第25掘:おはよう、そして説明

おはよう、そして説明



体が重い…、確か俺は昨日寝て、あー頭がはっきりしない。

体が動かない、これはアレか?有名な金縛りか?

確かに胸に圧迫感があり、苦しい。

辺りを見回すともう日は上がっている。

こんな時間に金縛りがあるのか、と思いつつ何とか手だけを動かして掛布団をのけるとそこには…。


「…すー、すー」


ラビリスが乗っかって寝ていた。

あ、思い出した。俺異世界にいたんだっけ、そしてダンジョン運営してるんだった。

旅館なんぞ出して、寝てたから。普通に、旅行先で変な心霊現象にでも見舞われたかと思ったわ。


「んっ、…すー」


起こさないように、俺の胸の上からどける。

なるほどな、座敷童って感じか。

夜見ればホラーだとおもうが、今はなんとなく、ほっこりした気持ちになる。


さて、朝御飯は…手抜きするか。DPでささっと精製してしまいましょう。

まずはさっさと説明をして、今後の知恵を絞って貰わないといけないのだから。



「おーい、モーブ起きろ。飯だせねーから」

「…ん?ああ、もう朝か」

「一体いつまで宴会してやがった」


モーブは俺が蹴りを入れてようやく目を覚まし始めた。

ライヤやカースはもう起きていて、布団は片付けている。


「いや、朝は茶が美味いな」

「ですね。緑茶は慣れると本当に心が落ち着く飲み物ですね」


などと、窓近くの机でのんびり茶をしばいている。


「で、朝飯はどこだ?」

「いや、まずは布団片付けろ。女性陣も呼ばなくちゃいけないからな」

「へいへい。と、それはそうと、王女様はまだ会わせねえのかい?」

「まだ、説明不十分だ。混乱するぞ、ミリーに至っては殺しかねん」


そう、女性達にはまだエルジュが生きているとは伝えてはいない。

表向きの説明はやったが、エルジュのことを話すのはしっかりと信用できてからだと思っている。

特に、真実を知ればモーブ達と同じ同郷のミリーには怨敵に見えるだろう。


「そうか、そこら辺は口出ししねーよ。じゃ、さっさと片付けるかね」


そういって布団をたたみ始める。

こっちも女性陣を起こしに…その前にお子様三人を起こしてくるか、あんまり放置しておくのもいけない気がする。



「…きたわね。私達を捨てておいてよくも顔を出せたものだわ」

「いや、意味わからねーし」


案の定、ラビリスが布団の上で俺を睨み付けていた。

アスリンとフィーリアは目を擦ってまだ夢心地のようだ。


「よし、そうだな。旅館の贅沢ってのを教えてやろう。まずは他の女性陣を起こしにいくぞ」


アスリンとフィーリアを抱え上げて、ラビリスと一緒に部屋をでる。

重くはあるが、まあ可愛いのでいいとしよう。

これが、子供を持つ親の心境かね。


「…私もまだ眠いわ。だから…」

「今度にしてくれ、流石に腕は三本ない」

「…そう…約束よ」

「なに、残念そうな顔してるんだ。しかたねえ、ほれ肩に乗れ自分でバランスはとれよ」


ラビリスがとても寂しそうだったので、肩車を提案してみた。

アスリンやフィーリアならこの提案はしない、落っこちそうだからな。


「…ありがとう」


そういって肩に乗っかって頭に手を置く。

ついでにメロン二つも頭に当たるが、これは無視だ。

そんなこんなですぐ隣につく。


「おーい、起きてるか?開けてくれー」

「はいはい、お兄さん。起きてますよ~」


ラッツが対応して扉を開けてくれたのだが…。


「…え~、育児中ですか?」

「否定はしない」

「否定しないのですね。色々ご苦労様です。で、朝ご飯ですか?」

「ああ、だがその前に、旅館特有の贅沢を味わってもらうと思ってな」

「いや~、他のみなさんも今の状態で、十分すぎる贅沢だと思っていますよ?もちろん私も、これ以上の贅沢なんぞあるのですか?って言いたいのですが」


ラッツと会話してるとエリスとミリーも気が付いてこちらにやってくる。


「また、変な贅沢をするつもりなのですか?」

「ああ、たった半日で贅沢に慣れてる自分がいるわ。ユキさんから聞かされる次を期待してしまってるわ」


エリスはもうあきらめた、ミリーはもうだめだって感じでこちらを見ている。


「フフフ…みんなを連れて露天風呂に行くとよい!! それがこの施設の最高の贅沢だ!!」


そう、旅館。露天風呂のある旅館の最も贅沢といえば。いつでも風呂に入れる事!!

