第35掘:メロンの気持ち

メロンの気持ち



side:ラビリス



「さて、まあロシュール国との細かい話は、まだ向こうから連絡きてないし、できないから、今はダンジョンの土地選びを始めようか」


ユキは会議の結果、優先すべき順に問題をかたづけていくようだ。

結局、今できるのはダンジョンの土地選びらしい。

そうして、ユキは私達に指輪を配ってくれた。


「これは、さっき言ってたワープできる指輪だな。 『転送』の単語でここに自動的に飛ぶ。あとは『階層』を先に言って『転送』を言えばその階にいく。まあ、いったん宴会場の端に寄ってくれ。ここの小舞台に転送されるんだ。みててくれ『転送』」


ユキが指輪をはめてそう言ったら姿が掻き消え、舞台にいきなり現れた。

これは便利な道具ね。

万が一誘拐されても、これがはずされない限り逃げられるわ。


「心配しなくても、障害物があれば、自動でずれるから同じところに重なってグロいことにはならない」


よくユキの言っている意味がわからない。同じ場所に出るんなら、最初にいたほうが上から潰されるんじゃ?


そういって、ユキに触ってその映像が出てきた…よりにもよって私とアスリンだ…。

こう、いきなり私の体がバラバラになってアスリンがそこから生えて…うっぷ…。

酷い物を見たわ…こういう事をいってるのね。


「ごめん、ごめん。変なもん見せたな、よっと」


私が気分を悪くしてたのを見たのか、お姫様抱っこをしてくれる。

…これは、気分がいい。ラッツもこんな感じだったんだろうか?

そのまま首へ腕を絡ませる。

肩車もいいけど、これもなかなか捨てがたいわ。

体が小さいから、すぐに片腕抱っこになってしまうのが難点ね。


「よし、みんな指輪をはめたな。各自で練習しといてくれ。で、土地選びだが、ここで一旦方針を考えよう。このダンジョンマップで状態は確認できるからな。いつでも、ダンジョン内の内装はDPがあるから変えられる」


そういってホワイトボードをのけて、ルルア様が来た時に出したダンジョンマップや周辺の地図が表示される。


「ユキさん、しかし、セラリア様でしたっけ? ロシュール側からどれだけ送られてくるかわからないのでは選びようがないのでは?」


エリスが疑問を口にする。

確かに土地は状況に合わせる為に選ぶのだ、今は選びようがない。


「そうだな、確かに詳細を煮詰めるのはまだできないな。だけど、大まかな事は決められる。そうだな、住む場所を一階層にしたり、働く場所を二階層にしたりとかな。あと川とか井戸とか他に必要なものはないかとかな。住む場所にしても完全に居住物だけにするのか、少し、娯楽施設を混ぜるのかとかな」

「はは~、なるほど。確かに向こうの規模が分からないとはいえ、必要な物は分かりますね。階層分けで区分け? でしたっけ、それを行うのは私はいい案だと思いますよ」


ラッツが賛同してくる。


ユキはいつでも色んな事を考えている。

私には意味の分からない物も多いが、このダンジョンにかんしてや、私達の事にはとても心を砕いてくれている。


そして私達をここの運営に利用する。なんて事に心を痛めている。

私達のような女子供を運営代表に据えたのは、ユキにとっては予定通りの思惑。

ユキは私達がこれから来る住人に侮られるだろうと知って、代表に据えている。

これから作るこの場所は誰でも意見が言える場所、だから言いやすい女子供の私達が適しているのだ。

別の意味でも、私達に害をなそうとする者を燻り出しやすくする為。

屈強な男が代表では手を出しにくいだろうが、私達女子供を使うことによって、燻りだすのだ。


この場所は誰でも同じ立場だと。私達を見下す奴など必要ないと。


私はとてもいい考えだと思う。アスリンやフィーリアは怖がるだろうけど、それなら彼女等は代表にしなければいいだけ。

これを理解してる。理解できる。私や、エリス達に任せればいいのだ。

彼女達は喜んで矢面に立ってくれるだろう。

ユキが見せてくれた未来は、とてもいいものに見えたのだから、奴隷から助けてくれたユキの手助けをするのは当然だ。


でも、ユキはそんな事ですら悩んでいる。

賛同しやすいように、私達を助け、奴隷から解放し、厚遇しているのだと。

それはユキが、わざと私達が賛同するように仕組んだのだと。


私達の思いを操っているのだと。


こんな事をラッツやエリス、ミリーなどに言えばお説教コースだろう。

確かに賛同するように、誘導されたかもしれない。

だけど、私達はユキのすることは、とても素晴らしいものだと、自分で思って決めて協力するのだ。


とっても優しい、とっても甘い人。

変に賢いから、こういうことで悩む。

あと数日こんな事で悩んでいるなら、皆にばらしてお説教してもらおう。


でも今だけは、私達を思う、この暖かい気持ちを…私だけ感じていたいわ。


「ん? ラビリスどうした? 具合がまだよくならないか?」


思わず私はユキにギュッと抱き付いてしまっていた。


「…いいえ。嬉しいだけよ。こんな風に抱かれるのはアスリン達だったから、私は初体験なのよ」

「そうか、それならいいんだが、具合がよくないなら、無理せず言えよ」

「ええ」


今後アスリンとフィーリアに交渉の余地ありね。

ローテーションで回してもらおうかしら? 

左腕でこんな気分だから、利き腕の右腕は力強いのかしら?

