第18掘:我が策成れり

我が策成れり



side:ルルア



私は今王都で彼女達の到着を待っています。

私達はここで初めて顔合わせをする予定なのです。


そして彼女が王都へとたどり着く…誰かの遺体を抱えたまま。


「セラリア様!!」

「っつ!! ルルア!! よかった!! 早くエルジュを見てあげて!!」


そうやって、セラリア様が予定通りに偽物のエルジュ様をこちらに寄越そうとする。


「セラリア様お待ちください!! 彼女は今回の原因ともいえるリテア聖国の聖女です!! 迂闊に近づいてはっ…!!」

「彼女は私とエルジュの友人だ!!そして、もう私達ではエルジュに手の施しようがない!!」

「…っ!!」


クアルさんは悔しそうな顔をしてからこちらを睨み付ける。当然の行為だと私でもわかる。だけど苦虫を噛み潰した顔で頭を下げる。


「…どうか、どうか!! エルジュ様を!!」


絞り出すような声だ、しかし私はその期待には応えられない。

エルジュ王女は公の場で亡くならなければならないのだから。

しかし、私が何もしないというわけではない。このままエルジュ様を見殺しにしてはこの場で首が飛びかねない。


「…全力で行きます!! エクストラヒール!!!」


血に濡れるエルジュ王女を中心に癒しの光が広がる。


「な、なんという!! これがリテアの聖女の力!?」


クアルさんが驚きの声を上げてる。当然だ、わざとヒールの範囲をできるだけ広げているのだ、つまり…


「おおお!! 体の痛みが引いていく!!」

「ああっ!! 子供の熱が下がったわ!!」

「腰が悪かったのが、今は痛くないぞ!?」


軍の内部だけではなく、王都の町の人達もヒールの範囲に入る。


「っルルア!? 力を抑えなさい!! このままではあなたも危険よ!!」


辺りの様子に気が付いたセラリア様は、そうやって私を制止しようとする。


「い、いいえ!! エルジュ様も私にとっては…妹みたいなものです!! 決してっ、見捨ては…!!」


そうやって力を振り絞りありったけの魔力で広範囲にヒールをかけ続けて…


「あっ」


意識が途切れた。



side:ロシュール6世



まったく、偽物とわかっていても娘の遺体を見ることになるとはな…。

これは、演技で涙を流す必要もないか。もう我は涙で顔がボロボロであった。


「王よ!! 此度の件、ロワールの口から出た通り、リテア聖国の仕業です!! エルジュ様は、あの国の国策の為に生贄にされたのと変わりませぬ!!」

「そうです!! ガルツ国に此度のことを伝えて共にリテア聖国を…いやリテアを討つべきです!!」

「バカを言うな!! ガルツ国はこれ幸いと、リテアと組んで我が国に攻めあがってくるに違いない!! 迂闊な事を申すな!!」

「正義は我らにある!! エルジュ様にいかような罪があったというのだ!! ただ民を救っていただけではないか!! それを国策の贄にされて黙っているわけにはいかん!!」

「落ち着け!! それでは何も解決にならんというのだ!! 下手をすれば我が国…エルジュ様が救いたいとおっしゃられていた民に被害が長期にわたって及ぶ!! それをわかっておるのか!!」

「では、どうするというのだ!! このまま、リテア聖国のことは知らなかったことにでもするというのか!! ふざけるな!!」


茫然自失と演技する我の前で会議は大荒れを起こしている。

当然だ、今回の件、リテア聖国が暗躍していたことが重臣達に知れたのだ。

今後の対応次第で、戦争がさらに拡大していく。

今回の件はリテア聖国としては戦争という手段に持ち込みたくなかったのだから、暗殺などという手を取ったのだ。

つまり、向こうも、戦争に手を割ける状態ではないということ、つまりこちらから手を出さなければ静観を決め込んでくるだろう。


正直な話、我としてはエルジュは無事なのだから、穏便に済ませたい。だが、エルジュが死んだと思っている大臣達のほとんどは「リテア聖国に攻め込むべし」と主張している。

これを我の一声で制止しては後々、また今回のように内部から崩れかねない。

だからもう一手いるのだ。この場面を止める一手が。


「お父様、会議中失礼いたします!!」


その最後の一手が現れた。


「セラリア様…」

「セラリア王女様…」


大臣達の声が小さくなっていく、当然だろう。この中で一番エルジュの死を嘆いているのは誰かと問われれば、国中がセラリアと答えるであろう。

そのセラリアが泣きはらした顔を繕いもしないで、この会議に現れたのだ。


「彼女のお話を聞いていただけますか?」


そうやって、彼女の後ろからリテアの聖女が姿を現す。


「き、貴様よくもぬけぬけとこの場に姿を現せたな!!」

「セ、セラリア様、なぜ!! このようなエルジュ様の仇とも言うべき相手を!!」


「皆の者落ち着け。このリテアの聖女、ルルア殿はエルジュと良き仲であった。そしてこの度も自分の危険も顧みず、エルジュを救うため、余波で周りの者の傷を治すほどの大魔法を使ったときく。今この場で彼女を疑う術など我は持たぬ」


