第16掘:俺が目指すダンジョン運営の説明と交渉
俺が目指すダンジョン運営の説明と交渉
side:カズヤ・トリノ 偽名:ユキ
王様がひとしきり叫んだあと俺は話を続ける。
「証拠なんて無いがな。信じる信じないはそっちの勝手だ。心配しなくても善意から助けるわけじゃねえよ」
最初から善意なんてモノはついでだ。悪いけど、俺が今後生き残る為に利用させてもらうとしよう。
『…はっきりと言うな。しかし、裏がなく善意と言われても信じられんな。むしろこの場では好感が持てるわ。ぬははは…!!』
ロシュール6世はそう言って笑い飛ばす。別にこの王様自身の器は今話した感じ、決して悪くはないがご時世って奴なのかね。
『お父様とりあえず、ダンジョンマスターの要求をお聞きしてはどうですか?』
『そうだな、ダンジョンマスターよ、そなたは何を望んで我らに手を貸すのだ? そして我が受ける利点はあるのか?』
さて、ここまでくればほぼ詰みかね。といっても断られて討伐軍起こされてもそれはそれで美味しいんだが。
「何簡単だ、あんたの指示で…いやそっちはこっちでやるか。このダンジョン内で村か町を興そうと思う。だからあんたはそのダンジョンに害無しと国民に触れ回ってくれ」
『ダンジョン内に村?町だと?なぜそのような事をする必要があるのだ?』
「そこから説明しないといけないな。ちょっと長くなるぞ、エルジュやオリエル、そしてセラリアも面倒だろうがもう一回聞け。今度話すのは俺のほぼ希望その通りだからな」
「ユキ、どういう事?もしかして私達にまだ隠し事をしてたの?」
「そりゃな、最初から手の内全部見せびらかす奴がいるかよ」
一旦間を空ける。その場のみんながこちらに視線を集める。
「じゃ説明を開始しますかね。質疑応答って感じで進めていこうか、長いから後で質問って方法じゃ忘れそうだからな」
「わかったわ」
「わかりました」
「了解した」
こちらの3人は承諾してくれた。
『こっちも構わないぞ』
『私としても問題はありません』
『…わかりました』
『俺たち3人は右に同じで』
向こうもOKだな。なら始めますか。
「まずはそっちに聞きたい。ダンジョンってなんで存在してると思う?」
『ん? 自然に発生するのではないのか?』
『お父様違いますよ、なぜ自然に発生するのか?という根本的な事を聞きたいのだと思います』
『では私の独自解釈ですが、今までの文献から見るに、ダンジョンは人や獣を誘い込むような形でできています。ただの洞窟であれば、宝箱など通常存在しえない物の報告がダンジョンでは当たり前のようにあります。つまりダンジョンは人や獣…つまり外部から何かしら誘い込む理由があるはずです。たとえば生きる為の食事とか』
ほう、このルルアといった聖女様は、真面目に頭がいいらしい。その分疎まれたって感じか。
「概ね当たりだ、このダンジョンについてはな。他が全部同じとは限らないと思って聞いてくれ…」
それから俺はDPの概念、それがどのような方法で得られるのかを説明した。
『なるほどな、ダンジョンマスターのそなたとしては、一々争いでDPを稼ぐより、ダンジョン内で人々に生活してもらい、DPを得る方が後々効率がいいと思っているわけだな』
「そっちだって変わらないと思うがな。自国や例えば敵国を占領したとして、そこの領民が飢えて死ぬほど税金をかけるのか?」
『せぬな。しかし、他のダンジョンについてはどういう説明をするのだ? 文献に残るダンジョンマスターは災厄として語りつがれるものも数多おる』
「わかってて言ってるだろう?まあいいか、お前らの国は決して金や権力に目が眩まない、崇高な人達の集まりか?」
『違うな…今の現状がその証拠じゃな』
そうやって王様は顔を振る。自虐的な感じだ。
「…ちょっとまちなさい。なら今の状況って不味くないかしら?」
セラリアがそう口を挟む。
