第11掘:「運営する」と「守る」ことは同じではない
「運営する」と「守る」ことは同じではない
side:ユキ 本名:カズヤ・トリノ
「おーおー、集まってるな。こう沢山いると何人いるかわからないな」
俺はダンジョン内をモニターで監視してる。
現在俺のダンジョンには、1000人近くのしっかりとした鎧を着込んだ兵士が続々と入ってくる。
「あ、あのユキさん? どうするのですか、あの人たちは近衛を主体とした我が国のエリートといってもいいでしょう…その言いたくはなのですが…」
後ろで申し訳なさそうにエルジュが声をかけてくる。
「あんたほんとに今の状況理解してるの!! このままじゃあんた殺されるわよ!! 私もエルジュも!!」
セラリアは俺の反応がお気に召さないのか憤慨している。しかし、これがエルジュの姉だと、なんつーか個性的だよな。
あと片側にドリルを…いや、なんて言うんだカール? いや、そんなちゃちなもんじゃないドリルでいいや。
似てるのは髪が同じ銀色だってことぐらいか?
「聞いてるの!! 私たちが後を付けられたとはいえ、このままじゃどうしようもないわよ!!」
そう、今ロシュール国の兵士がなぜこのダンジョンに来てるのかは、彼女達がここに逃げ込んだせいである。
まったく後をつけられるとかお約束もいいところである。
しかもさらにエルジュに「ダンジョンマスター」が化けているといわれているらしい。
完全に嵌められたな。
「そうだなー、これ以上進まれると応戦しなくてはいけないな。仕方ないダンジョンマスター、降伏勧告でもしてくれ」
「はあ? なに言ってるのあなたがダンジョンマスターでしょう?」
「ああ、知ってる人からすればな。でもここで俺がでても混乱するだけだしな、和解を求めるにしても、エルジュがでてセラリアが無事って言うのがいいんじゃねえか?」
「ええ!?私がダンジョンマスターで押し通すんですか!?」
side:セラリア・ノウ・ロシュール
「あなたまさか…エルジュをダンジョンマスターとして身代りにするつもりじゃないでしょうね?」
先ほどの発言から私はそう判断した。
この男、エルジュが信用していると言ったがどうも胡散臭い。ダンジョンマスターなのも本当だろうがなんというか胡散臭い。
「ちぃ姉さま!?」
「エルジュは黙ってて、もしあなたが私の言った通りの事考えてるんなら…こっちもそれ相応の対応をするわ」
「へえ、どんな? セラリア、君は俺のスキル指定保護で攻撃はもちろん毒殺すらできないんだが?」
「エルジュが万が一死んだらすぐに相手側に行って、ダンジョンコアがまだ動いてるって言ってやるわ」
そういって玉座の宝珠置きにあるダンジョンコアを指さす。
エルジュから聞いたダンジョンコアは彼とつながっているらしいと、それがなくなれば生きてはいけないと。
「…あっちを率いてるのは君たちを嵌めたあの大臣だぞ。出て行った瞬間殺されるかもしれないぜ?」
「関係ないわ、エルジュがいないならもうこんな世界に意味はないわ。絶対にあなたもロワールもコロシテヤル」
しばし沈黙が続く…がそれは彼が急に笑い出して崩れる。
「ぶっ…あはははは!!…いやごめん。そうだね。そうだった。エルジュにはそう説明してたね。あれ嘘だから」
「は?」
「え?」
私が混乱している所に彼は懐から2つ見覚えのあるものをだしてきた…ダンジョンコアだ。
「まあ全部嘘ってわけじゃないんだがな。ダンジョンコアがないとダンジョンは維持できない。だけど予備がないとは言っていないし、俺がダンジョンから逃げないなんていっていない。つかもう脱出路作ってるし」
「はあぁぁぁぁぁ!?」
「えぇぇぇぇええ!?」
彼は前代未聞のことを言ってのけた…ダンジョンマスターがダンジョンを放棄すると言っているのだ。
「いや、まだ逃げると決めたわけでもないがな」
side:ロシュール軍セラリア直轄部隊 隊長 クアル・エスティア
現在私たちは陛下の勅命でセラリア様の奪還、及びエルジュ様の名をかたるダンジョンマスターを討伐するため、拠点とみられるダンジョンにきている。
その偽物のエルジュ様は、セラリア様を毒殺しようとわざわざ王城まで忍び込み、お茶に毒を混ぜたらしい。
なんという手間か、しかし上層部は「ダンジョンマスターは未だ力を蓄えておらず。搦め手をつかって国を乗っ取ろうとしている」と判断をくだした。
これはセラリア様を連れた偽物が「ダンジョン」に逃げ込んだためそう判断したのだ。
私としては正直この判断に納得できていない。なぜならセラリア様に国内部になにか不穏な影があるといわれて調査していたのだ。
調査を開始したのはエルジュ様が村の制圧指示をしたといわれることが始まりである。
私もセラリア様を介してエルジュ様とお話しする機会は幾度かあったが、その聖女の名に恥じぬ優しい慈愛の精神を持つ方で、私自身もその話にきな臭さを感じていた。
そしてその後エルジュ様の乗っていた馬車が襲われ行方不明となったのだ。セラリア様はもちろんすぐにエルジュ様の捜索を命じてきましたが…馬車が襲われた場所は国内の奥深く、ここから15日は歩いてかかるような場所である。
結局馬車の残骸からエルジュ様の乗っていた馬車と判断したが、その場所はここのように戦場が近いわけでもなかった。
そして今度のセラリア様の毒殺・誘拐…ん? ここで私は疑問に思った。
「なんで毒を盛ったならわざわざ連れていく必要があったのだ?」
そうつぶやく、ちょっとまて、何で今回の任務「セラリア様の奪還」などとついているのだ? 毒を盛られたのだから死んでしまっていると考えるべきでは?
