第14掘:協力者
協力者
side:???
『こっちのお二人が話についていけるように、最初から現在の状況、協力者及びどうやって暗殺防いだのか説明してもらうか? もっとも、よく防げたな、9割は失敗すると思ってたんだがな』
『ふざけるんじゃないわよ!! アーリアお姉様を見殺しにするつもりだったの!?』
モニターとかいう平面の中で、この国の第二王女であるセラリア様が今喋っていた男に襲い掛かっている。なるほど、モーブさんたちが王女様とかかわっていたのは本当だったのか。
『だから説明するって言ってるだろ。エルジュとオリエル。話が進まないから、そのドリル押さえててくれ。と、いうわけだ。下手にこのお姫様を無視すると会話どころじゃないからな、面倒だとは思うが最初から話していこう』
『ちぃ姉さま落ち着いて、お願いですから』
『セラリア様、ユキが癇に障るのは認めますが話が進みませんので、どうか抑えてください』
そしてセラリア様を引きはがす彼女の姿に私は安堵する。エルジュ・ロウ・ロシュール。偽物の私とは違う、リリーシュ様から加護を受けた本物の聖女様。
今回の騒動は『エルジュ・ロウ・ロシュール』を暗殺するために行われたものなのだから。
「なははっ!! 元気がいい王女様じゃねぇか、エルジュ王女とはまた違った感じだな」
モーブさんが笑っている。本人から王女様と知り合った経緯は聞いているが、あのようなことがあってこうやって打ち解けられるのは、長所でもあり短所でもあるだろう。
『黙りなさい!! モーブとか言ったわね、あんたの所業はエルジュから聞いてるわ。いくらエルジュが許そうが私は許さないからね。顔合わせたら百発殴らせなさい!!』
「なっ、そこは一発だろ!? まあ、王女様の細腕じゃそのくらい必要か?」
『言ったわね。その細腕の王女様だけど、レベル63のヴァルキュリアだから』
「ぶっ!? 俺よりレベル高いじゃないか、しかも女性専門職で、前衛職かよ!! まて、それで百発も無抵抗に殴られたら死んじまう!!」
『あら、大丈夫よ、エルジュがされたように、回復してずっと殴ってあげるわ。フフフフフフ……』
そう、このセラリア様が武闘派と呼ばれる所以である。初めてお会いした私も彼女の職業には驚いたものだ。しかもその実、お飾りではない。魔物も人も斬ったこともあり、戦場にも立ったことのある、職業に恥じない戦女神だ。
『漫才でも処刑でもいいが話を始めてくれ』
しかし、この男はなんなのだろう? 何か会話から察するに、この人主導で話が進んでいる。王女様は当事者、モーブさんたちは私を助けてくれた。だが、この男はいったい何者なのだろう?
「わかったよ。王女様。とりあえず百発の件は保留だ。減刑を希望する」
『却下よ。さあ、ここまでの経緯を話しなさい』
とりあえず、私が口をはさめるのはまだ先のようだ。私もこの騒動の経緯は聞いておきたい。
「そうだな、どこから話をしたもんかな…」
『モーブ殿、それなら私がエルジュ様とセラリア様を抱えて逃亡した後からでお願いします』
「あの時俺いなかったんだよな。あそこにいれば少しは情状酌量になったのかね?」
『ないわね。むしろ喜びなさい、あの時私が毒でほぼ意識不明だったことに。動けたならあんたたちを殴り殺してた気がするわ』
「おーこわ。じゃそのあたりから説明するわ」
side:当時のモーブ
「おう、ここのギルドは初めて来たんだが、なんか目ぼしい仕事はあるかい?」
俺はライヤ達と別れて奴隷を探しに行ったまではいいが、ユキからの連絡で「お前らの女の趣味を見てやる」などと言われたので、俺一人で奴隷を買うのは気が引けて、ライヤ達を巻き込もうと思っていたのだが。
「ユキの当たってほしくない妄想が当たったようだ。こうなれば色々調べないと不味い。言われた通り俺は軍の動きを見る。お前は冒険者ギルドにいって情報集めてくれ」
となって現在にいたる。しかしいよいよきな臭くなってきたな。腹黒い小物をぶっ殺して終わりとはいかなそうだ。
そんなことを考えているとギルドの姉ちゃんが答えてくれる。
「そうですねー、ギルドランクによってある程度クエストは偏ってますけど、どのランクもこの支部じゃいつもの通りのクエスト量ですね。ところですみませんがランクはどのくらいでしょうか? わからないと斡旋のしようがないので」
「おっとすまねえ。これだ」
俺は懐からギルドカードを取り出す。ギルドカードってのは受注クエストの記録、討伐したモンスター、しかもこのカードに金をためることができ、なおかつ俺でしか使用できないという便利な代物だ。