「どういうことですか、ちぃ姉さま?」
「なるほど、エルジュ様。昨今のダンジョンは世の中からどう思われてるでしょうか?」
「それは、死への入口ですぐに討伐しなければいけないものです。しかし、数あるダンジョンでは訓練用として、使われているものもあるはずです。それに比べればユキさんが作るダンジョンは…あっ」
「はい、そこが問題です。私達がこのダンジョンに来るまでの戦果は存じませんが…」
「今、ロシュールの近衛軍を相手に無傷で完勝したわね…」
セラリアが頭を抱えている。
『な、なんじゃと数はそれほど多くないとはいえ、我が軍の最精鋭だぞ!?』
『っつ!?』
王様とルルアは驚きまくっている。それに比べてアーリア王女はむしろ微笑んでいる。なんかこの人自分苦手だわ。
「で、ユキ、そこはどうするのよ。今このダンジョンの評価はどう考えても、伝説に出てくるレベルのダンジョンになってるわよ。最悪のダンジョンとして」
「そこは問題ないさ、完勝してるとはいえ、敵の被害自体はそんなに多くはない。無事な人数は未だに1500以上だ。この生き残りが無事に戻れば問題ないだろう?」
「ユキ、それは違うわ。近衛が何もできずに送り返されただけで、もうこのダンジョンの評判につながるわ」
『そこを押して村や町を興そうなどとすれば、国民や臣からの反発がものすごい、支援なんぞできんぞ』
ふふふふ、半ば予定通りですな。
「まあ、ダンジョンの中の評判だけを考えるとそうなるよな。しかしだ、ここで近衛が国の内外に敗北したと伝わったらどうなると思う?」
『…リテア聖国の暗躍を考えれば、ガルツ国と共謀してロシュールを攻め落とす好機と思うだろうな。エルジュの件を押し上げて、偽物の聖女で世の秩序を乱したとか言ってな』
「おう、そうだろうな。では解決策としては何があると思う?」
『この度のダンジョン征伐を成功させるか、負けたことに対する箝口令じゃな』
「どっちがいい?」
『どっちとな?何か策があるのか?』
「ああ、エルジュを殺したことにすればいい。そうすれば丸く収まる。対外的にも内的にもな」
「ええっ!? 私殺されるんですか!?」
「落ち着きなさいエルジュ、『こと』って言ってるでしょう。偽装よ。心配しなくてもエルジュは私が絶対守るわ!!」
おう、そういわないと俺の耳がおかしくなりそうだからな、回りくどい言い方はやめたよ。
『なるほどな、エルジュが生きてるのはリテア聖国にとっては邪魔じゃ、生きていれば向こうはダンジョンにいたエルジュが本物と知っているはずだ。確実に暗殺を狙ってくるだろう。しかもだ、今回の件は向こうに筒抜けだろう。リテア聖国が攻めてくる恰好の理由となりえるか』
「そういうことだ、ダンジョンの評判は改善できなくともいいがな。別にダンジョン作ってそこで村や町を興せばいいだけだしな」
「ああ、そういえばダンジョンコアさえあれば作れんだっけ…ユキ、あんた本当にどっちでもよかったのね」
「言っただろ、実験だってな。軍相手にもしっかり対応できたしな。これから新しく作るにしても、改善するにしても、もっと強化できるだろうよ。ダンジョンに住む人達には、安全に暮らせる様な環境つくらないといけないしな」
「あれよりも更に強化ね…末恐ろしいわね。今でもこの状態なのに」
セラリアはそう言って呆れている。
『ちょっと待ってください!! ダンジョンコアがあれば作れるというのはどういうことですか!? ダンジョンコアがなければダンジョンマスターは生きられないのでは!?』
ルルアはそう驚く、そういえばこっちには説明してなかったな。
「たぶんダンジョンマスターと思っていたのは、そのダンジョンのボスだ。ダンジョンコアを取られて消滅するなら、それはダンジョンコアから制御されてたってことだな」
『何気にすごいことさらっと言いましたね!? ダンジョンボス=ダンジョンマスターではないのですね!?』
