第27掘:うさぎさん

うさぎさん



しばらくしてエルジュが落ち着いたので、アスリンとフィーリアを奪還し…。

エルジュはアスリンとフィーリアが天使に見えたようで。


「この子たちは、私が育てます!!絶対私が立派な淑女にして見せます!!そして、お嫁には出しません!!こんな綺麗な心のこの子たちに、大人の世界を見せるわけにはいかないんです!!」


と泣きながら、抱き付き錯乱していたので引き離した。

…いや、全然落ち着いてなかったな。


「よし、これから台所にいってみんなの昼ご飯を作ろう」

「わかりました!!」

「頑張りますよ!!」

「…出発するのよ」


そうやって、子供三人を運搬する。

正直に言おう。両腕の二人は結構キツイです。

肩車しているラビリスは何でもないが、腕だけで支えるのは結構キツイ。

あれー、腕力は結構レベルアップで上がってるはずなんだけどな…。

精神的なものか?

三人が嬉しそうなので、我慢しよう。


「さて、今からご飯を炊く。それを君達には握って貰おう」


そう、料理において初心者にさせるべき第一歩は「おにぎり」である。

これを失敗するようでは、絶対料理に向いていないといえよう。

というか、これを失敗する奴を見たことはない。


…いや、学生時代。米を洗剤で洗おうとした奴がいたがな。

流石に止めたが、冗談だったんだよな?あの時の学友よ!!


「あの、朝食で食べた白くて小さいべたべたしたのですか?」


アスリンは可愛いマロン色のショートボブを揺らして首を傾げる。

うーん流石モーブこと、ロリアウトが選んだ子だ。

子供らしい仕草が一々お人形のようでかわいらしい。

胸もラビリスとは違って体型にふさわしいぺったんこ、そして未来への可能性も秘めている。


「そうだ。これがお米っていって、これがご飯になるんだ」


そういって、電子ジャーの中身を見せる。


「はぁ~、これがあのホカホカのご飯になるんですね」


アスリンと一緒にフィーリアも覗き込んでくる。

フィーリアもドワーフのロリ体型。ポニーテールがゆらゆらと揺れる。

ある意味定番だ、この子にはぜひとも、この幼さのままでいて欲しい。

決して、ロリコ○だからではない。ファンタジーの定番としてロリっ子ドワーフは鉄板だと思うんだ。


「で、ユキさんどのようなお手伝いをすればいいんですか!!」


アスリンがこちらに期待を込めて見つめてくる。

ああ、そうか。アスリンは家事が得意だったな。

いままで役に立つ場面がなかったから張り切ってるのか…これで手伝う必要ないって言うのはアレだな…。


「そうだな、初めて使う器具も多いから気を付けてな。俺の指示をしっかり聞くように」

「はい!!」

「私も手伝います!!」


といっても今は米を洗ってスイッチ入れるだけなんだがな。


「…頑張って、期待してるわ」

「とりあえず、ラビリス。お前は降りる気ないのか?」

「…邪魔なら…降りるわ…」


なんか悲しそうな声が聞こえて、背中に足がかかる。

そしてスルンと床に降りたラビリスに顔をむけると…。


「…乗っていい状態になったら言って。…それまで我慢するわ」


上目遣いでラビリスが見てきていた。


「はぁ。別に邪魔じゃない」


そう言って抱き上げる。

…ロリコ○ではない。決して、これは保護者としての義務であってやましい気持ちは決してない。


「…ん、ありがとう」


ラビリスはそう言って、顔面に抱き付いてきて、そのまま反時計まわりして定位置についた。

そのさい、二つのメロンのせいで一時的呼吸困難になった。


「よし、みんな準備はいいか!!」

「はい!!」

「頑張ります!!」

「…OKよ」


そうしてみんなでご飯を炊いて、お味噌汁作って、おにぎりを握った。

少しアスリンが物足りなさそうだが、こればっかりは仕方ない。

次の日からしっかり料理器具の使い方教えて、色々作ってもらおう。


そして作った料理を各部屋に運んでいく。


モーブ達は普通だった。いやモーブがだらしない顔をしていた。アウト。


エルジュ達はエルジュがアスリンとフィーリアを拉致しようとしたので落ち着かせた。(物理)


女性達の部屋では、ミリーが少し落ちついたのか、俺が部屋に来たのを見たら頭を下げてきた。


「まあ、無理に納得するなよ。これからすることは変にわだかまりを持ち込むわけには行かないんだ。ミリーが協力しなくても、誰も責めない」

「…はい」

「まあ、とりあえず。飯食え」


そういうと、アスリンがミリーの前に料理を置く。


「あの、ミリーさん。これユキさんに教えてもらって作ったんです!!おにぎりって言うんです。色々このふりかけ?をかけると美味しいんですよ!!お塩だけでも美味しいです!!…あの、元気だしてください」


アスリンが精一杯料理の説明をして、最後の言葉を継げると、ミリーは驚いたような顔をしている。


「子供ってのは結構見てるもんだ。特に感情にはかなり敏感だと思うぜ」


そうやって、アスリンの頭をポンポンとする。


「そう…みたいですね。アスリン、ありがとう。ご飯いただくわね」

「はい!!」


ミリーは大丈夫そうだな。

獣人三人組もしっかり食べている…あれ?