朝は朝で、昼は昼で、夜は夜で!!


「目覚まし替わりと思ってくれ。服は昨日と同じように籠にいれといてくれ。代わりも籠に入ってるから」

「…なんといいますか。四六時中お風呂に入れる贅沢に、それを寝覚め代わりとは。そして服すらもう替えるのですか。お兄さん、私たちをダメにしてどうするつもりなんですか~」

「いや、昨日もいったがここにいる限りはこれが普通だ。そしてこれを維持したければダンジョンの運営を上手くやっていかねばならない。君たちが頑張ればこの生活を維持できるということだ。その為にも、今日はさっぱりして気持ちを切り替える為に入ると思ってくれ」

「…色々いいたいですが、お兄さんに大人しく従いましょう。こんな贅沢は一生で一度だけかもしれませんから」


ラッツはそういうと、みんなを引き連れて部屋をでてくる。


「と、お兄さんはどうするんですか?一緒にはいりますか?」

「いや、やめとく。すまないがこの子たちを頼めるか?俺はのんびり男湯に入るわ」


そう、子供三人をラッツに差し出そうとするが。


「…私も男湯に行くわ」

「一緒がいいです」

「です!!」


アスリン、フィーリアはしがみ付いてくる。いつの間にか起きていたようだ。

ラビリスに至ってはメロンが変形してフィットするほど頭にしがみ付いてる。


「…お兄さんすいませんが、私がお兄さんの妻でなくては、その子たちの面倒はみれないようです」

「はぁ、仕方ない。風呂から上がったら、昨日晩御飯食べた所に集まってくれ。朝食後に説明するから」

「了解で~す」


そうやってラッツ達とわかれて男湯に入る。


「さーて、昨日のやり方は覚えてるか?」

「だ、ダイジョブです」

「うーん、あんまり覚えてないです」

「私は重いから、また手伝って」


一人以外はまあ仕方ない、あれはこの子たちにとっては常識外のことだからな、ゆっくり覚えていけばいい。

正直、ラビリスはわざとやってないか?甘えてくれていると、見ればいいのか?


又、俺は悟りに一歩近づいたと思う。

だってメロン二つ抱えて何もしないでいるのは凄まじい精神力がいるんだ。



そのあとは殆ど問題なく朝食を終え、彼女達の詳しい立場とかダンジョンの説明をすることになった。


「とりあえず、全員お茶は回ってるな」


こういう長丁場になるときは飲み物が必須である。

長机にみんな座布団の上に座ってこちらに目を向けてくる。

ちなみに、子供三人は一人が俺の膝の上、あとは両隣にいる。もう絶対保護者だな。


「さて、ダンジョンの運営について説明したいんだが…その前に昨日ラッツ達が色々疑問を口にしてたから、そっちを解決してから俺の説明に入ろうか」

「そうですね~、お兄さんへの疑問を減らしてからのほうが説明は聞きやすいかと。では、失礼して昨日の件ですがお兄さんは出身地があるような事言ってましたよね?」

「ふむ、そこら辺から説明すればそっちの疑問をある程度解けるかもな。いったん俺がダンジョンマスターになった経緯を聞いてくれ」

「わかりました~、よろしくお願いします」


てなわけで、嘘八百のある程度真実に沿った説明をする。王女様達にしたのと同じ内容だ。

・気が付いたらダンジョンマスターになってた。

・故郷はここの大陸とは別の所。所と言っているのが味噌。別世界でも嘘ということにはならない。

・自衛の為にダンジョンを運営していた事

・モーブ達と出会って会話できたおかげで、色々方針が決まってラッツ達を連れてきてもらったこと。

・DPを稼いでダンジョン内に村や街をつくろうということになったこと。<今ココ



ここまで説明を終えた時点でこの話についていけてるのは、カースが選んできた学のあるラッツを筆頭に、エリス、ミリーに辛うじてトーリ、意外なことにラビリスは理解しているみたいだ。アスリンは何とか聞いてる感じ、フィーリアはリエルとカヤと同じく煙を噴いている。


