第15掘:聖女大量発生中

聖女大量発生中



side:ルルア



私が自分の姿を見せるとエルジュ様、セラリア様、オリエル従士は目を見開きました。


『ルルア様!? な、なぜこのような所に!? いったいリテア聖国で何があったのですか!?』

『ちょっと待ちなさいルルアが解任!? なにそれ、上層部の連中なに考えてるの!?』

『ルルア様、あなたのような方が解任などと、そんな馬鹿な…』


3人とも私が聖女を解任されたことに驚きを露にしています。


「はい、私はもう聖女ではありません。上層部の意向で、一応リテア聖国では名ばかりの役職はいただいておりますが。これが今回の原因と言える話になるでしょう」


そう私が言うとみんなが静まります。

ですがその中でやはり、あっさりその沈黙を破る男。本当に彼はいったい何者なのでしょうか?


『へぇなるほど、読めてきたぞ。ま、そこは置いといて聞きたいんだが…なあ、聖女様って量産できるん?』


その不躾な質問で空気が凍ります。聖女をそこいらの家畜や食料みたいに量産って罰当たりな。


『ユ、ユキさん!? だ、だめです!! そ、そんなルルア様に失礼なことを言っては!?』

『ユキ、さすがに聞き捨てなりません!! エルジュ様にしても、ルルア様にしても並ぶものなどいない聖女の名を冠する、人々の希望に対して量産などと!!』

『いや、この時点で量産してるじゃん。最低あと1人は現在いること確定してるんだろ?』


ユキと呼ばれた彼がそう言い返します…いや確かに唯一無二であるはずの聖女ですが…確かに現在3人はいますね…。


『…ルルア、今聖女の名を冠しているのは誰? 3大貴族から?』


セラリア様、さすがに鋭いです。エルジュ様のことになると周りが見えないのが玉に瑕ではありますが、決して何も考えていないわけではないのです。


「はい、セラリア様の仰る通り。今聖女を務めているのは3大貴族の「リテルアーソン」家の長女「アルシュテール」様です」

『ち、あの気位の高いお嬢様か。本人は全く自覚がないでしょうが体のいい傀儡でしょうね』

「…はい、あの人本人は決して悪い方ではありません。しっかりと聖女様としての資質、それに対する努力をしっかり積み重ねられている方です」

『はっ、資質ね。ルルアも言うじゃない、今は聖女に値しないっていうわけでしょ?』

「…」


私は沈黙でしか返すことができません。アルシュテール様がもう少し成長していれば今回のことは防げたかもしれない…いや、人に責任を擦り付けてはいけません。知っている私が頑張らなければならないのです。


「すまん、このお嬢ちゃんがリテア聖国の聖女ってのは、俺も冒険者やってた時に実際見たことあるからわかるんだが、3大貴族ってのはなんだ?」


聞き手に回っていたモーブさんが疑問を口にしてきた。確かに、そこの辺りは冒険者や他国の人にはなじみがないだろう。


「はい、3大貴族というのはリテア聖国建国時に、偉大な貢献を残した人たちの名家です」

『リテア聖国は宗教国家って言われてるけどね、その実態は、その3家が政治の舵をとってるのよ。そりゃね、ぽっと出の聖女様に癒しの力はあっても、政治能力はないだろうからね』

「なるほどな」

『適材適所ってやつよ。聖女はそのカリスマと癒しで民草の心をまとめ、そのまとめた力を3家を中心に国の政に使うのよ。ま、何事も例外はあるけどね。そこのルルアは、歴代の聖女様の中で特別って言われるほどよ。正直にいうけどリリーシュ様から直々に聖女を賜った、エルジュよりもずっと上ね。聖女としても、政治家としてもね』

『そうです!! ルルア様は私の目標なんですよユキさん!!』

『いや、やっぱり量産されてんじゃん。歴代って言ってるし。聞いた感じ推薦の襲名か? と、話がずれてるな。すまない、ルルアさん。俺も大体予想はついてるが結論を言ってもらえるか?』