「エリス、ラッツはどうした?」

「ああ、彼女なら先ほど露天風呂に行くと言ってましたよ?」

「そうか、彼女の分は置いておくから後で食えって言っといてくれ」

「はい、わかりました」


さて、空の食器は台所に運んでおくように言っておいたしな。

これから、どうしよう。

そんな事を考えていると…


「…私達も露天風呂に行きましょう」

「そうですね、行きたいです」

「うん」


運送中のお客さんからそういわれたら、行かざるを得ない。

そして、露天風呂の前についたのだが。


「さあ、流石にもう自分達で入れるだろう?」

「…ことわるわ。男湯に直行よ」

「一緒がいいです」

「です」


…まあ、大きくなったら「一緒にお風呂なんていや!!」なんて言われるんだろうから。

ここは、いずれ来る別れの前に思い出作りということにしますか。


結局、一緒に入ることになったのだが…。


「ちゃんと体と頭洗えよー」


風呂場を走り回る子供に注意を促し、湯船につかると、そこには…


「おや、お兄さん。私と一緒に入りたかったのですか?」


ラッツがボーっと空を見つめていた。


「いや、ここ男湯だからな」

「…う~ん、私もそれなりに動揺していたんですね~」


ラッツは俺がそう言って、辺りを見回して自分が間違えてたことに気が付いたらしい。

わざとじゃないようだ。

ラッツの性格からしてわざと入ってたと思ったが、なんとも歯切れがわるい。


「動揺?…エルジュの事か?」

「ええ、まあ。私も乙女だったということですかね~」


そう言って彼女は手を動かしている。

よく見ると、なにか木彫り?の様な人形を手でいじっていた。


「それ、うさぎさんですか?」


湯船に入ってきたアスリンが、ラッツの持っていた人形に興味を示す。


「へ~、ラッツさんって器用なんですね!!ドワーフとして負けられませんし、尊敬します!!」

「流石に、私の手作りとフィーリアちゃんにはばれますか?」

「はい、なんとなくですが。ラッツさんらしさが出てました」


ほう、フィーリアは誰かが作ったとわかるのか。

しかし、ラッツの手作りか器用なものだな。

ラッツはその手に握っているうさぎの人形をしばらく見つめるとアスリンに差し出す。


「アスリンちゃんにあげましょう。本来は子供の玩具として試作したんですよ。こうやって水に浮きますからね。私が持つよりうさぎさんも本望でしょう」

「え、いいんですか!?」

「ええ、一緒にあそんであげてくださいな」


ラッツにそういわれると、笑顔でうさぎの人形を受け取ってラビリスの所へとフィーリアと共に泳いで?行く。


「みて、ラビリスちゃん。うさぎさんだよ」

「あら、かわいいわね。もらったの?」

「うん」

「よかったわね。私もおそろいのもらおうかしら」


何やら会話的にはお姉さんと妹のようだな。

そんな事を思っていると、ラッツが手で湯をすくって自分の顔にバシャバシャと浴びせている。


「…あのうさぎが、何か関係あるのか?」

「…あまり鋭いのもダメですね。お兄さんを好いてはいますが、全部が全部知ってほしいわけではないのですよ…」

「…すまん」


子供達が遊ぶ声だけが露天風呂に響く。


「…お恥ずかしい限りですが、私もエルジュ様の参加は嫌です…」

「…」

「…わかってはいますよ?お兄さんが国王と約定を交わした上で、エルジュ様を匿うことで保険としているのですよね?」

「ああ」


又、ラッツは顔を湯で洗う。


「…あのうさぎは私が作った物ですが、前の持ち主がいたんですよ。…わずか3日という短い主でしたが」


そうしてポツポツとラッツは話し始めた。あのうさぎにまつわる話を。



side:ラッツ


別に話したところで、あの子が蘇るわけでもないのですが…。

あのうさぎの持ち主、アスリンちゃんの保護者で、この優しいダンジョンマスターなら話してもいいのではと思いました。


「どこから、話したものですかね。そうですね…


言ったと思いますが私は奴隷になる前は商人をやっておりました。


これでも、冒険者個人としてもそれなりの技量もありましたし。


冒険者仲間も一緒に旅ついでに私に付き合ってくれておりました。


私も随分旅商売に慣れてきて、合間に自分で新しい商品でもと思って、ある村に逗留した際に作ったんですよ。


