061

回りを見るようになってからやけに他人が気になるようになった。会社で気を遣われているのはわかっていたが、それを実感し始めるとなんとも言い難い気持ちになる。気持ち悪いというか居心地が悪いというか。


だから会社では以前のように笑うことで何でもないように振る舞う。そうすると、ようやく俺への気遣いは薄れてくるのだ。


誰も俺に構わなくていい。

俺を知らない人には、指輪をしていることで家庭を持っていると思わせている。煩わしい余計な誘いがなくなるからだ。


そんなことをしていたら、だんだんと家に帰ると違和感を感じるようになっていった。


今までは指輪をはめているからこそ香苗と繋がっていると思っていた。だけど今では一人で指輪をはめていることの虚しさが募るだけになっている。


会社では指輪をはめ、家に帰ると指輪をはずす。俺は一人なんだと言い聞かせることで香苗への想いを断ち切ろうとした。


それなのに。

彼女は俺の回りをチョロチョロする。

いや、無意識に俺の方が彼女を目で追っていたのかもしれない。


香苗に似ている?

いや、似ていない。

似ていないけどやっぱり似ている?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る