第22掘:お風呂は日本が誇る文化である。

お風呂は日本が誇る文化である。



「え、今ダンジョンマスターって言いましたか?」


ミリーが顔をひくつかせて俺を見つめている。

それと同時に、ラビリスにも変な視線を向けている。


「鑑定系スキルの持ち主!?」


エリスも驚いたように声を上げている。


「…っ!?」


ラビリスがその反応で首を竦める。よく見ると体中に痣がある。なにか関係あるのだろうか?


「と、ちょっと待ってくれ。俺がダンジョンマスターってのは、今害になるようなことはないから後で説明する。で鑑定系のスキルってなにかまずいのか?」


そうやってカースを見ると、カースも驚いていたのか、俺が声を掛けるまでラビリスを見つめていた。


「ああ、すまない。ユキは知らなくて当然だな。鑑定系のスキルはその通り、鑑定してその人のステータス等を覗けるんだ。優れたものは相手の言葉の嘘も見抜ける。しかし、問題がある。それが本当の事を言ってるかってことだ」

「なるほど、本当にスキルを持ってるか。という話になるんだな?」

「ああ、仲間内で共謀したりしてでっちあげることもできる。そして、ラビリスのように本物だとしても問題がある」

「ラビリスが邪魔になる…か?」

「そうだ、本当に真実を見られるなら価値は計り知れないが、邪魔にもなるんだ。なにせ、ステータスを全てみられるからな、隠し事もあったもんじゃない。冒険者ギルドや町では、水晶判定というのがあるのだが、こっちは職業とレベルまでだ。これ以上ステータスを明かせるアイテムは存在しないし、作らない」

「しかし、それだけでも町全体の職業やレベルがわかるんだよな」

「それだけでいいと、今までの各国の王や統治者は考えている。これ以上の開示は色々と問題がある。だからラビリスのようなスキルの持ち主は、盗み見などと、無下に扱われるケースのほうが多い。今まで無事だったのが珍しいぐらいだな」


しかしなんで、ラビリスは今になってその事を明かしたのか?下手に話せばその場で殺されかねない内容だ。

そう疑問に思ってラビリスを見つめていると。俺の考えがわかったように…。


「……この人たちは私に優しくしてくれた。…特にアスリンは私のスキルを知っても怖がらなかった。……私の友達は何としても守るわ」

「ラビリスちゃん!!あ、あのごめんなさい!!ラビリスちゃんをぶたないで!!苛めないで!!」

大人しかったアスリンが飛び出して、ラビリスを庇うように抱きしめる。

アスリンは結構芯の強い子みたいだな。


「俺としては何とも思うところはないがな。他のみんなはどうだ?」


そうやって辺りを見回す。


「俺達3人は特に文句はねーよ。逆に感心したぐらいだ。いい女になるぜ、ラビリスは」


そうやって笑いだす、ロリアウト。


「失礼しました。ラビリスとはここまで道中仲良くやってきました。今更こんな事で彼女を害することなどありません」


エリスは最初の言葉を取り消すように、ラビリスを肯定する。


「私としましては、色々と今後、役に立ちそうな子だと思いますよ。もちろんラビリスはいい子だと知っています」

「へ~、ラビリスって鑑定系スキル持ちだったんだ。どう?私と一緒に商売したら儲かるよ?」


ミリーとラッツも好意的に話している。


「私は特に問題ありません!!ラビリスちゃんは可愛いと思います!!」

「僕もラビリスは大丈夫です!!僕が保証します!!」

「…ラビリスは、悪い子じゃないわ」


トーリにリエル、カヤもラビリスは大好きだと言っている。


「えと、鑑定スキル?があるとラビリスちゃんが悪い子になるんですか?よくわからないです、お友達ですよ?」


フィーリアはよくわかっていないようだが、ある意味一番純粋な答えだろう。


「……私の事は好きにしてもいいから、みんなには手を出さないで…お願いするわ」

「ラビリスちゃん!!」


なるほど、ラビリスは俺が得体が知れないから、皆を守ってるのか。

よくできた子だ、しかしどうやってラビリスを説得するかね。


「…なら好きにさせてもらうか」

「っ!?やめてください!!お願いします!!」


アスリンが俺の足にしがみ付く。

でも、そんなのは何の邪魔にもならない。

ラビリスの体が光に包まれる。


「ラビリスちゃん!!」

「…アスリン」


どこの感動物語で、俺は悪役ですか?