そこで、カリカリ木を削って作っているとですね。


可愛い女の子がこちらを覗いてくるのですよ。


丁度アスリンぐらいの年の頃でしょうか? 結局聞けずじまいでしたね。


そこで声をかけると、こちらの手元をのぞき込んできましてね。


いい笑顔になってくれたんですよ。「うさぎさんだ~」ってね。


いや~、商売人としては痛いミスを犯しました。その笑顔につられて、無料でうさぎさんを譲ってしまったんですよ。


そのあとはなつかれたのか、一緒に商売したり、お話ししたり、川で遊んだりしました。


そして、その村に今回の争乱の余波がやってきました。


まったく、やめてほしいですよね、夜中とか。昼間ならまだ対応のしようがあったものを。


小さな村ですからね、あっという間に押しつぶされました。


冒険者仲間はその場で散開して、各々で逃げようということになって、私も混乱に乗じて逃げるつもりでした。


運がいいのか悪いのか、うさぎをあげた女の子に出会ってしまいましてね。


私一人ならどうとでも逃げられたものを、つい、女の子に手を差し伸べてしまいました。


……あともうちょっと、本当にあともうちょっとで村を離脱できたんです。


その時、女の子がうさぎさんを落としてしまいましてね。取りに戻ってしまったんですよ。


まさか、私の手を振りはらって、あんなうさぎを取りに戻るとは思いませんでした。


女の子がうさぎを拾い上げた瞬間、複数の矢が女の子に突き刺さりました。


…助かるような刺さり方じゃなかったです。体が小さいですからね、数本も刺されば致命傷でしょう。


……すぐさま駆け寄りました、でもやっぱり致命傷でした。


……私が、うさぎさんを作ったばかりに…痛恨の、痛恨の思いです。


…そのあとはその子の亡骸を抱きしめたまま、号泣してたみたいです。


気が付けば、血まみれのうさぎを握りしめたまま奴隷になってたんですよ。


そのあとは、カースさんに選ばれてお兄さんに出会えたというわけです」


もう一度、私は顔にお湯をかけます。

こういう涙はいい男に見せたくないものです。


「……あの女の子は、うさぎさんを貰ったことを悔いては、恨んではいないでしょうか?」

「さあな、そんなのはいつか自分で聞きに行け」

「…手厳しいですね。こういう時はそっと慰めるものですよ?」

「バカ言え。目の前に答えがあるのに、一々答えてやるかよ」


そういうとお兄さんは、目の前でアスリンちゃん達がうさぎで遊んでいる所を眺めます。


「…彼女を笑顔にしたうさぎさんは間違っていなかったのですかね?」

「今の所、うさぎさんで楽しんでるのは4人中4人だな。これから増やすか減らすか、それともこれで終わりにするかはラッツ次第だろうよ」

「…増やしたいですね」

「なら、ここで頑張れ。邪魔なんてしない、特産品もほしいからさ」

「相変わらず抜け目がありませんね。…しかし、胸のつっかえが取れましたよ。明日には整理がついてると思います。ではお先にあがり…」


そう言って立とうとすると視界がゆがむ。

ああ、これが湯あたりとかいう奴ですか…。


「よっと、そりゃあれだけ喋ってりゃ、俺より先に入ってたラッツなら当然こうなるわな」

「す、すいません」


お兄さんが予想してたように私を支えてくれます。

正直私の裸を見られることは恥ずかしくないのですが、お兄さんの腕に抱きとめられるほうに恥ずかしさを感じますよ。


「よーし、みんな上がるぞ。ラッツが湯あたりしてるからちょっと手伝ってくれ」

「はーい」

「わかりました」

「…っち、私も今度湯あたりするわ」

「ラビリス、湯あたりは冗談でするな。命の危険もあるからな」


お兄さんはお子様たちとそう話しながら、難なく私をお姫様抱っこして脱衣所へ歩いていきます。


「お、お兄さん!? あ、あのこの運び方はっ!?」

「ああ、こういうのはロマンな持ち方でな。女性がこの持ち方で喜ぶかしらないが、俺はこういう風にもってみたかったんだ。まあ湯あたりした自分を恨んでくれ」


変な所でロマンティックな人ですね。


「…っち!!」


ラビリスちゃん、貴女が本妻でいいですからその舌打ちやめてください。


怖いです。

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