第10掘:面倒事はまとめてやってくる
面倒事はまとめてやってくる
side:エルジュ・ラウ・ロシュール
私は今王都にいます。
ユキさんのダンジョンから5日というところ。道中はモーブさん達のおかげで問題もなくここまでたどり着けました。
ここからは私の役目です。悲劇を終わらせるためにも。
「モーブさん、ライヤさん、カースさん道中ありがとうございました。ここから先は私が命に代えてもこの戦争を止めてみせます」
そうはっきりと宣言するとモーブさんたちは困った顔をする。
「王女様、あんたの気持ちは嬉しいがな、無理はしてくれるなよ。俺が言うのもなんだが拾った命だ。ユキの助けてくれた思いは無駄にしないでやってくれ」
そう、この命やモーブさんたちとの和解には変なダンジョンマスターが手助けをしてくれたおかげです。けど今は彼はここにはいません。
「俺はダンジョンからでたくねー。いつ命が狙われるかわからないからな」といって私たちを見送ってあのダンジョンに残ったのです。
「結局ユキさんには受けた恩を返せませんでしたね」
彼にとっては情報を教えてくれた時点でもうよかったらしいのだが、私は受けた恩にはまだまだ足りないと思っている。
「気持ちはわかるがな、おおっぴらに出歩くわけにもいかんだろう。そこも王女様がとりなしてやればいいさ」
「そう…ですね。戦争を終わらせて余裕ができればユキさんのことを話して色々手助けができればいいですね」
今はこの混乱している国のなかでダンジョンマスターのことを話すわけにはいかない。ユキさんの危険にもつながるし、他国からは隙になるだろう。
そうやって話しながら王都の噴水広場へ着く。
「さて、ここでお別れだな。俺はユキのお使いをしなけりゃいけないんでな」
「はい、本当にお世話になりました」
私はモーブさんたちも王城でもてなそうと思ったのだが
「やめてくれ、俺は王女様に褒められるようなことはしてねえよ。そうだな、貞操を守ったぐらいか?」
「も、もう!! 失礼ですね!!」
そう、運がよかったのか悪かったのか私の貞操は無事のままだ。
結局そんなことを言って煙に巻かれてしまった。
「しばらくは王都に?」
「ああ。お使いついでに、色々俺自身もやってみたいことがあってな。妻と娘に笑い話を増やそうとおもってな」
「…そうですか」
「…」
「…」
「では、また再会できる日を楽しみにしております」
「おう、ダンジョンに来れば会える可能性は高いとおもうぜ」
そう言って3人はその場から去っていきました。
「オリエル、ここからが私たちの戦場です。ついてきてくれますか?」
「はい、どこまでも」
side:モーブ
「さーて、ユキのお使いを済ませとくか」
俺はそう言って足を動かそうとするとカースが声をかけてくる。
「いやまってください。ユキの話聞いてましたか!? これから厄介事が起こる可能性が高いんです。しばらくは王城の様子を窺っておかないと」
「そういうのは趣味じゃないし、今すぐってわけじゃねーだろ? なら暇な時間つかってお手伝い用の奴隷とか探してくるわ」
そうやって手をひらひらさせてカースとライヤを置いていく。
「モーブさんは相変わらず適当ですね…」
「あいつらしいじゃないか。王城の様子は俺たちで見よう。お使いはあいつに任せればいいさ」
「うるせえっつうの。大体張り込みとかは俺の範囲外だ、基本は戦闘系なんだよ」
先ほど聞こえてきた非難に一人悪態をつきながら目的の場所を探す。
「でも、俺らしい…か。少しはあの頃に戻れるのかね」
ユキのおかげで殺伐とした時間から解放され、戻らないものも多いが、それでもあのままよりはマシだと自分でも思える。
「しかし、ダンジョンのお手伝いに奴隷ねぇ…まあそれぐらいしか働き手はいないだろうが…あ、どんな奴を買えばいいのか聞いてなかった」
そういって俺は人のいない路地に入る。
「えーと、コールユキだっけ? 返事してくれ」
ユキの配下、だよな実質。それでもらったスキルでユキの配下に入ってるやつと自由に連絡が取れるスキルらしい。便利だよな。
『あ?モーブかどうした、今忙しいんだけど。もう動きがあったのか?』
「いや、別件だ。奴隷の件なお手伝いって言ってもどんなのがいいのかなーってな」
『ああ、そういえば言ってなかったな。うーんメイドみたいなもんだからな、若い女性ってところでいいんじゃね?』
