060

昼間は仕事に没頭し、夜は帰って寝るだけ。たまに金木犀に顔を出して、飲んでうさを晴らす。


そんなことを続けていたある日、ママが遠慮がちに言った。


「お客さんにね、香苗ちゃんに似てる子がいるのよ」


「ふーん」


「始め見たときびっくりしちゃって。暁ちゃんもいつか遭遇するかもしれないわ」


「そう、興味ないよ」


興味はない。

香苗に似てるから何だっていうんだ。そいつは香苗なんかじゃない。香苗はもういないんだから。


そっけない俺に、ママはそれ以上なにも言わなかった。


だけどその日は突然訪れた。

金木犀に顔を出した日、カウンターでママと話している女性に香苗の姿が重なってドキッとなった。俺は少し離れて座る。


「もしかしてあれが?」


「そうよ」


気になって横目でチラチラと見てしまう。

よく見れば香苗とは違う。そりゃそうだ。だけど朗らかに笑う顔がよく似ていた。


驚いたことに数日後職場でも彼女を見てしまった。なんと同じフロアで働いていたのだ。今までまったく気づかなかった。


俺はどれだけ回りを見ていなかったのだろう。

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