、これから来る300人程の人達に掃除をしてもらえばいいわけだしな。トーリ、意見ありがとうな。やっぱり、みんなで協力したほうがいいって証拠だな」


ユキさんはそう言って頭を撫でてくれます。

私はアスリン達みたいな子供ではないのですが、ユキさんがしてくれるのです。否などありません。

あ…耳のそこは…きゅぅぅ~ん。


そういえば、先ほど泣いていたアスリン達はどうしたのだろうか? 

泣き声が聞こえなくなっている。


「…アスリン、フィーリア。私の言うことを聞けばずっとユキと一緒にねられるわ」

「本当ですかラビリスちゃん!!」

「兄様とずっと一緒!!」


ああ、ラビリスがアスリン達を宥めていたんですね。


「その方法はね…ユキのお嫁さんになればいいのよ!! ユキの赤ちゃんを生めればなお一緒にいてくれるわ!!」

「なります!! 私お兄ちゃんのお嫁さんになります!!」

「私も兄様の赤ちゃん産みます!!」

「いい返事ね。その気持ちがあればきっといいお嫁さんになれるわ」


そういって、ラビリスはほくそ笑んでいます。

度々思うんですが、ラビリスは黒いですよね。


「ちょ、ラビリス。なにアスリンとフィーリアに教えてんだ!! まだ何もしらない子たちに…」

「お兄ちゃん馬鹿にしないでください!! 赤ちゃんの作り方ぐらい知ってます!! お兄ちゃんの「ピー」を「ズキューン」で「バキューン」するんです!!」

「そして、兄様の「ピー」を「ピー」して「ズギャン」で「ドカーン」です!!」

「なんでそんな事知ってるんだよ!?」

「…ユキ、女奴隷は基本的にそれ目的なんだから、小さい子供でも知ってるわよ? 教育するんだから、買った相手に失礼の無いように」

「ぎゃー!! 妙にリアルな話でいやですよ!?」


ユキさんは変なところで純真といいましょうか、綺麗といいましょうか。

何ででしょう? 奴隷とはそんなものですが。


「お兄さん、そんな事で、時間をつぶさないで、トーリの意見もまとめてさっさと、家屋建設計画をまとめますよ。セラリア様のくる15日の間にやることは沢山あります。家屋建設の序盤で一々つまずかないでくださいな」

「そうですね。アスリン達の頑張りには期待しますが、今は移民の準備を整えるのが先ですよ」

「あれ? エリスもアスリンとフィーリアの言葉はスルーというか、賛成してる!?」

「…? 否定のしようがないのですが? 無理やりならともかく、本人達はヤル気ですし、あとはユキさん次第でしょう?」

「ほら、お兄さん。ここから出て、三階層の視察に行きますよ。少なくとも3日目までには作らないと、色々間に合いませんよ」


ユキさんはそうやって、ラッツとエリスさんに引きずられていきます。

私達もそれに続いて部屋を出ていきます。


「やったね、トーリ。僕達も役にたったじゃん!!」

「…トーリ凄いわ」

「ううん、二人が色々考えてくれたから私も思いついたんだよ。これからもよろしくね」


さあ、まだまだユキさんが言うには私達の出番はまだ先らしい。

これからが、本番だ。

ユキさんの言った幸せな場所を創れるように頑張らなくては。

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