第33掘:会議前半

会議前半



俺は綺麗な体のままでいられた…。

あのあと、二人きりになっていたアスリンとフィーリアが泣きながら、廊下を歩いていたのだ。

二人ともいきなりみんながいなくなるのに恐怖を覚えたようだ。

当然か、今まで奴隷としていつ引き離されるかわからない状況だったのだ。

俺がそのつもりがないとしても、起きたら誰もいませんでしたは恐怖だろう。

というわけで、天使二名のおかげでその日は事なきを得ました。

こんど美味しいものでも食べさせてあげよう。


で、今の状況は、宴会場にて今後の予定を話す為にみんなここに集まっている。


「さて、本日から本格的に、このダンジョンの運営に関することを決めていこうと思う。みんなの意見をバンバン聞いて行こうと思うのでそのつもりで」


そう言って、皆の顔を見回す。


「昨日言ったが、本来は元奴隷の君達が今後主体としてやっていかなければいけない。が、今からいきなりヤレと言っても何をしてよいか、分からないだろう。ある程度慣れるまでは俺が先導で会議を行っていく。そこは許してほしい」


ラッツ達は頷いてる。


「よし、まずはここのダンジョンを村や街をつくるとして、何がいるだろうか? 基本的な事をしっかりやっていこう、退屈かと思うがまずは必要なものの書き出しだ。今みんなの前に置いてある…コピー用紙。その紙に思いついた必要なものを書き出してみてくれ、文字が書けない人は、書ける人と組んで案を出していってほしい。紙は見ての通り沢山あるので、気にせずやってくれ。ではまず10分程考えてくれ、それで一旦まとめよう」


ちなみに、この世界の一般人は基本的に時計というものを持っていない。

村や街では鐘を鳴らして時間を伝えていたらしい。

王族や、ある程度余裕がある人たちが使える嗜好品となっている。

みんな驚いていたが今後必要なので、ここに来てもらったときに、時計の読み方は教えている。


ここで、自然とメンバーが分かれる。

文字を書ける人間に集まるのだ。ここは当然だが、あとは好き合っている者同士で組むことが多い。

まあ、わざわざトラブルが起ころうであろう所に入る奴がいれば、それは何かを企んでいること確定だがな。


まず、ラビリス、アスリン、フィーリア。

この3人はセットだな。なにも問題はない。


次に、エリス、ラッツ、ミリー。

学のあるメンバーで集まったな。ここは安定しているな。


そして、トーリ、リエル、カヤ。

ここも予想通りの獣人組。ある意味、ここは獣人族独特な意見がでてきそうだな。


最後に、エルジュ、オリエル、ルルア。

お姫様組。エルジュは本来、他国からの客人なので参加はしないはずなのだが、わざわざミリー達に頭を下げて参加を認めさせた。

昨日今日で何か変わったようだ。

ま、ルルアという傑物がいるので、そこまで問題はないだろう。


あ、ちなみにモーブ達は、皆の意見を聞く側になっている。

冒険者としてここのダンジョンに潜り込む予定だから、色々な意味で。

俺的には案出ししてもらいたいのだが「メンドイ」の一言で断られました。

まあ、客観的に聞く側もいるので悪いことではない。


そんな事を考えて、ホワイトボードを準備したりしていたら10分経過した。


「よし、じゃ、そうだな。エリス達やエルジュ達に聞くのは最後にしよう。色々と書き込んでいたようだからな。ここは、まずラビリス達かトーリ達だな。どっちから行く?」

「そうですね~。ラビリスちゃん達が先でいいと思います」

「…そう? ありがとう」


ラビリスがそう言って、書き留めた紙をアスリンとフィーリアに渡す。


「えーと、ですね。遊ぶ場所が欲しいです!! きっと、楽しいと思うんです!! 広場みたいな場所が欲しいです!! あと畑が欲しいです、美味しい物をたくさん作るんです!!」

「それと、色々物作りができる鍛冶場が欲しいんです!! 頑張りますから!!」


前者がアスリン、後者がフィーリア。

とても彼女達らしい考えだ。というより、なくてはならない物だろう。

まあ、この何もできていない、平原のダンジョンにいきなりその発言はアレだと思うが、今後を考えると間違ってはいない。


「…この子たちらしいでしょ? 私からはこれから住む人達の住む場所が必要だと思うわ」


ラビリスからはもっともな意見。住む場所がなくてはどうにもならない。


「なるほど、なるほど。と、何を当然な。って感じるなよ? 意見を出さないとできない可能性もあったんだ。できた後で、つけたしましょうって言って、住人が住んでからじゃひと騒動だからな」


そうみんなに促す。


「はぁ~、なるほど。これが意見を言い合う意味ですね~。確かに一人で考えては、穴が絶対できますね。アスリンちゃんやフィーリアちゃんの言った事をそのままではなく、他の意味合いもありますね~」

「ええ、アスリンの言った遊べる広場は集会場所という意味や、街の大通りという意味もあります。畑も言われてみれば当然ですね。フィーリアも鍛冶場はきっと自分がやりたいからでしょうが、これから人が増えるのです。鍛冶場で色々作らないといけない場面もあるでしょう」


ラッツはこの会議の意味を理解し、エリスはアスリン達が言ったことの利点を別の意味で把握する。


「ですね、私達が書き出した意見とはまた違う見方ですね。そういえば畑とか鍛冶場でふと疑問が湧いたのですが、DPを使って消費物をユキさんが作ってもらえるのでしょうか? それなら、畑や鍛冶場などはいらないと思いますが?」


ミリーは、納得しつつも俺ですべて賄えるのでは? と聞いてきた。


「そうだな、できない事はない。しかし、それでは村や街として成り立たないからな。働かなくていいんだから家畜とかわらない。最初、移住が始まってのころは色々と足りないだろうから、DPで代用するが、いつまでも頼るつもりは無い」