「そうだな。婆さんメイドとかはあんまりな、老い先短いだろうしダンジョンに連れてきても心臓止まりそうだな」
『だな。容姿とか種族はこれと言ってないな。ああそうだ、逆に種族が被らないようにしてくれ』
「なんでまた? 種族はそろえたほうが性格とか作法関連で混乱しなくていいぞ?」
『そこだよ、種族によっての情報がほしいんだよ。お前らから情報は聞いているが実際の種族じゃないとわからないことも多いだろう?』
「なるほどな、わかった。今言った感じで探してくるわ」
『おう、楽しみにしてるわ。お前たちの好みを楽しみにしてる』
「げっ、それが目的か!?」
『ブッ』
「あ、切りやがったな!? おーい!!」
不味い、このまま一人で奴隷を買ってはそれはすべて「モーブ」の趣味ということになってしまう。
状況によっては娘みたいな年頃を買う可能性もあるだろう…いやその可能性は高い…。
ライヤとカースにも参加してもらわないと俺だけが変態にみられる。
そう思って俺はライヤに連絡をとった。
side:オリエル
「エルジュ!! よかった、無事だったのね!! あなたの馬車が残骸で見つかった時は、鈍いエルジュだから死んでしまったと思ったのよ!!」
「ちぃ姉さま、喜んでいいのか難しいです…」
今目の前でエルジュ様の姉君、セラリア様が泣きながら抱き付いております。
セラリア様は口は悪いのですが、なんというかそれは本音ではないのは行動を見ればわかります。
現在は王城の中のセラリア様の私室にいます。王城へは門兵に多少驚かれたものの何も問題なく入城を認められて陛下にもお会いし「エルジュ…本当によかった!! オリエル、貴君の献身な働きに感謝する」とお褒めのお言葉もいただいた。
実際は守るどころか奴隷まで落とされたのだが。
「誰かある」
「はいここに」
「エルジュの好きな紅茶と茶菓子を用意しなさい。はやく!!」
「かしこまりました」
「ちぃ姉さま、そんなにしていただかなくても」
「何をいってるの、エルジュのためじゃないわ私のためよ!!」
傍から見ても微笑ましい光景だ、このまま何事もなければいいのだが。
平和だからこそユキが言った言葉が頭に引っかかる。
「今から言うことはあくまでも予想だ。実際に俺はその場を見てないからな。絶対とは言えない。だがエルジュを守りたければ聞いとけ。何もなかったらただの心配性で終わる。けど違ったら…」
ユキは私だけにこの話をしてくれた。エルジュ様にいらぬ心配をかけぬためだろうと私は思った。
内容はこの戦争にエルジュ様が使われたことに関することだ。
「わかっていると思うがエルジュが旗に使われたってことは、彼女を利用したい奴がいるってことだ」
「ああ、私もそうだと思っている」
「いくつかパターンをあげていく、安心していいものから最悪の予想までな」
その内容は以下の通りだ。
パターン1 もう王女様の利用は終わってる。このまま安心して暮らせるというもの。
これだと本当にありがたいんだが。
パターン2 内部の戦争推進派がエルジュ様を取りこむための口実。
これだと、これからも行動に注意しないと先の悲劇を繰り返すことになる。
実際エルジュ様の名のもとに侵攻が行われているから信憑性がある。
パターン3 そして一番最悪の可能性、背後関係はわからないがエルジュ様を亡きものにするための計画。
だがユキはこれを一番推していた。馬車が襲われた場所近くが戦場というところが引っかかったという。偶然エルジュ様の通った場所が戦場になったのならいいが、そこをあえて通るように指示されたのではと、ユキは言ってる。
これが本当なのであれば、私は絶対にその謀反人を殺してやる。
「ほら美味しいわよ。エルジュも飲みなさい」
「ちぃ姉さまそんなに急がなくても」
「はやく飲んで…か…か…こふっ」
「ちぃ姉さま!?」
コップが割れた音で私は我に返った。セラリア様が喉を押えて苦しそうにしている!? 私はセラリア様を介抱しようと近づいたとき、部屋のドアが大きな音をたて開かれた。
「セラリア様!? ああ…おそかった!! 衛兵、衛兵!! セラリア様がエルジュ様の皮をかぶった偽者に殺されそうになっている!! 回復術師を!!」
そこにはこの国の大臣ロワールが立っていた。
side:セラリア・ノウ・ロシュール
あのクソ大臣、このエルジュが偽物ですって!?
この匂い、仕草、あと下着どれをとっても100点満点でエルジュに決まってるじゃない!!
