062
悶々とした日々の中、また金木犀で彼女の姿を見た。わめきながら何かママに愚痴っているようだ。
離れて座ろうとしたところを、ママに手招きされて初めて彼女の隣に座った。
「ああ、彼女ね、彼氏にフラれちゃったんだって。暁ちゃん慰めてあげてよ」
面倒くさいことを振ってくるママに俺は顔をしかめた。
「日下さん?!」
彼女は俺を見るとすっとんきょうな声を出し、同時に椅子から転げ落ちた。
途端に走馬灯のようによみがえる思い出がある。
──ここいいですか?
──あ、はいどうぞ。ひえっ!日下くん!
俺を見るなり驚いた顔で椅子から転げ落ちた香苗。あの時とそっくりな状況が目の前で繰り広げられている。
同じシチュエーションが信じられなかった。
彼女は香苗なんじゃないか。
そんなわけあるはずないのに、一瞬過った。
そしてそのまま告白される。
「日下さん好きです!」
──日下くん、好きです
香苗の姿がダブって見える。
何でだよ。
そんなところまで一緒にしなくてもいいだろ。
香苗への想いが溢れそうになった。
この子は香苗じゃないんだよ。
わかっているけど香苗の面影がちらつく。
「芽生」
名前を呼ぶと動揺して顔が赤くなった。
「俺と寝てみる?」
これは酔っているせいだ。
酔っているから思考がおかしいんだ。
芽生に香苗を重ねてしまう。
芽生を抱いたら、香苗が戻ってくるんじゃないか、そんな幻想まで抱いてしまう。
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