「こっちに残ってる話は大まかではあるが、エルジュ達から聞いてる。俺と同じであれば本物のダンジョンマスターは極わずかだ」
『な、なんということです…ダンジョンコアはどうやって生成してるのですか!?』
「もちろんDPで精製できるな」
『ちょっとまってください、それなら今存在しているダンジョンに潜るということは…』
「ほかのダンジョンマスターがDP稼いでダンジョンコアを精製、そしてダンジョン増やすことに一役買ってるな、おめでとう。まあダンジョンマスターが死亡すれば、それ以上の構築はないし、ダンジョンコアにDPが溜まるだけだろうがな」
『もしかして、訓練に使われているダンジョンも…』
「その可能性はあるな、俺がダンジョンコアに触ればこっちに制御を取れるけどな」
『ならばすぐ来てください!! 知らない誰かにダンジョンを作られるより、あなたのほうがよっぽどマシです!?』
ルルアはグルグルに目を回しているって表現が合いそうな状態だな。
「いやだよ、俺まだ死にたくないもん。俺を外に引っ張りだしたいのなら、こっちの条件を受け入れて、さらに国の関係落ち着かせろや」
『わしが協力しなかったり、そなたを攻め滅ぼすとしたらどうするつもりじゃ?』
試すようにロシュール王がこちらを見る。
「言っただろう、どっちでもいいって。恩を仇で返すなら今度は容赦しねえよ。しっかり殺してDPにかえてやる。約束を反故にしても、俺はダンジョン捨てて他の地でダンジョン作ればいいだけ。ここで得られるものはもう俺にとっては出来すぎだからな、わずかダンジョンを作って20と3日だ。あとは成功すればいいやレベルだな」
「えーとユキさん、今の話だと今までダンジョンに入ったのって…」
「おう、エルジュ達と今いるロシュール軍だけだぞ」
『わずかそれだけの時間しか経っていないダンジョンで軍に完勝するか…セラリアの言う通り恐ろしいのう』
「どうする? どっちでもいいぞ?」
ロシュール王は肩を落とす。
『そなたの提案を受け入れよう。だが、一つだけこちらの希望を通していただきたい。エルジュを匿ってはくれまいか? そなたのダンジョンほど、安全な場所はないだろう。親としては最低ではあるが、エルジュと国民の命を選べと問われれば、国民と私は断言する。非情だと思うだろうがな』
深々と王様が俺に向かって頭を下げる。
「いや、その判断、為政者としては尊敬いたします。ロシュール王よ、私は貴方を信用することにしましょう。エルジュ王女は貴方が私の信用を裏切らぬ限り、守ることを誓いましょう。生きていれば、いずれ情勢が落ち着けば、事を公にしてエルジュ王女が日を浴びる日もくるでしょう」
そう返すと周りがなぜが俺を見てくる。いや、礼には礼でかえしますよ?
「…いきなりどうしたのユキ? 似合わないってわけじゃないけど、あなたらしくないわよ」
そう言って、セラリアはどこか信じられないものを見る目だ。
「ユキさん…ありがとう…ご、ございますぅ…」
エルジュは泣きじゃくっている。
その他もおかしなものを見るような感じだ。
「では、協力することは決まったわけだ。ダンジョンの運営については、この場面を切り抜けてからだ。まずはリテア聖国が絡んでることが発覚したわけだから、作戦の変更と王様にも協力してほしいことがある」
『わかった、まずはそこからだな。で、どういう策なのだ?』
にやりと笑って言葉をつづける。
「まずは、ロシュール国内にいる虫を燻り出す。ついでだ、こっちもリテア聖国に牽制しよう」
さて、これで大詰めかね。
しかし、ダンジョン運営するうえで国土を安定させる羽目になるとはな。いや、いずれ目標には入れていたが、こんな早くに手を出せるとはな。
運が良いのか悪いのか。
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