ロリコンちゃうねんよ。


「よし、これで痣とか体の傷は消えただろう」


俺がしたのは回復魔術。高レベルのエクストラヒールだ。


「…え?」

「ラビリスちゃん、体中の痣消えてるよ!!よかったよー!!うわーん!!」


アスリンがラビリスの胸に顔を埋める。…一つがアスリンの顔サイズぐらいか?重くね?


「とまあ、君達に害意は無い。あるならとっくにやってる。それでだ、本物の俺が出られないのはダンジョンマスターだからだ」

「…どういうこと?」


ラビリスはアスリンの頭をなでながら俺に質問をしてくる。


「ミリーとか、ラッツ。いやダンジョンの事をある程度知ってるならわかるんじゃないかな?」

「そういうことですか。ラビリス、彼が偽物なのは私達が信用できるかを、見極めていたのだと思います」


納得がいった顔でエリスはラビリスに告げる。


「…なぜ?」

「簡単です。彼が本当にダンジョンマスターなら、彼が死ねばこのダンジョンは死んだも同然になるのです。ダンジョンコアとダンジョンマスターは繋がっていますから」


ミリーが続けて話してくれる。いや、実際は違うんだけどね。今言うことじゃねえな。


「なるほどねぇ~、お兄さんも抜け目ないね~。で、どうかな?私達は信用できそう?」


ラッツは感心したようにこちらを見つめている。


「ああ、信用は出来そうだな。だが最後に、その奴隷契約を解除して指定保護に入ってもらうよ」

「…指定保護?…それでユキは私達を信用してくれるのね?」


ラビリスは確かめるようにこちらを見つめてくる。

ほかのみんなも俺の言葉が出てくるのを待っている。


なので、指定保護の条件、ルール。などを簡単に説明する。


「はぁ~、便利なスキルだね。私も欲しいよ。と、話がずれたね。お兄さんの話が本当ならそのスキルは絶対かけるべきだね。私はお兄さんの事信じるよ」


ラッツはなにも問題ないと同意してくれ、他のみんなも特に問題ないといってくれる。

…そして最後に。


「……わかったわ。私はユキを信用する。だけど約束して、そのスキルを掛けたらちゃんと私達の前に出てきて」


ラビリスはそうやって条件を付けた。


「わかった。じゃ始めるか」


そうやって、指定保護を9人にかけていく。

どこかのオリエルの時のようにミスることはなかった。よかったわ。


「本当に…奴隷の首輪がとれた」

「…本当なんですね」


エリスとミリーは自分の身に起こったことに半信半疑のようだ。


「すごいねぇ~、お兄さん。こりゃ、色々面白くなりそうだね」

「ありがとうごさいます!!全力でダンジョン村に力を貸します!!」

「僕も!!」

「…ありがとう」


ラッツ、トーリ、リエル、カヤは俺にお礼や今後の事について熱く語ってくれる。


「よかったねラビリスちゃん!!首輪がとれたよ!!」

「よかったです!!」

「…うん。みんなが嬉しいなら私も嬉しいわ」


アスリン、フィーリア、ラビリスは仲良く喜んでいた。


「よし、それじゃ改めて、初めまして。もうばれちゃったが、ここのダンジョンマスターだ。これからよろしく頼むよ」


そうやって、ドッペルゲンガーを後ろに下げて本当の俺が進み出る。


「おー、お兄さん珍しい服着てるね~。どこの出身?」


流石商人をやっていたラッツだ。よく気が付く。


「ちょっと、待ってください。ユキさんが危険でないのは分かりましたが…どうやってこの人数で村や町を作るのですか?他に応援がくるのですか?今日はこのダンジョンの草原で野宿?」


エリスは尤もな事を言ってきた。


「エリスの言う通りだな、まずはそこのところをしっかり説明したいから、ラッツは少し待っててくれ」

「ごめん、ごめん。まずは今日の寝床が先だね~」


そうやって俺は「そこ掘れワンワン」を起動して、予定しておいたいくつかの建造物の内、この人数が生活しやすい建物をDPを消費して出す。


DPはこの前の騎士団が、バカみたいに突っ込んでくれたんで、50万程稼げましたとも、あのあと最終的に400人前後がダンジョン内でお亡くなりになりました。一人あたり1000前後でした。ごちそうさまです。


