第28掘:我が愛しの君

我が愛しの君



さて、今日はあと晩御飯食べるぐらいだな…、なにをしたものか?

ダンジョンの改装をしようにも、みんなと打ち合わせてやらなきゃ意味がないし。

手持ちのモンスター部隊を増やすにしても、ダンジョンを作り変えてから、合わせてやったほうが効率的だしな。


「トラップでも考えるか?」


そう、自室でつぶやく。


「…トラップ? ダンジョンのことかしら?」


相変わらず膝の上を定位置としているラビリスが俺の顔を見てくる。

紫色の長い髪をツインテールにしている釣り目のお人形みたいな女の子だ。

アスリンと違って胸がでかい。あえて言うならメロンを二つだ。スイカは色々と大きすぎるんでな。

身長は前も言ったと思うが140㎝ないと思う。今度しっかり身体測定をみんなしておくか。

いや、いやらしい意味でなくて。健康管理のためな。


「ああ、明日みんなでダンジョンの事考えるからな。今弄ってもすぐに変えることになるからな。だから、今できるのはトラップ考える事ぐらいだな」

「そう、私も考えるわ」

「そうか、色々一緒に考えるか」

「あっと驚くような、トラップを考えるわ」

「いや、ダンジョンを守る為の物だからな。そこ考えとけ、殺さずとも相手の戦力とかやる気を削るのも大事だ」

「…難しいわ」


そんな風に色々二人で、トラップをコピー用紙の上に思いついた端から書き留めていく。


「そういえば、ラビリスは文字書けるんだな。アスリンとかも書けるのか?」

「…いいえ、文字を書けるのはそんなに多くないわ。普通に生きるのに必要じゃないから」


ここら辺も遅れてるのか…いや日本の識字率がおかしいって奴だっけ?

まあ、それでも現代の地球よりは識字率は下だろう。

こりゃ、後々学校も必要かね~。

壮大な計画ではあるが、俺は不老だしな。のんびりやっていくか。


「ねぇ、こんなのはどうかしら?」

「おおぅ、こんなの思いつくのか。こりゃ…ラビリスお前いい所の生まれだったんじゃないか?」

「…いいたくないわ。でも信じて、私はユキと一緒にいる」

「別に無理に聞く必要はないし気にするな」

「ん」


頭を撫でてやると、そのまま目を細める。


「なあ、ラビリス。お前はなんで俺をそんなに信頼している? 正直、まだ信頼するには早すぎると思うんだが」


ただ、俺はラビリスとのその場の約束を守っただけ。

これからも、その約束を守れるとは限らない。


「でも、ユキはその場の約束を守ってくれた。これからも、私達を無下に扱わない為にって思ってる」

「ああ、その「真実を見る目というスキル」だっけか?本当に心が読めるのか」

「…誰でもじゃない、相手が本当に心から私を信頼してくれないと無理。そして、密着しているのが条件」

「世の中そんなに便利じゃないか」

「…?私の事怖くならないの?私のお父様もお母様も爺もみんな、心が読めると知った途端、私は心が見えなくなった…」


ああ、お約束のパターンか。まったく、心が読まれると不味いことはするなよな。

隠し事ができないのは、怖い…か。他人ならともかく、親がする対応じゃねーというのは俺が言う資格はないか。

四六時中思っている事を暴露されちゃたまらんだろう。


「ええ、小さい私は両親や周りが喜んでくれると思ってやったわ。でも結果は違った」


今でも十分に小さいけどな。


「…失礼ね」


その場で腰を上げて思いっきり俺に体重をかける。いくら小さいからといえ勢いをつけられればキツイ。


「しかしだ、そんな事言っていいのか?ラビリスが奴隷にされた理由ってそこら辺にあるんだろ?言いたくなかったんじゃないのか?」

「…いってないわ。私のスキルの説明をしただけよ。そうでしょ?」

「ま、予測を立てられるだけでそれが正しいわけでも、詳細まで合ってるわけじゃないからな」


そうして、トラップを考えてたペンを止めた。

同じ部屋で布団を敷いてお昼寝中の二人を不意に眺める。


「よくねてるな」

「…ええ、二人のあんな顔見れるとは思わなかったわ。ありがとう」

「別に、分かるだろう?俺は俺の目的の為にラビリス達を利用しているに過ぎない」


隠す気も最初からない、これは宣言している。

無理に協力を得てもこれからの事を考えると下策にしかならないのだ。


「…フフ」


ラビリスが珍しく俺の顔を見て笑う。


「どうした、俺は結構冷たい事言ったと思うが?」

「…そうね。冷たいけど優しいわ。温かい、変ね。冷たいのに温かいって?」

「いや、お前が言ってる事なんだがな」

「…こういうのは無粋だとは思うけど、ユキは自覚なさそうだから言っておくわ。本当に冷たいのなら、何も言わずにさっさと関わりのない場所へ移すべきよ。私達の不評ごときで今後の流れは変わりようがないわ。なのに、ユキはわざわざみんなに、私に、説明をしているわ。これを冷たくて、暖かい以外の言いようがあるかしら?」

