059

それから半年、宣告通り香苗はこの世を去った。


覚悟はできていたはずだったのに、受け入れられなかった。そこから一年くらいはほとんど記憶にない。


仕事に行って帰って呆然とすることをただひたすら繰り返す。


楽しい。

悲しい。

暑い。

寒い。


単純な感情ですらどこかに置いてきてしまったかのように、なにも感じなかった。

そんな状態だから、同僚が気を遣ってくれていたことさえも気づかなかった。


やがて一周忌を終えて、ようやく香苗が亡くなったことに実感がわいてきた。そうすると少しずつまわりが見えてくるようになり、俺はまわりから気を遣われていることにもようやく気づいた。けれどそれは、余計にやるせない気持ちにさせた。


俺は香苗の遺品も整理し始めた。


だけど何もないんだ。

まるで初めからいなかったみたいに。


遺影はこれがいいと本人が決めていた。他の写真は一切ない。結婚したって一緒に暮らすことは叶わなかった。あんなに愛していたのに、香苗は俺に何も残してくれなかった。


たがが外れたかのように、わんわん泣いた。

誰かにすがりたくてまた金木犀へ通うようになった。ママに話を聞いてもらうだけで少しだけ気持ちが楽になる。

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