そういうと、大臣達は肩を落としていく。ルルア殿のあの広範囲ヒール内に大臣たちも入っていたのだ。


「今の現状を知ってこの場に来たのだ、余程のことなのだろう。皆ルルア殿の話を聞いてはくれまいか?」


「王がそうおっしゃるのなら…」

「…わかりました」


そして、ルルア殿に目配せする。


まったくなんという茶番。しかし、これをなさなければ余計に被害が広がる。

リテア聖国に責任があるのだが、面と向かってリテア聖国が原因で今回の争いが起きたなどと口が裂けても言えない。


ならばどうするのか? ダンジョンマスターはこうのたまった。


『責任押し付けていい所に押し付ければよくね? 例えば魔王とか?』



「…此度の争乱。すべて魔王が仕組んだものなのです」


「なっ、そんなふざけた言い訳が通用すると思うのか!!」

「そうだ!! 貴様言うに事をかいて!! 恥をしれ!!」


ルルア殿に罵声が飛ぶ、しかしそこで救いの手が入る。


「おやめなさい!! 大臣たちの言う通り、リテア聖国の陰謀というのであれば、なぜ聖女であるルルアが単独でこの場にきているのか!!!」

「そ、それは…」

「ルルアは、今回エルジュに新しい術の教授にお忍びで来る予定だったのだ!! リテア聖国が策を組んでいるというのであれば、聖女をこの場に送るわけないでしょう!!」

「た、確かに…ルルア殿が今この場にいる利点は全くありませんな…」

「お父様聞いての通りです。今回ルルアが来なければ、リテア・ロシュール・ガルツの三国で、国力の果てしない削りあいが始まっていたはずです。私は、ここにいるリテアの聖女を…いや、友ルルアを信じます!!」


セラリアはしっかりとした瞳で我を見つめてくる。

…もうちょっと泣き顔を続けた方がいいと思うぞ、勇ましさが前に出すぎじゃ。


「よいのか? ルルア殿が本当のことを言っているとは限らん、この場しのぎの嘘をついているやもしれぬ」

「ルルアはエルジュの死に嘆き涙を流しておりました。…そんな彼女が演技で私をだましていたとするならば、その時は私がルルアの首を刎ねましょう」


しばらく会議室は痛いほどの沈黙が続く。


「…ふむ、我はセラリアとルルア殿の話を信じようと思う。今は亡きエルジュの為にも多くの民を救うためにもな…」

「…私も異存はありませぬ」


1人の大臣が賛成を示すと、ポツポツと皆賛成の声を上げ、最終的に全員が賛成してくれた。

ここに、ほぼ計画は成った。


「あとはガルツ国との関係ですな」

「此度の件は魔王に嵌められたとはいえ、ロワール主導でガルツ国に進撃したのが原因じゃ、だから……」


あとはガルツ国に対する停戦と賠償の話に会議は移っていく。



しかし、ルルア殿が来たのをこうまで見事に利用するとはな。会議も彼のほぼ予想通りに進んだ。これでロシュールはこれ以上無駄に戦争をしなくて済む。

国を治める者として、戦争とは最終手段なのだ。今回はエルジュが表に出られなくなったが、本来死ぬはずだったのだ、僥倖とみるべきだろう。


今回の件で一番被害を受けたのは、何もしていない魔王であろうな。


なにせ、何もしてないのに強国3つがいきなり手を組むのだ。


此度の話がまとまれば、リテア聖国は喜んで同盟に参加してくるだろう。

ガルツ国はどうなるかわからないが、こっちも参加の方向になるだろう。

魔王を倒すために手を組みましょうと言っているのを蹴るのは、魔王に与していると言っているようなもの。


これからは、しばらく内政に力を入れることになるだろうが…。


「あのダンジョンマスター、これからどう動くつもりだ?」


ダンジョンの方針は聞いているが、どこに向かうかは我にはまったく想像できなかったのだ。

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