「ふわ~、本当にすごいねお兄さん。これがダンジョンマスターのスキルか~、なるほどこりゃ人手なんかいらないね~」


ラッツだけが、目の前にいきなり現れた建物に対してコメントを残せた。

あとのメンバーは目を真ん丸にして驚いていた。


「とりあえず、入ってくれ。ああ、靴は玄関で脱いでくれな。俺の住んでた所はそれがあたり前でな」

「へ~、珍しい所から来たんだね~…あれ?ダンジョンマスターって出身地なんてあるの?」

「そこら辺も家に入ってから説明しよう」


そうやって皆を促して、家の中に入る。

DPで作った家は旅館だ。もちろん露天風呂付のな。

2000DPと割と高くついたが、日本人的にこれは譲れないものがあるのだ。


「そうだな、話の前に一旦汗を流すか。こっちについてきてくれ」

「汗を流す?井戸ですか?」


エリスは見慣れない和風の廊下をキョロキョロ見回しながら、ついてくる。

他のみんなもおおむね同じだ。


「お風呂ってわかるか?」

「王族や貴族だけが利用するものですよ?もしかしてお風呂があるんですか!?」


ミリーが驚いたようにこちらを見てくる。


「ああ、お風呂だが…まあそれよりも上だな。その名も露天風呂!!」

「ろてんぶろ?お兄さんがそういうなら、すごいんだろうねぇ~」


ラッツはもうワクワクして俺についてくる。かなり好奇心は強いようだ。


「くはー、久々だな。風呂!!ユキにあってから初めて入ったがいいよな!!

「ああ、そうだ。ユキ、酒はあるか?日本酒がいいんだが?」

「露天風呂ですか、ユキの言う通りお風呂の上なんでしょうね」


この3人は、俺と知り合って初めて風呂に入ってその良さに気付いた人間だ。

しかし、風呂で酒を飲むこともはじめやがった。いやそれも風流なんだがな。


「と、ここだ。モーブ達は男湯な。エリス達は女湯だ。説明するからモーブ達は先に入ってろ。浴衣は中にあるからな。酒も見てわかる場所に置いてある。ライヤとカースは面倒みてくれよ」

「いやっほー!!風呂だー!!」

「わかった。酒はそれなりに飲ませてもらうぞ」

「努力はする。が、ユキの文化は俺にとっても贅沢でな。少しはのんびりさせてもらう」


そういって、3人は男湯の暖簾をくぐっていく。


「じゃみんな、こっちな。色々説明するからついてきてくれ」


こっちも女性メンバーを連れて女湯に入っていく。


「ほわ~、とりあえず色々すごいけど、どう使っていいのかわかんないや」

「す、すごいですね」

「これが、露天風呂…」


ラッツ、エリス、ミリーはもう驚き疲れた様な感じで露天風呂を見つめている。


「まあ、その前に服はこの籠に一人一個ずつ使ってくれ、中に浴衣ってのが入ってるから。それは、こうやって…」


その場で服を着たまま簡単に羽織る。


「服はそのまま洗濯するから、この浴衣を風呂から上がったらきてくれ。タオルとかも一緒に入ってるからな。小さいタオルを持って風呂に行ってくれ。石鹸で体洗うのに使うから。大きいタオルは風呂から上がった後、体拭く用な」

「…石鹸まであるの!?」


カヤが俺の発言に驚いている。ああ、そういえば石鹸すらこの世界じゃ嗜好品だったな。


「…シャンプーとかリンスってわかるか?」

「いや~、ごめんねお兄さん。全然わからないや」


ラッツはあははーと頭をかいて笑っている。なぜか片手にタオルを持って全裸だ。

しかしラッツだけではなかった、全員全裸でこっちに寄ってきていた。


「おい、俺は男だ。そして君達は女性だ。そんな全裸でうろつくんじゃない」

「だってさ~、使い方わかんないし、お兄さんと一緒に入って教えてもらうほうが早いでしょ?」

「問題はそこじゃない、君達は奴隷じゃない、そこらへんの人権はある。俺はそういう事をするために、君達を指定保護したわけじゃない」

「うんうん、お兄さんの優しさは分かってるよ~。だけど普通はあのまま犯されて肉奴隷とかにされちゃうんだよ。これはお兄さんへのお礼とお風呂の入り方説明ってことで一緒に入りましょう」


ラッツはそう言うと、エリスとミリーが俺の両サイドを固めてくる。


「このまま、無理やり脱がされるのと、自分で脱ぐのどちらがいいですか?」

「使い方がわからないんです。あきらめてください」


「わかった…自分で脱ぐから。待ってくれ…」


そうやって俺は観念して彼女達と一緒に女湯に入るのであった。



「お兄さんがその気なら、私は別にOKですけどね~」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る