「なんと言いますか…お兄さんも大変だったんですね~。いきなり気が付いたらですか…」


ラッツがなんと言葉をかけていいか悩んでるようだった。いや実際は拉致に近かったけどな。あの駄女神。


「なるほど、ダンジョンを思いのままに操れるなら、これ以上、便利な居城はないですね。そしてそこに村や街をつくることが出来れば、それはとても凄いことになるわ」


エリスは俺の説明を聞いて感心している。俺の軽く見せたダンジョンマスタースキルからそこまで考えられるのだから流石と言うべきだろう。


「はぁ、今までのダンジョンマスターもユキさんのような方だったのでしょうか? 今まではダンジョンができればすぐ討伐してましたから…」

「…考えたくないですね~、お兄さんみたいにいきなり連れてこられて、いきなり襲われてって奴ですか。そうなったら、私ならダンジョンをしっかり固めて、逆に外に侵攻しますね。自分の安全の為に。そして自分の常識が通じない場所で、会話なんてしようとは思いませんよ」


ミリーは俺の境遇を聞いて、今まで出現していたダンジョンに嫌な想像をしている。

ラッツも、俺と同じ状況だったらと考えたのだろう。概ねダンジョン運営のセオリーと言える解答を出している。


「ま、そこはモーブ達と出会ったのが幸運だったわけだ。なんとかDPを殺害以外で得て、故郷に帰れないかな、と思ってるわけだ。その過程でダンジョンを有効活用しようと思ってね」

「ああ、そういえばその「ダンジョンポイント」でしたっけ?それはどうやって手に入るのでしょうか?なにやらお兄さんから、物騒な言葉が聞こえた気もしましたが」

「物騒な方法もあるが、別の方法もあるんだ。とりあえず聞いてくれ」


そしてDPの入手方法を簡単に説明してみる。

・DPはダンジョン内で、ダンジョン外で生まれた生物が死滅、あるいは一定時間いるとDPが加算される。

・DPの加算量 死滅はHP+MP=DP 一定時間は一時間で総MPの100分の1※100分の1で1以下の場合は1DP加算 例外として外部の者が魔法使ってもMPとしてDPに変換される。が効率はさらに悪い。

・注意、指定保護されている生物はDPを吸収されない。


「なるほど、なるほど。私が死ぬと、大体800DPぐらいですか。因みにお兄さん、1DPの価値が判断しにくいので、この旅館でしたっけ?どれぐらいDPを使ったのですか?」


そういわれたのでコピー用紙に費用等を書いていく。紙の質の良さにラッツ達は驚いているが、無視して書く。


露天風呂付き旅館2000DP 維持費は年間100DP

概要

・露天風呂500DP 自動清浄機能付き

・部屋  300DP 大広間なども含むトイレも込み

・中庭設備400DP 自動維持機能付き

・台所設備300DP 食料品含む、食料は冷蔵庫から自動補充機能

・備品  300DP 布団、机等… 備品ボックスを作っているので無くなることはない

・清掃設備200DP 洗濯機、ごみ箱等… ごみ箱は無生物を消滅させる


別枠出費560DP

・昨日と今日の食事300DP 一食一人前あたり10DP

・浴衣 260DP 一人あたり10DP


「う~ん。これでは何とも言えませんね。お兄さん、このダンジョンを作った時の出費ってわかりますか?」


そう言われたので、当時の出費を書き出してみる。


ダンジョンの設営費最初の頃1380DP

概要

200DP 土地2㎢(1㎢につき100DP)尚年維持費(1㎢につき10DP)

100DP 深さ1㎞(1㎞につき100DP)尚年維持費(1㎞につき10DP)

300DP ダンジョン形成(1フロアにつき100DP)

150DP ダンジョンカスタム(1フロアにつき50DP)※カスタムは地形の変更

150DP トラップ生産(製造のみ)DPは罠によって違う

30DP  トラップカスタム(配置)一律1フロア10DP

300DP モンスター召喚 詳細はあとで

150DP 自室の家具など…通販システム


計1380DP 残120DP 維持費抜けば 残90DP



「…ダンジョン運営に必須なのは、かなりDPの消費は抑えられているようですね」

「これはまた微妙ですね~、なるほど。他のダンジョンマスターは下手に人を囲わず、殺害したほうがある意味楽ですね。嗜好品はお金がかかるって感じでしょうかね。というかお兄さん、どれだけDPに余裕があるかは知りませんが、食事と浴衣は別出費だったんですね」


