第7掘:善意で人を助けるのが本音です!! 嘘だがな!!

善意で人を助けるのが本音です!! 嘘だがな!!



目の前には簡易ベッドの上で身を寄せるように二人の女性がいてこちらの様子を窺っている。

あれ、なんで二人一緒のベッドにいるんだ?

ああ、王女様がメイドさんの方へ行ったのね。

いきなりこんなところに連行されておとなしく療養なんてできるわけもない。

いや、メイドさんが王女様の所へって逆もあるだろうけど現実問題無しで両足折れてるし、実際行ってるなら賞賛ものですけど夜見たらホラーですよ。


「オリエル無理しないで、これ以上は…」

「いえ私はこの命尽きるその時までお傍に…」


OKホラー枠でした。


「はいはい、こっちの話を聞いてくれ。君たちを僕は治療することができるが、ある条件を呑んでもらいたい」

「ふざけるな、このお方を誰だと思っているこの…」

「まってオリエル…こっちもお話を聞かせていただいていいでしょうか? なぜ私たちを無理やり屈服させようとしなかったのかを」


ほう多少は考える度量はあるようだ。

ん? なんで無理やり屈服させてこう奴隷でうはうはしないかって?


シンプルな答えを用意しようか、奴隷なんて日本人には受け入れられません!!


なーんて、信じないよな。

他のラノベとか漫画なら、日本人の優しさや主人公特有の主人公特性でOKなんだけどな。


「質問に質問返しで悪いんだけど、君を奴隷として屈服させる利点ってなに?」


そうココの問題点は「奴隷」である。

彼女…王女様は何を言ってるのかがわからないって顔をしている。


「え…、そ、それは労働力とか、その…いかがわしい行為とか」


後半の話も含めてそれが「奴隷」という利点だ、そう「強制的」にだ。

地球でも「奴隷」という制度は存在していた。つまりそれなりに使えるというわけだ。

だが、それなりだ。今現在地球上で表向きに「奴隷」なんて言うのは認められていない。

人道的じゃないから?

バカ言わないでくれ、そんな表向きの理由を聞いているわけじゃないだろう?


全体的な効率が悪すぎるんだよ。

ある一点、短期的にいえば効率がいいがそんなことは給料はたいて人を集めればいい。

「反乱」「暴動」「技術開発の停滞」

マイナス点は山ほどある。そう、地球の人類はそのことに気が付いた。


裏で「奴隷」のような扱い方をしてるのは地球でも山ほどある。

そんなことはない? バカ言うなよ、いまだに内戦とかやってる国は山ほどある。

それは奴隷ではない? ほう、ならば国とトップを平和的に入れかえれば済む話だよな?

今の日本がトップをしょっちゅう入れ替えてるようにな。

それだけでは改善されない、止まらない、止められない。

そんな国があるんだ。

だが決して「奴隷」なんてことを公に発することはない、そんなことをしてしまえば地球の情報社会ではすべての国家を敵に回すことになるからだ。


と、長引いたな、俺の本音は「奴隷」なんて制度を利用してもダンジョン運営は短期的にはいいとしても長期的には適さないわけだ。


「ふむ、君は奴隷を使って「無理やり」働かせればいいと思うわけだ」

「ええ」


…王女様だろこの人、頭お花畑か?


「じゃ君の隣にいる人は君の奴隷なのかい? 君がいた町か村か知らないけど全員奴隷だったのかい?」

「そんなわけありません!! 私はオリエルを信頼しております!! 奴隷などと貶めるようなことは決してしません!!」

「不思議だな、信頼などとしなくても奴隷にしてしまえばそれでいいだろうに」

「私はそんなこと望んでは…」


そうやって彼女は言葉を切り、目に理解が浮かぶ。


「私たちを信頼したい…あるいはそうしなければならないのですね」

「そういうこと、断ってくれてもいい。別に「奴隷」のように強制ではない。ただな、こっちにも事情ってものがある。「奴隷」はいらないんだが「信頼」できる相手はほしいわけだ」

「でしたら私たちに「信頼」してもらうためにオリエルの治療を行ってください」

「バカ言うなよ、そのオリエルさんだか知らないがな、治した瞬間に襲わない保証はないだろ」


というかこっちを目の敵ににらんでくる相手を保証もなんにもなく治すのはよほどの腕前があるか、バカのどっちかである。

個人的に異世界にとばされた主人公がいくらチートもってても治すのはバカの烙印を俺は押すね。


「オリエルは私が命をもってあなたを襲わせないと保証させます」

「いや、そっちに保証されるだけじゃ無理。だからこっちの条件をとりあえず聞いてくれ」

「…いいでしょう。そういえばあなたの条件を聞いていませんでした」

「じゃ簡単にいく。君たちには俺のスキル「指定保護」をさせてもらう」

「指定保護? 聞かないスキルですね」


「効果はこのスキルの対象に「安全の確保」「指定区域外の移動不可」「他人の危害を加える行為の禁止」だな。細かいことはまだまだあるんだが、君たちにかける内容はこんなもんだ。強制的に言うことを聞かせるなんて「奴隷」みたいな制限はないな」


