第9掘:怒りと憎しみと涙と謝罪と和解と…予定通り

怒りと憎しみと涙と謝罪と和解と…予定通り



そうやって3日程エルジュやオリエルから情報収集や雑談などをして親交を深めていった。

その日はもう雑談に興じていてお茶をしながらというかなり打ち解けた状況だった。


「ユキさん、お願いがございます」


ユキってのは俺のことね、理由があって偽名を使っている。


「なんだ?」

「私たちをここから出してはくれないでしょうか…やらなければいけないことがあるのです」

「…やっぱり行くつもりか?」

「はい、モーブさん達のような悲劇を起こさないためにも私は王女としてこの地に生きる一人の人族として!!争いを止めないといけないのです!!」


実はこの3日の間にエルジュとオリエルは自分たちがロシュール国の王女だということを自ら名乗り出てくれ、彼女達に非道な振る舞いをしたモーブ達の処罰を…極刑を求めたのだった。

しかし、今は俺の庇護下にありモーブ達に手出しができないでいたので俺に願いでてきた。


彼女達のいい分はわかったが彼らの話も聞かずに殺してしまうのは、俺にとって都合がわるい。正直、彼女達のような身分が高すぎるのを囲うより、軽いフットワークの冒険者であるあの男達のほうが使い勝手が良いのだ。


そんなわけで適当に理由をつけて「彼らにも話が聞きたい」といって待ってくれと言った。しかし、彼女たちはこれに対して俺の体を押さえつけて「あんな獣と話をするなど、あなたのようなお人よしは殺されてしまいます!!」暴力振るおうとしたお前が言うなよオリエル。「オリエルの言う通りです! あんな人を卑怯で虐げ貶めるような人間から聞くことなどありません!!」エルジュもとんでもないと言わんばかりであった。


彼らを嫌っていた彼女達は俺の予想通りに反応してくれた。だから予定通りに次の言葉を紡ぐ。「じゃあ、ちょっと離れたところで待機しててくれないか?それならいざというとき君たちに助けてもらえる。流石に一緒に話を聞くと色々あるだろうからね」そうやって落としどころを用意するとしばらく悩んで「わかりました」と承諾してくれた。


実際のところ、モーブたちはもう生気を感じられなかった。生物的に弱っているのではなく、もうやり終えたって感じで「燃え尽きたぜ…真っ○にな」って感じ。


彼女達から現在のロシュール国とガルツ国に関する争いは聞き及んでいる。エルジュが侵攻の大義名分となったこと、そのせいで村や町が焼かれた事、それでガルツ国が反撃で泥沼化しているということ。それを聞いてある程度アタリをつけたわけだ。結局、あのモーブとか言うやつもこの戦争の被害者である可能性が高いのだ。

そうでもなければ、王女を手に入れてわざわざ奴隷にするわけないのだ。


そしてモーブ達と対面して、自己紹介などをする。俺がダンジョンマスターと名乗った時には多少驚く顔をしたがすぐに無表情にもどって生気のない顔でこう聞いてきた。


「あの奴隷…王女は…生きているのか?」

「ああ」

「そうか…」

「なあ、なんであんたたちは王女を奴隷なんかにしたんだ? ガルツ国にでも持っていけば金も名声も手に入っただろうに」


しばらく間があってモーブは口を開く。


「…妻と娘、知り合い、村、町の仇だった…」


絞り出すようにつぶやいたモーブからは大粒の涙が零れ落ちていく。

これを聞いていた王女やオリエルにも驚愕の色が浮かぶ。


「金や名声よりも大事な宝物をなくしちまったんだ…」

「そうか…」

「怒りに任せて傭兵になってロシュール国の町を焼き払う手伝いをした」

「ああ…」

「妻や娘がされたように、女たちを犯して殺したりもした」

「…」

「そして王女を捕まえて、俺の覚える限りの残酷な殺し方をしようとしたが…」

「俺に邪魔されたと?」

「いや、あんたのおかげで頭を冷やす事が出来たよ。結局なにも帰ってこねえ…虚しいよな。こんな事しても妻や娘が喜ぶわけないってわかってたのにな。むしろ怒られちまう。「なんでそんなことしたのお父さん!!」ってな」