エリスは書かれたDPをみて色々考えているようだ。

ラッツはダンジョンマスターが、俺と同じように友好的にならなかった理由を、ここにも見出したようだ。下手に人と繋がってもうまくDPが稼げるとは限らない。なら殺しちゃえって奴だ。

気に入った人だけを囲めば、それだけDP消費は抑えられる。俺みたいに村や街をつくるのはかなりの度胸がいるわけだ。


「でも維持費ってダンジョンマスターも世知辛いのね…。そう言えばユキさん、最初DPってどれぐらいあったのですか?あとこのモンスター召喚はなにを呼んだんですか?」

「1500DP。モンスターはゴブリンとスライムぐらいしか呼べるのはなかったな」


ミリーの質問に答えると、聞いていたラッツが青ざめた表情で喋る。


「なんですか、その厳しい状況は…三階層で、ゴブリンとスライムだけで防衛って…私でも突破できますよ~、お兄さんよく無事でしたね」

「けど、ダンジョンの浅い層の敵が弱い理由がわかったわ。人を誘い込む為でもあったのね。そうしないとDPが稼げないから」

「ですね~、強い魔物がいるダンジョンが、何で外に侵攻してこないかがわかりましたよ。そこで安定して稼いでいるわけですか」


ラッツとミリーが納得したようにうなずいている。

エリスも考えがまとまったのかこちらに話してくる。


「ユキさんのお話はわかりました。それで私達は具体的になにをすればよいのでしょうか?建物の配置などを考えればよいのですか?」

「いや、ここのみんなにある程度のダンジョンマスター権限を譲って、好きに作り変えて貰おうと思ってる」


エリスの質問に俺は、当初より予定していた言葉を伝えると、ラッツがものすごい食いつきを見せた。


「ちょっと、待った!?譲れるんですか!!権限!?」

「完全には無理だけどな。だけど俺が万が一死んでも、代官がいればダンジョンは運営できるってわけだ」

「ああ、そういうことですか。保険でもあるんですね」

「そういうことだ。あとダンジョンコアも守ること忘れずにな。コア取られるとダンジョンは機能停止するから」

「これは結構メンドクサイですね…。やっちまった方が本当に楽ですね」

「すまんな、人に住んでもらう方針にしてるんだ。頼む助けてくれ」


俺はそう言ってみんなに頭を下げる。これからの事を考えると、絶対に人に住んでもらうほうが後々楽になるんだ。これだけは変えるわけにはいかない。


「…はぁ、お兄さんにそういわれたら断れないですよ。奴隷から助けてもらって、こんな好待遇までしてくれるお兄さんに鞭なぞ打てません。私は、ラッツはお兄さんに協力いたします。皆さんはどうします?」


ラッツはそう言って他のみんなに目をやる。


「別に無理してこの運営に参加する必要はない。このまま普通にこのダンジョンの住人になるだけでもいいんだ。追い出したりしない」


俺はそうやって言っておく、無理に手伝ってもらっても後々で問題が生じるからな。


「私はユキさんのお手伝いをしたいと思います」


エリスは何も問題ないと普通に返事をくれる。


「ここまで友好的なダンジョンマスターを蔑ろにはできませんね」


とはミリーの発言。


「もとより、ユキ様に従う次第です!!」

「僕も手伝います!!」

「…協力する」


トーリ、リエルにカヤの獣人組も賛成。


「私もユキさんのお手伝いをします!!」

「です!!」

「…手伝うわ。嫌っていっても手伝う絶対」


子供三人も同意。


「ふむふむ、お兄さんのハーレムもできつつありますね。ところで気になったのですが、このダンジョンができて一か月ほどでしたっけ?」

「ああ、それがどうかしたのか?」

「いえ、これから村や街をつくろうというのに、この旅館に2000DPもかけてよかったのですか?初期費用で1500DPだったんでしょう?それを考えると、ここ一か月の収入DP全部つぎ込んだのでは…と心配になりまして。今の私達は指定保護受けてますから、DP提供はできないので…」


ラッツは自分が無駄飯ぐらいになっているのではと心配しているようだ。

まあ、その心配はないけどな、前回のおバカな兵隊がDPになってくれましたから。


「ああDPは大丈夫。まだ49万DPは残ってるから」


それで一同が沈黙する。


「なんでそんなにDPがあるんですか!?一体何百人!?いや、何千人ヤッタんですか!?一か月ですよね!?何があったんですか!?答えてください!!」


ついでだ、説明してエルジュも紹介しておくか…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る