「ふむ、それはそうですが…お兄さんに養ってもらえれば、無駄な争いは確実に減ると思いますが? というより、そうすれば楽園になりますよ? なにせ働かなくて安全で食べ物がもらえるんですよ? 堕落してもDP落としてもらえるならそれでよいのでは?」


ラッツが楽な方法を取れば良いのではないかと言ってくる。


「それは、俺がこのダンジョンに健在で、ずっといることが前提だ。万が一にも俺が死んだり、この場から離れれば」

「…あっという間にこの楽園は崩壊しますね。なるほど、だから最初からここに住む住人にはある程度、自給自足、自らの身を自分で守ってほしいわけですね?」

「そういうことだ、守られていると思うより、ここを守っているんだと、認識してもらえばいざという時対応が取れるだろう」

「わかりました」

「俺の手出しする範囲は、みんなの意見が出終わってから決めようと思う。一個一個にわざわざ発言していては時間がかかりすぎるからな」


みんなが頷く。とりあえず、今出た意見をホワイトボードに書き込んでいく。


「さて、次はトーリ達だな。いいかい?」

「はい、大丈夫です。では、私が必要だと思ったのは、この露天風呂みたいなのがあればみんな喜ぶと思います!! とても気持ち良かったんです間違いなく人気になりますよ!!」


みんな一瞬沈黙する。ある意味アスリンより斜め上の解答ではあるが、必要な事ではある。


「…なるほど、娯楽施設。演劇場みたいな、お金を落とす場所を私達で提供するということですね。ふむ、そうすれば私達はDP以外に外からのお金も収集できるというわけですか。トーリさん素晴らしいですね。これは色々と他に娯楽施設を建てる意味がありそうです。私達主体で行えば、国が行っている事業とされ、ここに住む人々には、ここで住む利点をわかりやすく伝えることもできます」

「え、え? あ、あの…そんなつもりでは…」

「あっはっはっは、トーリは違う目的でいったようですね。しかし、トーリの言う通り喜ばれると私も思いますよ。時にエリス、住人には優遇措置をとってはいかかでしょうか? 半額にするとか、そうすればここに住みたいと後から移住する人も増えるでしょう?」

「なるほど。ラッツ流石商人をやっていただけありますね。しかし、その住人と見極める方法は…」


そうやって、トーリを置き去りにしてエリスとラッツは色々と話を深めていく。


「露天風呂を村や街にも作るなら、是非数多のお酒を置いてください!! あれが、あれば文句言う人なんぞいません!!」


ミリーがそう言ってこっちに身を乗り出す。…落ち着け。


「エリス、ラッツそこまでにしとけ。まだ意見は出終わっていない。ミリーもまあ落ち着け。書いておくから、露天風呂(酒必須)と。じゃ、次はリエルとカヤだな」


慌ててホワイトボードに・露天風呂(酒必須)=娯楽施設と書き込む。


「僕は冒険者ギルドみたいに、なんか体を動かせる場所が欲しいです。訓練場かな?」

「…私は芝生か草の生えた場所が欲しい。街は特に土ばかりで…なんか息がつまりそうだった」


リエルは納得のできる意見だ。訓練場なこれは…どう扱うべきかな?冒険者ギルドとしてか…別としてか…。

しかし、カヤの意見はどういうことだろう? 土ばかりだと息苦しい? 現代日本における緑を増やそう的な意見か?


「ああ、カヤの言うことは分かります」

「同意ですね~」

「それは、私も思っていた」

「どういうことだ? なにか獣人族やエルフ族にとって重要な感じか?」


エリスとラッツ、そしてオリエルも同意していた。


「あ~、お兄さんは人族ですからね。あまり感じないでしょうが…」

「エルフ族や獣人族とされる人々は生活の場が森、あるいは緑あふれる場所なのです」

「最初から街で生まれていれば違和感はないのだろうが、そういうところで生まれ育った私としてはな…王都の生活は欲を言えばな」

「なるほど、環境の違いが激しすぎるというわけか」

「まあ、それで死んでしまうってのは無いのですが…エルフ族や獣人族のほとんどが森に近い場所で生活している理由でもありますからね」


ああ、現代の日本人より緑が大事というわけだ。

これは思わぬ盲点だな。無理に住まわせてストレスをためても困るからな。

カヤの意見は思わぬ拾い物だな。

カリカリとホワイトボードに書き込んでいく。・緑(重要)


「じゃ、エリス達に行こうか」

「はい、わかりました。意見が出てきて感心いたしました。会議というのは重要ですね。それを踏まえて私もしっかり意見を言わせてもらいます」


そういって、エリスがみんなの視線を集める。


「ではまず基本的なことから、一体このダンジョンの何階層に、村や街をどこの位置にどの位の広さの予定で作るのかを決めないと、何処に住む場所や、露天風呂を作っていいのかもわかりません。まずは土地選びをと、私は愚考いたします」


「「「あ」」」


今まで意見を言ったメンバーが固まる。

そう、まずはココが大事なのだ。色々意見は大事な事を言ってくれたが、基本をしっかりしないとね。


彼女達もこうやって初めての事をやりながら覚えていく。

稚拙とも幼稚とも見えるかもしれないが、誰だって最初はこんなもんだろう。

なにも恥じることはない。今からしっかり学んでいけばよいのだから。


だが、俺は心に決めていることがある。

トイレとトイレットペーパーだけは必ず各家庭にDPを使って配備する。

衛生面としても、このダンジョンそこらに垂れ流しされては嫌なのだ。


その気高い誓いを再度確認し会議は後半メンバーへと移っていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る