第29掘:スイカ
スイカ
「なあ、ラビリス。いつまで座ってるつもりだ? 別に嫌じゃないがな、こういうのは慣れてしまうと、それが当然のように感じてされなくなると寂しくなるもんだ」
膝の上にいるラビリスにそう言ってみる。
「ユキが拒絶しなければ永遠に座ってるわよ?」
迷いなくあっさり返してくる。
「…好きにしてくれ。こっちも好きにする」
「ええ、ついでに押したおしても構わないわ」
ラビリスの頭を撫でて満足していると、そんなことを言う。
これで、次の日に「あんなので本気にしないでくれる?」なんて言われたらショックだよな。
みんなそんな感じで現代日本の若者は怖がるのだ。というか、日本の若者なら一度は通る道だろう。
あの手のレベルを面白半分でする輩の多い事。俺も学生時代にやられて、トラウマになりかけたからな。
「…その女の詳細を教えなさい。殺すわ」
「気にするな」
「…大問題よ。その女が原因でユキがこんなになっているなら、拷問して生まれてきたことを後悔させてやる」
「おちつけ、誰彼構わず襲い掛かるのも駄目だろう。これぐらいで丁度いいと思え」
物騒な言葉を吐き続けるラビリスを抱きすくめて落ち着かせる。
やべーですよ。クーデレ系かとおもったらヤンデレ要素も持ち合わせていましたよ。
そんな風にラビリスとトラップ(いちゃいちゃではない)を考えていると、斥候に出ているスライムと斥候小動物から警戒域に人間が確認されたと報告があった。
「不味いな。相手は…女性1人と…男が10人程、盗賊か?」
「どうしたの?」
「ダンジョン近くに人間がいる。こちらから下手に干渉できない」
「…なぜ?」
「今このダンジョンは、エルジュの力によって平穏を保っていることになっている。つまりこちらから向こう側に接触すると、ダンジョンが暴走してるとみられかねないし、モーブやミリー・ラッツに迎撃に出てもらっても、エルジュの意思と、力を受け継いだ事にしてるセラリアがいない現状は、ダンジョンを乗っ取っていると思われかねない」
「…モーブ達やラッツを旅人風に装って助けてあげれば?」
「追われている女性が、絶対に盗賊に襲われているのなら問題ない。しかし、相手がどこかの刺客や兵隊であれば…」
「…このダンジョンに難癖をつける絶好の機会となるわけね」
「本人達の目的はその彼女にあるだろうが、このダンジョンが村や街として機能しだせば、ここに文句をつけるのに十分な理由になるな」
「…ここのダンジョンでモンスターに襲われたとか、ここで運営をしている人物が邪魔をしてきたとか?」
「そういうこと」
ま、映像を見てから判断しよう。
斥候スライムや斥候小動物からの報告によれば、森のおかげで結構距離を離せたらしい。
その間に、両方の確認をしてしまおう。
「映像を見てから判断することにするか」
「えいぞう?」
「ああ、そういえば知らなかったな。そうだな「コール」っていってみな」
「…? コール?」
そうラビリスがつぶやくと、青いウィンドウが目の前に出現する。
「なにこれ?」
「右にみんなの名前があるだろう? その上に全員ってボタンがあるから押してみろ」
「これ?」
そうやって、押すと一気にラビリスが会った13名の顔が一気に13個のウィンドウに表示される。
『な、な、なんですか!? ってラビリスちゃんにお兄さんですよね?』
相変わらずラッツは反応がよい、いい意味でも悪い意味でも。
「他のみんなも俺達の顔見えてるか?見えてたら返事してくれ」
そういうと、全員から返事が聞こえる。
「この能力は指定保護したメンバーと簡単にやり取りができるようになるんだ。と、そんな事より朝御飯を食べた宴会場に集まってくれ。ダンジョン近くに人族がいる。対処を考えたい」
寝ているアスリンとフィーリアはとりあえず寝かせておいて、ラビリスを肩車して宴会場に向かった。
「みんな早いな」
「いえ~、お兄さんの部屋が一番遠いですからね。当然ですよ」
ラッツがそう返してくる。ミリーも来ている。エルジュも来ているが暴れた様子はない。
少しは落ち着いているのだろう。
「じゃ、すまない。各々好きに座ってくれ、状況を説明する」
そういうと、俺は宴会場についている小規模な舞台へ歩いて行って電気のスイッチの下のボタンを押す。
