第2話 説明不足な転生と祝福

突然だった。

学校帰り、通り魔に襲われたのだ。道を聞きたいと言われ、親切に教えようとした瞬間果物ナイフがお腹に突き刺された。必死の抵抗しようとするも思う様に体は動かず、お腹を滅多刺しにされた私は16歳でこの世を去った。

かと思ったら、女神様とやらが目の前に現れ、私の死の間際の映像を見せた。

かと思うと、

「あなたの不幸に鑑み、次の世界では祝福を」と一方的に言った

かと思うと、

「ほうら、泣かないで、アリシアちゃん」

赤ちゃんになっていた。女神様、説明が圧倒的に足りない。


「ふぎゃあ(何これ、どういうこと)」

何を言おうとしても、ふぎゃあと変換される。

目の前にいるシスターに、お腹すいたと訴えても、布オムツを確認されたり意思疎通ができない。

なんせこちとら、「ふぎゃあ」なのだ、無理もない。



そう、シスターがいることからもわかる様に、ここはどう見ても修道院だ。シスターの様子からそこまで困窮した修道院ではなさそうだが、

祝福というなら、転生先は大富豪のお家じゃないのか。あれか、ここから夢や魔法や美貌でのしあがるのか、それって結構ハードじゃないか、やっぱり大富豪の末娘あたりが良かったと思う。

そんな不満も全て、

「ふぎゃあ。」と変換されるので全く甲斐がない。


なんとなく、自分は死んで生まれ変わったということ、そして世界観が日本とは違うので良くて外国、最悪異世界転生ってやつかなと理解する。

インフラしっかりした国がいーなーなどと思って周りを見渡すと、暖炉が見えた。異世界かもしれない、だめかもしれない。


そんな不満も疑問もさておき、私はすくすくと成長し、12歳になった。当初は、大富豪の貴族の隠し子だったとか迎えがくるかと期待していたものだが、貧しくも美しく、高潔で教育熱心なしスター達のことが好きになり、一緒に暮らす仲間のことも好きになり、これはこれでいいかと思う様になった。

そんなある日、

「アリシア、あなたも14歳。ここでシスターとなるか、それとも外の世界に出ていくか考えなければならない時期が来ました。もし出ていくことを選ぶなら、仕事先を見つける必要もあります。」

この修道院は15歳になると、外に出て仕事を探すかこのまま残り、シスターとなるか選ぶことができた。


「シスター、私はここで」と言おうとした瞬間、

「なれど、あなたは大変に賢い。そこで、あなたには上級学校の進学を検討してほしいのです。」と被せる様にシスターが言う。

この世界では、初級は小学校、中級は中学校で義務教育、上級は高校に相当し費用がべらぼうに高く、貴族の子女、もしくはテストを受け特別に優秀だと認められた子にのみ認められる 。貴族でもないし、テストを受けた覚えもない 。


「上級学校?シスター、私はテストを受けてもいません。どういうことでしょう」素直に疑問をぶつけると、シスターはこともなげに

「実はあなたはテストを受けたのですよ、アリシア。あなた、欠席の補講テストと銘打った試験を受けたでしょう。あれがそうだったのです」と言う。

試験は希望制のはずだ。希望も出してない。

「実は、ジョシュア王子があなたを推薦されたのですよ。」

「王子?」そんな知り合いはいない、と首を傾げると、シスターはこともなげに

「よく遊びにいらっしゃる同じ歳の碧眼の少年ジョン、あの方はこの国の王子ジョシュア様なのです」と答える。


「ジョンが?」

ジョンとの出会いは、街の公園で誰が岩を退かせられるかという勝負をしているのを本を読みながら冷めた目で見ていたら、

「そんな小馬鹿にした様な目で見るな。お前にはどうせ出来ないんだしどっか行け」と喧嘩を売ってきた時だ。確か、5、6歳。


当時見た目は子ども、中身は一応成人の私は、初対面のレディに喧嘩を売ってくるこのガキの鼻っ柱は早々に折っておいた方がいいと正当化して、

「私が動かせたら、何かお願い一つ聞いてね」といい

「お前なんかには無理だ、なんでも聞いてやる」とふんぞり返ったジョンに、てこの原理を利用して簡単に岩を動かした。

あの時のジョンの間抜けヅラはなかなかだった。


それから、ジョンはたびたび修道院に遊びにくる様になった。

そのうち、実は商家のボンボンだといい、お付きのラッセルが付いてきて、お菓子やらくれる様になった。一度読みたい本を持っていたので貸してくれと頼んだら、毎回必ず本を持ってくる様になった。童話がマナー本や経済学の本になったりもしたが、シスターになれそうになかったら、お願い一つ使って雇ってもらおうと思っていた私にはちょうどよかった。

それなのに、

「お王子だと」雇ってもらえないじゃないか。


「アリシア、話を戻してもいいかしら。」私の百面相を見ていたシスターが優しく訊ねる。

「はい、シスター」

「王子はあなたを将来王妃様のお付きとして雇いたいらしいのです、そのためには上級学校の卒業が必須。そしてあなたがそれを望むなら、貴族の養女となることも含め準備をしてくださるというのです」

こんな機会はないことですよ、と。


「あなたの希望」なんて言っていたが、実際拒否権なんてなかった。その日の午後にはラッセルが王宮から書面を持って、養父母になるという、ゴードン子爵ご夫婦とともにやってきて、その日のうちには出て行くことが決まった。


「アリシア、お手紙ちょうだいね」妹達が泣き、弟達は「アリシアにまだけんかかってないのにひどい」と泣く。

妹、弟達の涙に釣られ、シスターの「アリシア、体に気をつけるのよ」という言葉に今世で初めてうわぁああんと号泣をした。赤ちゃんの時ですら「ふぎゃあ」とまるで話してるかのようにしか泣かなかった私の大号泣にシスター達は驚いていた。


貴族の馬車に乗り、30分経ってもまだ泣いてる私に3枚目のハンカチを渡しながら「お前も泣くんだな」とラッセルが珍しげに言った。いつもジョンを負かして高笑いしてたからだろうか、イメージが良くない。

ラッセルは伯爵家次期当主だけあって偉いのか、上座に1人座り、下座にゴードン夫妻と私が座っていた。こう言ったことを覚えるために学園の入学の3年前の今から養女となるのであろう、覚えることも多く急ぐのであろう、でも、お別れにせめて1日欲しかった。そう思うと涙が止まらないのだ。すると、それまで口を開かなかったゴードン夫人が私の手を握り

「アリシア、うちには、息子しかいないの、だから娘ができるって陛下から聞いてとても嬉しかったわ。そして、今日あなたとあなたを慕う子達を見てさらにうれしくなったわ、こんな素敵な娘ができるのねって。

突然のことで戸惑うことも多いでしょう、これからゆっくりと家族になって行きましょうね。」と言ってくれた。

夫人の後ろでは子爵もうなずいている。


なんだかとってもいいお家に迎えられるみたい。

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