このギルドカードをユキに教えた時「ちっ、半端に向こうより優れてやがる。これだからファンタジーは……」なんて言ってたな。あいつの故郷にはギルドカードがなかったのかそりゃ不便だろうな。
「あら!! あなたはモーブさんでしたか!! あの、守りの英雄の!!」
受付の姉ちゃんが声を上げると、ギルドにいる人々の視線が俺に集まる。
「おいおい、モーブってあのモーブか?」
「ギルドカードは偽物は使えねえからな、守りの英雄で間違いねえだろう」
「なんだその守りの英雄ってのは?」
「しらねえのか、今は完全に敵対してるがガルツ国のある町を魔物の群れが襲ったそうだ。当時は盗賊退治で領主が率いる主だった兵がいなくて、町は滅亡の危機だったらしい」
「ああ、でその時一人の男が名乗り出でて、当時その場所にいた冒険者たちをまとめあげて見事に防衛したってわけだ」
俺の若かりし頃の話をしてくれる。正直普段なら受付に手でも当てて黙らせるが、今回は別だ、この方がやりやすい。
「あのぉ、モーブさんはあの町の専属だと伺っていますが…」
なんだ、こっちには伝わっていなかったのか? エルジュ王女を旗に掲げてこっちに推し進めてきただろうに。
「…まぁ、あれだ今回の戦でなくなっちまった」
「ええ!! ちょ、ちょっと待ってください!! そんな情報聞いていませんよ!! お、お待ちください、ギルド長と話してきます!!」
どういうことだ、ギルドは基本的に情報交換を密にできる。このモニターとまではいかないが通信水晶ってのがあるのは聞いている。ギルドの総本山はリテア聖国だっけか?
とりあえず、ギルドだけの情報ってのは心もとない。そこいらにいる、同業者に話を聞くかね。
「なあ、ちょっといいか。話を聞きたいんだが?」
「お、おう。あんたみたいなランク8冒険者と話ができるなんて光栄だ。で、なにが聞きたいんだ?」
「おう、ここ最近の戦の状況だな。知っての通りおれはランク8でな、ある町の専属やっててな、久々に出てきてみれば戦だろ。こっちはあんまり情報ないんだよ。お礼は弾むからさ」
そういって懐から財布を取り出す。冒険者っては情報が大事だから、金で買ってでも手に入れろってやつだ。
「なるほどな、その程度なら金とるまでもねえ。ガルツ国のとある村が酷い扱いを受けてたみたいでさ、そこでここの聖女様がその村に救いをって、村を救ったのはいいが、ガルツ国はヤレ侵略行為だの、偽物聖女だの言ってきて正義をなしたロシュール王は憤慨してガルツ国から民を解放せんと戦を起こしてるわけだ」
おいおい、こっちじゃそんな話になってるのか。しかし、王女様は完璧に嵌められてるな。いやそれはわかってたが、もう小物って枠じゃ収まらないな。
「モーブさん、ギルド長がお呼びです。こちらにどうぞ」
「っと、すまねえな受け取ってくれ」
「いや、いいって」
「気にするな、こういうことはしっかりしねえとな」
「…ありがとな、あんたみたいな冒険者になってみせるぜ」
「いや、俺みたいになるのはやめとけや…」
そう言って、俺はギルド長と面会を果たした。
「すまんな、本部に問い合わせたら君の証言が正しかったことが分かったが問題が出てきた」
「どんな問題だ?」
「君になら言って構わんだろう、通信水晶は聞いたことあるじゃろ?」
「ああ、連絡がすぐ取り合える便利な道具だって聞いてるぜ?」
「そうじゃ、だがそこに問題がある。その通信水晶だがギルドだけが使っている代物なんじゃよ。つまりギルド間で簡単に連絡が取れる」
「ん、それのどこが問題なんだ?」
「普段は問題ないのだが、今回みたいな国と国の戦争では非常にやっかいなんじゃよ。すぐ連絡が取れる為に、間者としてギルドが疑われる可能性があるんじゃよ」
「そりゃ、そうだな」
言われてみれば納得だ。簡単に連絡が取れるなら相手の動きを逐一、俺とユキみたいに報告できれば対応もしやすくなる。ギルドにそれがあるって分かるんだから当然警戒するよな。
「だからその問題に対しても対処をとっておる。通信水晶はギルドの本部…つまりリテア聖国にしか繋がらないようになっている。戦争が起きれば争っている国のギルド支部の通信をできないようにするんじゃよ」
「なるほどな、そうやってギルドが戦争に加担していないってことを証明するわけだ」
「その通り、納得してもらえて何よりじゃ。であとはお前さんじゃな。もう下手にこのことを聞いて回るな。お前さんが間者と疑われてしまう。本来ならその国の冒険者はその国でクエストを受けて傭兵として参加するんじゃが、お前さんのいた町からしてこっちに逃げるほうが近いしのう」