そうですね、リテア聖国の話はまた今度にするといたしましょう。まだ今回の件は終わってはいないのですから。


「はい、今回の件はリテア聖国がエルジュ様を亡きものにする為になされたものです」

『わ、私!? どういうことですか!?』

『エルジュそれはね、あなたがリリーシュ様に聖女の名を祝福されたのが問題なのよ』

「そうなんです。実際のところただのリテア上層部の嫉妬ではありますが、民の動揺を考えるとあまり好ましくない事態なのです」

『しかし、ルルアの話をきくまでリテア聖国の暗躍は考えてなかったわ。けど話を聞けば納得ね、リリーシュ様を信仰しているリテア聖国としては、今回のエルジュが聖女になった件、面目丸つぶれよね』

「その通りです。自国内でもう1人聖女が生まれたのならまだよかったのですが、それが他国となると…」

『大問題ね。民達は今頃どっちが本物か、いやリテア聖国を疑っているものさえいるでしょうね。宗教国家の問題点ね~、実際にリリーシュ様が降りてくるとは思わなかったでしょうし』


セラリア様がそういうと一旦みんな口を閉じる。各々で情報をまとめているのか思案顔である。


『そっちが来た経緯と、今回の大本は分かった。だがほとんど後手だったな』

「はい…私が今回の件を聞いてリテア聖国を単独で出奔し、この王都にたどり着いたときにはもう、エルジュ様は行方不明。セラリア様は誘拐。どうしていいかわかりませんでした。まさか、ロシュール内と繋がって王族を今回の件で全員暗殺しようなどとは」

『なるほど…な、どうなんだろうな。不幸中の幸いというか、モーブ達と出会って王様に忠告と護衛ができたってわけだ』

「ああ、まさか街中で絡まれていたお嬢ちゃんが、リテアの聖女様とは思わなかったがな」


しかし、本当にこのユキと呼ばれた彼は一体何者なのだろうか?この場には普段ではお目にかかることできない人達ばかりいるというのに。だが、彼の行動はさらに私の予想を上回っていた。


『で、そろそろ出てきたらどうよ? というかこの場にいないなら、もうこの国は終わったも同然だがな。ロシュール陛下にアーリア王女様だっけ? もう見極めは済んだだろ、こっちのエルジュにセラリアは無事だ』

「っ!?」


私は言葉を詰まらせます。なに!? この人は本当に何者なのですか!?


「…失礼を致しました。私はアーリア・ラス・ロシュールと申します。エルジュやセラリアの事、心よりお礼申し上げます」

「…私がロシュール6世である。ふむ、流石というべきか?今回の護衛の話、そなたからの提案だったと聞き及んでおる」

『お姉さま!! お父様!! 私は、エルジュは無事でございます!!』

『お姉さまよかったわ、だがそこのクソ親父は死んでればよかったと思ってるわ。配下に噛みつかれるなんてね最悪よ!! こっちがどれだけ苦労してるとおもってるのよ!!』

『いやまてや、今回の一番の功労者はどうみても俺だ、セラリア、てめーはここにきて、食って寝て起きての繰り返しだろうが』

『お風呂も入ってるわよ!!』

『そういうことが言いたいんじゃねえよ!! セラリアわざとやってないか? 鋭い時との落差激しいぞ?』


…国王陛下の前で王女を呼び捨てにしての口喧嘩、し、神経が太い? いや、も、もう。あわわ!?


「あら、セラリアはいい殿方を見つけたのね。あなたがそうやって話せる相手なんてそうそういないものね。エルジュと私ぐらいじゃないかしら?…大体その前にボコボコですからね」

「…セラリアとの関係はあとで問いただすとして、一つ聞きたい。そなたは何者だ?ここのルルアも知らぬ、モーブ達は教えようとはしない。これからの事を話すにもそれを教えてくれぬと、わしとしても困る」

『ちょっ!?お姉さま私はこいつとそんな…』

『はーい、エルジュ、オリエル頼む。で、俺の正体ね…』


彼はようやく私達にその正体を明かしてくれた…その正体は…。


『この事件に巻き込まれた、可哀想なごく一般的なダンジョンマスターであります』


その一部は勇者や魔王、そして国を凌駕するほどの力を持つという、災害とも言うべき伝説であった。


「「「えええぇぇぇぇぇええええ!!」」」


3人の声が宿に響く、陛下もそんな叫び方なんですね。

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