そうすると、あら不思議。上から大型薄型テレビが降りてきてこのダンジョン階層、周辺のMAPが出る。
「…お、お兄さん。それがここ一帯の地図とはわかりますが…非常識にも程があります」
「そういう話は問題を解決した後にしよう」
状況をみんなに説明する。
「なるほど、迂闊に助けることもできないのですね~」
「10人か、俺達が行ってもいいが、流石に余程の不意打ちしない限り、相手さんを全員押えるのは厳しいぞ」
「…そうは言いましても、このまま追われている彼女がこのダンジョンに逃げ込んでしまえば、必然的に迎撃することになってしまいます」
ラッツが理解を示して、モーブが冒険者3人での迎撃案を出すがあまり妙手ではないと言う。
エリスも結局はこのダンジョンに彼女が来てしまえば同じだという。
こういう話し合いの場があるだけでも、皆を引き入れたかいがあるな。
「…ユキ、追われている女性の映像はないのか? 行動を起こそうにも、相手の素性がわからないとどうしようもない」
カースがもっと情報が必要だという。
当然だな、そろそろ…お、来た来た。
「斥候が両方を視界にとらえたみたいだ、出すぞ」
そうやって各自の前に出る映像。
それを一部の人間が声を上げた。
「ルルア様!?」
「お嬢ちゃんじゃねーか!?」
エルジュとモーブが言っての通り。映像に映った彼女は、リテアの先代聖女ルルアであった。
「そして、追っている相手は…」
「…どう見ても盗賊じゃないですね」
ライヤとカースは頭に手を当てている。それもそのはず追っている12人の相手は立派な鎧を着込んだ偉丈夫達だ。1人女性らしきメイルを着込んでいるのがいるが、フルフェイスなのでよくわからん。
「…追っている相手はどこのだれかわかるか?」
「ああ、見たぞ。ルルアの嬢ちゃんを迎えに来た連中だ。3人程足りないがな」
モーブがそう答える。
…もう、つまりこれは。
「色々な意味で邪魔になったんだろうな。ルルアの奴」
「…ルルア様」
「だろうな」
そうやって、ルルアの事を知っている連中はその場で頷く。
「えーと、お兄さん方。私達は結構置いてけぼりなんですが。察するにあの方が、リテアの先代聖女様なんでしょうか?」
ラッツが忘れないでって顔でこちらを見てくる。
「すまん、ラッツの言う通りだ。モーブ達の話から追っている相手はリテアの騎士だそうだ」
「…どういう事でしょうか?彼等の目的は…そこの聖女ではなかったのでしょうか?」
ミリーがエルジュを睨む。
「いや、エルジュの命を狙ったのはあくまで手段だ。国内を安定させるというな」
「ああ、なるほど。そういうことですか」
エリスが納得いった様子で手を叩く。
「じゃ、エリス。君のたどり着いた結論を言ってみてくれ。と、その前にスライム01、ルルアに接触、俺が直接語り掛けてダンジョンへ誘導する。ダンジョン内スライムは02~10まで外にでて01の支援を開始。01が彼女をダンジョン内へ誘導後、ダンジョン外で待機、敵がダンジョン内に入るのを確認および、後続がいないか確認せよ」
そう指示すると、ダンジョン内にいた青い点、スライムが8つほどダンジョン外へ出る。
『スライム!? こんな時に!?』
ルルアの顔が画面いっぱいに映る。
「落ち着け、こちらはダンジョンマスターのユキだ。そのスライムの誘導に従え。ダンジョンに案内する」
『ダンジョンマスターさん!? 今追われてるんです。不味い事になりますよ?』
「心配するな、そんな事は分かってる。なるべく静かに速やかに移動をしながら俺たちの話を聞いてくれ。相手はそこまで離れていないから注意してくれ」
『…なんという理不尽でしょうか。…わかりました。選択権はありそうにないですね』
スライムがルルアを映像に捉えながら、移動を開始する。
…ゆっさ、ゆっさ。
スライムが下アングルなんで色々わかりやすい。
ルルアは白の綺麗なローブを着込んでいるのだが、ローブのせいで体型が分かりにくい。
しかし、下から覗くということで。胸が平坦なのか、大きいのかわかる。
スライムが見上げる形になっているルルアの表情はたまにしか見えない。
…つまり、大きいのだ。
…ゆっさ、タプン。
お、跳ねた。こけたのか?