でも、肩車も捨てがたいのよ。ユキの頭にしがみ付けるの。

おっぱいを押し付けるのは、少なからず喜んでくれているみたいだし、アスリンとフィーリアでは代わりにならない…悩むわ。


「…で、実際に作るのは三階層からがいいと思うのです」

「なるほどな、攻め込まれたとき、一階層、二階層で時間を稼いで、避難やこちらの防衛機能を動かす時間を作るというわけか」

「はい、一階層や二階層に駐留する人をやるかはわかりませんが、私達でダンジョン内の動きは把握できますし。大規模な敵が攻めてきた場合は、距離がある分有利かと」

「居住区に行くまで時間はかかるが、安全を考えると当然か。交易商人達が来たりし始めると、文句いいそうだな」

「ああ~、そんなのほっとけばいいのですよお兄さん。交通の利便よりも、安全を選ぶべきです。しかも、防衛層を予定してる一階層、二階層は魔物も盗賊もでません。安全ですし、そこで文句なんぞいわれる筋合いはないですよ」

「ラッツの言う通りですね。しかし、二階層ぐらいに宿くらいは置いてもいいかもしれませんね。タイミングが悪ければ夜ですしね」

「それなりに、荒事に対応できる人材が必要ですね~。まあ、まだ先の事になりそうですが、考えておいて損はないでしょう」


私がそんな事を考えている内に色々と話が進んでいるようだ。


「それじゃ、防衛用に一階層、二階層は空白地帯って感じでいいか?」

「あのー、お兄ちゃん…ごめんなさい。ユキさん、聞きたいことがあるんですが」


アスリンはお兄ちゃんと言った。

彼女はユキの事を大層気に入っている。

女として、というのは違う気がするが、彼女が言っていたのだ。

兄がいるならユキさんみたいな人ではないのかと。


一瞬アスリンの呼び方に目を丸くしていたが、すぐに笑顔になり、私はユキの暖かさが増しているのがわかる。


「アスリン、謝らなくていいぞ。特に大した事は出来ない男だが、それでもよければ兄とでも呼んでくれ。フィーリアもいいぞ?」

「ほ、本当ですか!! 兄様とよばせてもらいます!! 兄様!!」

「お兄ちゃんは立派です!! 大丈夫です!!」


二人とも頭を撫でられてとても嬉しそうだ。

みんな、一旦会議を中止してその光景に和んでいる。

素晴らしいわ、アスリン、フィーリア。

貴女達は天使だと思うの。


「あ、あの。アスリンちゃん、フィーリアちゃん。私もお姉ちゃんって呼んでもいいんですよ?」


その場面で天使にやられたエルジュ様が進み出てくる。


「え、でも。エルジュさまは聖女様だし…」

「あ、あのオリエルさんが…」

「今は私は聖女ではないですし…オリエル!! 口出しは許しませんよ!!」

「…私は問題ない。エルジュ様を姉と呼んでやってくれ…」


オリエル、結構苦労してるわね。

まあ、あの時、アスリンとフィーリアに言われた事に対する感情があるからわからないでもないが…なんか考えなしよね。


「え、えるじゅお姉ちゃん!!」

「エルジュ姉さま!!」

「きゃー!! はい、貴女達の姉ですよ!! ちぃ姉さまの気持ちが今ならわかるわ!!」


アスリンとフィーリアを抱き上げて幸せそうなエルジュ様…もう只のバカね。


「そこまでにしとけ、アスリンは俺になにか質問があったんだろう?」

「あ、うん。お兄ちゃん、ここダンジョンの中なのに、なんでお空があって夜とかにもなるの?」

「それもDP消費して、作るんだよ。天候も自由に変更できる。まあ季節限定とか、気候限定するとその分安くはなるんだが」


なるほど、旅館で夜になったり夜空があったのはそのせいなのね。


「ちょっとまってください。お兄さん、今後、天候は必要ですが、ちなみにお幾らDPぐらいで?」

「そうだな、この俺達が今いる旅館の最下層は天候自由に変更可能で5000DPだ」

「ぶっ!? ちょ、いくら50万DP稼いだとはいえ、高い…のですか?」

「どうだろうな、狭い空間なら割り高だろうが、一階層毎の設定だしな。一階層が広ければ、それなりに割のいい感じになるんじゃないか?」

「なるほど、畑や牧畜の階層は出来るだけ広く土地をとるべきですね。無駄に階層を造って5000DPつぎ込むメリットはないですね」

「まあ、そうだろうな。…ちょっとまてよ、雪だけ降らせる階層があれば…スキーやスノボーし放題!! 俺は今、凄いことに気が付いた!! このダンジョン、レジャー万歳じゃね?」


ユキがなんか一人で納得して喜んでる。

何かしら、スキー、スノボーって?

そうやって、ユキのイメージを見ると雪の上を木の板? みたいなものを足につけて滑っている。

へえ、こんな事で遊びにつかえるのね。


「そして、広めた暁には、プチ冬のオリンピックを…」


ユキがそんな事をいっていると、突然彼の前にコールによる画面が開く。

そこに映っていたのは…。


『ユキ、なに変な顔してるのよ。こっちの準備はあらかた終わったわよ。報告したいのだけどいいかしら? 嬉しいでしょう? しばらく顔合わせていなかったのだから。素直に、セラリアの顔が見れて嬉しいって言っていいのよ?』


私はその顔を見た瞬間イラっとした。

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