「それは、俺個人の誠意だ。ラビリス達を俺の意思で縛るんだからな」

「…物は言い様ね。私達からすれば信じられない程の平穏と幸せを今もらっているのに、貴方は、ユキはそれに罪悪感を持っているわ。まるで、私達に手伝いたくないと、言って欲しそうだわ」


ラビリスはそう言ってこちらを見つめてくる。

はぁ、文字通りお見通しか。


「心が読めるなら、ある程度を見たんじゃないか? これから起こりうる問題の山々を、そして学があるなら予測もつくだろう?」

「…ある程度は予想がつくわ。まったく、数多の種族がここで一緒に暮らしていくなんて子供でも大問題ってわかるわ。…ユキの頭の中のレベルは見てから気が付いたわ。絶対、そういうことになるでしょうね」

「だからだよ、正直な…巻き込みたくは無いが、誰かを巻き込むことに絶対になる。けどな、こうやって話しているラビリス達をな…」


俺の想像通りに進める為の駒として使うのは、日本人としての心が痛む。

今までは防衛の為の殺人。

ダンジョンのトラップで殺したが、自分で手を掛けたのと一緒だが、これにはまだ納得できる。

だけどこれからは、自ら進んで目標の為の「生贄」を差し出す必要が必ず出てくる。


間違いなく、このダンジョンが攻められたり、こちらから打って出る状況も絶対あるだろう。


そして、その矢面に立つのは、きっとラビリス達だ。


分かる。分かってしまう。俺は彼女達を自分の目的の為に使うだろう。最悪死ぬことになるだろう。

そんな予定を立てている自分が一番腹立たしい。


…いっそ、このまま彼女達は平穏に暮らしてもらうか?

危険は多いが俺が前面に立てば、彼女達は危ない目に遭わなくてすむ。


そんな事を考えていると、ラビリスに頬を張られる。


「…あれ?暴行された?スキルどうなってやがる?」

「あら、なるほど。ユキの為と思った行為は許可されるのね。流石に致死レベルは無理でしょうけど」


なるほど、そうじゃなきゃ、指定保護同士では訓練もできないし、頬を張って止めなきゃいけない場面もあるだろう。


「…ところで、そんな考えは捨ててもらうわ。不愉快よ、私達はひな鳥じゃないわ。自分で考えてユキについて行くわ」


ラビリスが睨むようにこちらを見つめている。下手な事言えばさらにビンタが飛んできそうだ。

この考えも傲慢なのはわかってるけどな、あれだ。

俺が死ぬのと、ラビリス達が死ぬのは正直俺的に天秤が怪しい。

というか、ダンジョンマスターでなければラビリス達に完全に傾くな。


「…はぁ。ユキがダンジョンマスターでよかったと思うわ。こんな甘い事言うんだもの。普通に出会っていたら私達はずっと安全な所に置かれていたんでしょうね。きっとなにも知らずに」


…ありえそうだな。いや、俺ならそうするな。

そう考えているとラビリスが俺の膝から降りて綺麗な礼を取る。

いや、浴衣姿だけどな。もちろん下着を個人個人用意してる暇なんぞなかったから、みんな下着なんぞつけてねーよ。


「…最後まで真面目に考えられないのねユキ」

「すまん」


顔に出てたか?


再度、ラビリスが綺麗な礼を取って俺に告げる。


「…我が愛しき君よ。ラビリスは最後の時まであなたと一緒に、幸の時も、不幸の時も、剣として、盾として、そして愛しき人として、共にあることを誓いましょう」


ラビリスにしてはハッキリとした凛とした声でその言葉告げた。


「…こりゃ、最悪の自爆技使えない?」

「…自爆の意味が自害というなら、最低私とラッツは一緒に逝くわ」

「さっきの宣言一方的な奴だよな?」

「ええ、そうよ。私の勝手な宣言よ。相手に同意を求めない結婚なんてないわ」

「…つまり、俺は拒否しようがないわけだ」

「そういうこと、受け入れてくれるならここで結婚の誓いの言葉を言ってもいいわ」

「…あー、すまん。もう少しまってくれ、俺のいた故郷はラビリスみたいな子に手を出すと処罰されるからな。まだ抵抗がある」


そう答えると、ラビリスはつまらなそうな顔をしてこっちに戻ってきて再び膝の上に座る。


「…その故郷の法は嫌いだわ。…しかたないわ、じっくり行きましょう」

「お手柔らかに」


そうやってまたトラップを二人で考えていくのであった。

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