プロローグ 交渉
交渉
「な、なんでよ?」
叫び終えた美人さんが俺に問いかけてくる。
「いや、もう帰れません片道切符です、って言われて行く人なんぞいねーよ。とりあえず座れ、あんたの目的はわかったが詳細が不明すぎる」
目的と詳細を告げられずに片道切符でいってらっしゃいを受け入れられる人がいるなら教えてくれ。
そんなのラノベとか漫画とか世の中に絶望してる人にしてほしいわ。
あ、目的だけ聞いて詳細を聞かずにこの話に乗っかる人は騙されやすいタイプだから気を付けよう。
「そ、それもそうね、まずはお互いを知ってからね。自己紹介が遅れたわ、私はルナよ」
いや誰もお前の名前なんぞ聞いてねーよ。
「B91W58H85で地球じゃアテナとかフレイヤとか色々呼ばれてるわ」
とんでもねー情報が飛び出してきましたよ、スリーサイズはもう後半のセリフでどうでもよくなったわ。
なるほどやっぱりというか、世の中に伝わってる神様っていろいろ混同されているわけだ。これがいうことを鵜呑みするのであればだが。
「なに、私に見とれた? 仕方ないわね。美の女神とか言われてるものね」
「いやそんなことはどうでもいい。ダンジョン運営云々の詳細を話せよ」
とりあえずウザいのでぶった切る。
ついでにこの自称神様ルナの容姿は金髪のセミロングで切りそろえている。
瞳は赤と青のオッドアイって奴だ虹彩異色症だっけ?
身長は170にあるかぐらい外人さんの平均はしらないが日本では高い部類だろう。
「…可愛げのないわねあんた。わかったわ、少し長くなるわよ。あと、あんたを異世界に送るのは決定事項だから。話聞いても聞かなくても結果は一緒よ」
「いや手短に、簡潔に、まとめて話してほしいんだが」
「いやよ」
この女…。
それから一時間と半ほどをかけて、説明を終えてくれた。とりあえず資料ぐらい作ってこい。
でだ、簡潔にまとめると
目的:異世界アロウリトのバランス(エネルギー=魔力)をダンジョンを使って保つ
理由:このアロウリトは、魔力を循環することで環境を作っている。こっちでの自然法則はそのままで、魔法という第3枠の法則が追加されてるって感じで、現在のアロウリトはその魔力が特定箇所に固まりすぎてるとのこと。つまり魔物や人族(いろいろお約束の種族がいるらしい)がいてその星全体の環境が悪くなっているとのこと、こっちでいう地球温暖化な。
このままだと、現在魔力を軸にしている文明が崩壊および魔力によって生命活動している生き物が死滅するとのこと。まあ何千年先の話だが。
第一次解決策:神様的にこの星の文明とか生き物ぶっ壊したくないから、ダンジョンを使って循環させれば解決!! ダンジョンという、餌場を作り、魔力を回収しよう。つまりこのダンジョンは、ゲームとかでいう勇者とか魔王とか知的生命体のみならず、野生の魔物も対象になるわけだ。
第一次解決策の結果:あれ、これって俺のことじゃねって思うじゃん。けど違ったんだ。この第一次作戦は現地人、つまりアロウリトの知的生命体に委任したわけだが…。あれだ、アロウリトの文明レベルは中世ヨーロッパ並みで、欲望のままにダンジョンを運営するので、あっという間にダンジョン運営者の敗北か、運営者がその機能使って世界征服をする始末。結局循環ならず。
第二次解決策:ここが俺に当てはまる。つまりバカに運営任せても仕方ないから頭良い人ならいいんじゃね? でもこの世界の全体的に頭悪いし…そうだ、異世界から引っ張ってこよう!! というわけになったらしい。
で、ここで思ったわけだ。一々人つかわねーでルナ(神様)がやれよと。わざわざ人にまかせるなよ…と思ったがルナ曰く。
「一時的ならいいでしょうが、神様が一か所に星が終わるまで留まるわけにはいかないわ。あんただって、もう生まれた場所から何回移動してるのよ」
なるほど道理だ、スケールの問題で気にならなくなってしまっていた。
俺たち人から言えば犬や猫を飼うとして、それを仕事をせずにその飼い犬や猫が命尽きるまで付きっ切りで面倒を見るなんて不可能である。
「あなたたちの言う全知全能の神なんてのはほんの一握り。しかも、こぞって真面目だから自重して世界に影響がないように引きこもってるわ」
いるのかよ全知全能の神!?
「その世界に応じて神様って枠にされるのはいるけどね、劣化というか…正直こっちでは自然現象枠、アロウリトでは魔物とか精霊の枠になるのよ。限定的な機能は卓抜してるんだけど、全体的にはね…性格に難があったり」
ああ、結局どこも同じらしい、会社の運営が世界運営枠になったレベルか…。
「正直に言うとね、この地球の日本の知識や教養レベルは、アロウリトの神以上なのよ」
おうふ…アロウリトの神ひでぇなおい。
だが納得できた。ラノベとか漫画とか世の中に絶望してるやつ送っても、何も解決にならん。
だが疑問もある。俺を送っても、結局俺が行動できるのは、100年かそこらじゃね?