「ああ、こっちの方が近かったから逃げてきたんだが。わかった、聞いて回るのはやめとく」
「そうしてくれ、こっちではお前さんは難をのがれてこっちに来たと伝えておく。あと戦争に参加するようなクエストには招集しないようにしておく、色々とつらいじゃろうからな」
「すまない、恩に着る」
「気にしないでくれい、お前さんの相棒達は無事なのか?」
「一緒にこの王都で宿とってるよ」
「そうか、それがせめてもの救いじゃのう。自暴自棄になって無茶だけはするなよ」
もう、そこは通り過ぎたがな…。
で、そんなこんなで情報を集めてライヤ達と合流したわけだ。
「なるほどな、ギルドの話は理解できる」
「その話は親父から聞いたことあるな。冒険者はともかくギルドは国の諍いには絶対手出ししないって」
ライヤもカースも俺が持ってきた情報には納得してくれている。領主の息子だったカースからさらに後押しが来たからこれはほぼ確定でいいだろう。
「そっちは、どうだ? あれからお城は大慌てか、王女様さらわれたし」
「まあ、そうだな。だが面白い話がある」
「なんだ?」
「オリエルが逃げて、今大体半日ってところだ。なのにもうここの王国、兵隊集めてるんだよ」
「別に不思議じゃねえだろう? 王女様がさらわれたんだ、真相はともかく」
「だがその集まった兵士は全員エリート部隊だ、普通ならガルツ国との前線に送られているような強者ばかりな」
「偶然じゃねえのか? 集まって作戦会議とかするだろうに?」
「まあ、集まったのは偶然で納得しよう。だが、もう遠征の準備をしてるって言ったらどう思う?」
「…行動が早すぎるな」
「ああ、どこに行くつもりだったかは知らないが。いくらなんでもな。で、だ。この軍どこに行くと思う?」
「そりゃ、今は王女様追わないと問題だろう?」
「だな、とりあえず宿に戻ってユキに連絡しよう。あいつがそう簡単にやられるとは思えんが軍隊が相手だからな、勝手が違うだろう」
そう言って俺たちはとりあえず連絡を取るために宿へ戻ったんだ。
『ふーん、面倒なことになってきたな』
「ああ」
『まだ情報が不足してるから断定はしにくいな、あと軍が動いたら連絡くれ、大体の数も数えてな』
「わかった、その時は連絡する」
『と、その軍だけどな誰が率いてるか…いや妙な人間が混ざってないか調べといてくれ』
「妙な人間? どういうことだ?」
『そうだな、普段軍に参加しないような奴だな。大臣とか商人とか他国からの使者とか、多分そういう奴がいるなら、それはきっと名目を作るためだな』
「名目? 軍を動かすためのか?」
『いやいや、あとで国を乗っ取るための名目だよ。大義名分かね?』
「すまん、俺にはわからん。説明してくれ」
すると横で聞いていたカースが納得したように頷いていた。
「モーブさん、これはあれだ、ユキが言ってるのは『王族の暗殺をできるなら止めてくれ』ってやつだ」
『その通り』
「いま、その怪しいやつが今回の進軍に加わったとして、その間に王族が暗殺されれば、その進軍についていった怪しいやつは当然無罪放免が言い渡される」
「そりゃ、現場にいないんだからな。というか怪しまれもしないだろ?」
「ああ、そこが狙いだ。暗殺なんてだれかを雇えばいい、それで暗殺の報告を受けてすぐに一部の兵士を連れて帰ればそいつは評価が高くなるだろう。この国随一の王国に陛下に尽くしている名臣とかなんとかいってな」
「だな」
「しかも率いて戻ってきたのはこの国の近衛やエリート達だ。この近衛やエリートは無駄に王都を空けて国王を死なせてしまったと少なからず非難をうけるだろう。それをその怪しい奴が庇えば近衛とエリートは必然的にその怪しい奴側につく。そうなると、王族がその時まったくいない状況だ。血筋はいるにはいるだろうが、発言力は今回何もしていないのだがらないに等しい。だからこうなれば必然的に……」
「その怪しい奴が権力を握ることになるのか」
「ああ、しかも軍部のエリートまで抱え込んだ状態でな。こんな感じで合ってるか?」
そう言ってカースはモニターのユキに確認を求める。
『おう、ほぼ俺と同じ考えだな。お見事、ダンジョンマスター代わらね?』
「断る。うかつに外に出られないなんて昔の領主のご子息に逆戻りだ」
『そりゃ、残念だ。しかしそうなると相手の出方を挫くには暗殺を防がないといけないわけだが……』
「…難題だな」
俺には二人が悩む理由がわからなかった。だって…
「簡単じゃねえか。王様に会って暗殺されるぞ!!って言えばいいだろ」
「…」
『…』
ユキとカースが白い眼でこちらを見ている。なぜだ、俺は変な事言っただろうか?