「か、かひゅ…」
けれども声にならない、畜生この大臣が仕組みやがったな!!
直感的にわかってしまった。
エルジュは聖女になってからは、その笑顔をさらに輝かせていたというのに。
ここ最近は何か沈んでいた。多分あの村のことだろう。クソ親父は手放しに褒めていたがあのエルジュが人々を苦しめるわけないってーの!!
エルジュからも知らないうちに自分が旗にされていたと言っていた。
…なるほど調べてた私が邪魔になったわけね。しかもあろうことに、私の大事なエルジュに罪を着せて!!
「ちぃ姉さま!! 姉さま!!」
「エルジュ様落ち着いてください!! エルジュ様のそのお力を使えば誤解もとけセラリア様も助けられます!!」
「かひゅ…!!」
ナイスオリエル!! エルジュ、さあ、あなたの力で私の毒を消して、そしてこのクソ大臣を始末してやるわ!!
「わ、わかりました!!」
そいって愛おしい手が近づいてきたのだが…
「動くな!! そのままセラリア様を殺す気だな!! 衛兵こちらで回復術師を呼んでいるから心配せずその偽物を引っ立てい!!」
ち、このまま放置し、私を始末して、エルジュにどうやっても罪を着せる気だな。
ああ、仕方ない。このままじゃどっちも助からない…ならば。
「え…る…かひゅ逃げ…て」
やればできるじゃない。
毒に侵されても、私のエルジュへの思いは止められないってことね。
「動くな!!」
「オリエル嫌!! 離してちぃ姉さまが!! セラリア姉さまが!!」
「エルジュ様!! セラリア様!! 失礼します!!」
オリエルが何かを床に叩きつけると光があふれだして目の前を真っ白に染め上げていく。
side:ライヤ
「おや、結局ユキの予想は当たりましたか」
「そうだな。当たってはほしくなかったが」
カースと一緒におれは王城を偵察していたのだが突然一か所の窓から光があふれ出し誰かが飛び出てきた。
「やっぱり王女様とあの従者か」
「なにやら一人抱えているようですが?無事にここまで抜けられますかね?」
「わからん。けどここまで抜けられたなら助けてやってくれって頼まれてるしな」
「しかし、ユキの話ですが…ここまで予測できてたのなら最初から最後まで助けてあげればいいでしょうに」
「無理を言うなよ。下手にダンジョンマスターがかかわっているなんてばれたらあのダンジョンにココの近衛兵が殺到してくるぞ」
「それはわかりますがね。それなら最初から助けろなんて頼まないでしょう。いったいユキは何を考えているのやら。このまま彼女たちを匿えば最悪ダンジョンごとさよならですよ」
そう話していると前からオリエルが王女様ともう一人を抱えてこちらに走ってくる。
止まるつもりはないのだろう。このままダンジョンまで逃げ帰るつもりだ。
「行け」
「すまない」
彼女が走りさってしばらくして兵士が駆け寄ってきた。
「ここに女二人を抱えた奴が来なかったか!!」
「あ、それならあっちに行ったぞ」
そうやって違う路地を指さす。
「何かあったんですか?」
カースが自然に兵に話しかける。
「すまない!! 今はそれどころではないんだ!!」
兵士は言葉を切ってそのまま駆けていった。
パターン4 さらに最悪でこの国の乗っ取り。エルジュが旗…やり玉に挙げられたのは国の評価を落とすため、今はまだいいが、戦争が長期化すれば原因を作った聖女は立場が悪くなる。適当なところで聖女様がお亡くなりになって、国内外で聖女様を争いに使うとはなにごとか!!ってな。
そして周りの国が同盟でも組んで、反ロシュール連合を作る。そうなれば国王は発言力を失っていく。そしてこの計画を仕組んだ黒幕が登場、今の王には民を任せられない私についてこい!!…ひどいな。
ここまでくれば妄想の類だな、でも頭にだけ入れてくれ。情報が全然そろってないから誰が黒幕だとかさっぱりわからんが、仕掛けてくるならエルジュが帰ってきてすぐだ。どんな方法かわからないが、エルジュを合法的に始末してくるだろうよ。
だって死んだと思ってた聖女様が戻ってきたんだからな。俺ならこのついでにもう一人か二人始末するね。誰って?王族だよ。
そうユキが言っていたのを思い出す。
「だとするとさっきの見ない顔は王族のだれかか?」
「さあ?」
その質問に答えるべき相手はもう遠くへ走り去ったあとであった。
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