「あ、言い忘れてたけど、あんたは不老になるから。病気はならないようにしとくけど、死にはするからね。不死にすると暴走することが多いから。わざわざこっちから出向いて消滅させるのは手間なのよ」
ああ、なるほど。結局俺がダンジョン運営して暴走してもストッパーはかけるわけか。
「だいたいわかった、けどなんでこっちに戻れないんだ?」
「あんたね、こっちの世界情勢わかってていってるでしょ。地球と未発達で魔法があるアロウリトがつながったら、どうなると思うの?」
「ああ、あっという間にアロウリトが地球に飲み込まれるな。しかし魔法ってそんなに弱いものなのか?」
「いえ、こっちでいう核兵器や、これから地球の人たちが追い付くであろう星間飛行とかも実現できる分野よ、魔法は。けど文明レベル的にね…」
「なるほどな、アロウリトの魔法文明も維持したいとか言ってたな、地球の文明が混ざるのを良しとしないってわけか」
「そうよ。というか、確実に地球側が先に魔法の解析を終えて、取り込むでしょうね」
「なのに、俺がアロウリトに行って文明を伝えるのはありなのか?」
ここが一番不思議だ。俺を行かせて不老にするのであれば、確実にアロウリトの文明は地球の日本の文明に感化する形になるだろう。
「なにいってるの? この日本は受け入れる文明でしょ? なに、あなた向こうに押し入ってあちこちに日本の城建てるつもり?」
「了解。そういうことか、地球規模でいけば確実に押し流されるが、俺個人が活躍してアロウリトの文明の発展を促すのは許容範囲ってことか」
「そういうこと、最終的にはあなたがダンジョン運営の目的を公表できて、浸透できればいいわね。不可能に近いだろうけど」
そりゃ無理である。世界の思想を一つにまとめるレベル以上の物だ。
人や魔物に、一定数死んでちょうだいと公言するようなもんだ。
生贄要求って確実に世界の敵確定である。
いや、魔力を循環すればいいんだから、俺が世界の生き物に住む場所を指定すればいいわけだ。
どう考えても暴君です。
「ま、いろいろわかったでしょ。ダンジョンっていう循環器を運営するほうが効率的だってわけ」
「OK、話はもう分かった。だけど、俺の状況はどうなるんだ? 家族からは忘れ去られるのか? つか、向こうに身一つでいってもダンジョンなんか掘れないぞ」
正直強制移動だから家族云々はもうほぼ諦め、あとは仕事場の引き継ぎだよな。先輩とか後輩、取引先に多大な迷惑がかかるぞ…
「家族とか仕事関係…つまり、交友関係はなかったことになって修正されるわ。円滑に今後も動いていくから大丈夫よ。あと真面目に自力で掘る気じゃないでしょ、こっちでスキルとかつけるわよ。さすがにこっちの強制だからね、地球との行き来以外、許容できる範囲は叶えてあげられるわ」
ほう…許容できる範囲とな…
「ならRX-7○「ダメよ、なに一年戦○したいわけ」
ち、なんでこっちのアニメ知ってんだよ。
「だったらホワイト・グリ「国家ぶっ潰して企業戦争でもするの?」
ゲーム枠も押さえてやがった!?
「まあ、その手合いはダンジョン運営が成功した時の報酬としましょう。あとこっちの世界の物品とかは通販みたいな形で手に入れられるようにしてあげるわ」
え、成功したらMSとかAC乗れるの!? マジで!?
と興奮したが最初のチートをお約束でもらわないとどうしようもない。いきなり行って死亡とか勘弁願いたいわ。
「なら銃器とかだめか? 個人認証とかして相手が使えないようにしてな」
「ダメよ、それもダンジョン運営がしっかりできるようになってからね。向こうに慣れないうちにアロウリトにとってのオーパーツつかったらどうなるかわかるでしょ?」
「過信とか世界バランスが崩れるよな…だけどさ、俺が防衛用に使うならいいんじゃね?」
「答えはノーよ。地球特有というか、文明を先行く武器の使用は最初は禁止するわ。しっかりダンジョン運営を学んで頂戴。でなにか要求はないわけ?」
「ことごとく否定しておいてなに言ってやがる。…仕方ない、即死回避と同時に安全圏脱出の指輪かなんかくれ、さすがにきついわ」
「あら、そんなのでいいの? あくまで即死を回避するだけよ? 重傷を負ってたら助からないかもよ?」
「なら、即時全快する効果もつけてくれって言ったらつけるのか?」
「つけないわね。不死と変わらないじゃない。まあそれも運営がうまくいったら考えるわ」
ち、予想以上に厄介だ。死なないようなチートは無しか…ならば。
「わかった。俺の仲間や部下になる奴らの安全を確保できるスキルかアイテムがほしい、制限無しで」
「安全の確保ね。なるほど考えたわね、使い方によっては便利な道具ね。これは許容範囲でしょう。OK、いいわ」
よし何とか行ったな、不死にするわけではない。「安全」の「確保」である。まぁ使い方によっては…
「説明とか交渉は大体終わったわね…あとは向こうアロウリトに行って細かい調整をしましょうか」
ルナがこちらに手を向ける。ああ、悪あがきもここまでか。仕方ない何とかしてホワイト・グリン○を目指すとしよう…。
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