「強制がないだけで捕虜みたいなものですか。これだけではないでしょう、これでは条件になりえない。これはあなたの安全を保障する為だけの物ですね。先ほどのお話からなにか目的があるとお見受けしましたが」


「おや、お飾りのお嬢様だと思ったがとりあえず色々考えてるんだな。見直したよ」

「ええ「奴隷」にまで落とされたもので。いくら希望を見失っても私に付き従ってくれるオリエルを守れるのならば最後まで最善を尽くしましょう」


「こっちの条件は俺への協力を願いたい、詳しい理由は言えないが、この大陸の情報がほしいんだ。君たちを上流階級だったとお見受けして、その知識を貸してほしい。ただでとは言わない、今後の協力次第では解放して国に帰す事も考えている」


「わかりました、あなたの条件を呑みます。オリエルいいですね?」

「…エルジュ様がそうおっしゃるのでしたら」


「OK。じゃあスキルをかけるよ」

「ちょっとまってください、先ほどの男たちは生きているのでしょう? 解放をしてもらわなければ」

「あー、それはできなかったら解放するように言ってみるよ。とりあえずかけてみる」


ルナから聞いたが奴隷の首輪は魔法を込めて相手に「強制的に命令を聞かせる」ということができるらしい。当然「主へ危害を加える事を禁止する」などは基礎に組み込まれてる。

だが、俺の「指定保護」スキルはルナ曰く、それを打ち消して上書きするって話だ。


「いちいち主と交渉なんて面倒でしょ、しっかりとした交渉ならともかく今にも死にそうな子を助けるために交渉なんてしてられないでしょ」


じゃ、強制的に「指定保護」かけまくればいいんじゃね?って話になるがお約束で「相手が受け入れる」とちゃんと承諾していることがスキルをかけられる条件なのだ。


俺はスキルを発動すると王女様「だけが」光に包まれて奴隷の首輪が外れる。


「…」

「本当に外れましたわ!! さあ、条件は飲みました。オリエルの治療を早く!!」

「…わざと言ってなかったがな、このスキルかけられる相手が心から「承諾」しないと発動しないんだよな。そのオリエルさん見てみ」

「…オリエル、首輪取れていないわね。まさか…」

「そ、そんなわけございません!! そこの男がかけ忘れたに決まっています!!」


「…ほう俺が悪いと?」


だめだこの女、予防線張ってて助かった。善意だけじゃ世の中渡っていけない証拠である。


「お願いいたします。どうかもう一度チャンスをくださいますよう…」


エルジュさんは膝を折り頭を下げる。


「だってよ、個人的にも3度までは目をつぶることにしてるけどさ、オリエルさんさっきの俺の条件「承諾」してくれるかな? 君の主とやらはここまで頭を下げているんだが」


「…わかりましたその条件を「承諾」いたします。ですが、エルジュ様に危害を加えられるのであれば私はあなたを絶対に殺します」

「オリエル!!」


エルジュさんがたしなめるがオリエルさんはその目を俺から離しはしなかった。


「いいよ、別に条件以外は拘束するつもりはないしね。じゃいくぞ」


そうやってオリエルの首から奴隷の首輪が落ちる。


「さて、治療を開始しますかねー。『エクストラヒール』っと」


エルジュさんとオリエルさんの体が淡い緑色の光に包まれる。


「な、エクストラヒール!? しかも複数指定での術の起動!? あなたは高名な回復術師なのですか!?」


エルジュさんことお姫様は驚いてこちらを見ている。

オリエルはその場で立ち上がり手を握ったり開いたり、その場で飛び跳ねたりしている。

そうして自分が治ったのを確認してこちらを見てきた。


「礼は言わない。これは取引だ、あとでちゃんと返す」

「オリエル!?」


「ああ、条件さえ守ってくれれば特に問題はない。「信頼」なんてすぐに築けるもんじゃないからね。とりあえず今日はおとなしくこのまま休むといいよ。詳しい話は明日にでもしよう」


そうやって俺は部屋を出ようと足をすすめる。


「あ、ありがとうございます。今更失礼ではありますが私の名はエルジュと申します。あなたのお名前を伺ってよろしいでしょうか」


フルネームは言わないか…まあ彼女の手札だろうしな。

まあいいこっちも自己紹介をするとしようか。


「これは失礼いたしました。私は「ユキ」と申します。お気づきかとは思いますが、私がこのダンジョンの運営をしております。ではなにか問題あれば、外に控えているゴブリンに声をかけてください。できる限り対応させていただきます」


そういって俺は部屋を出て行った。

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