力なく笑うモーブをみてライヤとカースも困った顔をする。


「なあここに来たってことは王女様からだろ?」

「そうだな」

「なら抵抗なんかしやしねえ。さくっとやってくれや、これ以上妻や娘に怒られることを増やしたくねえ」


そうやって3人はこちらに頭を垂れる。


「まあ、そう急ぐなよ。エルジュ聞いていたか?」

「…はい」


目を真っ赤にしたエルジュがオリエルに支えられて出てくる。


「なんだ、執行人は王女様か。あんた結構ノリがいいんだな」


少し元気が戻ったのか軽く笑みを浮かべるモーブ。


だがエルジュは武器をよこせというわけでもなくその場にオリエルと共に足を折り頭を地面にこすりつける。


「も、もうしわけ…ございま…せん。ごめんなさい。ごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさい……」


嗚咽と涙と共にその「ごめんなさい」と繰り返す。


「は? いや、まってくれ!? いったい何がどうなって!? おい、あんた何かしってるのか!?」


このエルジュの行動に流石に驚いたのかモーブ達はあわてたようにこちらを見る。


そして俺はエルジュから聞いた話をモーブたちにしてやった。「彼女たちが本当のことを言ってるかどうかわからんけどな」って一言つけて。


話を聞き終えたモーブは目の前でいまだ顔上げず地面に額を付けている王女を見た後、後ろにいるライヤやカースと共に肩を落とした。


「聖女様ってのは本当だったらしいな」

「ああ」

「だな」


「なあ、王女様顔をあげてくれや。俺は王女様に頭を下げられるような奴じゃねぇ。勘違いして暴走した獣だよ」

「しかし…私がいなければ、あなた方の町や村は…」

「話を聞いたら前から狙っていたような話だ、王女様が出ようが出まいが似たようなことになってるだろうよ。それに俺たちもそっちの町を…な」

「ああ、王女様。私たちはあなたの言葉を信じる。そして私たちのほうが罪が深いだろう」

「…だた怒りに任せて暴れてただけだしな」


ここでエルジュたちとモーブたちは和解?をした。

そして彼女は決意をしたのだ、この争いを止めると。


「決してこのダンジョンを口外するようなことはしません。受けた御恩に報いるためにも王女としてこのダンジョンを守ってみせます」


彼女はまっすぐな瞳でこちらを見つめてくる。

いや、口外(広告)してくれよ。ダンジョン運営しないといけないんだから。


「指定保護のスキルで制約をダンジョンのことを口外しないと付け加えていただいても構いません!!」

「ええっと、エルジュのことは信用してるからわざわざそんなことしねーよ」

「なら私たちはここを出て国に戻って構わないのですね!」

「落ち着けって、一つ条件がある。それを聞いてくれるなら移動範囲は解除する。一応指定保護の防衛機能については残しておくけど、これはダンジョン内しか通用しねーからな? 当てにするなよ」

「はい、ありがとうございます。で条件とは?」


「モーブたちを連れて行ってほしいんだ。護衛にもなるし、こっちとしては町で買いたいものもあるしね」

「わかりました。私としても心強いです。ねえオリエル?」

「ええ、彼らはかなりの腕前です。護衛としても申し分ないでしょう」


モーブたちは俺の事情を話して(ある程度虚偽が混じっております)死んでも身内に怒られるのならその前に笑い話でも作っていったらどうか?と言ったら3人とも笑って快諾して指定保護もあっさり受け入れてくれた。


さてとこれで大人しく事が済んでくれるといいんだがな…。


無理だろうなーーーー!!


慌ただしく出発していった5人を見送ったあとは溜まったDPを使ってダンジョンの強化にいそしむのであった。

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