そう思っているとライヤが肩に手を置いてこういった。
「よく考えろ、俺達は王様とは面識も関わりも全くない。そこで暗殺云々を言えば、不敬罪で投獄。下手すればその暗躍している連中に王族殺しの汚名を着せられて処刑だ」
そういうことか、あー、なんでこう面倒な手をつかってくるかな。
「なら、夜中こっそり忍び込んで護衛って感じでいいんじゃね?」
『最悪それだな、守れる可能性はかなり低いが』
「なるべく城の地図は前持って集めておきましょう」
『まあ、暗殺があるのは進軍を開始してすぐってわけじゃない。ある程度時間はあるが、まあ厳しいだろうな』
「下手に王族の伝手を頼ろうにも、その行動自体が暗殺と見られますからね」
『てなわけだ、下手に嗅ぎまわるなよモーブ。しばらくは奴隷とか買い物しててくれ。あ、軍が動いたらさっきも言ったように報告忘れるなよ』
そんな感じでその日は話が終わって各々好きなようにすごして、次の日には軍は進軍を開始した。ユキの言う通り怪しい奴がその行軍に加わっている。
『ロワール大臣…ほぼ奴がこの計画を仕込んだ張本人でいいだろう。この裏がさらにいるとすればもう今は対処できるレベルじゃねえ。と、いっても、そのロワールを止めることができれば、裏がいても手を引かざるを得ないだろうがな』
「まあ、こっちの情報はそんなところだ。2000人前後はいるからな、しっかり生き残れよ」
『おう、逃げることも考慮に入れてる。まあダンジョンのテストに使えそうだから使うけどな。あと敵の援軍が出るようなら伝えてくれ』
「ああ、まかせとけ」
それで報告は終わり、俺はとりあえず買い物の続きをすることになった。
ちなみにライヤやカースは、お互いすることがあるので買い物には付き合ってくれない…ぬぐぐぐ、このままでは奴隷の趣味が俺の趣味ということになってしまう。
そんなこんなで町をうろうろしていると、なんというかまあ、若いもんのお約束が繰り広げられていた。
「あ、あの私は、大事な用がありますので。お、お付き合いできません!!」
「あー? 別にいいじゃんよ?」
「そうそう、俺たちと楽しい事しようぜ?」
「その胸のでっかいのは使う為にあるんだからさぁ」
…うーん、俺も若いころはあったがあそこまでバカではなかったはず。いや変に最近までぶっ壊れてたけどな。
確かに彼女の胸は大きい、メロンいやスイカか? まさに特大というに相応しい!! が、もう亡くなっているとはいえ、妻がいた身だ。まだその愛が残っているのかあんまり嬉しくは感じなかった。
「はいはい、若人達よそこら辺にしとけ。みっともないぞ」
「ああ?」
「何言ってるんだよおっさん」
「俺たちランク4の冒険者なんだぜ? どういう意味か分かるか?」
「あ、あ…たすっ」
彼女は俺の容姿を見て、力がないと思ったのだろう。まあ見てくれはおっさんだしな。
しかし何だろう、彼女はなんかどっかで見たことある気がする?
エルジュ王女に似ている? いや、髪の毛青色だし、胸はこっちが圧倒的だし…なんだろうな雰囲気か?
「おい、聞いてるのか。おっさん!!」
「無視してやがる!!」
「やっちまおうぜ!!」
そうやって飛びかかってくる若人。だが、もうちょっとな。
「さて、すまんがお嬢ちゃんどこかで会ったことないか?」
その3人はすでに地面に沈んでいた。
side:???
『なるほどな、それで出会った…協力者が彼女ってわけだ』
そういって男の目がこちらに向くとほかの人たちの視線も私に集まる。
「はい、ではここからは私がお話をさせていただきます」
一歩前にでる。
「その前に自己紹介を、私はリテア聖国から参りました。名をルルアと申します。前の名はルルア・リテア…リテアの聖女と言われておりました」
そういってフードと眼鏡をとったのだった。
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