あれは、ラビリスより上か? このメンバーのだれよりも大きいんじゃね?
スイカだ、そう、あれはスイカだ!!
「…どういうつもりかしら? ねぇ、ユキ?」
肩車しているラビリスが耳元で囁く。
「よし、ルルアも移動を開始した。エリス説明してくれ。俺はその間に、ラビリスと考えた新トラップを設置して、追っている騎士団の無力化及び捕獲、殺害を試みる」
「はい、では僭越ですが…」
華麗なる回避術を見たか!!
「…ラッツに言っておくわ。お風呂とか夜覚悟しなさい」
ラビリスはそう言うなり、ラッツの元に駆け寄って耳元で何かとつぶやく。
ラッツはこちらを見ていい笑顔になった。なにか寒気がするのは気のせいだろうか?
side:ルルア
正直もう駄目かと思っていました。
まさか、今回の争乱を企んだ強硬派が私まで消しに来るとは…。
15人来たうちの12人もが、強硬派に属していたようです。
私を守ってくれた3人に申し訳ない限りです。
『では僭越ですが、今回リテア聖国がエルジュ様を亡きものにしようとしたのは、国内の安定を図るための物です。
エルジュ様を暗殺したことによって、安定したかに思えますが、先代、前任の聖女ルルア様の威光が強すぎたのです。
今回の件でルルア様を仕方なく下した方もいれば、次の聖女を担ぎ上げて色々画策している人たちもいたはずです。
画策している方にとっては、ルルア様が今の聖女様よりも力が上だというのは非常にまずいのです。
ですから、今回の魔王の仕業というのに乗ってルルア様も亡きものにしようとしたのではないでしょうか?』
画面に出てきたエルフの女性がそう喋り続ける。
彼女の言う通りおそらくそうだろう。
色々と画策していた人々にとって、私は生きているだけで障害となるのだ。
別段私としては、何もしようとは思わないし、アルシュテール様は次代の聖女としてふさわしい器を持っているとさえ思います。
今は、まだ不完全ですが。
「ええ、貴方の言う通りだと思います。っと」
見えなかった木の根に引っかかったようだ。
私は軽くバランスを崩しながらも、前に、スライムについて行く。
「どこだ!!ルルアはアルシュテール様が真の聖女と成る為に、ここで殺さなくてはならぬ!!」
本当にそんなに離れていないのですね!?
「わざわざ、仲良しの偽聖女が逃げ込んだ場所で仕留めてやるんだ!! ありがたく思え!!」
そうやって叫びながら声が近づいてきます。
まったく趣味の悪い、ここは今セラリア様の宣言で人が近寄っていない場所。物は言い様ですね。
ここが私を始末するのに一番都合がいいだけでしょうに。
「まだ、なんですか」
『あと57歩ぐらい前に入口がある。頑張れ』
「なんですか、57歩って。私の今の位置がわかってるとでも言うのですか?」
変に具体的な冗談を言うダンジョンマスター。
そんなの遥か天上から私の位置を見ていないと把握できないようなことを…。
「…うそ」
目の前にはダンジョンの入口らしきものがぽっかりと空いていた。
【ダンジョン内には誰もいません。お引き取りください。御用の方は隣のポストへ手紙をどうぞ、なるべく紙がいいですが、そこら辺の木を削ってもOKです】
人を馬鹿にした看板付きで。
『おーい、さっさと入ってくれ。見つかるぞ?』
「あそこにいたぞ!! 矢を放て!!」
少し我に返るのが遅かったようです。
「あぐっ!?」
トストスと簡単に私の背中に矢が突き刺さります。
…まだ、動ける。
奥へ逃げ込まなくては…。
意識が朦朧とする中、それでも足を動かして得体のしれないダンジョン内へと私は足を踏み入れていきました。
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