「違う、生きていると確信してたのか…偽物と言われているエルジュ様が本物だとしっていたから」
そう、実際エルジュ様の遺体は見つかっていない、ただロワール大臣が「毒殺」現場を見て「エルジュ様がそんなことするわけがない」と騒いだのが原因だ。
その場を見たのも彼の息のかかった者たちばかり…なるほどロワール大臣が一番怪しいわけか。
しかし、エルジュ様はダンジョンに逃げ込み彼の偽物説を後押しするような行為をしてしまった…いやしていなくても彼が内々に処理して事後報告するつもりか。
この場はいまや、エルジュ様は偽物の弱いダンジョンマスターとされている。下手なことを言えば私も敵と判断されてしまうだろう。
さてどうしたものか…私が先陣を切ってセラリア様とエルジュ様を保護するか?
そんなことを考えているとダンジョン内が明るくなり空中に平べったいエルジュ様とセラリア様が映し出された。
side:エルジュ・ラウ・ロシュール
「あ、あの。エルジュ・ラウ・ロシュールです」
私は初めての行為に緊張してしまっていた。
このモニターと言いましたか、なんと私の声と姿を相手にも届けられるというのです。
ユキさんは見てるばかりだから見るだけの物だと思っていました。
と、そんなことを考えている場合ではありません。誤解を解かなくては。
「聞いてください、今回のセラリア姉さまの毒殺の件は誤解なのです。その証拠にセラリア姉さまは無事です」
「よく頑張ったわねエルジュ。皆の者、このセラリア・ノウ・ロシュールはこの通り無事である。そしてこのエルジュは本物であるとこの私が保証しよう。此度の事件は私とエルジュを亡きものにするための卑しい計画である!!」
モニターに映っている兵士たちに動揺が走る…が
「嘘をつくな!! みんなだまされるな、セラリア様は操られているんだ!! わざわざ毒殺しようとした相手を生かす理由なんてない!! きっとそこの偽物が俺たちに恐れをなして生きるために脅しているに違いない!!」
一人の兵士がそう叫び、周りがそれに応じて叫んでいく。
「そうだ!! 自分が偽物じゃないというならなぜこの場に出てこない!! いや何でダンジョンなんかに逃げ込んだ!!」
「ああ、そうだ!! 潔白なら逃げる必要なんかないはずだ!! 卑怯者の偽物め!!」
「あのセラリア様も本物か怪しいものだ!! あの勇猛果敢なセラリア様が大人しく敵の捕虜なんぞになるわけがない!!」
「ま、まさかもう本物のセラリア様は…!?」
横でちぃ姉さまは青筋を浮かべている…こわいです。
「本当なんです!! でも、事情があって兵たちの前に姿はだせません。お願いします、このまま兵を引いてください。これ以上進むのであれば、手加減は…できません」
そう引いてくれることを願って声をかけたのだが…
「本性を現したぞ!! しかもダンジョンの奥底に逃げ込んでおいて手加減ができないだと!! 今までモンスターの一匹このダンジョンで出くわしていない!! それはお前が力がない、弱いということだ!!」
「我らはそんな言に惑わされたりはしない!! 覚悟しろ!!」
そして一人の男がモニターに向かって出てきて、まわりが静かになる。
「エルジュ様とセラリア様の忠告、確かに聞き届けました。ですが私に王女様方を本物と言い切れるものはございません。なれば、陛下の勅に従いお二人を確保してから判断させていただきます」
その男はロシュール国近衛隊隊長…アレス・レスター。
レベル122の生ける伝説である。
side:オリエル
ついに近衛隊を中心とする約1000名がダンジョンの攻略にのりだした。
「ああっもう。あの男頭固いわね!!」
「ちぃ姉さま落ち着いて」
「まあ、この状況じゃしかたないわね。…であんたどうするつもりよ。このダンジョン、わずか3階層しかない生まれたてのほやほやじゃない!! あっという間にここまで来るわよ!! 早く逃げないと!!」
そう言ってセラリア様はユキに食ってかかります。
しかし、ユキはそんなセラリア様を意にも介さず無表情でMAPを見つめるだけである。
「オリエル!! あなたも何か言いなさい!! このままじゃ逃げ遅れるわよ!! ここに留まる理由もないわ!!」
「そう…ですね。ユキ、あなたがこのダンジョンに愛着があるのはわかりますが、このままでは逃げる機会さえも失ってしまう。だから…」
言葉をユキの手で遮られる。
「ほれ見てみ?」
そういって言われた方向をみるとモニターが侵攻している兵士を映していた。
「これがな…に!?」
そこには通路がなくなり底が見えない穴に落ちていく200名前後の兵士が映し出されていた。
その光景に驚いていると彼は何かがっかりするように
「あーあ、ちゃんと看板に書いてたのにここから先6名様でご入場くださいって」
そしてMAPから200ほどのマーカーが消えていった…。
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